日刊IWJガイド・非会員版「伊方原発が福島第一のような事故を起こせば、瀬戸内海は死の海に! 中国地方の西側と四国、九州の主要都市は壊滅!?(後編)」2024.8.17号~No.4304


┏━━【目次】━━━━
■はじめに~「いつ大規模地震が発生してもおかしくない」南海トラフ震源域で唯一稼働する伊方原発周辺は、もろい地盤に加え、特異な地形で原発事故が起きても逃げられない! 四電の津波想定は最大8.1mだが、中央構造線の断層が動けば10mの津波に襲われるとの指摘も! 伊方原発が福島第一のような事故を起こせば、瀬戸内海は死の海に! 中国地方の西側と四国、九州の主要都市は壊滅!?(後編)

■8月、IWJの第15期が始まりました! 8月は1日から13日までの13日間で、23件、52万8000円のご寄付・カンパをいただきました! 第14期最後の月である7月のご寄付・カンパは390万9700円で目標達成率は98%でした! 前期第14期は、8ヶ月連続で目標未達、累積の赤字額は約1260万円。他方で、「IWJしか報じていない情報」が、増えてきています! どうか財政難のIWJが、独立メディアとして報道・言論活動を継続できるよう、皆さまのご支援をよろしくお願い申し上げます!

■【中継番組表】

■ウクライナ軍がロシア領内クルスク州に奇襲攻撃をかけて11日目! ウクライナ軍は、形勢不利な東部ドンバス戦線の部隊までも移動させ、総勢約1万5千人の兵士らをクルスク侵攻に投入! 米国のネオコン系の「戦争研究所(ISW)」は、ウクライナ軍はロシア領内の支配領域を1000平方メートルに拡大し、ロシア軍がウクライナ東南部で占拠した地域に匹敵する広さだと大戦果のように発表! 日本の主要メディアも追随! しかし、ウクライナ優勢は本当か!? ロシアの航空戦力の標的となるのを避け、ウクライナ軍は、森林地帯にひそみ、隠れんぼ!? 何のために!?

■【IWJ号外】「ノルドストリーム爆破事件の『真実』を『ウォール・ストリート・ジャーナル』が『笑劇』の暴露! 破壊工作の責任者は、ザルジニー将軍(当時)! しかも作戦に関与したウクライナ軍の指揮官たちは誰ひとり起訴できないと認定!」を出しました!
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■はじめに~「いつ大規模地震が発生してもおかしくない」南海トラフ震源域で唯一稼働する伊方原発周辺は、もろい地盤に加え、特異な地形で原発事故が起きても逃げられない! 四電の津波想定は最大8.1mだが、中央構造線の断層が動けば10mの津波に襲われるとの指摘も! 伊方原発が福島第一のような事故を起こせば、瀬戸内海は死の海に! 中国地方の西側と四国、九州の主要都市は壊滅!?(後編)

 おはようございます。IWJ編集部です。

 昨日のこの『日刊IWJガイド』でもお伝えしたように、8月8日に日向灘で起きたマグニチュード7.1の地震から1週間が経ち、気象庁は15日、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」を終了しました。この「1週間」という期間は、あくまで内閣府の役人が考えた、「社会的な受忍限度」の指標です。

 その一方で、「南海トラフ沿いでは、いつ大規模地震が発生してもおかしくない」として、引き続き「日頃からの地震への備え」を呼びかけています。言うまでもなく、この後者の警戒の呼びかけの方が、重要です。

 その南海トラフ震源域で唯一稼働している、四国電力伊方原発(9月末まで定期検査で運転停止中)は、愛媛県の西端に位置して、九州と四国の間の豊後水道の最も狭い部分である豊予海峡(ほうよかいきょう)に突き出している「日本一細長い」佐田岬半島の付け根に立地しています。

※四国電力株式会社 伊方発電所(四国電力)
https://www.yonden.co.jp/energy/atom/ikata/address.html

 佐田岬半島は、地形が急峻で地盤が脆く、幹線道路が1本の尾根道しかないという地理的条件から、伊方原発で過酷事故(メルトダウンなどのシビアアクシデント)が起きた場合、住民避難が困難という大きな問題を抱えています。

※はじめに~「巨大地震注意」の呼びかけは終了したが、気象庁は「南海トラフ沿いでは、いつ大規模地震が発生してもおかしくない」と表明! 南海トラフ震源域で唯一稼働する伊方原発周辺は、もろい地盤に加え、特異な地形で原発事故が起きても逃げられない! 危険な使用済みMOX燃料は行き場がなく、原発敷地内貯蔵プールで100年保管!? 5000ガル以上の耐震基準の一般住宅メーカーもある中、伊方原発の耐震基準はたった650ガル!(前編)(日刊IWJガイド、2024年8月16日)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20240816#idx-1
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/53792#idx-1

