5月24日、内閣官房参与の高橋洋一・嘉悦大教授が辞任した。高橋氏は5月9日、ツイッターに「日本(のコロナ感染)はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」とツイートして、批判を浴びた。
高橋氏の任命者である菅総理は「反省の弁を述べている」と擁護したが、高橋氏はさらに執拗にツイート。5月21日の「日本の緊急事態宣言といっても、欧米から見れば戒厳令でもなく『屁へみたいな』ものでないのかな」というツイートがダメ押しとなった。
高橋氏には窃盗犯罪の疑惑もある。「さざ波、笑笑」、「屁」といった品性が疑われるようなツイートを見れば、菅総理がなぜ高橋氏を内閣官房参与という地位に任命したのか理解に苦しむ。任命者である菅総理の責任は、当然、重大である。
内閣官房参与の高橋洋一・嘉悦大教授が辞任
首相官邸は5月24日、内閣総理大臣に助言を行う内閣官房参与の高橋洋一・嘉悦大教授が、辞任したことを発表した。
▲高橋氏が引用した「Our World in Data」というサイトから「Daily new confirmed COVID-19 cases per million people(100万人あたりのCOVID-19の新規確定症例数の推移)」というグラフ。すでに1日あたりの新規感染者数は英国よりも多い。(高橋洋一氏のツイート、2021年5月9日より)
高橋氏は5月9日、ツイッターに「Our World in Data」というサイトから「Daily new confirmed COVID-19 cases per million people(100万人あたりのCOVID-19の新規確定症例数の推移)」というグラフを引用して「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」とツイートして、批判を浴びた。
グラフはインド、フランス、カナダ、ドイツ、イタリア、米国、英国、日本の8カ国が選択され、他の7カ国と比べて日本の「推移の波」が小さいとして、意図的に日本の感染状況を矮小化させていることは明らかである。
高橋氏は5月11日に、同じグラフを引用して「世界の中で日本の状況を客観的に分析するのがモットーなので、それに支障が出るような価値観を含む用語は使わないようにします」とツイート。一見、批判に対して「反省」しているかのようにも読めるが、謝罪の言葉はなく、前出のツイートの撤回や削除もない。
任命者である菅総理は「反省の弁を述べている」と擁護するも、高橋氏に反省の色なし
▲5月12日の会見に臨む菅総理(首相官邸より)
菅総理は緊急事態宣言の延長と、愛知県、福岡県の追加を発表した5月12日の記者会見で、高橋氏のツイッターでの発言について質問され、「個人がツイッターでそうしたことに対しての反省の弁を述べているんじゃないでしょうか」「そこは、本人が謝っているというふうに思っています」とかばった。
- 緊急事態宣言の延長等についての会見(首相官邸、2021年5月12日)
▲2012年当時の高橋洋一氏(IWJ撮影)
ところが高橋氏は上述のように謝罪していないどころか、11日に自身のYouTubeチャンネルに「『波』発言で炎上。謝罪要求する一部のマスコミさんへ」と題した番組をアップし、「『マスゴミ』は(コメントを)切り取る。昨日今日、朝から取材させてくれっていう連絡ばかり。出るわけないじゃない」「カギカッコ付きで『さざ波』って言ったのは、多くの人が数字で言ってもわからないと思うから」などと開き直り、ツイッターでこのYouTube動画を紹介した。
こうした高橋氏の屁理屈まじりの抗弁にも、批判の盛り上がりがおさまらない。かばっていた菅総理の態度を変え始めたことを、たとえば、13日付け東京新聞は以下のように伝えた。(菅総理が高橋氏のツイートについて)「『非常に残念だ』と述べた。高橋氏から『申し訳ない』と連絡があったことも明らかにした。官邸で記者団から、高橋氏は謝罪していないと指摘されて答えた」と報じた。
高橋氏ダメ押しのツイート「屁みたいなもの」で辞職へ
▲5月21日の新規感染者数は5835人、死亡者は106人。「さざ波」でも「屁」でもない。(worldometerより)
さらに高橋氏は5月21日、ツイッターに「日本の緊急事態宣言といっても、欧米から見れば戒厳令でもなく『屁へみたいな』ものでないのかな」とツイートし、再び批判を浴びた。21日は沖縄県の緊急事態宣言への追加を発表した日である。
