安倍総理は、1月9日から15日まで、コートジボワール、モザンビークとエチオピアのアフリカ3か国を外遊され、日本の財界人たちも同行しています。政府の発表によると、今回の訪問の目的は、資源エネルギーの確保とインフラ輸出を通してアフリカへの日本企業参入を促し、またスポーツで友好関係を強化することです。その他に、日本が国連安全保障理事会への復帰を目指す2015年の非常任理事国選挙へ向けた票固めを行うことや、地デジの普及も訪問の目的の一つとされています。
しかし、それ以外に2013年の師走に連日起きた出来事-2.8%増の防衛関係費の発表、靖国神社参拝による中国等との関係の悪化、辺野古埋め立て承認-、そして集団的自衛権や積極的平和主義と無関係ではないと筆者は考えています。
今回のアフリカ訪問は、安倍総理にとって2回目で、昨年8月訪問されたジブチでは、ソマリア沖・アデン湾で海賊を取り締まる海上自衛隊の基地を視察しました。その前に日本の首相がアフリカを訪問したのは、2006年当時の小泉総理によるエチオピアとガーナ、そして2001年当時の森総理による南アフリカ、ケニアとナイジェリアでした。当時UNHCR職員だった筆者は、ケニアの難民キャンプの訪問に同行しました。
この3ヵ国には何があるのでしょうか。エチオピアにはアフリカ連合(AU)の本部があるため、アフリカ外交という面から不可欠ですが、実は30年前の1984年に、安倍総理の父の安倍慎太郎元外務大臣も訪問された国でもあります。“We are the world”の歌が世界中でヒットした前年に、飢餓の支援のために、アフリカの干ばつ被災地の現状を視察されました。
モザンビークに関しては、現地の多くの農民組織が反対しているにもかかわらず、日本の政府開発援助(ODA)を用いた大農業事業が展開中です。日本関係者の間で「麻生(太郎)案件」と呼ばれた本事業は、昨年、外務省が主催したアフリカ開発国際会議(TICAD)の目玉でした。そしてコートジボワールには、アフリカ開発銀行の本部があり、また日本の首相がこれまで英語圏しか訪問しなかった反省から、仏語圏の国が選ばれたのでしょう。
中国への対抗意識と資源の獲得
安倍総理のアフリカ訪問は、基本的に中国への対抗意識と資源の獲得のためであると言われています。安倍総理がこの時期を狙ったのは、中国が1991年から外相が年初にアフリカを訪問することが慣例化しており、既に王外相が6-11日にエチオピア、ジブチ、ガーナ、セネガルを外遊中していることを念頭においたかもしれません。
中国のアフリカにおける資源外交は近年目立ってきていますが、中国の援助は既に1960年代後半から始まっています。その中でもタンザニアとザンビアを結んだ鉄道事業TAZARAは有名ですが、中国が総工費約150億円を全額負担して、2012年1月にAUの新本部ビルを建設したことも大々的に広報されました。当時のAU議長のピン氏が中国系ガボン人なので、そのコネのおかげだとも言われていますが。
また最近の出来事で、アフリカにおける中国の重要性が証明されたのは、昨年12月に行われた南アフリカのマンデラ元大統領の追悼式でした。オバマ大統領や他の国家元首と並んで、中国の国家副主席の李源潮氏が弔辞を述べられました。国家元首でもなく、習近平国家主席の特使でしかないのにかかわらず、です。それに比べて、日本政府の代表として参列された福田元首相と皇太子の存在感はほとんど報道されませんでした。
資源の獲得に関して、最近、三井物産がモザンビークの世界最大級の天然ガス田開発に参加するなど、日本がアフリカの資源外交に速度をあげています。それは福島の原発事故以後、原子力以外のエネルギー源を確保することが最優先課題となった事実と無関係ではありません。TICADでは、今後5年間でアフリカに約1兆4000億円を含む、民間部門を合わせて最大約3兆2000億円のODAを提供すると約束しました。
アメリカとの軍事協力か?
