【特別寄稿】アメリカの「パワー・アフリカ」事業(No.1)~電力普及で得するのは誰なのか?~米川正子 元UNHCR職員・立教大学特任准教授【IWJウィークリー第11号より】 2013.7.23

記事公開日:2013.7.25 テキスト
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 1週間に起こった出来事の中から、IWJが取材したニュースをまとめて紹介する「IWJウィークリー」。ここでは、【IWJウィークリー第11号】に掲載させていただいた、元UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)職員の米川正子氏(立教大学特任准教授)の特別寄稿を掲載します。


 福島原発の事故以降、電力は国内外で日常的な議論となり、それと同時に、東京電力等の電力会社が有する強大な権力が(再)確認されました。現在アフリカ大陸においても、電力を巡る動きが展開しようとしています。

 オバマ大統領は6月下旬に、4年ぶりにアフリカを外遊しました。訪問地の南アフリカ(以下南ア)でアメリカの外交政策に関する演説をし、サハラ砂漠以南アフリカへの電力普及率の倍増を目指し、官民合同で70億ドル(約7000億円)の支援を行うと表明しました。その事業の名は「パワー・アフリカ」。「地方に住む家族の基本的ニーズを支え、またアフリカがグローバル経済に連結するために、環境にやさしいエネルギーを届ける。電力の提供は、アメリカ・アフリカの双方の利益になる」と語りました。

 多くのアフリカ諸国では停電は日常茶飯事で、例えば、病院では停電で手術が十分に行うことができないために、命を落とす患者が多くいます。長年誰もが電力の必要性を哀願してきましたが、果たして「パワー・アフリカ」の実現で、一般市民は恩恵を受けるのでしょうか。

 オバマ大統領は詳細に触れませんでしたが、現在国際社会がコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)のインガ・ダムに着目しています。2015年に、アフリカ大陸で第二最長のコンゴ川にインガ・ダムIIIの建設と旧インガ・ダムIIの修復が始まる予定で、それが完成すれば、世界最大で、かつ世界で最も高価な(12億ドル、約1200億円)水力発電所となります。

 現在、中国の三峡ダムの電力は世界最大級ですが、その2倍の4万メガワットをインガ・ダムが有することになり、それは原子力発電所20機分以上の電力に相当するのです。

 コンゴ西部に位置するインガ・ダムは、長い歴史があります。ベルギーの植民地時代に(1908-1960年)、3つのダムの複合計画として本ダムが立案されました。インガIとIIは、それぞれ1972年と1982年に建設されましたが、インガIIIはコンゴの政治的経済的混乱のため現在に至るまで着工されませんでした。

 インガIとIIは、首都キンシャサと、銅鉱山や精錬工場が集中する南西部・カタンガ州の産銅地帯(Copper Belt)に電力を供給しました。そのために、インガからカタンガにある変電所まで、1982年当時世界最長の1700キロの送電線を、アメリカの企業が建設したのです(地図参照)。[1]

 しかし、その建設費用が大幅に上回ったために、送電量の3分の1の電力しか使用されず、結局、カタンガの精錬工場は、近隣にある水力や火力発電所の安価な電力を主に使用しました。本ダムの源の西部や送電線の直下の南部の都市ですら、電力は供給されなかったのです。

▲インガ・ダムからカタンガ州間の送電線 (ウィキペディアより抜粋)

 さて、このインガ・ダム開発に伴って、電力の「高速送電線」が建設されると、大陸全体に電力が届くと言われていますが、特にその恩恵を受ける国々が南アとルワンダです。

 南アは1900年代以降、コンゴの様々な資源を確保してきました。近年、国内では電力不足が慢性化しているのですが、アフリカ最大の経済大国の位置を保つためにも、南ア電力会社等にとって、インガIIIの建設は優先順位のトップにあります。南アは、資源企業の関与以外に、戦争中のコンゴの仲介役を果たしたり、国連平和維持活動の部隊を現地に派遣しながら、コンゴの政策や経済を間接的に支配しているのです。

 ルワンダは、1994年の虐殺以降、「アフリカのシンガポール」を合い言葉にIT立国を目指し、90年後半から、隣国コンゴ東部の天然資源を搾取してきました。それに関してルワンダは国際社会からの非難を浴び続けてきたのですが、それを避けるため、アメリカとフランス政府は2009年以降、コンゴの富をルワンダとの間で共有することを促進しています。これは事実上、ルワンダが一方的にコンゴの資源地域にアクセスをもつことを意味しています。

 そして今年5月中旬に、コンゴ政府が開催したインガ・ダム開発に関する会議では、世界銀行、アフリカ開発銀行(総裁はルワンダ人)やヨーロッパ投資銀行等がダム建設を援助し、電力の半分を南ア電力会社が買収し、残りは資源企業に送電することが議論されました。その会議の数日後に、国連の潘事務総長と世界銀行キム総裁が合同でコンゴを訪問。その目的は本ダムが目当てであったと言われています。

 6月上旬に横浜で開催されたアフリカ開発会議(TICAD)では、コンゴの国際協力大臣が岸田外務大臣にインガIIIの資金援助を要請したため、日本企業も関与する可能性があるでしょう。そして当然、30年前に送電線を建設したアメリカの企業も。

 電力があるにもかかわらず、国民の90%以上が電気にアクセスがないコンゴ。このような苦い背景があるため、「ダム開発がアフリカの経済成長につながる」と有頂天になっている大国や国際機関とは裏腹に、コンゴ市民は懸念を抱いています。結局、「パワー・アフリカ」で電力会社や大企業だけが儲かり、経済格差が拡大するのは明白です。TPPやアベノミクスと全く同じ経済構造なのです。 (続)


[1] 2010年に、中国で1900キロの送電線が建設されました。

【著書】
世界最悪の紛争「コンゴ」 (創成社新書)

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