【特別寄稿・築地移転問題】「大根2本」のゆくえ!? ー豊洲新市場、物流計画の「崩壊」ー (中澤誠 東京中央市場労働組合書記長) 2014.4.17

記事公開日:2014.4.17取材地: テキスト
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(中澤誠)

 まずは下記にある図面をご覧いただき、豊洲新市場を頭の中でよーく思い描いていただきたい。

 主人公は都内下町で寿司店を経営するご主人”Aさん“としよう。この日の朝も、Aさんはいつものように懇意の仲卸でマグロから仕入れを始め、次の店では白身魚を活〆にしてもらい、アジ・サバ・イカ・ウニや穴子、貝類等の種もの、卵焼き、カマボコ等々を買ってから、豊洲新市場・水産部仲卸の4階(6街区)駐車場の車に戻った。30分ほどで全ての商品が仲卸から配達され、それを確認した時にAさんは、はたと気づく。

 「そういえば、”つま“を買っていない・・・!」

 6街区4階から5街区1階の青果部仲卸までは、『歩行者デッキ』を通り、階段も含めて700m以上も歩かねばならない。当然のことAさんは電話で注文をすることになるだろう。

 「大根2本を、いつものところを見つくろって、お願いします」・・・今の築地市場でも、ごく当たり前の風景だ。

 問題はここからである。この大根2本を、青果仲卸の業者は如何にしてAさんの車のある6街区4階まで配達すればいいのか・・・?

 当初、東京都は業界に対して5街区~7街区(水産部卸)へのアンダーパスについて、「ターレーで走行できる」と説明してきたが、実にこれがガセネタで都議会経済港湾委員会では、清水ひでこ(日本共産党)の質問に対して「外周道路につきましてはターレーが走行することを想定しておりません」と正式に答弁しているのだ。実は豊洲新市場とは、青果部と水産部をつなぐ”物流動線”が全く存在しないという、世にも奇っ怪な卸売市場なのである。

 だとすると・・・、事態は深刻だと言わねばならない。

 そもそも”大根2本“は一体どうなるのか?このままではAさんの手元には永久に届かないということになるではないか・・・これは一体、どうなっているのか!?

 ここで再び図面をご覧頂こう。これは、一級建築士の水谷和子さんに特別に作って頂いたものだが、豊洲新市場と築地市場が同じ縮尺で並べられているという、あるようで無かった図面だ。この図面では豊洲で100mのところは、築地でも100m、具体的に広さや物流を実感することができる。そしてこれを見ると築地市場の素晴らしさと、豊洲新市場の悲惨な現実が浮き彫りとなろう。

 この貴重な図面を見ながら、さっそく豊洲新市場を物流の見地から見ていきたい。

立地条件・交通アクセス

○立地条件

 さて、築地市場の立地はすばらしい。扇形に弧を描いて正門は遥か皇居に向かい、東京全体に開かれ、鉄道・道路・バス共に都心部から複数のアクセスが可能となっている。対して豊洲新市場は、正門を施設の内側に抱え込まざるを得ず、しかも三方を海に囲まれており、どう見ても卸売市場よりは監獄などに向いている。交通アクセスも極めて悪い。

○鉄道アクセス

 築地市場の場合、鉄道でのアクセスは正門に都営地下鉄・築地市場駅、近隣に東京メトロ・築地駅、JR・新橋駅と三つの線があり、台風などで運転取りやめの線がでても何とか築地市場までたどり着くことができるが、豊洲新市場ではよく”止まる“ことで有名な”新交通ゆりかもめ”しかなく、これが運転を取りやめると一切鉄道からのアクセスが不可能となる。

 また豊洲新市場にはJRの最寄り駅は存在せず、仮にJR新橋駅から“ゆりかもめ”に乗ると、市場前駅まで時間にして約28分、料金は片道370円、往復740円にもなり、時間・経費の点で個人経営、零細小売店、飲食店の経営を圧迫する。また輸送できる人数にも明らかに問題がある。

 因にJRで370円あれば、築地市場の最寄り駅である新橋駅から埼玉県まで行くことができるのだ。

○始発時刻

 そもそも“新交通ゆりかもめ”や東京メトロは始発時刻が遅く、卸売市場の鉄道アクセスとしては不向きである。通勤・買い出しには間違いなく不都合が生じるが、解決策は示されていない。