 政府の中央防災会議は、2011年の東日本大震災を受け、翌年の2012年に南海トラフ地震の想定震源域を、それ以前の2倍に拡大し、想定死者数を13倍に増加するなど、それまでの被害想定を大きく見直しました。

※南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(内閣府 防災情報のページ)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/nankaitrough_info.html

 8月8日に起きた日向灘の地震の震源も、伊方原発も、この2012年に拡大された見直しで、新たに想定震源域に含まれました。この2012年の被害想定の見直しについて、一部で「科学的な根拠に乏しい」との指摘もありますが、今回はその論争は置いておきます。

 この2012年の見直しを受けて、政府の地震調査研究推進本部が2013年5月に発表した「南海トラフ地震活動の長期評価(第2版)」では、南海トラフで「M8~M9クラスの地震が発生する確率」は、「30年以内に70%~80%」とされています。

※海溝型地震の長期評価(政府 地震調査研究推進本部)
https://www.jishin.go.jp/evaluation/long_term_evaluation/subduction_fault/#nankai_t

 さらに中央防災会議の「南海トラフ巨大地震による最大クラスの津波高(分布図)」を見ると、東京都の伊豆諸島や小笠原諸島、静岡県、三重県、愛媛県、高知県などの一部では、最大で30mを超える巨大津波に襲われる可能性があることが示されています。

※南海トラフ巨大地震による最大クラスの津波高(分布図)(内閣府 防災情報のページ)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/model/pdf/tuikasiryou.pdf

 2011年の東日本大震災では、福島県の相馬港で9.3m以上が観測されています。また、宮城県女川漁港では、事後に14.8mの津波痕跡が確認されています。南海トラフ地震では、最大でその2倍から3倍以上の高さの津波が、太平洋岸の各地を襲うというのです。

 さらに、津波の前進を阻む障害物があった場合、津波は 陸地の斜面に沿って遡上していきます。そうした「遡上高」は、東日本大震災の場合、現地調査結果によって、国内観測史上最大の40.1mを、岩手県大船渡市綾里湾で記録していることが判明しています。

※Tohoku Earthquake Tsunami Survey – 現地調査結果(東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ、2019年9月10日)
https://www.coastal.jp/ttjt/index.php?%E7%8F%BE%E5%9C%B0%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E7%B5%90%E6%9E%9C

 約3倍の高さの波が、広域の沿岸を襲う南海トラフ地震の際には、地形次第で、どれほどの高さの波となるのか、ことによると100mを超えることもありあるのではないかと思わされます。

 南海トラフ地震による津波の想定では、「大阪湾に津波が到達するまでの時間は10分~20分程度」「沿岸近くで地震が発生した場合、1m以上の津波が沿岸に到達する最短時間は、静岡県で2分、和歌山県3分、高知県5分」などと報じられており、いかに早く海岸から高台に逃げるかが、重要になってきます。

 しかし、そんなわずか数分で果たして逃げられるのかどうか、疑問もあります。

 東日本大震災の場合、地震の発生から、津波の到着が早かったのは岩手県の沿岸で、地震発生から25分後だったと言われています。もっとゆっくり届いた地域もありました。

 それでもあれほどの被害者を出しています。2分から5分程度の時間で、果たして逃げれるのか。真剣に考える必要があります。

 ちなみに、津波が足下に届いたら、数十センチでも、足をすくわれ、30cmで、死亡者が出て、高さ1mの津波に巻き込まれた場合の致死率は100%であり、助かりません。沿岸地区の木造家屋は、浸水1mで部分的に破壊が始まり、2mで全面倒壊すると言われています。

※大阪に津波が10分で来る?南海トラフ巨大地震の前に知っておいて欲しいこと(NHK、2023年9月1日)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/20230831_01.html

※南海トラフ地震、広大な想定震源域…津波到達は最短2分(読売新聞オンライン、2024年8月9日)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240809-OYT1T50264/

 『朝日新聞』が「国の有識者会議の想定」をもとに公開している、「南海トラフ地震の被害想定」を見ると、伊方原発のある愛媛県西宇和郡伊方町は、「最大震度6強、最大津波高21m、津波到達最短時間46分」と示されています。

※南海トラフ地震の被害想定(朝日新聞デジタル)
https://www.asahi.com/special/nankai_trough/

 ただ、これはあくまで、市町村単位での被害想定です。防波堤のような佐田岬半島によって、瀬戸内海側と豊後水道側に隔てられている伊方町では、同じ町内でも、瀬戸内海側にある伊方原発の津波の想定は、豊後水道に面した地域ほど高くはありません。それは、前述の中央防災会議の「南海トラフ巨大地震による最大クラスの津波高(分布図)」にはっきりと表れています。

 中央防災会議の津波高の分布図で愛媛県を見ると、豊後水道側のほとんどが津波高5m~10m、一部で10m~20mとなっているのに対し、瀬戸内海側はすべて5m以下です。後述しますが、もちろん、5mであっても、津波の破壊力は非常に大きく、極めて危険であることに変わりはありません。

 四国電力は、伊方原発の津波(浸水)対策について、南海トラフ巨大地震による津波を最大2.5m、中央構造線の活断層による津波を最大8.1mとの想定を示した上で、「海抜10mにある伊方発電所への影響はないと考えています」と主張しています。

※ここから先は【会員版】となります。会員へのご登録はこちらからお願いいたします。ぜひ、新規の会員となって、あるいは休会している方は再開して、御覧になってください!

