岡田外務大臣会見 2010.1.15

記事公開日:2010.1.15取材地: テキスト動画
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『アメリカ側のスタンスは以前から変わっていない。そのことは何度も強調するが、日本ではなかなか伝わらない』~1月15日岡田外相オープン記者会見1

「日米関係は破綻の危機に瀕している!」――普天間の問題をめぐって、米国側から「最後通牒」を突きつけられているかのように、新聞やテレビなど、主要マスコミが連日騒ぎ立ててきたのが、今は嘘のように静まりかえっている。

 転機となったのは、1月12日。ハワイでの岡大外相とクリントン長官との日米外相会談である。この両外相の組み合わせによる会談は、昨年9月にニューヨークで、11月にシンガポールでと、2度行われてきており、今回が3度目となる。

 マスメディアの騒ぎ方に、疑問を覚えた私は、たびたび、米国は本当に日米同盟を破棄しようとまで、怒っているのか、検証してきた。

 http://www.iwakamiyasumi.com/column/politics/item_219.html

 その結果、見えてきたものは、日本のメディアが、しばしば米国側の高官から日本批判の言質を引き出し、増幅して伝えているといういびつな光景だった。

 他方、米国側からは、事態の収拾をはかるサインが送られてきた。知日派で、対日戦略のキーパーソンでもあるジョセフ・ナイ元国防次官補の、「一つの問題(普天間問題)よりも大きな(日米)同盟」という論文が7日付のニューヨークタイムズに掲載された。これは、日米外相会談を目前にした「地ならし」だったと思われる。実際、会談前日の11日の記者会見においては、クリントン長官自身がほぼ同様の表現で、日米同盟の重要性を強調した。

 するとどうか。連日、集中砲火を浴びせていたマスコミは、パタッと「撃ち方やめ」となり、シーンと静まりかえってしまった。 「日米同盟が終わってしまう!」という、あの馬鹿馬鹿しいまでの狂騒曲は、一体何だったのだろうか。

 1月15日、外務省での岡田外相記者会見。

 岡田外相の会見は、動画もテキストも、外務省のホームページで見ることができる。全内容はそちらで確認していただくとして、日米同盟と日米外相会談、普天間問題のテーマにしぼって、以下、順番にピックアップする。

■ハイライト動画

■全編動画

毎日新聞 野口「毎日新聞の野口です。先日のハワイでの外相会談の関連なんですが、日米で同盟深化の協議を始めることで合意しましたが、同盟深化の協議と政府与党でやっている沖縄の基地検討委員会、これはどうやってリンクさせていこうとお考えなのかというところで、同盟深化の協議でアジア太平洋地域の安全保障関係について共通の認識を持てるように分析するということは、当然のように国内でどの程度米軍基地が必要か、どの位置に米軍基地が必要かという議論とリンクしてくると思うのですが、その点いかがでしょうか」

岡田「アジア太平洋地域における安全保障環境について共通の認識を持つということは色々な議論の前提として非常に重要なことだとは思います。ただ、1996年の橋本総理・クリントン大統領の、あのときの文書を見ても、それが、位置がどこにあるべきかとか、日本の中でどこにあるべきかとか、そういう議論と必ずしも直結するような、そういうものではないということだと思います。ですから、分けた作業としてそれぞれ進めていくということだと思います」

共同通信 西野「共同通信社の西野です。日米外相会談について戻るんですけども、会談後の記者会見で大臣は、先ほども述べられましたけど1996年の橋本・クリントンの両首脳の安保共同宣言に代わるもの、ということにしたいというふうな発言があったというふうに理解して……」

岡田「――を目指したいと――」

共同通信 西野「……目指したいということだったんですけれども、その、共同宣言の後には周辺事態法とか、日米の防衛協力というものについて色々な枠組みが、その後、できたという歴史的経緯があると思います。日本がどのような、自衛隊がアメリカとの安全保障の中でどのような役割を果たすのかということも含めて、同盟深化の協議の中では、話すことになるのでしょうか」

岡田「周辺事態法が、あの宣言が一つのきっかけになったことは事実だと思います。今回、日米同盟について議論をするということは何らかの法律とか、あるいは制度の大きな変更につながるということを今想定しているわけではありません。

 しかし、あれから時間も随分経ちましたし、安全保障環境も変わってきたという中で、新たな情勢に対する共通の認識、その共通認識に立って、日本とアメリカが、何をなすべきなのかということについて、しっかりと議論をし、できれば全体を一つの文書にまとめたいというふうに考えております」

 日米外相会談という、大きな外交イベントがあったばかりというのに、なぜか、記者達の質問はあまりテンションが高くない。ホノルルですでに、同行記者団に対して会見が行われ、その時点で会談についての記者会見は、外相と記者クラブの記者たちとの間では、ひとまず終わったことになっているのだろう。記者から出てくる質問は、その「補足」とか「関連」の質問ばかりなのだ--。