○環状2号線・道路からのアクセス

 築地市場は道路からのアクセスも極めて豊かで、しかも橋梁を経ずに地続きで都心部からアクセスすることができ、したがって大雪などの自然災害にも強い。豊洲新市場の場合は、環状2号線も晴海通りも橋梁からのアクセスになり、大雪・路面凍結などで一気に陸の孤島になる可能性がある。

 また豊洲新市場の最も重要なアクセスである環状2号線は、同時に築地市場を貫通する道路でもある。とうぜん築地市場の営業中には大きな工事を行えず、新市場の開場時には旭冷蔵庫棟を壊して汐留交差点に繋がる2車線バイパスでの開通となる。ところが汐留交差点は現在でも複雑で事故が多発しており、ここにさらに2車線なのだ。環状2号線が事故で不通になった場合、道路からのアクセスも極めて限られることになる。

 環状2号線に関しては、東京都はほとんど不可能にちかいことを簡単にできるように説明をしており、現実には移転してから環状2号線の本線開通には、相当な期間を要するはずである。事実『日経ケンプラッツ』では『環状2号線』の本線開通について「オリンピック後」という見通しを報道している。それが本当なら豊洲新市場はその開場から、鉄道のみならず幹線道路についても貧弱なアクセスのまま、少なくとも数年間は営業することにならざるを得ない。

○シャトル・バス、地下鉄

 東京都は新市場へのアクセスにシャトル・バスの運行を検討するとしているが、24時間営業を目指す豊洲新市場で、どういう時間帯に、何本の運行をするのか、運賃はいくらか、運営費用はどうするのか等、現在のところ全く明らかにされていない。また東京メトロ有楽町線の延長も議論されているが、どこに駅を作り、どのように新市場にアクセスするのか、こちらも具体化には程遠い。

○徒歩・自転車

 豊洲新市場の計画で、全く無視されているのが徒歩・自転車でのアクセスである。ご存知のように現在の築地市場では銀座・新橋・八丁堀をはじめ、様々な場所から徒歩・自転車での来場がある。この大事なお客さんが豊洲新市場では全滅となる危険性がある。

物流の問題点

○ボトル・ネック

 さて、豊洲新市場用地には環状2号線と補助道路315号線とにより敷地が十文字に3分割されているという根本的な問題が存在する。

 6街区・7街区・5街区が、それぞれ水産仲卸・水産卸・青果と区分けされるが、問題なのは各街区は一階部分に穴を掘って『連絡通路』を作り、それで辛うじて接続されているに過ぎないことである。これはいわゆるボトル・ネックと言われるもので、巨大な施設である6街区棟と7街区棟の“全物流”の負荷がこの細い『連絡通路』にかかることになり、円滑な物流の妨げになることは明白である。

 また特に水産部と青果部の間にはその「穴」すらなく、“物流動線”自体が存在しない。これはほとんどお笑いの世界で、既に述べたように豊洲新市場とは、恐らく歴史上初めて“物流動線”が全く存在しないという奇っ怪な卸売市場である。物流施設なのに、物流動線がない(!)のである。

 また、連絡通路以外にもスロープ入り口、冷蔵庫入り口、外周道路、アンダー・パス等、様々なボトル・ネックが確認できる。特にエレベーターが連絡通路脇に設置される予定で、エレベーター待ちのターレーに小揚げ・仲卸が入り乱れ、最悪のボトル・ネックとなることは確実である。

 因みに築地市場では、水産仲卸・水産卸・青果が、“線”ではなく“面”として密着しており合理的であり、あらゆる複雑な流通に現に対応している。卸売市場とは“面積”ではなく“物の流れ”であり、“建物”ではなく“人”なのだ。

○6街区に施設が集中、狭い売り場面積

 以上のように豊洲新市場は、面積を継ぎ合わせただけの間抜けた卸売市場だが、実は水産部・仲卸についてはその面積すらが確保されていない。

 東京都は豊洲新市場での水産部取り扱い数量を1日2,300トンとしているが(築地市場は2,000トン)、水産部・仲卸の実質売り場面積(通路を含む)は29,430㎡しかなく築地市場の3 1,673㎡よりはるかに狭い。