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■8月、IWJの第15期が始まりました! 8月は1日から13日までの13日間で、23件、52万8000円のご寄付・カンパをいただきました! 第14期最後の月である7月のご寄付・カンパは390万9700円で目標達成率は98%でした! 前期第14期は、8ヶ月連続で目標未達、累積の赤字額は約1260万円。他方で、「IWJしか報じていない情報」が、増えてきています! どうか財政難のIWJが、独立メディアとして報道・言論活動を継続できるよう、皆さまのご支援をよろしくお願い申し上げます!

 いつもIWJをご支援いただき、ありがとうございます。

 8月は1日から13日までの13日間で、23件、52万8000円のご寄付・カンパをいただきました。ありがとうございます。

 第14期最後の7月のご寄付・カンパの金額は、177件、390万9700円で、目標達成率は98%でした! 惜しくも目標額に達成しませんでしたが、98%という高達成率です。誠にありがとうございました!

 しかし、前期第14期の、IWJへのご寄付・カンパは、11月から6月まで、8ヶ月連続で目標金額に到達しませんでした。この8ヶ月間の不足額の合計は、1260万8589円です。零細な企業であるIWJにとっては、非常に厳しい数字です!

 支出を期の初めより、大幅に削ってきましたので、全体の収支がどうなっているか、赤字転落か、ぎりぎり赤字を免れるか、すべての計算が出そろわないとわかりませんが、出そろい次第、皆さまにご報告いたします。

 この8月1日から、新たに第15期が始まりました。今期の見通しは、7月中に立案するはずでしたが、岩上安身の体調不良と入退院を繰り返したことで、経理とのミーティングが十分にできておらず、ご寄付の月間目標額を今すぐただちにお示しすることができません。ご理解とご容赦をよろしくお願いいたします。

 とはいえ、おそらくは、ほぼ変わらない金額が必要になるものと思われます。第15期こそは、赤字にならないようにするために、有料会員登録と、ご寄付・カンパで、財政難のIWJへのご支援をよろしくお願い申し上げます!

 7月末現在、IWJ会員の総数は2277人、このうちサポート会員の方は852人でした。ぜひとも、サポート会員様におかれましては、会員をそのままご継続いただき、一般会員様におかれましては、サポート会員へのアップグレードをお願いします!

 また、休会中の皆さまは、メールやお電話をいただければ、すぐに会員を再開できます。一度退会された方でも、会員番号は変わりませんので、改めて申し込みをいただくことで再び会員になっていただくことが可能です!

※会員の再開、新規会員登録はこちらからお願いします。
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※以下は、IWJの活動へのご寄付・カンパを取り扱っております金融機関名です(各金融機関ごとに口座名が非統一ですが、どれも、各銀行の仕様に従ったもので、間違いではありません)。どうぞ、ご支援のほどよろしくお願いします!

みずほ銀行
支店名 広尾支店
店番号 057
預金種目 普通
口座番号 2043789
口座名 株式会社インデイペンデント ウエブ ジヤーナル

城南信用金庫
支店名 新橋支店
店番号 022
預金種目 普通
口座番号 472535
口座名 株式会社インディペンデント.ウェブ.ジャーナル

ゆうちょ銀行
店名 〇〇八(ゼロゼロハチ)
店番 008
預金種目 普通
口座番号 3080612
口座名 株式会社インディペンデント・ウェブ・ジャーナル

 IWJホームページからも、お振り込みいただけます。

※ご寄付・カンパのお願い
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 どうぞ、皆さま、権力に対し、一切忖度しないで真実をお伝えする独立メディアIWJの存在意義と必要性について、多くの人に口コミでも、SNSを通じてでも、広めてください!

 よろしくお願いします!

 岩上安身拝


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◆中継番組表◆

**2024.8.17 Sat.**

調整中

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◆中継番組表◆

**2024.8.18 Sun.**

調整中

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◆中継番組表◆

**2024.8.19 Mon.**

調整中

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◆「2024年8月23日」まで、フルオープン!◆

【川内・玄海・伊方3原発立地周辺レポート】鹿児島県川内原発編1.「原発は事故がなくても膨大に環境破壊を推し進めている」~ウミガメの産卵地に立つ環境破壊工場 2016.6.8
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/307193

【川内・玄海・伊方3原発立地周辺レポート】愛媛県伊方原発編~再稼働直前!立地も避難計画も問題だらけ!40年の歳月をかけ地元に根を張った電力会社の影響力 2016.8.4
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/323450