琉球新報 滝本「琉球新報の滝本です。今週末に、沖縄県の名護の方でですね、名護市長選挙の告示があります。両候補、予定候補者が二人いらっしゃる形で、辺野古への移設ということについての立場が違うお二人ということで、この選挙の結果が、普天間移設についての協議が進む中での、影響を、どのように影響するかというふうにごらんなられているかというのをおうかがいしたいのですが」

岡田「今のこの段階で、個別の選挙についてコメントすることは適切ではないというふうに考えています」

 他の記者の質問と外相の回答を聞いていくうちに、これは、岡田外相には手間をおかけすることになるけれども、インターネットの中継も入っていることであり、もう一度、目の前に居並ぶ記者団に対してではなく、その向こう側にいる多くの国民、有権者に向かって、直接、日米外相会談の内容について説明してもらうように願い出ることにした。

岩上「フリーランスの岩上です。よろしくお願いします。ハワイ現地での記者会見に、私も含め、参加することのできなかった、フリーランスやあるいは、ネットメディアがございます。とくにネットメディアは、ダイレクトに国民に岡田外相のお考えを伝えることができますので、重ねての質問に、もしかしてなってしまうのかもしれませんが、今回のクリントン長官との会談で、どのようなことをお話になられ、そして、どのようなことが決まったのか、そういったことについて、包括的なんですけれども、お話願えないでしょうか」

岡田「はい。クリントン長官との日米外相会談全体で、60分の予定でしたが80分、そのうち30分は日米両国に関すること、残りの50分はよりグローバルな課題についての、意見交換ということになりました。

 最初の30分、日米両国関係についての話でありますが、テーマとしては二つ。

 ひとつは、普天間の移設の問題。時間的には10分足らずだったと思います。そして中心になったのが、先ほどの話に出ております、これから日米安保改訂50年を機にですね、一年ほどかけて、もう一度、日米同盟について、きちんと議論をすると。より深めるための議論をするということについて、具体的に議論をスタートさせました。

 とりあえずは19日が、その記念すべき日、1月19日ですね、ということになりますので、そこで、日米の外相、防衛大臣、2プラス2で文書を出すということも最終的に確認をしたところであります。そのほか、それぞれの首脳が声明を出す予定になっております。

 そしてその中で議論されたことは、まず、安全保障環境、アジア太平洋のですね。そのことについて、共通の認識を持とうと。そこから議論をスタートさせたほうがいいのではないかということになりました。

 2プラス2で、大臣が集まるのは今年の前半のどこかで集まろうと。その前にまず、事務レベルで議論をスタートさせよう。こういうことになったところでございます。事実上、その議論はスタートしているとお考えいただいていいかと思います。

 私はこの会議で強調させていただいたことのひとつは、やはり日米同盟というのは、日本自身の平和のために重要であると。同時に、アジア太平洋地域の平和と安定のためにも重要だと。日本の安全と、アジア太平洋地域の平和と安定、その二つの目的が、日米同盟にはあるということを強調させていただきました。

 それからグローバルの課題についてはですね、まずアフガニスタン支援の問題、これはクリントン長官の方から、まず言われました。50億ドルに対する、心からの感謝、そして協力してですね、アフガニスタンの民生支援をしっかりやっていこうということを確認をいたしました。

 あとイランの核の問題。それからミャンマーの民主化、選挙が行われますので、今年は、ミャンマーの問題。それから北朝鮮の問題。北朝鮮については、私から、ニューヨークでお会いしたときにクリントン長官から拉致の問題について、アメリカ側から言及していただいたことに感謝を申し上げたところですね、クリントン長官は、拉致家族の皆さんと、日本でお会いしたときの、そのときの印象というものを語ってくれました。非常に印象に残ったということがよくわかりました。

 そして、あとは気候変動。核の不拡散、核軍縮。それから、日本のエコ補助金ですね、自動車についても、クリントン長官から言及がありました。

 そういった問題について50分間、お互い意見交換をいたしましたが、ほぼ、考えている線は共通だし、これは昨日の日独外相会談もそうなんですが、方向性はかなり、そろっておりますので、あとはですね、いかにお互い協力しながらそれをやっていくかと、こういうことだと思います。

 非常に有益な、9月から3回目の会談でしたけれども、非常に有益な中身のある議論ができたというふうに思っております」

岩上「関連してよろしいでしょうか? すみません。立て続けで申し訳ありませんが、関連してちょっとお聞かせください。

 外相が訪米される直前なんですけれども、11日に、12日の会談の直前ですが、クリントン長官がカリフォルニア州の空軍基地で記者会見を、現地の記者に対して行ったと。

 そこでですね、今度の岡田外相との会談に臨むにあたって、『一つの問題よりも重要な同盟がある』という表現を使って話したということが、AFP電で伝えられ、それを産経新聞が報じておりました。