上記以外に、安倍総理のアフリカ訪問のもう一つの動機として、将来の日米の軍事協力の実現化も含まれているのではないかと筆者は危惧を抱いています。
アフリカ各地では、ソマリアのイスラム武装勢力アルシャバブ、ナイジェリアのボコハラム、2013年1月に起きたアルジェリア人質拘束事件の責任者と言われるモフタール・ベルモフタール等による脅威が高まっています。2008年10月に創設したアメリカ・アフリカ軍(Africomアフリコム、Africa Commandの略語。全アフリカ諸国に駐留を拒否されたため、司令部所在地はドイツのシュトゥットガルト)は、表向き、このような対テロ戦争抑止や、地域紛争への迅速な対応のために、アフリカ諸国の軍隊訓練の任務を有しています。その一環として、米軍は昨年、ニジェールで無人機基地を建設し、またエチオピアにも米軍の無人機基地を有しているという報道があります。
しかし、中国のアフリカにおける資源アクセスは、これまで以上にアメリカに潜在的脅威を与えているため、アフリコムのそもそもの目的は中国権益の牽制ではないかという見方が高まっています。特にアフリコムが創設された前年の2007年に、コンゴ民主共和国と中国間に総額90億ドルの契約が結ばれました。アフリカにおける1つの投資として最大級で、中国がコンゴ国内のインフラ整備を請け負うのと引き替えに、天然資源を入手することになっていました。結局、IMF(国際通貨基金)の関与もあり、契約の総額は60億ドルに引き下げられましたが、中国進出が脅威であることが理解できる出来事でした。
このような中国との勢力拡張競争に乗り出すために、日本は恐らくアメリカとの軍事協力の可能性を検討しており、その準備が着々と進んでいるようです。まず、ジブチにおける自衛隊は、ソマリア沖での「海賊対処活動」の長期化に備え、42億円をかけて「活動拠点」を建設しました。しかし共産党によると、これは米軍に要求されて建設された「軍事基地」です。
2点目に、防衛省は昨年8月、現在派遣中のエジプトとスーダン以外に、2014年度には、アルジェリア、モロッコ、ナイジェリア、ジブチ、エチオピア、ケニアと南アの7か国にも、防衛駐在官と呼ばれる自衛官を派遣することを発表しました。アルジェリアの人質事件を踏まえて、日本政府は、現地の軍事情報の収集と分析・安全業務の強化、反テロ活動に資金援助を行う一方で、自衛員の配備の拡大を決定したのです。
そして3点目に、南スーダンの平和維持軍(PKO)への自衛隊の派遣です。孫崎享氏によると、PKOは「グローバルな範囲での日米協力を視野に入れたものであり、緊張の高い、地域有事への作戦準備としての絶好訓練」です。それに加えて「アメリカの戦略のために、米軍は自衛隊を傭兵として使いたい」とも指摘しています。
日本の政治の悪影響がアジア地域に留まらず、アフリカにも拡大しつつあります。我々は、アフリカでの米日と中国の熾烈な軍事・諜報活動にもっと注目する必要があるでしょう。
【参考資料】【特別寄稿】安倍総理のアフリカ訪問の動機とは? ~中国、資源、そして米軍との軍事協力(米川正子 元UNHCR職員・立教大学特任准教授)
テレビ朝日「玉川徹のそもそも総研:日米関係の今後は?」(2013年12月31日)
【著書】
世界最悪の紛争「コンゴ」 (創成社新書)
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防衛省は昨年8月派遣中のエジプトとスーダン以外に2014年度にアルジェリア、モロッコ、ナイジェリア、ジブチ、エチオピア、ケニアと南ア7か国にも防衛駐在官と呼ばれる自衛官を派遣すると発表
安倍総理アフリカ訪問の動機とは?米軍との軍事協力 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/119066 …
日本の政治の悪影響がアジア地域に留まらず、アフリカにも拡大しつつある。
安倍総理のアフリカ訪問の動機とは? ~中国、資源、そして米軍との軍事協力(米川正子 元UNHCR職員・立教大学特任准教授) https://iwj.co.jp/wj/open/archives/119066 … @iwakamiyasumi
https://twitter.com/55kurosuke/status/1170656555663941632