トランプ米大統領は、パックスアメリカーナ(PA)からの撤退を公約とし、就任後もその公約を撤回することなく、国内でも、国外でも、外国の首脳に対してでも、PA撤退を訴える。トランプ大統領はその一方で、今でも世界最大最強の軍事力をより強化し、軍事費を投入すると断言し、「力による平和」を訴える。「アメリカの圧倒的な軍事的支配力のもとでの国際秩序・平和」というのが、PA体制の定義ではなかったのか? これまでと何がどう違うのか、と多くの人々が混乱し続けている。
結論からいえば、トランプ大統領は、米国の国益のために、米国の力を行使することはいとわない。物事は二国間関係で片づける(米国とサシで向かいあって交渉を有利に進められる目力あるリーダーなど、ほとんどいない)、他国同士のいさかいは、米国の国益にならない限り、アメリカは動かない。勝手にしろと突き放す。さもなくば応分の負担をしろ、同盟国に対しても当たりは格段に厳しくなった。
こうしたトランプ大統領の外交政策について、IWJ代表の岩上安身は、国際コンサルタントのトーマス・カトウ氏にインタビューをおこなった。インタビューの録画は準備が整い次第配信するので、ぜひご覧いただきたい。また、カトウ氏の著書『ドナルド・トランプ物語』(https://amzn.to/2nvZ4pk)も、ぜひご一読いただきたい。
しかし、トランプ大統領もアメリカも、同盟国を主権独立国家だ、と言うものの、実際の米国の行動は、他国(敵対国だけでなく、同盟国も友好国も含む)の主権の侵害に対してはなはだしく無神経である。よその家の会話を盗聴する者がいたら、明白に人権侵害であろう。しかし、米国は平然と、世界各国で盗聴やメールののぞき見を続けている。言っていることが矛盾している。
他方で、2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件(9.11)以降、アメリカ国家安全保障局(以下、NSA)は一大方針転換を行い、「Collect it all(すべて収集する)」という言葉に象徴される新しい情報戦略を展開している。
アメリカによる、この全世界的な盗聴・監視システムを2013年に暴露したのが、NSAやアメリカ中央情報局(以下、CIA)の局員として情報収集活動にあたっていた、エドワード・スノーデン氏である。
元朝日新聞記者で、カナダ在住のジャーナリストの小笠原みどり氏は、2016年に日本人として初めてスノーデン氏の単独ビデオインタビューに成功。アメリカの大規模な情報収集システムの実態、それに取り込まれながらも危機感のない日本社会に警鐘を鳴らしている。
2018年7月28日、神戸市中央区の兵庫県私学会館で、第45回メディアを考えるつどい「スノーデンの告発 監視社会とネット・日本の諜報―世界をCollect it all(すべて収集する)―」と題した小笠原みどり氏の講演会が開かれた。
▲小笠原みどり氏(2018年7月28日、神戸市中央区で、IWJ撮影)
IWJにもしばしばご登場いただいた小笠原みどり氏は、アメリカの諜報機関による、度を過ぎた盗聴・諜報行為に、注意喚起を続けている。NSAの新戦略「Collect it all」を無謀だと批判し、「CIAもNSAも、これまで監視対象は『怪しい人間』だけだった。しかし、新方針では容疑が存在しなくても『すべての地球上の人間』のコミュニケーションを収集することになった」と語る。
監視の目的はテロ防止だったが、「結局、商業利用、外交・経済のスパイ活動、他人の私生活ののぞき見に使われている。特に刺激が強い性的スキャンダルは、権力側に不都合な問題から関心をそらすために活用される」と話す。