【IWJ検証レポート】「3.11」の教訓はどこへ!?被災県でさえ再発した「避難渋滞」!原発方向へ逃げる伊方原発の避難経路!地元住民は「事故が起きたらみな諦める」と証言! 2016.12.11
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/351558

「中央構造線が何回も動いているのは明らかなのに、電力会社や国は原子力発電所を作り、さらに再稼働をする」――岡村眞氏講演会「南海トラフ巨大地震の最新情報と伊方原発」2015.2.28
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/236157

川内原発2号炉再稼働前夜! 穴だらけの運転再開!? 巨大噴火リスクに阪上氏「3ヶ月でどうやって核燃料を避難させるのか。とても不可能だ」2015.10.14
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/270376

「国会は戦場のリアルに追いついていない」元レンジャー隊員・井筒高雄氏――元首相菅直人氏「避難計画の最終判断はどこが決めるのか?」川内原発再稼動に懸念表明 2015.9.7
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/261906

桜島は序章に過ぎない!?「充電」された姶良カルデラの脅威! 日本全土を襲う巨大噴火と川内原発再稼働の「愚」~IWJ×FFTV第2弾!(前編) 2015.8.16
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/258227

問題だらけの川内原発が再稼働「免震重要棟も土台しかない。ベント施設も完成していない。住民の避難計画もない。これが原子力社会、核社会の本質だ」2000人超が抗議 2015.8.9
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/257111

【岩上安身のニュースのトリセツ】御嶽山噴火から分かった、川内原発再稼働「新たな安全神話」の7つの欺瞞 2014.10.5
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/174819

◆「2024年8月31日」まで、フルオープン!◆

いつもと変わらず何も懲りない自民党。岸田派解散!? 安倍派・二階派ら4派閥が解散!? どれもこれも、目先の批判をかわすための偽装解散では!? 9月の総裁選を過ぎた時点で元の木阿弥なる可能性が高い!(日刊IWJガイド、2024年1月27日)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20240127#idx-5
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/53149#idx-5

核燃料再処理工場のある六ヶ所村で「想定される地震はマグニチュード8クラス」!? 浜岡原発も危険すぎる!! ~岩上安身によるインタビュー 第889回 ゲスト 変動地形学研究者・渡辺満久東洋大教授 2018.7.17
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/427608

六ヶ所再処理工場で事故が起これば福島1000基分の放射能が拡散!? 1万キロ四方の住人が急性被曝で死亡!?~ 岩上安身によるインタビュー 第224回 ゲスト 村田光平(みつへい)氏(元駐スイス大使) 2012.7.3
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/21731

◆しばらくフルオープン!◆

自民党は39人処分するだけで幕引きをはかる!?「裏金問題はまだ始まったばかり」! 自民党議員らと岸田総理と後援会を次々と刑事告発!~岩上安身によるインタビュー 第1153回ゲスト 神戸学院大学法学部・上脇博之教授 2024.4.5
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/522485

「1994年の政治制度改悪が裏金作りを生み『米国の利益のための戦争をする国作り』に直結した!」~岩上安身によるインタビュー 第1154回ゲスト 神戸学院大学法学部・上脇博之教授 2024.4.18
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/522670

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■ウクライナ軍がロシア領内クルスク州に奇襲攻撃をかけて11日目! ウクライナ軍は、形勢不利な東部ドンバス戦線の部隊までも移動させ、総勢約1万5千人の兵士らをクルスク侵攻に投入! 米国のネオコン系の「戦争研究所(ISW)」は、ウクライナ軍はロシア領内の支配領域を1000平方メートルに拡大し、ロシア軍がウクライナ東南部で占拠した地域に匹敵する広さだと大戦果のように発表! 日本の主要メディアも追随! しかし、ウクライナ優勢は本当か!? ロシアの航空戦力の標的となるのを避け、ウクライナ軍は、森林地帯にひそみ、隠れんぼ!? 何のために!?

 ウクライナ軍が8月6日にロシアのクルスク州に奇襲攻撃をかけて、11日目となりました。ウクライナ軍のロシア侵攻は継続しており、「支配地域」を広げていると大きく報じられています。

 『日刊IWJガイド』8月10日号でお知らせしたように、ウクライナ軍は、最初に欧州向けに天然ガスを輸送するパイプラインの関連施設があるスジャの周辺を猛攻撃し、スジャ周辺を占拠したとされています。

 これによって、ロシアからウクライナを通過し、ハンガリーやスロバキアへと供給されている天然ガスを締めてしまい、欧州諸国の中では、ウクライナを無条件で応援してはいないハンガリーとスロバキアに対して、圧力をかけられると考えたのではないかと思われます。

 さらに、ウクライナ軍は、スジャから60km先にあるクルスク原子力発電所に向かって、ロシアとの国境から35km内陸にまで侵攻しました。ザポリージャ原発に攻撃を加えてきたのは、日本を含む西側のメディアは、ロシア側だとプロパガンダを続けてきましたが、ウクライナ側が攻撃してきたことは明確になっています。

