2014年4月13日、広島県福山市のまなびの館ローズコムにおいて、学習会「原発が無くても経済は大丈夫!」が行なわれた。関西学院大学の朴勝俊(パク・スンジュン)氏(環境経済学)が、経済学の観点から脱原発やエネルギー転換の道筋を解説した。
朴氏は「これまでかかった費用にこだわって、原発をやめられないという人たちは、経済をわかっていない。パチンコで負けているのに『つぎ込んだ金を取り返すまで、やめるわけにはいかない』と、さらにのめり込むようなもの。絶対やってはいけないことだ」と断じた。
さらに、世界的なエネルギー需要の増加に対応するためには、「発電所より節電所という、発想の転換が必要だ」と説き、これまで原発に依存してきた立地自治体が、安心して原発がやめられるような仕組みを作り、支えていくべきだと提案した。
- パフォーマンス 坂本晃一氏/主催あいさつ 奥野しのぶ氏(みどり福山 共同代表)
- 講演 朴勝俊(パク・スンジュン)氏(関西学院大学総合政策学部)
第1部「日本経済と原発・再エネ・節電所」/第2部「原発地元の未来の産業・経済をいっしょに考えよう」/質疑応答
- 日時 2014年4月13日(日)14:00~16:00
- 場所 まなびの館ローズコム(広島県福山市)
- 主催 みどり福山
- リンク 『チャンスとしての脱原発』(e-みらい構想)
経済とは「命と未来を守ること」
朴勝俊氏は「原発推進派にも、経済のイロハをわかっていない人が結構いる」と前置きし、「東京電力の元副社長、桝本晃章氏は『原子力は引き返すコストが非常に高い』、もんじゅの所長だった近藤悟氏は『1兆円も使ってきて、やめるわけにいかない』と語っている。経済をわかっていない典型的な人たちである。何をわかっていないかというと、埋没費用である。建設にこれまで使ってしまったお金は戻ってこない。これを『もったいない』と言って、もっと続けると無駄が増える。絶対にやってはいけないことである」と述べた。
「原発推進は、社会的な費用も度外視されている」という朴氏は、「電力会社は、原発を運転すると安い燃料費でたくさん電気ができるので便益がある。しかし、事故が起きた場合の損害は、今の東京電力のように、国民全体が尻を拭うことになる。経済というのは、経営上の損得勘定ではない。社会全体にツケを回すことは、経済的なものではない」と断じた。
その上で、「原発事故のリスク、私たちの子孫に放射性廃棄物の危険を残す、こういったことを度外視して再稼働する勢力は、『日本不経済団体連合会』であり、主体となる役所は『不経済産業省』である。私たちは、この『不経済界』から経済を取り戻さないといけない」との考えを示した。
発電所より「節電所」
エネルギー需要への対応について、朴氏は「OECD(経済協力開発機構)の世界的な予測では、今後、発展途上国がエネルギーを必要とすることから、世界全体のエネルギー消費は増える。どんどん増えるエネルギー需要を、再生可能エネルギーで賄うにも自ずと限界がある。したがって、発想の転換が必要。それは『節電所』である。節電には、発電と同じ価値がある」と述べ、節電が鍵を握るとの見解を示した。
「小さいレベルでは、200ワットの冷蔵庫を使ってきた家庭が、買い換えの時に、同じ性能で100ワットで済むものを買うことである。そうすれば、この家庭は100ワットの節電所を建設したことになる。全体を1度に変えなくても、部分的に少しずつ変えていける。何千万世帯が束になれば、100万キロワットの節電所になる」。
「発電所だと長い建設期間はかかるし、建設費、燃料費もかかる。環境破壊にもつながるし、原発の場合は事故の危険性もある。それに対して、節電所はすぐにできて、燃料費は不要、環境破壊もない。なんだ、省エネか、と侮ってはいけない。エネルギー消費には無駄があるし、途上国でのエネルギー消費は増えてくる。これを、先進国で使っている最新技術を使えば減らせるのだ。省エネは、非常に大きな意味を持っている」。
このように説明した朴氏は、具体的な取り組みの例として、米サクラメント市電力公社の需要管理プログラムや、電力消費量の大きい企業向けの節電サービスなどを紹介。「節電所で利益を上げることができる」と力説した。
原発の地元を支える仕組みを
朴氏は、原発立地自治体の財政に関して、次のように説明した。「比較的新しい原発を持っている自治体は、固定資産税収入が大きいため、原発がなくなると困ってしまう。しかし、財政的に恵まれた自治体が、恵まれない自治体を支える財政調整の仕組みとして、地方交付税交付金がある。原発がなくなって固定資産税が入らなくなれば、その自治体には、地方交付税交付金が増える」。
「だが、電源三法交付金は、原発がなくなったからといって、他の交付金で埋めてもらえない。むしろ、原発の運転期間を延長したり、プルサーマルをやると割増金が出るなど、『危ない橋を渡らせる交付金』だ。本来は、原発が止まったら交付金が出る仕組みにしないと、地元は再稼働を求めてしまう」。
朴氏は、「しかし、原発が止まっても出る交付金の前例がある。福島第一原発である。事故で原発は止まったが、交付金がないと困るということで、規則を変えて出したのだ。しかも、特別な追加財源がいるかといえば、必要ない。電気代には電源開発促進税が含まれていて、毎年安定的に3500億円ほどの収入がある。もんじゅなどの原発研究に使うのをやめて、これを原発から撤退するための交付金にすればいい。核燃料税も、原発が止まっても税収が得られる方式に変わってきている。他にも、使用済み核燃料に課税する地域も増えている。工夫していけば、財政はなんとかなる」と主張した。
原発をやめても安心できる「未来」を示そう
原発停止後の地域産業に関して、朴氏はドイツの取り組みを示した。「原発をやめても、ドイツ経済は大丈夫だが、地元は工夫が必要となった。産業を起こしていかなければいけない。そのひとつは、再生可能エネルギー産業。もうひとつは、送電設備を利用した天然ガス火力発電所の誘致。そして、原発の解体事業である」。
「ドイツのように、これらで雇用を生み出しながら、日本であれば、原発立地地域は自然豊かなところが多いので、1次産業を発展させる。あるいは、観光業をもっと発展させる。そうした可能性を追求していかなければならない。原発をやめるにしても、希望のある未来の設計図が必要なのだ」。
15分〜「発電所より節電所という、発想の転換が必要だ」