「世界中の皆と手を繋いで、ファミリーハウスを作りたい」──。
2013年9月29日、青森市浪岡の国立青森病院敷地内にある社団法人岩木憩いの家で、シンポジウム「障がいがある人・患者・家族があずましく滞在できる施設のつくり方」が行われた。
地域の中核病院に、遠方から通院・入院する患者や介護する家族にとって、交通費や宿泊費の負担は切実な問題である。
ファミリーハウスとは、そのような人たちが病院の近くに宿泊滞在できる施設で、岩木憩いの家も、そのひとつ。この日は、患者や家族らにとって、あずましい(居心地のよい)ファミリーハウスのあり方を巡って、ファミリーハウスあおもり、ドナルド・マクドナルド・ハウス、岩木憩いの家の、3つの施設の事例が紹介された。
- 大竹進氏(なみおかSSC理事長、整形外科医)インタビュー
- 開会 主催あいさつ 村木義一氏(青森県難病団体等連絡協議会代表)
- 青森県医療薬務課「『ファミリーハウスあおもり』設置の経緯と現状について」
- 長瀬淑子氏(ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン事務局長)「ドナルド・マクドナルド・ハウスの役割」(Skype中継)
- Give Kids The World(米フロリダ州)ビデオ紹介
- 中山博秀氏(岩木憩の家理事長)「岩木憩の家のこれまでとこれから」
- チャリティーコンサート 弘前大学アカペラサークルV.E.L
通院・入院する患者と家族をサポート
開会の挨拶のあと、後村直希氏がファミリーハウスあおもりについて、「かつて、青森県では乳児や周産期(妊娠22週~生後7日未満)の子どもの死亡率が高く、その対策として、平成16年、県立中央病院内に総合周産期母子医療センターが設置された。それに伴い、県内各地から受診する妊婦さんの安全や、付き添う家族の利便性を考慮した宿泊施設の必要性が検討された」と、開所に至る経緯を説明した。
「ファミリーハウスあおもりは、もともとは青森県職員の公舎として利用されていた建物を一部改修したもの。県立中央病院まで徒歩5分と近く、料金はシングル客室1泊2500円からで、通院患者や家族が休憩できるように時間単位での利用もできる。当初は、総合周産期母子医療センター及び県立中央病院の患者とその家族を対象としていたが、現在では周辺医療機関の患者や家族も利用可能となっている」。
ファミリーハウスあおもりの実際の運営は、県から補助を受けたNPO法人が行っている。後藤氏は「県は、使われていない土地を定額で貸与することで民間事業者の手助けをし、民間事業者は、県から補助を受けながら、運営して利益を得る。県と民間事業者による、こういった取り組みは全国的に珍しい例である」と語った。また、課題としては、県の補助が切れた場合の運営の目処が立っていないことが挙げられた。
心地よい「家」を提供
続いて長瀬淑子氏から、ドナルド・マクドナルド・ハウスの役割について、Skypeで報告が行われた。アメリカで始まった小児患者の付添人のための宿泊施設として、ボランティアの手で運営されているドナルド・マクドナルド・ハウスは、世界33カ国、327カ所に存在する。医療に厚みを加え、患者と家族を支援する、この施設の役割を、長瀬氏は「ホテルとは違う。患者や家族のストレスを軽減し、心地よい家のような場所」と説明。それを支えるボランティア文化の構築について、「このような施設は、身近なことからボランティアの一歩を踏み出せるフィールドとしての役割も担っている」と述べ、「社会が医療を支援していく大きな試みが、ドナルド・マクドナルド・ハウスである、という自負がある」と語った。
中山博秀氏は、国立青森病院の敷地内にあり、難病患者や家族を中心に利用されている岩木憩の家について、「1974年の設立で、歴史は古い。筋ジストロフィーの子どもたちの親の会が中心となって、家を離れて闘病する子どもが家族と水入らずのひとときを過ごせるように、設立された。また、重症心身障害者のリハビリや社会訓練の研究を進め、生活条件、社会条件の面からハンディキャップを軽減することも目的であった」と、これまでの経緯を振り返り、利用者の推移などを報告した。
「宿泊施設は、病院内にあれば便利だと思われるかもしれないが、利用者に聞くと、病院内ではない微妙な距離感が必要だという」。こう述べて中山氏は、医療現場と社会の接点になる場所が、患者や家族に必要とされていることを強調した。岩木憩の家の今後については、「公益社団法人として認定されたので、新たなスタートを切ることができる。難病支援センターを設置し、ボランティアの拠点としての役割も果たしていく」とし、「みんなが笑顔になれる施設を」と締めくくった。
最後に、再び長瀬氏がSkypeで参加し、「このような施設が各地にできるのは、医療機関や行政の熱意の賜物。財政面の問題など、施設をどのように維持していくかは大変な課題だが、私たちは利用者の役に立っている実感がある。今後も、へこたれずにやっていきたい」と抱負を語った。