 この言葉はですね、7日のニューヨークタイムスに載った、ジョセフ・ナイの論文、An Alliance Larger Than One Issue  という言葉をそっくりそのまま使ったもので、この論文の中身は、今はアメリカはずっと強硬姿勢、普天間に対してとってきたけれども、これを見直すべきで、このために、日米関係、日米同盟という大きな同盟関係が損なうことがあってはならないという、非常に大きなアメリカの、外交姿勢を転回させるサインをあらわすような論文で、その言葉をまったく、同じ言葉をクリントン長官が、直前に使っているという報道があったものですから、この実際の会談で、そうした長官の柔軟化、というか軟化という姿勢というものはみられたのでしょうか?」

岡田「普天間の問題は、それぞれが自らの考え方、それは外交ルートを通じて今まで、何度か確認されていることですけれども、それを述べあったということです。アメリカ側は現行の案が、最善のものであるということを繰り返したわけですし、我々としては、5月までという期限を切って、いま政府与党の中で検討するための組織を作り、よりよい場所はないかということを検討していると。しかしそれは5月までには結論をきちんと出すと。

 あわせて平行して、環境影響調査、これは現行案に基づく環境影響調査は、引き続きやっていくと。こういうことを、説明を、今までの説明と同じなんですけれども、繰り返し行ったところであります。

 お互い、そう意見を述べ合っているわけで、お互い考え方というものは、わかった上で、何というか、静かに、議論が行われたということであります。

 アメリカの態度が変わったかということですが、私はそういうふうには思っておりません。普天間の問題は、引き続き、5月までということで、今の静かさがありますけれども、5月までにきちんと結論を出すということは大前提になっているというふうに思います。

 そして普天間の問題だけではないと、同盟というのはもっと、より幅広い、深いものであるということは、以前から、アメリカがそういう考え方だというふうに、私、認識しております。だからこそ、忍耐強く、色んな議論の中でですね、今まで、アメリカ側も、やってこられたわけですから。そういう意味で、今回、何か態度が変わったということではなくて、従来から、そういう基本的なスタンスであるというふうに私は思います。

 シンガポールの時も同じようにですね、よりグローバルな問題も議論したわけで、そのことは何度も強調するんですが、日本ではなかなかそのことが伝わらないと、いうことだと思います」

岩上「ありがとうございました」

 日米外相会談は、「静かに」行われた。あるいは5月までは、今の「静けさ」は続く、という見通しも示した。 「静か」という言葉を、岡田外相は二度用いて、非常に控え目ではあるけれど、ついこの前までの、日米同盟が今にも崩壊するのではないかというセンセーショナルな「報道の嵐」が収まったことを示した。「アメリカ側のスタンスも従来から変わらない」、つまり変わったのは日本のメディアの姿勢なのだ、ということもにおわせた。

 結びには、「何度も強調するが」と言いながら、アメリカの姿勢を日本の記者たちに伝えても、なかなか伝わらないと、これもまた「静か」な口調で、苦言も呈した。

 マスコミのこの2,3ヶ月間におよぶ興奮と突然の沈静化が、さしたる理由のない、「気分」的な波なのか、何か思惑あっての操作なのかは、今はまだ、確実なことはいえない。

 しかし、必要以上に日米間の危機を煽ることは、結局は国益を損なうことは間違いない。悪気のないいたずらかどうかはともかくとして、「日米安保」「日米同盟」という外交問題を担保にした危険なゲームはやめてもらいたいものだとつくづく思う。

 日米関係について、他の記者達から関連質問が続く。

上杉「フリーランスの上杉隆です。

 先ほど岩上さんからの質問があったとおり、同じなんですが、ハワイの開かれた日米外相会談に出席できなかったので、その件について、もう一度、お尋ねしたいんですが、先週の会見で、大臣は『密約問題について、意見交換というか意見報告はする』とおっしゃってましたが、結果として密約問題についてクリントン国務長官と何か意見を交換されたのでしょうか」

岡田「密約についても一言、私から言いました。今、第三者による検証を行っているということと、その作業は若干遅れ気味であるということも申し上げました。それから、この問題は、ほとんどは、アメリカで、法に基づいて情報公開されている話であると。したがってあまり目新しい話、アメリカから見ればないかもしれないけれども、日本としては今まで、そういった密約はないというふうに言ってきたことを、今、事実はどうだったのか、ということを明らかにしようとしているんだと、いうことであります。このことが日米同盟にとって何かマイナスの影響を及ぼすということがないように、事前によく、少なくともですね、連絡をすると、緊密に連絡していくということは申し上げました」