※【IWJ号外】ウクライナ情報総局のブダノフ局長、昨年ウクライナ軍がザポリージャ原発に攻撃をかけたと認める!「ロシア軍が攻撃という主張は不合理」と指摘した岩上安身とIWJの報道は正しかった! 2023.10.15
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/519115

※ウクライナ軍がロシア領内クルスク州に奇襲攻撃をかけ、紛争開始以来最大規模のロシア領内侵入、ロシア領内最大35kmまで侵入することに成功! その目的地は、ロシアからウクライナ経由で天然ガスを輸送するパイプライン施設か、クルスク原発か? モスクワ在住の米国人アナリスト、アンドリュー・コリブコ氏は「ウクライナの最後の足掻きになる可能性が高い」と分析!(日刊IWJガイド、2024年8月10日)
会員版 https://iwj.co.jp/wj/member.old/nikkan-20240810#idx-4
非会員版 https://iwj.co.jp/info/whatsnew/guide/53777#idx-4

 当初、ロシア側は、クルスクに侵攻したウクライナ軍は約1000人としていましたが、9日にはさらに多くの部隊が投入されていると、報じられました。『フォーブスジャパン』は9日、およそ1万人のウクライナ兵と装甲車両600両がクルスク侵攻に参加していると見積もっています。

※ウクライナ軍、越境攻撃に精鋭の空挺旅団も投入 「本格侵攻」の様相強まる(フォーブスジャパン、2024年8月9日)
https://forbesjapan.com/articles/detail/73045

 元米国防副次官スティーブン・ブライエン氏も、ウクライナ軍の多くの部隊が投入されていると分析しています。『フォーブスジャパン』とブライエン氏の分析からまとめた、クルスク侵攻に参加しているウクライナ軍の部隊は以下の通りです。

第80航空攻撃旅団(指揮)
第82航空攻撃旅団(指揮)
第95航空攻撃旅団(14日以降に参加が確認された)
第22機械化旅団(支援)
第61機械化旅団(支援)スジャから、町を「完全な支配下に置いた」とする劇的な動画を投稿
第88機械化旅団
第116機械化旅団
第99機械化大隊
第5航空突撃旅団(限定的参加)
第150機動小銃旅団(限定的参加)
第151領土防衛大隊(限定的参加)
第24山岳突撃旅団(限定的参加)
第49砲兵旅団:ウクライナ北部スーミ州スーミ市近郊から榴弾砲で支援
第27ロケット砲兵旅団:ウクライナ北部スーミ州スーミ市近郊からハイマースで支援

 上から順に5つの部隊が主として参加しており、その他7部隊が部分的に参加し、2つの砲兵団が、ウクライナ領内からハイマースや榴弾砲を撃ち込んで、侵攻部隊を支援している模様です。

 ブライエン氏は、ロシア軍は、ウクライナ東部のドンバス地方での戦闘を優位に進めており、ウクライナ軍もまたドンバスでの戦いに必死であると考えていたため、クルスクへの「侵攻に対抗する準備を何もしなかったことは間違いない」と見ています。

 ブライエン氏は、ウクライナ軍のクルスク侵攻は遅かれ早かれ巻き返されるだろうが、和平交渉を有利に進めるための「賭け」という政治的な目標をゼレンスキー側が抱いているため、どれだけ「遅かれ」なのかが重要になってくると分析しました。

 「遅かれ早かれ、予備兵力の追加にもかかわらず、ウクライナ軍がロシア領土から追い出されることは誰もが知っている。しかし、それには時間がかかる。『遅かれ早かれ』の『遅かれ』は、侵攻の目的という文脈では特別な意味を持つ」

 ブライエン氏は、ウクライナ軍がクルスク侵攻に踏み切った背景として、以下の2点をあげています。

1)ドンバスにおけるウクライナの領土防衛能力は行き詰まっている。ウクライナは毎日約1000人の兵士(死傷者)を失っており、一部の旅団の士気はゼロに近い。

2)ウクライナの指導部はロシアと交渉するよう西側から相当な圧力を受けている。ゼレンスキーはまた、11月にトランプ(就任すればウクライナ紛争を終わらせると宣言している)が勝利した場合、大きな問題を抱えることも知っている。

 ブライエン氏は、NATO軍が直接介入してくれる望みはほとんどなく、ウクライナは現状のまま和平交渉に臨めば、ロシア系住民が住む、多くの領土を放棄せざるを得ないため、「クルスク攻防戦は、ウクライナが和平交渉でロシアに影響力を持つための賭けなのだ」、つまり、ウクライナがロシアの領土をより長く保持できれば、「数ヶ月の間はロシアとの取引カードとして使えるだろう」と述べています。