▲高橋氏が引用した「Our World in Data」の各国の行動制限を比較したグラフ(高橋洋一氏のツイート、2021年5月24日より)
高橋氏はこのツイートを削除し、24日のツイートで「不適切表現を次に改めます。各位にお詫びします。日本の緊急事態宣言といっても、欧米から見れば、戒厳令でもなく行動制限は弱い。下図参照」として「Our World in Data」の各国の行動制限を比較したグラフを引用している。
この文字通り「屁のような」ツイートが、結局、ダメ押しとなった。
24日付け毎日新聞は、菅総理が高橋氏の辞職について「自ら『辞職したい』ということだった。(ツイッターでの)不適切な発言を本人が取り消し、謝罪しており、『責任を感じる』ということだった」と明かしたと報じた。
▲加藤勝信官房長官(首相官邸より)
加藤勝信官房長官は、24日午後の会見で、共同通信のカサイ記者から「政府側から辞職をうながしたということではない、更迭ではないということか?」と質問され、「ご本人が発言を訂正、お詫びし、総理に対して迷惑をかけて申し訳ないと、内閣官房参与を辞任したいとの連絡があり、辞職された」と答えた。
共同通信はさらに「1回目の『さざ波』ツイートの時に政府がもっと強い対応取っておくべきではなかったか」と追及すると、加藤官房長官は「対外的な発信はあくまで個人の資格で行われているわけでありますから、基本的にその内容を含め、ご本人が責任をもって対応されるということは、繰り返し申し上げてきた」と、政府の責任を否定した。
続いて読売新聞のヤマサキ記者が「辞職の理由として、どういった説明をされているのか?」と質問すると、加藤官房長官は「『都合により』とされていると承知しています」と答えた。
次に朝日新聞キクチ記者が「総理や長官から、慰留されることはなかったのか? 仮に慰留されなかったとしたら、この辞任は当然だと受け止めているか?」と質問され、加藤官房長官は「私は直接(やりとりを)行っていないのでわかりませんが、総理は先ほど申し上げたやり取りの中で届出を受けた。もちろんその間、前回もやりとりがあったことなので、そういった経緯はあると思うが、具体的なやりとりは聞いていません」と答えた。
岩上安身のインタビューで高橋氏は自らの窃盗事件の犯行を否定せず―菅総理の任命責任は当然重大
▲2012年当時、岩上安身によるインタビューでの高橋洋一氏(IWJ)
岩上安身は、この高橋洋一氏に2012年1月18日にインタビューを行った。
※「財政再建には増税ではなく、天下り先などに貯まっている資産を吐き出すべき」~岩上安身によるインタビュー 第183回 ゲスト 高橋洋一氏 2012.1.18
高橋氏は元財務官僚で、小泉政権時代に竹中平蔵総務相の補佐官を務めた。
退官後、東洋大教授となり、財務省批判を展開していた高橋氏は、2009年3月24日に練馬区の「としまえん」内の温泉施設の脱衣所で、他人のロッカーから現金約5万円入りの財布や、数十万円相当の「ブルガリ」の高級腕時計を盗んだ疑いで、3月30日、警視庁に書類送検されている。
当時の新聞は、高橋氏の供述としてこう報じた。
「いい時計でどんな人が持っているのか興味があり盗んでしまった」
高橋氏はこの事件で東洋大学を懲戒解雇され、東京地検は起訴猶予処分という判断を下した。
上記のインタビューで、岩上安身はこの事件についても、高橋氏に質問している。
インタビューからこの質問と高橋氏の「よくわかんないんだ、正直言うと」などという回答部分を抜き出して記事にしているので、あわせて御覧ください。高橋氏は「記憶がない」などと言いつつも、自身の犯行を否定していない。貴重な当事者証言である。
※元財務省官僚の高橋洋一氏、窃盗事件・逮捕は財務省批判への権力による謀略か!? それとも…!? 2012年、岩上安身が高橋氏本人に直撃!! 謎に包まれた事件の真相をたぐり出す!! 2019.12.13
不起訴処分にはなったものの、時計を盗んだことを認めた人物を内閣の参与に取り立てたこと自体が大間違いだったと言うべきだ。菅総理は、自身の任命責任を明確にし、国民に説明すべきである。高橋洋一氏も、本来であれば、謝罪すべきは、菅総理ではなく、国民に対して行うべきであろう。
しかし、この人に何を言っても聞く耳を持たず、意味がないであろうから、多くの国民の皆さんも高橋氏の「言論活動」なるものには、責任の伴わない放言でしかないのだと了解して、今後は放言として、聞き流しておいたらよかろう。