やっと、というべきか――。今、築地市場の豊洲移転問題がにわかに注目を集めつつある。
2016年11月7日に期限の迫る築地市場の移転問題。8月12日、定例会見に臨んだ小池百合子東京都知事は、記者陣から築地市場に関する”質問攻め”に遭うことになった。
築地市場の移転をめぐっては、土壌や海水、さらには大気中の汚染や、豊洲新市場の建物の設計問題が明らかになっており、多く市場関係者らが反対を訴え続けている。
こうした背景をうけて、都知事選まっただ中の7月22日、築地市場の場外市場を視察に訪れた小池・当時候補は、築地市場の移転について「いったん立ち止まる」と発言した。
ところが、8月5日、最初の定例会見に臨んだ小池知事は、築地市場の移転延期の可能性について問われた際、「この問題はとにかく11月7日のオープニングに合わせて、引っ越しもすべて決まっている。すでにオンゴーイング(計画進行中)の話」と、むしろ移転決行に前のめりとも取れるような発言をした。
結局、「いったん立ち止まる」というのは、選挙中の”キャンペーン”に過ぎなかったのか――?
今のところ、「延期する」とも「しない」とも明言しない小池知事に対し、築地市場関係者らも、都民も、疑心半分、期待半分で注目を寄せる。
12日の定例会見の後、小池知事は築地市場の関係者らと「意見交換会」を行なった。招かれたのは、移転反対派の水産仲卸業者・関戸富夫氏、三浦進氏、鈴木章夫氏ら3名と、移転推進派の築地市場協会・伊藤裕康会長、伊藤淳一副会長ら9名であった。
関戸氏は、知事選のただ中で小池候補(当時)が築地の場外市場を視察に訪れた際、小池氏に要望書を手渡した人物であり、その姿は大きく報じられた。小池氏としっかりと握手する姿が印象的であった。
「知事が関係者らに直接ヒアリングをするのは初めてです」と、小池知事は移転問題に対する積極姿勢をアピールするが、ヒアリングは声掛けの過程から意見交換の内容に至るまで、密室の「ブラックボックス」で行われた。小池知事は「都政の見える化」を掲げているが、言葉と実際の行動には開きがある。
定例会見に先立つ8月10日、移転に反対を訴え続けてきた『築地市場有志の会』『守ろう築地市場パレード実行委員会』の2グループが、知事に宛てて要請書を渡しに都庁を訪れた。知事への手渡しは叶わなかったものの、都庁の担当者に「必ず知事に渡して欲しい」と預けた。
知事が本気で築地市場の移転問題に向き合うつもりなら、こうしたグループからもヒアリングを行うのが、自然である。
12日の記者会見で小池知事が遭遇した”質問攻め”は、知事の「本気度」を図るようなものばかりだった。
- タイトル 小池百合子 東京都知事 定例記者会見
- 日時 2016年8月12日(金)14:00~
- 場所 東京都庁(東京都新宿区)
「知事が直接、関係者からヒアリングを行うのは初めてのことであります」――積極姿勢をアピールする小池知事、しかし実態は「ブラックボックス」!?
小池百合子都知事(以下、小池知事と略す)「この会見終了後でありますが、直ちに築地市場の豊洲移転に関します当事者のみなさま方から、ヒアリングを行わせていただきたいと思います。
関係者の合意形成にご苦労された方々もおられますし、私が先の都知事選のさなかに、築地市場を訪れました際に、数々の要望書、具体的な要望もいただきました。そういった方々からご意見をうかがうことといたしております。
ちなみに、知事が直接この問題で築地の関係者・豊洲移転に関わる方々からヒアリングを行うのは、初めてのことであります。しっかりと率直なご意見をうかがわせていただくということになりますが、是非、みなさま方にもですね、冒頭の頭どりの取材ということで、今日はご理解をいただき、それで、できるだけみなさま方から、関係者の方々からできるだけ本音の話を、私もじっくりうかがわせていただこうと考えておりますので、ご協力の程、何卒お願いを申し上げます。
なお、築地と豊洲に関しましてはですね、リオの出発前、慌ただしいんですけど、現地視察、休場の日ではあるんですけれども、実際にどのような立て付けになっているのかも含めて、私見てまいりたいと考えております(※)」
移転反対派グループからの切実な訴えの要請書について問われ「…ご報告は受けました」
幹事社・朝日新聞「各社質問をお願いします」
小池知事「はい、レディーファースト」
IWJ・城石エマ「2日ほど前、8月10日にこちら都庁において、『築地市場有志の会』、『守ろう築地市場パレード実行委員会』という2つの市民グループが、政策企画局総務部の知事秘書担当課長・大野(貴史)さんに要請書を渡しました。そちらはお受け取りになりましたでしょうか?」
小池知事「はい、受け取りました…というか、後でご報告を受けました」
