【IWJブログ】元オバマ政権中枢人物が語る、日米同盟の今後とオバマ訪日の目的 ~トーマス・ドニロン前米大統領補佐官による、米シンクタンクでの講演の翻訳を公開 2014.3.19

記事公開日:2014.3.19 テキスト
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(翻訳・記事:野村佳男、記事構成:野村佳男・佐々木隼也)

 米国の意向を知るためには、当然のことながら、オバマ政権に「より近い」専門家や有識者の声に耳を傾ける必要がある。2014年3月6日、米国の有力シンクタンクであるブルッキングス研究所で、昨年7月までオバマ大統領の補佐官を務めたトーマス・ドニロン氏による講演が行われた。

 オバマ大統領は、4月に日本を含めたアジア諸国を訪問する予定である。本講演でドニロン氏は、オバマ大統領がどのような目的を持って、今回のアジア訪問に臨むのか、その戦略や意図を明らかにした。直近までオバマ政権の中枢にいた人物による非常に重要な講演であるが、日本のメディアではほとんど報じられていない。

 ドニロン氏は、2009年1月のオバマ政権発足から昨年7月に退任するまで、国家安全保障担当の大統領補佐官として、米国の外交政策の中心人物として活躍。特に、米国外交の中心を中東からアジアにシフトする、「アジア・リバランス戦略」(アジア・ピボット戦略とも呼ばれる)を策定した一人として、日本や中国などとも関係が深い。

 講演を開催したブルッキングス研究所は、米国でもっとも歴史のあるシンクタンクとして知られており、オバマ政権にも数多くの人材を送り込んでいると言われている。日本のメディアでも取り上げられることの多い(安倍政権に近い)CSISやヘリテージ財団よりも、オバマ政権中枢により近いと考えられる。

 TTCSPという機関が発表している世界のシンクタンクランキングにおいて、ブルッキングス研究所は「2013年シンクタンク・オブ・ザ・イヤー」に輝いている。(2013 GLOBAL GO TO THINK TANK INDEX REPORT)

 講演の模様は、現在ブルッキングス研究所のホームページで公開されている。

 今回IWJでは、その講演内容の主要部分を独自に翻訳した。今後、さらなる解説や分析を加筆する予定である。

 尖閣問題や安倍総理の靖国訪問など、日本と中国・韓国との関係が悪化する中、オバマ政権が日米関係をどのように見ているのか、その理解の一端となれば幸いである。


A Review of the ‘Asia Rebalance’ and A Preview of the President’s Trip to the Region: A Conversation with Thomas E. Donilon

March 6, 2014

「アジア・リバランス」の考察と、大統領によるアジア訪問のプレビュー

2014年3月6日 米ブルッキングス研究所にて
講演者:トーマス・ドニロン氏(前米国家安全保障担当大統領補佐官)

記事目次

「アジアへのリバランス」戦略とは何か

 リバンランス戦略とは、オバマ政権のコア戦略であります。2008年に設計した時には、正しい戦略であり、今日でも正しい戦略です。

 そのルーツにあるのは、1つは、米国がアジアで過去60年以上担ってきた役割を再認識することです。アジアが大きな社会的・経済的発展をとげる基盤となったということです。もし米国の存在がなければ、現在のアジアがどうなっていたか、想像してみてください。そのことでも、米国の存在が重要だったということがわかるでしょう。

 2つ目は、米国にとっての未来です。米国の繁栄や安全保障は、21世紀に入ってますますアジアとリンクしています。

 オバマ政権の外交政策を構築するにあたって、我々は、米国はどこに投資過剰で、どこに投資不足かを、徹底的に洗い出しました。その結果、中東への軍事的な投資が過剰であり、アジアへの投資が過少であるとの結論を出しました。それで、それを「リバランス」するという戦略を打ち出したのです。

