政府が今国会の最重要法案のひとつと位置づけている「働き方改革関連法案」で、「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」「同一賃金同一労働の導入」「時間外労働の罰則付きの上限規制」と並ぶ4本柱だった「裁量労働制の対象拡大」は、調査結果に「異常値」が多数含まれていたことと、不適切な「比較データ」が使用されたことが明らかとなり、2018年3月1日、法案から全面削除された。
法政大学キャリアデザイン学部の上西充子教授は、メディアや集会、シンポジウム、野党合同ヒアリングなど様々な場で、「働き方改革関連法案」を批判的に論じ、特に「裁量労働制の対象拡大」の「比較データ」問題ではいち早く問題点を指摘・追及。法案から削除させた「最大の功労者」(日本労働弁護団・嶋崎量弁護士)と称揚されている。
▲上西充子・法政大学キャリアデザイン学部教授
IWJでも、裁量労働制を違法適用し、東京労働局から指導を受けていた野村不動産で、50代の男性社員が過労自殺し、労災認定されていたことが報じられた3月5日直後の3月7日、岩上安身が上西充子教授にインタビューしている。
上西教授は2018年5月4日から「Yahoo!ニュース 個人」で、全7回の予定で裁量労働制の捏造された「比較データ」の隠蔽プロセスについて、徹底検証している。
これに対し、2015年3月26日、不適切な「比較データ」が民主党の厚労部会に提出された際の厚労政務官であり、現在は自民党の厚労部会長である橋本岳衆院議員が2018年5月7日、自身のフェイスブックに上西教授に対する恫喝ともとれる投稿をした。
「働き方改革関連法案」成立を主導する立場にある与党議員が、法案に批判的な市井の一研究者にこうした圧力をかけることは、嶋崎弁護士によれば、日本国憲法で保障された学問の自由(第23条)や表現の自由(第21条)に「違反する」という。
- 会見者 上西充子氏(法政大学教授)/嶋崎量氏(日本労働弁護団前事務局長)/中村優介氏(日本労働弁護団事務局次長)/竹村和也氏(日本労働弁護団事務局次長)
- タイトル 裁量労働制「比較データ問題」の検証記事についての橋本岳議員の見解に関する記者会見
- 日時 2018年5月11日(金)14:00〜
- 場所 厚生労働省記者クラブ(東京都千代田区)
上西教授の裁量労働制に関する緻密な連載記事に、法案を推進する立場の政治家が不当な圧力!
法政大学キャリアデザイン学部の上西充子教授は2018年5月11日午後2時から厚生労働省記者クラブで、上西教授と日本労働弁護団有志との共催による、「働き方改革関連法案」を推進する自民党厚労部会長・橋本岳衆院議員の「恫喝」問題について、緊急記者会見に臨んだ。
同席したのは、日本労働弁護団の前事務局長・嶋崎量(ちから)弁護士、いずれも事務局次長の中村優介弁護士、竹村和也弁護士。無用なトラブルを避けるため、事前告知なしという異例の会見だった。
- 上西充子先生の記者会見配布予定資料(Twitter、2018年5月11日)
▲2018年5月11日の緊急記者会見。写真奥から中村優介弁護士、上西教授、嶋崎量弁護士、竹村和也弁護士
上西教授は「Yahoo!ニュース 個人」の連載「裁量労働制のねつ造された比較データ、バレないための隠蔽プロセスを検証」の第1回でこう書いている。
「本稿では改めて、5回(現在は7回の予定)の連載で、裁量労働制の比較データ問題を取り上げたい。なぜなら、比較データの『ねつ造』問題は、答弁の撤回や法案からの裁量労働制の拡大の削除でなんとなく収束したような体裁が取られているが、実のところは何も究明されておらず、誰も責任を取っていないからだ」
上西教授の連載が第4回を迎えた5月7日になって、橋本議員が自身のフェイスブックに連載記事に対する嘲笑と皮肉めいた評価が入り混じった投稿をした。
「その上、いきなり国会で答弁せず、野党に示した理由は『認識の刷り込み』を狙ったのだなどという説明は、後付けで噴飯ものもいいところの理屈です」(現在は修正)。「上西教授の、今回の裁量労働制関係データ問題を巡る一連の検証には、心から敬意を表します」
これに対し、上西教授は「本当に、心から敬意を表します、というのなら、『噴飯物』という言い方はしないですよね」と自身のツイッターで反論。橋本議員は「深く反省」し、フェイスブックの記述を修正し、上西教授ではなく「ご覧になった皆様」に謝罪した。
橋本議員が「引用」という条件を削除しようとしないのは、安倍総理の答弁を意識している!?
しかし、橋本議員が自身のフェイスブックで一貫して修正に応じていない箇所がある。それが以下の部分だ。
「このシリーズ(上西教授の連載記事)は未完ですから、ここまで『意図した捏造』と指摘するからには、『捏造を指示した連絡』などがそのうちきっと証拠として示されるものと期待しています。これがあれば、決定的になりますから」
上西教授は連載記事で「捏造」の検証をおこなうことは繰り返し主張しているが、「誰かから指示があった」などという指摘はしていない。
そもそも厚労省内部に通じていない上西教授が、「指示した」証拠など示せるわけもない。上西教授がおこなっていることは各種資料や国会答弁などにもとづき、厚労省が「比較データ」に「意図的改変はない」としていることに対して、反証を上げていくことだ。
この「捏造の指示」という部分は、橋本議員が勝手にでっち上げたものであることを、上西教授は記者会見で何度も強調していた。
上西教授が再度ツイッターで抗議すると、橋本議員は「上西教授の文章からの引用では」なく、「私が上西教授の文章を読んで認識していたことを記した」との記述を5月10日付で加筆したが、あくまで捏造の論拠となる「指示」という条件を排除していない。
これでは、上西教授は「指示」の証拠を示さなければ「捏造」とは言えないという批判を受ける可能性が出てくる。それにしても、なぜ橋本議員はこれほどまでに「指示」にこだわるのだろうか。
上西教授は「指示」という条件は、安倍晋三総理がある答弁で付け加えた条件と同じだと指摘する。