※ウクライナ軍の北部「逆侵攻」に5個旅団参加 ロシアの増援、HIMARSで撃破し阻止(フォーブスジャパン、2024年8月10日)
https://forbesjapan.com/articles/detail/73062

※The Kursk Gamble ― A Ukrainian Gamble for peace negotiations?(STEPHEN BRYEN、2024年8月9日)
https://weapons.substack.com/p/the-kursk-gamble

 12日付『フォーブスジャパン』は、8日と9日には、ロシア軍が自国領内クルスク州ダリノ村やレオニドボ村付近を占拠しているウクライナ軍に対して、戦闘爆撃機から空爆を行ったと報じています。

※ロシア軍、滑空爆弾で自国内を爆撃し始める 逆侵攻封じ込めに必死(フォーブスジャパン、2024年8月12日)
https://forbesjapan.com/articles/detail/73064

 別の12日付『フォーブスジャパン』は、ウクライナ軍が、スジャから最も近い場所にあるロシアの軍用飛行場・ハリノ航空基地をミサイルで攻撃したが、ミサイルは届かなかったようだと報じています。ハリノ航空基地は、ウクライナ軍を苦しめている滑空爆弾「KAB」を搭載したロシア軍の戦闘機が発着しており、これまでもウクライナ軍が執拗に攻撃をかけてきた重要な戦略的拠点です。

※ウクライナ、侵攻したクルスク州内の飛行場つぶしに執着 滑空爆弾搭載機の基地(フォーブスジャパン、2024年8月12日)
https://forbesjapan.com/articles/detail/73065

 14日付『フォーブスジャパン』は、ウクライナ軍の旧ソ連製Su-27戦闘機が、米国製のJDAM滑空爆弾をクルスク州内チョトキノにあるロシア側の指揮所を攻撃したと報じました。欧州の支援諸国から供与される計85機のF-16の到着には時間がかかっており、今後も少しずつしか入ってこない見通しだということです。

※ウクライナ空軍機がクルスク侵攻に参加 滑空爆弾でロシアの指揮所爆破(フォーブスジャパン、2024年8月14日)
https://forbesjapan.com/articles/detail/73091

 『フォーブスジャパン』は15日、さらに追加で参加した部隊をあわせると、ウクライナ側は総勢1万5000人近くになる可能性があると報じました。ただし、対するロシア軍もまた少なくとも9個の部隊で応戦しており、その兵力は、侵攻しているウクライナ軍を上回る可能性があると指摘しています。

 同『フォーブスジャパン』は、ウクライナ軍が送り込んでいる部隊は、ポクロウシクやトレツク、チャシウヤールといったウクライナ領の東部戦線で戦っていた部隊であり、東部戦線で戦ってきたウクライナ軍の兵力が、クルスク侵攻にまわされていると指摘しています。

 死守してきた東部戦線の兵力を薄くしてでも、クルスク侵攻にかけたウクライナ軍の狙いはまだ不明なところもあると、『フォーブスジャパン』は述べます。

 確かに、ウクライナ軍が、劣勢な攻防線上から、戦力を引き剥がすことは、自国領土内に敵が侵攻してきたことに対して、クレムリンとロシア軍首脳が、過剰にうろたえさえしなければ、ロシア軍にとっては好都合なはずです。

 長い間、膠着してきた戦線から飛び出して攻勢に出るには、慎重になるところですが、ウクライナ軍が手薄になっているとわかっているならば、一気呵成に攻め入ることも可能でしょう。

 返す刀で、クルスクに侵攻したウクライナ軍の背後を狙えば、ロシア領に侵攻したウクライナ軍は、兵站を絶たれ、孤立して、退路を失い、挟み撃ちによって殲滅されるでしょう。

 そうしたリスクがあることはわかっていても、「同州で長期的にプレゼンスを保つことが(ウクライナ軍のロシア領侵攻の)目的のひとつなのは明らか」だと、『フォーブスジャパン』は分析しています。この分析は、上記のブライエン氏の分析と重なります。

※ウクライナ軍、クルスク侵攻に2個空挺旅団を増派 損害被るも勢い衰えず(フォーブスジャパン、2024年8月15日)
https://forbesjapan.com/articles/detail/73109

 米国のネオコン・シンクタンク『戦争研究所(ISW)』は14日のレポートで、「ウクライナ軍はクルスク州でわずかに前進している」と報じました。ウクライナ軍は、国境から15kmから25kmほどの範囲で目撃されています。ウクライナ軍が目撃された地点を落とし込んだ『ISW』の戦況図によると、侵攻当初にクルスク原発に向かって国境から35kmの奥まで侵攻していた領域はなくなり、国境沿いに30kmから40kmの幅で、ウクライナ軍が出没していることが確認できます。

 『ISW』の同レポートによると、ゼレンスキー大統領は8月14日、ロシア空軍基地不特定多数に対するドローン攻撃を実施したウクライナ保安庁(SBU)、軍事情報総局(GUR)、ウクライナ軍に謝意を表しています。

