【IWJブログ】補助弁護人の「正体」はヤメ検。 虚偽報告書に「不起訴不当」決議は妥当か 八木啓代氏インタビュー 2013.4.23

記事公開日:2013.4.25 テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(取材:原佑介 文責:岩上安身)

 陸山会事件において、田代政弘検事らが虚偽報告書を作成し、検察を強制起訴に誘導した問題について、19日、東京第一検察審査会は「不起訴不当」との議決を出した。これを受け、IWJは2013年4月23日(火)、「健全な法治国家のために声をあげる市民の会(以下、市民の会)」代表、八木啓代氏にインタビューを行った。インタビューでは、これまでの一連の経緯も振り返り、説明していただいた。

■ハイライト

虚偽操作報告書をめぐる告発の歴史

 陸山会事件をめぐって、田代政弘検事が石川知裕氏の取り調べを行い、作成された「田代報告書」。この報告書の中身が、実際の取り調べと明らかに異なっているということを、2011年12月15日、陸山会事件の公判において田代検事本人が認め、「記憶の混同」だと釈明した。

 報告書の内容が虚偽であると公になったにも関わらず、検察は、何も動きを見せなかった。このため、市民の会は、田代氏を「虚偽有印公文書作成および行使」、「偽証」で、田代氏の上司らを「偽計業務妨害」、「犯人隠避」で、刑事告発を行った。

 その後、小沢一郎氏に下された陸山会事件の一審無罪判決の場において、大善文男裁判長は、検察に対し、次のような厳しい意見を述べた。

 「任意性に疑いのある方法で取り調べて供述調書を作成し、その取り調べ状況について事実に反する捜査報告書を作成した上で、これらを検察審査会に送付するなどということは、あってはならないことである」。

 「本件の捜査において特捜部で事件の見立てを立て、取り調べ担当検察官は、その見立てに沿う供述を獲得することに力を注いでいた状況をうかがうことができ、このような捜査状況がその背景になっているとも考えられるところである」。

 「事実に反する内容の捜査報告書が作成された理由経緯等の詳細や原因究明等については、検察庁等において、十分調査等の上で対応がなされることが相当であるというべきである」。

 小沢氏に「無罪」を言い渡した判決は、検察の強引な捜査のあり方に対する厳しい批判が込められた判決だったといえる。

 この判決の直後、市民の会あてに、ロシア語で書かれた謎のメールが届いた。そのメールには、本来入手不可能であるはずの「田代報告書」や「石川氏取り調べの反訳書」などが添付されていた。八木氏はこのデータを、ネット上において公開した。

 (虚偽報告書石川氏反訳書: )

 流出した虚偽報告書は、当時の法務大臣であった小川敏夫議員の目にも止まったようだ。「ネットで確認すれば、誰しもが『記憶の混同ではない』と思うのでは」と判断した小川法相は、「指揮権の発動」を当時の野田総理に相談した。しかし、野田総理は了承せず、直後、小川法相は退任している。

 市民の会の刑事告発を受理した検察は内部の捜査を行ったが、2012年6月、検察は、田代検事を「不起訴」処分とした。陸山会事件に関して、あれほど偏った小沢バッシング報道を行なっていた新聞各紙ですらも、「身内に甘いすぎる処分だ」、「うそ記載 辞職で幕」、「ぬぐえぬ結論ありき」、「検事作名丸のみ」などと報じ、検察の自浄作用のなさをこぞって酷評した。

 さらに、読売新聞が、「陸山会事件の田代報告書は虚偽であることを、検察は約一年前に把握していた」と報道したことで、市民の会は、検事総長らを「犯人隠避」で刑事告発した。こちらの告発もその後、不起訴となっている。

 2012年8月末、一連の不起訴を受け、「検察の問題を検察自身で処分ができないのであれば、第三者に公正な審査を」と判断した市民の会は、検察審査会に審査申し立てを行った。

第三者・検察審査会の下した意外な判断

 しかし、申し立てから約8ヶ月後の2013年4月19日、東京第一検察審査会は、田代氏の虚偽有印公文書作成および行使、偽証に対し「不起訴不当」の議決を出した。同じく、虚偽公文書作成および行使で、検察審査会に審査された上司二名は、「証拠がなく、田代検事も関与を否定している」ことから、「不起訴相当」という議決が下されている。

