このまま「幕引き」は許されない。安倍政権を揺るがしている「政治とカネ」の問題で、突然大臣の職を辞した西川公也前農水相。一足先にフェードアウトした格好だが、その法的責任も、国民への説明責任もまったく果たしていない。
自身の政党支部が、砂糖の業界団体「精糖工業会」の関連企業から100万円の献金を受けていた問題が発覚した西川氏は、2015年2月17日、「いささかも疑問を持たれないよう、今朝一番で返金した」と述べた。23日には、野党の追及に対し「誠心誠意説明しながら日本の農林水産業の発展のために尽力していきたい」などと居直ったが、一転、同日夜に辞意を表明。「いくら説明しても、分からない人は分からない」などと捨て台詞を吐いて、大臣を辞任した。国民に説明できるけど辞める、という意味不明の論理である。
西川公也氏(2014年9月3日の大臣就任会見で)
しかし、そもそも説明はまったく足りていない。
IWJは、この問題で厳しい批判を展開している渡辺輝人弁護士に話を聞いた。
(後編に続く)
「自分たちがこの迂回献金が脱法行為と分かってやっていたのは間違いない」IWJの取材に渡辺弁護士が鋭く指摘
渡辺弁護士は、この問題について自身のブログ記事で、大きく2つの問題があると指摘している。
- 西川農相の辞任で幕引きはできない(渡辺輝人 2015/2/23)
一つは政治資金規正法上の問題だ。政治資金規正法は国から補助金を受ける会社に対し、交付決定通知から一年間、政党などへの寄付を禁じている。西川氏が代表を務める「自民党栃木県第2選挙区支部」は2013年7月17日、精糖工業会が運営するビル管理会社「精糖工業会館」から100万円の寄付を受けたのだが、この精糖工業会は、2013年3月に農水相から13億円の補助金が交付されることが決定していた。
西川氏は17日、「工業会と会館は別法人。(会館への)補助金交付はなく、違法性はないと判断した」と述べた。補助金を受けた企業と、自身に寄付した企業は別物だから問題ない、という主張である。
しかし、工業会館の社長は工業会の会長が兼ね、事務所も同じビル内にある。17日付の毎日新聞の記事は、「民間信用調査会社の報告書には『工業会は任意団体で不動産の所有と営業活動に商法上制約があることから会館が便宜上設立された』と記されている」と報じている。あくまで便宜上、別会社として設立されたものであり、実態は同じであるということだ。
- ことば:精糖工業会と精糖工業会館(毎日新聞 2015/2/17より。現在、ウエッブサイトは閉鎖)
渡辺弁護士はこの点をふまえ、「つまり、政治資金規正法上、政治献金をしてはならない団体が、実態の乏しい傘下の企業を迂回して、政治献金をした疑いがある」と記事で指摘している。
さらに、「国から補助金を受けた団体が政治献金をしてはならない理由は自明ですよね。それは(特に与党であれば)政治家が税金を自分に還流させているに等しいからです」と批判を展開している。
IWJの取材に応じた渡辺弁護士は、「毎日新聞の記事にある、『民間信用調査会社の報告書』というのは、基本的には(企業の)中の人が言ったことが書かれている。工業会館が操り人形にすぎない、ほぼ一心同体だというのは、工業会館自身もそういう認識なのではないか。自分たちがこの迂回献金が脱法行為と分かってやっていたのは間違いない。脱法行為とは裁判所的には違法行為のことですから」と指摘した。
つまり、工業会館が、国から補助金を受けている工業会とほぼ同一ということを、当の工業会館と工業会側も認識しており、そのうえで、脱法行為と分かっていながら献金を行った疑いが強いということだ。「違法すれすれ」を狙った悪質な確信犯である。
倫理的にはもちろん、法的にみても、極めて真っ黒な可能性の高いこの問題。しかし、最終的には司法の判断に委ねられる。
本来は起訴すべき重大疑惑だが…