 ウクライナのメディア『ススピルニ』も14日、「SBU、GURのほか、特殊作戦部隊(SSO)、無人システム部隊が、クルスク市、ヴォロネジ市、ヴォロネジ州のボリソグレブスク、ニジニ・ノヴゴロド州のサヴァスレイカにあるロシア軍空軍基地に対してドローン攻撃を実施した」、この攻撃は「戦争開始以来最大のウクライナによるロシア空軍基地への攻撃である」と報じました。

 ただし、『ISW』の地図は「ウクライナ軍が目撃された」地点をプロットしたものであり、それらの地点を繋ぎ合わせた「ウクライナ軍の進軍範囲」は、必ずしも「占拠」を意味するものではない、と『ISW』も認めています。

※Russian Offensive Campaign Assessment, August 14, 2024(ISW、2024年8月14日)
https://www.understandingwar.org/backgrounder/russian-offensive-campaign-assessment-august-14-2024

 『ウォールストリート・ジャーナル』紙のヤロスラフ・トロフィモフ記者は、15日、『X』に興味深い投稿をしています。

 「ロシアにおけるウクライナの『特別軍事作戦』9日目。わかっていること。

 ウクライナは攻勢を続け、新たな村々を支配下に置いたが、そのテンポは大幅に鈍化した。ロシア軍の2つの主要な抵抗拠点はコレネヴォとギリイ・ベリツァであり、ウクライナ軍は今のところこれらの町を突破できていない。

 前線は流動的で、ウクライナ軍とロシア軍の小集団が深い森林地帯を徘徊している。ロシアは、ウクライナの装甲兵員輸送車列が小隊規模および分隊規模の奇襲攻撃を受ける恐ろしい画像を公開した。

 現在記録されているウクライナ軍の進撃は南西部、国境とスナゴスト村の間である。

 スジャはウクライナの厳重な管理下にあり、ロシア国旗の撤去をウクライナのテレビ局が撮影するほどだった。

 ゼレンスキー氏は、ウクライナは現在、ロシアのウクライナ支配地域の民間人の人道的ニーズに対応するために、軍事政権の創設を検討していると述べた」。

※Yaroslav Trofimov@yarotrof(午前2:49・2024年8月15日)
https://x.com/yarotrof/status/1823778871189164277

 クルスクの戦闘の話からは脱線しますが、このXのポストの最後は、気にかかります。

 ゼレンスキー氏は、大統領としての任期が切れているのに、戒厳令を理由にして、大統領選挙を行わず、法的資格がないかもかかわらず、大統領然として振る舞っています。

 いったい、ウクライナのどこに「民主主義」があるのかと、「ウクライナ応援団」の人々に尋ねたくなりますが、その上さらに、「アウトロー(法の外にいる人物)」で「独裁者」のゼレンスキー氏が、屋上屋を重ねるかのように、「軍事政権の創設を検討している」とは、どういうことでしょうか?

 自身が統帥権をもつ、大統領にして、元帥を兼ねるような、軍事独裁政権を超法規的に樹立する、ということなのでしょうか?

 それとも、自分の後任に軍人をあて、「自由」にも「民主主義」にも、当分の間、眠ってもらって、国民の福祉は後回しにして、総力戦だけに注力する体制を構築する、ということでしょうか?

 いずれにしても、「自由と民主主義」を守るためにウクライナを支援せよ、といった、フォン・デア・ライアン欧州委員長などが散々、わめき散らしていたデマゴギーは、撤回させ、2度と振りかざすな、というべきでしょう。

 話を、クルスクの戦況に戻します。

 ウクライナ軍が最初に攻撃をかけたスジャは、『ISW』の地図でも、ウクライナ軍が最もよく観察されている場所であり、「スジャはウクライナの厳重な管理下」にあることは、ほぼ間違いないと推定されます。

 最初に、欧州に天然ガスを輸送するための関連施設があるスジャを占拠し、そこを死守すれば、ガス施設を破壊したくないロシアは、滑空爆弾「KAB」で爆撃することができないだろうと踏んだのだと思われます。

 しかし、その他の「戦線(ウクライナ軍が目撃された地点)」は『ISW』の地図を見る限り、日々目まぐるしく変わっており、「前線は流動的で、ウクライナ軍とロシア軍の小集団が深い森林地帯を徘徊している」という指摘から、ウクライナ軍は1万人の部隊を一体化して進軍しているのではなく、小さな部隊に分けて森林地帯などを動き回らせ、ロシア軍を撹乱していることがうかがえます。

 つまり、スジャなど数ヶ所以外は、まとまった戦線はなく、数多くの小さな部隊に分かれたウクライナ軍が、クルスク州や隣接するベルゴロド州の国境地帯の森林を徘徊して、ゲリラ戦のような戦い方を行っているということです。

