東京の多摩地域は地下水が豊富なことで知られている。水道水にはその地下水がふんだんに汲み上げられ、とても美味しいと評判だ。多摩地域の住民は、長年その恩恵に恵まれてきたが、今、それが仇となる事態に見舞われている――。
2022年12月3日(土)、国分寺市のひかり診療所で、「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」の呼びかけによる、住民のPFAS(有機フッ素化合物)血中濃度を調べる血液検査が行われた。
きっかけは、横田基地周辺の井戸水から、高濃度のPFASが検出されたことだ。市民有志は専門家を呼び、2016年頃から報じられている沖縄の基地周辺でのPFAS汚染状況などに関する勉強会を重ねてきた。そして、2022年8月に「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」が発足した。
会の中で、各地域の住民たちが、地域ごとの実行委員会を結成。沖縄の住民の血中PFAS汚染の調査分析を行っている京都大学の原田浩二准教授と、地域の診療所の協力を得て、汚染の実態を明らかにしようと自主的な検査に踏み切った。
国立市のクリニックでの実施を経て、今回は2回目。あと2回を予定しており、計4回実施する。
IWJ記者は、会の呼びかけに応じた周辺住民の採血検査の様子を取材した。
※PFAS(ピーファス):
PFAS(ピーファス)は、有機フッ素化合物とは難解性の化学物質の総称で4700種以上あるといわれている。
1940年代からだんだんに普及し、撥水・撥油性の食品包装材や、テフロン加工のフライパン、泡消火剤などに使われてきたが、近年になって毒性が強い有害物質であることがわかってきた。
欧州環境庁(EEA)の資料によると、PFASの人体への影響は、腎臓がん、前立腺がんなどのがんのリスク増加、肝疾患、甲状腺疾患、血中コレストロール値の上昇(心疾患の原因)、低出生体重、乳腺発達の遅れ、ワクチン反応の低下などが疑われている。
これらは、体内で分解されにくく、溜まりやすいという特性を持ち、英語で「Forever Chemicals(永久の化学物質)」と呼ばれている。その中で特に毒性が強いといわれているのがPFOS(ピーフォス)(正式名称はペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ピーフォア)(正式名称はペルフルオロオクタン酸)だ。
沖縄の基地周辺や東京・横田基地周辺の多摩地域で検出された物質は、PFOSだった。
ストックホルム条約で、2009年にPFOS、2019年にはPFOAの、製造と使用が原則禁止となった。
世界的に規制が進む中、日本は2020年に、ようやくこれらを要監視項目に指定した。暫定目標基準値は、諸外国の基準値などを参考に、PFOSとPFOAを合わせて、水道水1リットル当たり50ナノグラム以下としている。
参照:
※ストックホルム条約第9回締約国会議(COP9)が開催されました(経済産業省、2019年5月14日)
https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190514003/20190514003.html
※令和元年度第2回水質基準逐次改正検討会議事録(厚生労働省、2020年2月19日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000613322.pdf