 田代氏に対する議決書の内容は、かなり厳しいものだ。「公文書の内容に対する公共的信用を害している」、「田代報告書に虚偽記載があったと言わざるを得ない」、「2日前と3ヶ月前の取り調べの記憶を混同することは通常考え難い」。

 さらに、「取り調べ中に簡単なメモしか取らないということは、逆に自分の記憶に自信を持った検事のはず」、「陸山会事件の事の大きさに対し、慎重な姿勢がないことからも、何かの意図があってこのような報告書を作成したのでは」。まるで「起訴相当」が出たかのような指摘がずらりと並ぶ。

 にも関わらず、「起訴相当」ではなく、「不起訴不当」である。これが「起訴相当」であれば、もう一度「起訴相当議決」が出た瞬間、「強制起訴」となり、裁判が始まる。しかし、「不起訴不当」の場合、「もう一度検察で捜査せよ」となるだけで、再捜査の結果、検察が改めて「不起訴」と判断すれば、事件の捜査はそこで終了となる。似たような言葉ではあるが、「起訴相当」と「不起訴不当」では、持つ意味が全然違うのだ。

 検察審査会の議決に対し、八木氏は、「まさにトカゲの尻尾切り」と断じ、「一見、検察に厳しいようにみえて、あまい議決書だ」と批判。検察審査会で、「不起訴不当」が出たことで、虚偽報告書事件はまもなく終幕を迎える可能性が高い。

検審補助弁護人に疑惑「検察審査会は第三者ではなかった?」

 そんな中、八木氏は、「補助弁護人」にも問題があったことに気付いたという。補助弁護人とは、11人の一般人で構成される検察審査会の審査員に対し、「専門的な助言、事件の説明を行い、議決書作成の補助をする」弁護士を指す。今回は、澤新(さわ あらた)弁護士。議決書が発表されたあと、八木氏が澤新氏の経歴を調べたところ、驚くべき事実が明らかになった。

 澤氏は昭和42年から東京地検検事としてスタートし、51年法務省刑事局付検事、60年司法研修所教官、平成3年東京高検検事、7年、秋田地検検事正…などと続き、平成10年に退官。その後、弁護士登録をしている。中立でなければならない補助弁護人に、この長きにわたる検察キャリアは相応しいのだろうか。

 さらに、退官の理由に衝撃を受ける。

 澤新氏は、1995年、2億数千万円の申告漏れを税務署に指摘されたことに対し、「検事正」の名で抗議文を送った。脱税をうやむやにしようと目論んだ。このことは検察内部でも問題となり、法務省が、「圧力と受け取られかねない」としたことから、澤氏は、98年に戒告処分となっていたのだ。

 (参照:八木氏資料 1998年6月18日読売新聞)

 「普通の人であれば、これほどの金額の脱税をしようとすれば、修正報告に応じたとしても逮捕される可能性が高い」と八木氏はいう。さらに、「まず、元検事というだけでも第三者性に欠ける。それどころか、検察内部だから戒告処分で済み、退職金も出たという意味で、『検察に恩義のある、特殊な人』ということになる。そんな人物が検察全体の名誉に関わるこの事件で、なぜ補助弁護人になったのか」と疑問を呈した。

そして最後の捜査へ

 今後行われる検察の再捜査に、どこまで公正さを求められるかはわからない。しかし、八木氏は、「田代氏を起訴すればすべてが解決する問題ではない」とし、「彼一人でやったわけではない以上、一人だけ起訴となれば、本当のトカゲの尻尾切りで終わる可能性がある。起訴だけが目的ではなく、むしろ、検察のグレイ、ブラックな部分が明るみになったことは、一つの結果だ」と語る。八木氏ら市民の会は、今後、検察審査会に情報開示をするだけでなく、補助弁護人がどういう方法で選ばれたかの開示を求めていく予定だという。

 また、一応は不起訴不当となった以上、最高検がとりまとめた捜査報告書は、検審によって否定された格好である。八木氏は、「もし、再捜査後、再び田代氏を不起訴にするのであれば、今度はどういう理屈で田代被告を不起訴にするのか、注視しなければならない」と語った。

■関連DVD
「健全な法治国家のために声を上げる市民の会」代表・八木啓代氏出演。郷原信郎弁護士と、森ゆうこ参議院議員と共に、検察問題についてトークセッション。 → こちらから

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です