上杉「クリントン米国務長官は、それに対してどのような言葉を」

岡田「私の記憶ではあまりこのことにコメントがなかったような気がするのですけれども。うなずいていたぐらいじゃないですかね」

ブルームバーグ 坂巻「ブルームバーグニュースの坂巻と申します。同盟深化についてなのですけれども、大臣はしばしば『日米同盟が今後30年、50年と持続可能なようにしたい』ということをおっしゃっているのですが、通常、『持続可能』というと、景気が先割れするのではないかというような、持続できないんじゃないかという想定をしやすいのですが、それは例えば地域の情勢に何か同盟が持続できなくなるような状況を考えていらっしゃるのか、それとも単に政権交代とかそういうことがあっても、ということを考えているのか、どういうコンテキストでこの『持続可能』という言葉を使っていらっしゃるのかご説明ください」

岡田「普通、同盟というのはそう永続するものではないんですね。環境は変わりますし、お互い細心の注意と多大な努力を払って同盟というのは持続できるものだと基本的にはそう考えております。しかし、日米同盟が果たしている役割は非常に重要ですので、私は30年、50年持続可能なものにしたいと、その思いを率直に述べたところです。

 私は30年、50年、同盟が持続可能なものになるように、その深化のための議論もしたいということを、9月にクリントン米国務長官と初めてお目にかかった時に申し上げた訳ですけれども、今日たまたまアメリカンエンタープライズ研究所(AEI)http://www.aei.org/の所長がお見えになって、そこに同席されていた方が、私がですね、数年前に『日米同盟を50年間持続可能なものにしたい』ということを述べていたと言われていまして、『ああ、自分の言っていることは変わっていないのだな』と改めて確認をしたところです」 「日米同盟の深化」とは、いったい何か? この点を岡田外相にはっきり聞かなくてはならない。私だけでなく、おそらくその場にいた記者の多く、そして国民の大半は「日米同盟の深化」という言葉が指し示すものがいったい何か、よくわからないままであると思われる。私はここで、再び挙手して、質問を求めた。

 岩上「フリーの岩上です。先ほど、同盟の話が出ましたが、同盟の深化という言葉、これは岡田外相になる前に、ずっと前から使われている言葉ではあります。何となく我々、わかったような気にはなっていますけれども、よく考えると、その意味するところが、ちょっと不確実なところもある。同盟を深めていくというのは、一体どういう方向に向かっていくことをさすのでしょうか?

 前回、質問させていただきましたけれども、日米安保と日米同盟というのは、厳密に言うとニュアンスが違うということも質問させていただきました。日本を守るという方向に特化していくということが、もしかしたら日米同盟を深化させることなのか、あるいはアメリカが広く世界に展開していく戦略に、寄り添って、アメリカについていくということが、同盟の深化なんでしょうか。方向性はいろいろあると思うんですが、同盟を深化させるということの定義を、教えていただきたいと思います」

岡田「ここは色々、議論があるところですね。ですから、今、言われたこと以外にも、日米同盟という中で、狭い意味での安全保障以外の部分にさらに、今のところそうなんですが、日米同盟という名の下に、先ほど言った、地球温暖化とかですね、核の問題とか、色々と議論しているわけですが、そういうものをさらに広げていくという考え方もあると思います。

 同盟ということを広く考えればそういうことですけれども、ここは意見がまだ、おそらく日本政府の中でも、あるいはアメリカ政府もそうかもしれません、必ずしも、まだきちんと固まっていない。同盟の骨格の部分というのは、安全保障なので、そこのところをよりしっかりと踏み固めるべきだと。こういう方向性の議論と、もちろん安全保障が骨格であることは間違いないけれども、より幅広いものとして日米同盟を考えていくべきだと、こういう議論と、両方ありうるんだというふうに思います」

岩上「外相ご自身は、どういうふうに定義されてるんですか」

岡田「今はあんまり、自分の意見を言ってしまわない方が、いいというふうに思います。基本的に僕は、両方、必要だと思うんですけれどね。しっかりと、日米安保のところをより、しっかりとしたものにするということと、しかし同盟というのはそれだけではないと。もう少し幅広いものとして、考えて、より広範な範囲での日米協力ということを考えていくと。それは何も軍事面の問題にとどまるものではないと。そういうふうに思ってますが」

岩上「ありがとうございました」

 岡田外相の、日米同盟を軍事以外の分野に広げていく、という言葉は、どう解釈したらいいか。これについては、「日米同盟の正体」を著した元外務相国際情報局長の孫崎享氏の「解釈」を、別途示して論じるとする。 日米同盟の正体~迷走する安全保障 (講談社現代新書) (新書) 孫崎 享 (著)

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