これより、「秘密保護法を批判した元米NSC高官 モートン・ハルペリン氏講演会 ―超党派議員と市民の秘密保護法学習会」を実況します。
海渡雄一弁護士「ツワネ原則とは、昨年6月に南アフリカ共和国の首都ツワネで公表された、立法者に対するガイドライン。ツワネ原則は、ハルペリン氏が上級研究員を務める『オープン・ソサエティ・ジャスティス・イニシアチブ』が呼びかけ、作成されました。
ツワネ原則では、政府の人道に反する事実を秘密にしてはならず、『何を秘密にしてはいけないか』を法に明記すべきとしており、また、秘密保護は無期限ではだめで、秘密解除請求手続きを明確に定めるべきとしている。ジャーナリストへの適用も許されません。
沖縄返還交渉には、外務省における公式ルートと、佐藤総理の密使・若泉さんが進める交渉の2ルートがあった。ハルペリンさんは若泉さんと面会もし、後に二人は親友になったが、若泉さんはやがて沖縄基地の固定化を招いたとして自決しています。
沖縄返還交渉の全貌が明らかになるのに30年以上を要しました。西山事件や、若泉さんによる著書刊行、佐藤首相の遺族による密約文書の公開などがあったからだが、それ以上に、米国に国家秘密開示制度がなければ密約の全貌は明らかにならなかっただろう」
ハルペリン氏「日本政府のほうに、米国政府から秘密保護法を作るよう大きな圧力があったと理解しています。『国家安全保障上、秘密保護法がなければいけない』と。しかし、これまでの日米間の安全保障上の協力の中で、秘密保護法がなくても障害はなかったんです。
私はこれまで政府関係者として、また、政府へのアドバイザーとして日米関係に携わってきました。実際の日米協議の場にも参加した。その中で、日本の秘密保護の法律が弱いから日本と協議できないという話は、一度も、誰の口からも発せられなかった。
例えばブッシュ政権末期、私は米国の核戦略に関する委員会のメンバーでした。委員会の勧告の一つは、日本政府との核戦略に関する協議を増やすべき、というものです。その中で、日本の秘密保護が強力でないから協議できないなどとは誰も言っていない。
実際に私は、核戦略見直しにおいて大きな役割を果たした国防総省の高官と、数日前に話しました。『日米両政府は、全面的な協議を行い、しっかりとしたパートナーシップがあった』と言っていました。東アジアの抑止力に関する協議だったそうです。
ですから、米国と日本の政府間の協議をより良くするために、別に秘密保護法のような新たな法律が必要なわけではないんです。国際基準に基いて、自由に立法すればいいと思います。
数年前、米国で、『ある情報機関の工作員の身元をどこまで秘密にするか、正体を暴いたら刑事責任に問う』という、とても厳重な秘密に関する議論があった。政府が議会に法案を提出したが、それは議論のはじまりにすぎなかった。
議会はそれから3年がかりで公聴会を開いたり、法案の中身を検討をしたわけです。そのとき私は米国の自由民権協会を代表し、公聴会で6回あまり証言しました。最終的に大きな修正をし、法律は制定されました。
もう一つの例が南アフリカ共和国であります。南アも日本と似たような状況にあり、議会では、一つの政党が非常に大きな力を持っています。しかし、政府が提案した秘密保護の法律の制定には、3年ほどの議論を重ねて、修正を盛りこみ、成立しました。
実際、ツワネ原則を作り始めたのは、時期的に南アで秘密保護の法案が出てきたときなんです。南ア政府の高官たちもツワネ原則の議論の場に参加し、私も南ア高官と懸念事項などを話し合いました。法制定までに、いくつもの議論、協議を重ねました。
そして、でき上がった法律は、必ずしも完璧な法律ではないが、こういう法律を作る際のプロセスとしては、民主社会において適切なものだったと思っています。そういう意味で、日本政府はきちんとした手続きを踏んでいないと思います。
日本では、国会で急いで成立され、民主社会にあるべき手続きを踏まずに刑事罰を盛り込んでいる。この法案を見た時、『日本ではツワネ原則を知っている人がいない』と思ったんです。
日本の秘密保護法は、ツワネ原則をいろいろと逸脱しています。一番の問題は、政府が不適切と考える方法でジャーナリストが情報を得て、それを公開することに刑事罰を与えることです。
ツワネ原則は、市民が国家安全保障に関する情報漏洩をすることに対して刑事責任を問うてはならないとしています。米国では、米政府はジャーナリストにも秘密保護法が適用できると考えてはいるが、実際に適用されたことはないんです。
米国の歴史上、国家安全保障の関する情報を漏らしたからといって起訴されたジャーナリストは一人もいない。たった一つだけ、政府関係者でない人が国家安全保障関連の情報漏洩で起訴された件はあったが、それも途中で不起訴になりました。
判事はこの裁判において、情報へのアクセス権や表現の自由の重大な侵害になることを危惧したんです。そこで判事は、一つの法律の新しい解釈を打ち出した。『政府が国家安全保障に対する害があると証明しなければならない』というものです。
ですから、実際、米国では、国家安全保障に関する情報を漏洩したからといって刑事責任は問えない、ということに、事実上なっているんです。この他にも、いろいろと日本の秘密保護法がツワネ原則から逸脱している部分があります。
例えば、『政府の不正を秘密にしてはならない』というような要件も法にない。内部告発者の保護もしていない。秘密指定にあたっては、『公共の議論の重要性を検討する』という要件も法律にはない。
重要なのは、国民の知る権利と、情報に関して国民的な議論をするということと、そして国家安全保障に害を及ぼすこととのバランスです。その中で、『一部の特定の情報は秘密にしてはならず、公開しなければならない』というのがあります。
政府内にいる人の内部告発、政府の違法行為や危険な行為に関して通報する人を守らなければならないという規定があります。それには政府内にとるべき手続きがあります。それは、政府高官や監視機関にそれを訴える、という手続きです。
そして、そこで本人の満足がいく対応がえられなければ、その人はその情報を公にすることが認められる、という原則です。米国の法律にもそのような取り決めがあります。
スノーデン氏の行ったことですが、いきなりマスコミに報せたことで、手続きを無視したと批判する人も少なくない。一方で、彼は公務員でなく、契約社員だったことで、内部告発者保護の法が適用されないという見方もあるんです。
また、ツワネ原則では、政府関係者でない人が、国家安全保障情報を漏洩しても刑事罰に問えない、としているが、同時に、政府関係者であっても、漏洩行為に刑事罰を適用するかどうか、非常に懐疑的にみています。
ツワネ原則の中で示唆しているのは、『ベストプラクティスは刑事罰でなく、省庁内の罰則手続きに留める』ということです。例えば解雇であるとか、セキュリティクリアランスを奪う、といった処置が考えられているんです。
ツワネ原則に比べ、日本の秘密保護法の場合、秘密指定の正当化のため安全保障上の害を証明する義務がないという点で、はるかに曖昧です。ツワネ原則や米国の法律では、情報公開した時、どのような害が危惧されるか正確に特定しなければならない」
以上で元米国NSC高官・ハルペリン氏の講演の実況を終了します。16時からは岩上安身がハルペリン氏に単独インタビューします。取材には経費がかかっています。何卒、IWJへの支援をお願いします。