スノーデン氏が公開したファイルによって、NSAはインターネット監視システム『XKeyscore』(エックスキースコア)を日本の防衛省に提供していることがわかっている。日本もアメリカと同じ仕組みを持っていることから、日本国民のコミュニケーションは、すべて政府によって見られている可能性がある。
小笠原氏は、日本で急ピッチで監視法制が作られたことに懸念を表明し、真実が歪められていると警告する。
「2013年に特定秘密保護法が強行採決され、2016年には盗聴法の大幅拡大。昨年は共謀罪。憲法に照らせれば、大量監視は違法であるにもかかわらず、個別の法律で憲法を壊していく。この結果、不都合な真実が消去され、社会問題が見えにくくなっている」と指摘した。
また、IWJ代表の岩上安身は2014年、自らドイツへおもむきF・ウィリアム・イングドール氏にインタビューをおこなった。『ペンタゴン 戦慄の完全支配 核兵器と謀略的民主化で実現する新世界秩序』(為清勝彦訳、徳間書店)(https://amzn.to/2B2STme)の著者であるイングドール氏は、2013年11月末に表面化した「ウクライナ危機」の背景にアメリカによるユーラシア分断のもくろみがあると喝破している。インタビューの詳細は、ぜひ、以下のURLよりご覧いただきたい。
- 講演 小笠原みどり氏(ジャーナリスト、カナダ・クイーンズ大学、元朝日新聞記者)
- タイトル 第45回メディアを考えるつどい(2018)「小笠原みどり氏講演会 スノーデンの告発 監視社会とネット・日本の諜報 ―世界をCollect it all(全て収集する)―」
- 日時 2018年7月28日(土)13:30〜
- 場所 兵庫県私学会館(神戸市中央区)
- 主催 NHK問題を考える会(兵庫)
地球上の人間のコミュニケーションすべてを収集!? 誰もがNSAの新情報戦略「Collect it all」の監視対象に!
「これまで建前上は、CIAもNSAも『怪しい人間』に対して監視を行い、それ以外の理由のない人たちは監視しなかった。新方針では、容疑がまったく存在しなくても、『すべての地球上の人間』のコミュニケーションを収集する、という無謀なものになった」と小笠原氏は解説を始めた。
世界の情報の大半はアメリカ合衆国を通っていく。そこで、世界中の情報を集めるために、通信用海底ケーブルが上陸するアメリカの陸揚げ局を通る情報を、NSAが自分のサーバーに送る仕組みを作り上げたという。
さらに、インターネット会社から利用者の通信データを提供させている。NSAが、google、Apple、Facebook、Microsoft、Yahooなど大手9社のサーバーに直接アクセスして顧客情報を取得する。スノーデン氏の告発内容で、最初に衝撃を持って受け止められたのは、このインターネットを利用した情報収集だった。
▲エドワード・スノーデン氏(Wikipediaより)
これ以外に、もっと悪意のある情報収集の仕方として、個人の所有するパソコンをウイルスに感染させて、パソコンの内容をすべて読み取る方法もあるという。一度感染すると、そこから先はNSAの言葉で言う「own(所有)」される状態になり、パソコンの持ち主が何をしているか、リアルタイムで全部監視される。
小笠原氏がスノーデン氏にインタビューした際に、「日本のデータも、同様に集められているのか」と率直に尋ねると、彼は「もちろん。なぜなら、それが『Collect it all』だから」と答えたという。
「関係ないと思える人たちや国の情報もすべて収集する。誰ひとり例外なく傍受される。それが無差別監視だ」
「監視」はテロ防止ではなく、商業利用、外交・経済スパイ活動、他人の私生活の覗き見に使われる!
