2011年3月8日(火)8時、超党派の国会議員で構成する「TPPを慎重に考える会」(会長:山田正彦前農水相)が、衆議院会館にて勉強会を開催した。2月に発足した「TPPを考える国民会議」の代表世話人を務める東京大学名誉教授の宇沢弘文氏が講演を行った。
(IWJテキストスタッフ・久保元)
2011年3月8日(火)8時、超党派の国会議員で構成する「TPPを慎重に考える会」(会長:山田正彦前農水相)が、衆議院会館にて勉強会を開催した。2月に発足した「TPPを考える国民会議」の代表世話人を務める東京大学名誉教授の宇沢弘文氏が講演を行った。
■ハイライト
講演の冒頭、宇沢氏は、終戦直後の混乱期に起きた松川事件や下山事件など、国鉄の労働組合にまつわる一連の事件を引き合いに出し、「占領軍が日本政府や検察を使って引き起こした、戦後の日本占領を全面に現した象徴的な事件」として紹介した。そして、無条件降伏を起点に、「パクス・アメリカーナ」(超大国アメリカの覇権主義による平和)が始まったと振り返った。その後、マルクス経済学やフリードマン経済学、共産主義などの話を交えつつ、「社会的共通資本」の重要性を説いた。
社会的共通資本について、宇沢氏は、「社会が円滑に機能し、そこに住んでいるひとりひとりの人間が、人間らしい豊かな生活ができるような条件」と説明した。具体的には、山・川・森などの「自然環境」、道路・橋・鉄道・ガス・水道などの「インフラ」、教育・医療・金融・司法・行政・文化・ジャーナリズムなどの「制度資本」を挙げ、これらを「社会のあらゆる文化的、思想的、人間的に支える制度である」と位置づけた。
その上で、「これらは儲かるからやるのではない。所有環境を問わず、社会に一番大事なものとしてみんなで守っていくべきもの。歴史を通じて大切に守ってきたものは、次の世代につないでいかなければならない。社会的共通資本は一番核となる大切な考え方である」と強調した。
そして、『この「社会的共通資本」の重要性を全面的に否定したのが、フリードマンらの唱える市場原理主義である』と断じ、さらに、「企業が儲かるどうかという尺度で決める市場原理主義の考え方を徹底させるのが自由貿易である」として、TPPを批判した。
また、宇沢氏は、コロンブスによるアメリカ大陸発見と、その後の奴隷制度についても言及した。さらに、19世紀に欧米列強が採った征服主義によって、1858年に日本がアメリカから一方的に飲まされた不平等条約が「安政の大獄」(不平等条約反対派への弾圧)を生み、それを改正させるのに60年も掛かったことを挙げ、「日本人の心の中に、列強諸国の暴虐に対する被害者意識が根強く残り、それが軍国主義台頭を許し、アジアの隣国を征服し、太平洋戦争を起こし、惨めな敗戦に至った」と述べた。その上で、「菅直人首相が、『TPPは第3の開国』と言っている。第1の開国は安政の不平等条約、第2は敗戦。相手国を征服し、富を奪って、奴隷にするのが開国の精神」と述べ、TPPへの不信感をあらわにした。