IWJ・城石「まだものはご覧になっていないということでしょうか?」
小池知事「まだ…。報告を受けました」
IWJ・城石「本日のヒアリングにはこの2つのグループの方々にも声掛けはされたのでしょうか?」
小池知事「あの…私が築地に参りました際に、既に以前から受け取っています要望書、この発出先からのヒアリングをさせていただくということで、今回のヒアリングには入っておりません」
IWJ・城石「『築地市場有志の会』、『守ろう築地市場パレード実行委員会』が手渡した要請書の中には、大気中のベンゼン汚染のことが書かれています。それについて追加の調査をされる予定はございますか?」
小池知事「それも今日のヒアリングを受けてですね、どのような方法にするか総合的に判断してまいりたいと思います」
驚くべきことである。「ご報告を受けました」とはいうものの、知事は要請書を自分自身では読んではいない。その要請書には、全ての事業者らへの聞き取り調査や、移転に関するオープンな説明会を求める切実な声が書かれていた。
また、質問でも触れたが、豊洲の新市場予定地は、元東京ガスの工場跡地であり、様々な化学物質に汚染されていることが明らかになっている。大気中のベンゼンとは、土中の汚染物質が気体として立ちのぼっている可能性を示す。
※要請書の全文はこちらに掲載しております。
「一日も早く築地市場移転日程の延期を決断してほしい」~小池知事に要請書を渡しに来た市場関係者らを都庁職員が廊下で制止! 2016.8.10
「日にちが迫っている――総合的に判断させていただきたいと思っております」不透明な小池知事の態度
フリー・ナガオ記者「関連して、築地の豊洲移転の問題です。小池知事の基本的なご認識を確認させていただきたいのですが、11月7日、豊洲新市場の開場日が迫っておりますけれども、延期するかどうかの判断の基準なんですが、時期が迫っているからとか、お金を使ってしまったとか、いろんな基準があるかと思うんですが、やはり一番大切なのは食の安全と、市場で働く方々の安全かということでいいでしょうか?
それと、もしそうであるとするならば、室内でベンゼンが検出されたことに関して、警鐘を鳴らして厳しくこの問題を見ている『日本環境学会』の専門家の方のお話をお聴きするおつもりはないか、ということをうかがいたいと思います」
小池知事「これからまさしくヒアリングを行うわけでございます。そして、また都政改革本部の顧問に小島敏郎・青山学院教授が就任予定ですが(※)、あの方も幅広く意見を聴取していただいておりますので、もう総合的な判断をさせていただこうと、このように考えております」
※記者会見の冒頭、小池知事を本部長とする「都政改革本部」の顧問が発表された。就任予定とされたのは、上山信一・慶応義塾大学総合政策学部教授、加毛修弁護士、小島敏郎・青山学院大学国際政治経済学部教授、坂根義範弁護士、須田徹・公認会計士である。
フリー・ナガオ記者「根本的な基準は食の安全、人の安全でよろしいですか?」
小池知事「都民のみなさま方がやはり安心して新しい市場からの、そこからディストリビュートされる(供給される)『食』、これをですね、安心して召し上がっていただくため、このところを判断基準とさせていただきたい。それと同時にですね、そこで実際に働かれる方々の環境がどうなのか、まさしく総合的に判断させていただきたいと考えております」
フリー・ナガオ記者「『環境学会』から話を聞くというお気持ちはないですか?」
小池知事「それも総合的に判断させていただきます。関係者と言えば本当に幅広くなりますけれども、まずは、市場に直接関係する方々、二者からヒアリングをします(※)。これからも都庁としては、みなさまから幅広くヒアリングをさせていただいている結果として、今の作業等々があるわけでございますので、果てしなくヒアリングを果たしたいところではございますが、一方で日にちが迫っているという具体的なこともございます。よって総合的に判断させていただきたいと思っております」
※この日、定例会見後に小池知事がヒアリングを行なったのは、都知事選の際に要望書を手渡した、移転に反対する関戸富夫氏ら3人の仲卸業者と、築地市場協会会長ら、移転に賛成する9人の業界代表者らであった。
もうこういう流れなのだから仕方がない、は理由にならないと思っています」移転延期の可能性もある?
日本経済新聞(以下、日経)「築地に関してですが、先ほど小池知事、日にちが迫っているとおっしゃっていましたが、農水省への開設申請、路線バスの開通もありますので、国交省への申請も…」
小池知事「築地ですね?」
日経「ええ。8月の下旬ですとか、9月の上旬には少なくとも、何らかの判断を下すということになるかと思うんですが、この判断のタイムリミットはどのようにお考えですか?」