経済界は米軍戦争を「復興市場」創出と見なす ~上脇博之氏が9条改正の思惑について解説 2013.12.16

記事公開日:2013.12.16取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

特集 憲法改正

 2013年12月16日、神戸市中央区の兵庫県民会館で、平和憲法を守る兵庫県連絡会主催による「安倍政権の憲法破壊と闘おう─平和憲法を守る12.16兵庫県集会─」が行われ、上脇博之氏(神戸学院大学教授)が登壇した。

 そのスピーチは内容が濃いのに加え、要所で基礎からの説明がなされている点が特徴的。上脇氏は、憲法9条改正を巡る国民の誤解を指摘する。

 また、「好戦的な『ナショナリズム』という国内要因が、改憲派を9条改正へと突き動かしている面もあるのではないか。米国は、日本のそういう部分を、忌避しているように思う」といった発言も飛び出し、随所で客席にインパクトを与える80分間となった。

 なお、上脇氏は、2012年4月に発表された「自民党改憲草案」について、このように述べている。「あの草案は、右翼的な色合いが非常に濃いため、今後、修正される可能性がある。ただし、修正されるにしても、安倍政権の改憲姿勢が本質的に変わるとは考えにくい。主権者である国民は、その辺を見誤らないでほしい」。

■全編動画

 上脇氏の講演に先立ち、主催者側を代表して開会のあいさつに立った中竹氏(兵庫医療労働組合連合会)は、「秘密保護法が成立したとたん、安倍政権が牙をむいた感がある」とした上で、「首相は当初、原発ゼロを目指すと宣言していたのに(12月6日に公表したエネルギー計画では)『原発ゼロ政策』の撤回を表明している。また、日米の企業が一緒になって武器を作り、輸出して稼ぐ体制を整備するための『武器3原則』の見直しも打ち出されている」と指摘。「日本を、いよいよ緊張した空気が覆い始めた。改めて、皆さんとともに(安倍政権を打倒するために)戦っていく決意を表明したい」と力を込めた。

 続いてマイクに向かった上脇氏は、「臨時国会で、秘密保護法が強行採決されたことへの怒りが、まだ治まっていない」との言葉で、講演を始めた。この日の演題は「安倍政権の憲法破壊と私たちの課題」。上脇氏は「安倍政権による憲法破壊は、秘密保護法の成立でもって、本番に突入する」と力説し、「私たちは今後、この点を十分に肝に銘じながら、市民運動を展開していかねばならない」と声を張り上げた。

「9条改正の本質を見誤るな!」

 秘密保護法の成立と、外交・安全保障の司令塔である国家安全保障会議(日本版NSC)の設置は、安倍政権による「改憲の地ならし」と重ねて強調した上脇氏は、「来年は、集団的自衛権行使の容認のための、解釈改憲が行われ、自衛隊を海外に派遣する具体的な条件などを定める『国家安全保障基本法案』が、国会に提出されることになるだろう」と述べた。さらに、「同基本法案の提出は、今後の日本のあり方を決める重大な局面であり、それは、憲法9条改正の先取りを意味する」とつけ足した。

 その上で上脇氏は、こう懸念を示した。「国民の間には、今なお、9条の改正に関する誤解が目立つ」。

 「自民党は、これまで『9条があるため、日本は戦力を保有することはできないが、自衛力であれば問題はない』という立場で、自衛隊の合憲性を主張してきた」。上脇氏は、安倍政権が行おうとしている「9条の改正」の狙いは、自衛隊はあくまでも専守防衛のために存在する以上、米軍と一緒になって戦争をすることは、さすがに違憲だ──という、これまでの政府の根本的認識を変える点にある、と強調。「国民の間からは『日本が、今後も戦争をやらない国であり続けるために行うのが、9条改正だ』という声も聞こえてくるが、それは大きな誤りだ」と釘を刺した。

米国に頼まれれば、日本の自衛隊が出撃

 次に上脇氏は、集団的自衛権の行使が何たるかを解説。「日本が敵国の武力攻撃を受けているのを、米軍が助けることの逆パターンと認識してほしい。集団的自衛権が行使されれば、日本は、たとえ武力攻撃を受けていなくても、米国の要請に従って自衛隊を出撃させることになる」とした。

 むろん、それには、今の「9条」の存在が障壁になるわけだが、上脇氏は「すでに、1990年代の中盤以降、日米は地球規模で軍事的協力を行う約束をしている」と述べ、集団的自衛権行使に向けた下準備が、日米間で着々と進められてきた、とした。

戦争に加担すれば「復興需要」が得られる

 1996年、当時の橋本龍太郎首相とクリントン米大統領による「日米安全保障共同宣言」、1997年の「新ガイドライン」、その新ガイドラインに基づく、日本国内での有事発生のみならず、日本に脅威をもたらす恐れがある折にも軍事行動がとれる内容を含む「周辺事態法」の成立(1998年)──。上脇氏は、日本はすでに、米国の要請に従って自衛隊を海外派遣することを、基本的に約束している、と指摘。「安倍政権は今、米国と取り交わした、その約束を履行するために、憲法9条をどう改正しようかと思案を巡らせている」とした。

 米国が日本など他国に対し、なぜ、戦争協力の要請をするかについては、上脇氏は、次のように語っている。「経済面で上手く関係が築けない国に対して戦争を仕掛け、あとで経済振興を図るのが米国のやり方。ただ、戦争をすると金がかかる。自国経済がダメージを受けることにも発展しかねない。そこで、いろんな国に協力を求めるのだが、その際に、米国は『協力してくれた国の企業には、戦争後の経済復興への参加を認める』という特典を用意する」。

 上脇氏は、日本の経済界が「9条改正」に前向きなのは、その特典(復興需要)がほしいからだ、と言明する。「事実、経済同友会は、1994年に『9条改正』を提言している。1994年といえば、衆院選に小選挙区比例代表制が導入された年だ。彼らには『これで改憲勢力が過剰に代表されて、9条改正が実現する』という読みがあったに違いない。私は、小選挙区制と改憲はセットだと考える」。

自らが作った法律さえ破る自民党

 上脇氏は、イラク戦争で自衛隊が米軍に協力したことにも言及。「2008年4月、名古屋高等裁判所で、自衛隊のイラク派遣は憲法違反である、という判決が下されている(同年5月に確定)」と紹介し、「判決では、あの派遣は、イラク特措法にすら違反するとされており、要するに自民党は、自分たちが作った法律すら破ったことになる」と強調した。

 「自民党にしてみれば、時々であれ、こういった判決が出ることは明らかにマイナス材料だ。安倍政権は、そういうマイナス材料の発生を防ぐためにも、9条を巡る『明文改憲』をやりたくてしょうがないのだろう」。

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