小笠原氏は、監視の目的はテロ防止だったが、それは機能していないと語る。
「『Collect it all』という方針を立てても、テロリストは誰かわからない。すべての人間を監視することにして、特別な権限で世界的なシステムを発達させた。そうなって、今は9.11の時代より平和かといったら、そんなことはない。痛ましい残酷な事件は、アメリカだけではなくヨーロッパでも起きている。
テロ事件が起きるたびに、フランスでも、アメリカでも、イギリスでも、イタリアでも、監視を合法化する法律が通る。にもかかわらず、事件は防げない。スノーデン氏も話していたが、NSAに何万人の職員がいても、地球上すべてのコミュニケーション分析することは不可能だからだ。大量の情報の中に、本当に必要な情報が埋もれてしまっている」
結果的に、新しい監視システムはテロ対策には役立たず、商業利用と、NSAにとっての外交・経済面でのスパイ活動、そして他人の私生活の覗き見に使われているのだという。
日本でも、文部科学省の前事務次官の前川喜平氏が、加計学園の獣医学部新設問題で「総理のご意向」と記載された文書の存在を認める会見の直前に、読売新聞が前川氏の「出会い系バー通い」を報じたことがある。(*)
*前川氏が買春を目的に来店していた印象を与える記事であったが、前川氏自身が「店に行ったのは女性の貧困実態を知るための実地調査で(教育行政における)課題が見出せた」と説明し、スキャンダル報道は失速した。これは、前川氏の会見を察知した官邸が、読売新聞に情報を流して人格攻撃をさせたのではないかと見られている。
▲前川喜平氏(2017年12月5日、IWJ撮影)
あらかじめ私的な情報を集めておいて、権力に不都合な発言をした場合には、その人間の社会的信用を落とすために真実を歪めて使う。小笠原氏は、「特に性的スキャンダルは刺激が強いので、権力の問題から関心をそらすために活用されている」と指摘した。
監視網による情報操作と世論誘導が静かに進行。だからこそ、内部告発が重要になる
NSAは、ジャーナリストや市民団体の活動を妨害することもあるという。
「スノーデン氏の告発を最初に報道したグレン・グリーンウォルド氏とローラ・ポイトラス氏は、アメリカでは継続的な嫌がらせを受けている。彼らが次に何を報道しようとしているのかを、アメリカ政府は先に見つけて握りつぶす。こういうことに収集したデータを使っている」
平和運動、人権擁護団体、市民活動の弾圧にも情報が使われる。メンバー同士の対立を深めるために、本人が知られたくない情報をネット上で暴露するのだ。
「権力は、小さい存在ほど叩きたい。相手が強くなると叩き潰すのが大変になるから。安倍政権やトランプ政権だけでなく、NSAもこの仕事に励んでいる。『Collect it all』は実際に行われているのだ」と小笠原氏は訴えた。
監視網が実際に何を引き起こしているのか。それは情報操作と世論誘導だ。
「今の電子的な世界ではニュースを簡単に書き換えられる。事実を書き換えることで、真実を権力に都合良く変えていく。だから、日本でも市民活動が下火になって、NHKや沖縄の米軍基地問題、原発を批判する人がいなくなれば、『すべて丸く収まっている』ということにできる。
東日本大震災で原発が爆発したにもかかわらず、今の日本の雰囲気は、また同じことが起きるのでは、という危機感がない。いろいろな要因があるが、そういうことが情報操作によってできる。盗聴や盗撮という行為は気づきにくいため、シャットアウトが難しい。だからこそ、内部からの告発が重要になる。こういう事を、スノーデン氏は自分の命をかけて伝えてくれた」
インターネット監視システム『XKeyscore』は日本にも導入済み!? 押し黙る防衛省、追及しないメディア!「嘘が激しいのが安倍政権」「NHKは本当に大事なことは報じていない」
小笠原氏は、「私が最初にスノーデン氏にインタビューして、すぐにサンデー毎日に記事を書いたのが2016年。その約1年後の2017年、NHKのクローズアップ現代+が『アメリカに監視される日本 ~スノーデン「未公開ファイル」の衝撃』という番組を作り、少しまともなことを報道した」と振り返る。
それは、NSAがインターネットの大量監視システム『XKeyscore』(エックスキースコア)を防衛省に提供しており、日本もアメリカと同じ仕組みを持っていることから、市民のコミュニケーションはすべて見えてしまうという衝撃的な内容だった。
巨大な監視網による情報操作と世論誘導で不都合な真実は消去! 「内部告発の重要性をスノーデンが教えてくれた」 ジャーナリスト・小笠原みどり氏講演会 https://iwj.co.jp/wj/open/archives/428526 … @iwakamiyasumi
まるでSFのような管理社会はすでに始まっていた。これを防ぐには相手の手法を知ること。聞きごたえ十分。
https://twitter.com/55kurosuke/status/1028761772004503553