 戦略は多面的です。1つ目は、同盟国と真の関係を構築することが、これからのアジアにおける米国の存在の鍵となるということです。同盟関係を深め、新しい関係性を築くということです。この点に関して、我々は非常に上手くやってきたと思います。現在のアジアとの同盟関係は、これまで以上に、非常に良い形になっています。最近の世論調査では、84%の日本人が日米同盟を支持しています。韓国でも同様の数字が出ています。ソウルと東京の関係(の悪化)が大きな問題ではありますが、同盟関係がコアであることには変わりません。

 2点目は、アジアの新興国との関係を構築することです。米国の国益を追求するのに、今後10年20年の間に必要となる連立関係を考えてみてください。我々はインドとの関係を深め、インドネシアとの関係も深まっており、この点でも前進してきました。

 3点目は、アジアでの国際機関の設置に関わることです。アジアには欧州のような国際機関がありません。アジアでは各国間の連携があまり強固でなかったという背景がありますが、その中でも米国はASEANとの関係を築くことに焦点をあてています。オバマ大統領は毎年ASEAN首脳と会談していますし、来月にはヘーゲル国防長官がASEAN諸国の防衛大臣と初めて会談をします。東アジアサミットはまだ立ち上がったばかりですが、安全保障や外交問題について、中国を含めて定期的に協議をする重要な場として、非常に重要視しています。

 4点目は、経済関係の構築です。そこで中心となるのは、TPPです。現在進んでいるもっとも重要な貿易交渉であり、米国も多大な努力を傾けています。(TPAのような)国内問題はありますが、米国にとって経済的に非常な重要なステップです。米国とパートナー国が一緒になって、高い質と水準の、法の原則に基づいた経済関係を設計し、秩序ある貿易を実現するための作業です。

 またTPPは経済の面だけではなく、戦略的なリーダーシップを発揮するという点でも米国にとって重要です。アジア諸国とウィンウィンの関係を築き、経済面でアジアへのリバンランスを実現するということです。

 5点目は、中国と建設的で生産的な関係を築くことです。これは非常に重要です。米国は「二重の役割」を担っています。一方では、アジアの同盟国は、特に中国の勃興に対して、米国に安全保障上の義務を確実に提供することを期待しています。しかし他方では、同盟国は米国に、中国との建設的で生産的な関係を築いて欲しいとも期待しています。単にどちらかを選択するということではありません。この点に関しては、FTの記者であるジェフ・ダイヤー氏の書いた”The Contest of the Century”という良書がありますので、ぜひ読むことをお勧めします。

 これらが主要な点ですが、これらすべてにおいて順調な進展を果たしてきました。しかし、課題はあります。4月に予定されているオバマ大統領のアジア訪問ですが、11月にキャンセルしたアジア訪問の振替の目的があります。11月は、米国政府機関の閉鎖がありましたので。APECサミットと東アジアサミットの2つの会合への参加を逃したのは、正直犠牲の大きいキャンセルでした。マレーシアやフィリピンへの訪問もできませんでした。

 今回は、マレーシア、フィリピンを訪問します。また、韓国や日本にも訪問しますが、同盟国との関係を中心におくためにも、非常に重要な訪問となります。歴史問題にまつわる二国間のナショナリズムが問題となっていますが、おそらくオバマ大統領はこの点についても議論するでしょうし、今月オランダのヘーグで行われるサミットでも、朴大統領や安倍総理と会う機会がありますので、そこでも何かしらの進捗があることでしょう。米国が両国をまとめる役割をことになると思います。

中国に対して、リバランス戦略をどのように説明してきたか

 中国の首脳陣とは4年間で延べ30時間ほどリバンランス戦略について会談したと思いますが、そこでも米国がアジアで過去60年間に担ってきた役割を認識するところから始めました。米国の存在によって、アジアは経済復興を果たしてきたわけですが、とりわけ中国がその恩恵をもっとも受けたと思っています。

 中国とは非常に率直な議論をしました。中国からは「これは『封じ込め』政策なのか」と聞かれたこともありましたが、米中には5000億ドルもの貿易関係があり、よって「封じ込め」政策などということは考えられない、というのが、私の主な論点です。

 課題もあります。

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