 以上の不合理は、豊洲新市場と築地市場とを比較することで容易に解明することができる。

 図面を見てみよう。

 築地市場の場合、敷地の中央に水産部・仲卸が位置し、その回りを卸・青果・関連事業者・駐車場が取り囲むように配置されており合理的である。対して豊洲新市場の場合、上記のように敷地が道路で3分割されているために水産部・仲卸を中央に配置できない。したがって6街区に仲卸を配置すれば、駐車場も関連事業者もと6街区ばかりが“テンコ盛り”となり、5街区・7街区は“スーカスカ”という状態にならざるを得ない。

 事実、5街区・7街区は当初計画よりかなりの面積を返上し建物自体が大幅に縮小しているが、6街区だけは逆に”荷捌き場“を取りやめて仲卸店舗面積にあてざるを得ないという事態が生じている。豊洲新市場は十分な仲卸売り場のスペースを取ることすらできない卸売市場なのである。

 したがって水産部・仲卸売り場が配置される6街区は“築地市場の狭溢化”を解決するどころか狭隘化はより一層ひどくなり、卸売市場の円滑な物流それ自体が危ぶまれることになる。

○東京都の大嘘!

 東京都は、これまで都民や関係者に対して「豊洲新市場は広い」と説明してきたが、以上のように、これはとんでもない大嘘である。連中は十何年ものあいだ、我々を騙してきたのだ。

○深刻な6街区の物流動線

 また物流動線がもっとも貧弱なのも6街区である。現在の築地市場には約150の茶屋があるが、仮に車が2台ずつ駐車しても300台をはるかに超えて収容してることになる。またそれ以外にも駐車場への直接の配達などが行われている。ところが豊洲新市場では6街区・1階の駐車・積み込みスペースに、121台+91台の合計212台分しか用意されておらず、当然それ以外は4階駐車場への配達とならざるを得ない。

 では、4階駐車場への物流動線はどうなっているのか?

 現在の築地市場では7つの大通路と8つの小通路、合計15の通路が配達用の物流動線となっている。しかし豊洲新市場の場合は、4階駐車場への動線は僅か数台のエレベーターと、ごくごく貧相なスロープが3つしかない!しかも1階の積み込みスペースから4階駐車場まで、卸会社からの小揚げによる配達も集中することになるのだ。当然エレベーターとスロープだけで賄い切れるわけがない。

○足りないバース数

 また新市場建設協議会で伊藤裕康・卸売業者協会会長が指摘して明らかになった通り、豊洲新市場のバース(着車スペース)は6街区と7街区を足しても375台分しかなく、現在築地市場で確認されている600台には全く足りていない。したがって積み込み待ち時間は相当なものとなり、物流には大変な時間を要することになり、混乱は避けられず、解決の見込みもない。

○無駄に広い敷地

 そのくせ豊洲新市場は40ヘクタールと無駄に広く、そのことによって経費が増大する。たとえばこれも6街区の水産部・仲卸が割りを食う話だが、とにかくセリ場が遠い。6街区から7街区までは最短で約100mもあり、築地市場に置き換えると岸壁の向こうまで行ける距離になる。したがって豊洲新市場で番頭などが「ちょっとセリ場まで・・・」と言っても自転車が必要ということになりかねない。とうぜん”引き取り”にも時間がかかり人件費も増大する。

 また水産部・仲卸から青果部までは700mから1,000mもあり、築地市場に当てはめるとJR新橋駅までに相当し、経費は増大する。また既に述べた通り、物流動線は存在せず、解決策も示されてはいない。もちろん”大根2本“も徒歩でしか配達できない。

○施設の立体配置

 以上の根本問題の他に、豊洲新市場にはコストパフォーマンスの上で重大な問題が未解決となっており、その最大のものは施設の立体配置の問題である。

 荷物を搬送する場合、築地市場のように水平方向に移動するほうが垂直方向に移動するよりも時間・労力の点で優れているが、ご存知のように豊洲新市場では各施設が立体配置にせざるを得ず、配達の人件費、『垂直搬送機』『スロープ』『エレベーター』などの施設整備費用、施設管理費用などが、施設使用料、物流コストを大幅に押し上げる。

○最悪の物流効率性
これまで東京都は、豊洲新市場では『効率的物流』が実現すると説明してきたが、以上のようにこれも大嘘である。東京都はこの点についても、我々をずっと騙し続けてきたのだ。特に水産仲卸事業者は、相当な人件費増を覚悟すべきである。

施設設計の問題

(…会員ページにつづく)

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  1. @emi_gakkiさん(ツイッターのご意見より) より:

    築地でいいじゃないか、故郷の景色を失うのは情緒に悪い。

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