 ロシア軍は数多くの地点に出現しては消えるウクライナ軍の小部隊を相手に、「モグラ叩き」をしなければなりません。このゲリラ的な戦い方は、時間を稼ぎ、ブライエン氏がいう「遅かれ早かれ」をできるだけ「遅く」するためには、有効かもしれません。意味があるのかどうかは別として。その点は、後述します。

 12日付『ISW』は、クルスク州のアレクセイ・スミルノフ知事代行が、「ロシア軍は『明確な前線』がなく、『軍事部隊』がどこにいるのか不明であるため、不特定の問題を抱えている」と述べた、と報告しています。ウクライナ軍の侵攻を受けている現地からのスミルノフ知事代行の発言からは、ロシア軍がウクライナ軍がどこにいるのか、とらえきれていない様子がうかがえます。

※Russian Offensive Campaign Assessment, August 12, 2024(ISW、2024年8月12日)
https://www.understandingwar.org/backgrounder/russian-offensive-campaign-assessment-august-12-2024

 ただ、このような戦い方を、ウクライナ軍が最初から選び取っていたとは言い切れません。

 この作戦が、ロシア軍とクレムリンの不意をついた奇襲であったことは間違いありませんが、それでもロシアの街道を、戦車や装甲車などを連ねたウクライナの機甲部隊が進撃して、前進したかったはずです。

 しかし、奇襲に気づいた後は、ロシア軍は戦車や装甲車両の進撃を空から狙い撃ちして、以降、ウクライナ軍は、空から丸見えの道路に出ることができなくなりました。

 ウクライナ軍は、空軍の支援がなく、制空権をもたず、主要道路に出れば、上空からロシア軍によって撃たれっぱなしになるため、あわてて、森の中に隠れた、とも言えます。そうした軍隊を、どう評価するかは、立場によっても、見方によっても、分かれるところでしょう。

 ウクライナ軍が時間稼ぎのゲリラ戦をあらかじめ想定していたか、途中から作戦変更したかは別として、プーチン大統領が、ウクライナ軍のクルスク侵攻に対して、ロシア軍へ「対テロ作戦」を命じたのは、森に隠れるウクライナ軍を、正規軍ではなく、「単なるテロリスト」と見下して評価していることを意味していると思われます。ここには心理戦的な要素も見え隠れします。

 今、ウクライナ軍のやっていることは、森の中で隠れんぼをする程度のお遊びに過ぎない。撹乱程度で、たいした軍事的成果もあげられない。慌てることはない。これから、準備を整えて、徹底的にテロリストどもを掃討してやる、というアナウンスは、対外的にも、国内的にも、一定の意味を持ちうるでしょう。

 ウクライナ軍が大変な軍事的成果をあげている、という大宣伝が、ウクライナ側だけでなく、例によって西側メディアからも、なされています。

 例えば、BBCは、ロシアは今、第二次大戦ぶりに他国の軍隊の侵攻を許した、と大仰に特派員がモスクワからレポートしていましたが、その後、複数のモスクワ市民へのインタビューで、一般の市民がまったく危機感を感じていない様子を映し出してしまい、ロシア国民が心理的に追い込まれていない実態を明らかにしてしまいました。これはプロパガンダとしてはお粗末で、成功とは言えないでしょう。

※ロシア国内で外国軍が……異例の事態にモスクワ市民は(BBC News Japan、2024年8月13日)
https://youtube.com/watch?v=GvJf0sJKiy4&si=ix7mGvwN7Rni3Qc9

 実際、プーチン大統領が、そんなど田舎の森にこそこそ隠れている卑劣で臆病なテロリストなど、軍人の名に値しないと、嘲笑することは、ロシア国民の不安を一掃するはずです。ウクライナの部隊にネオナチが混じっていても、彼らは本物のナチス・ドイツ軍ではないのです。

 他方で、今回のロシア領内へのウクライナ軍の侵攻は、ロシア人の戦闘意欲を高める効果もあったようで、この侵攻後、ロシア国民の志願兵の数は増えていると言われます。

 他方、ウクライナ国内で、自国は今、反撃に出て、ロシアに攻め込んでいるんだと勇気づけられたウクライナ国民も少なくないとは思いますし、それ以上に、戦場の現実を知らない西側各国の「応援団」も、勝った、勝った、ロシアに攻め込んだ、とはしゃいできました。

 しかし、森の中に隠れて、こそこそ動き回って、せいぜい民間人の家を襲うという程度の「戦果」しかあげていない、「テロリスト・レベル」であることがわかってくると、いずれ、はしゃいではいられなくなることでしょう。

 13日付『ISW』によれば、ウクライナ外務省のヘオルヒー・ティヒー報道官は、8月13日、ウクライナはクルスク州の領土を奪取する意図はないと述べています。これは、重要な発言です。

 ティヒー報道官は、ウクライナ軍によるクルスク侵攻の目的として、1)ロシアの攻撃から自国を守る、2)ロシアがウクライナ攻撃に利用するロシア国境地域からロシア軍を追い出す、3)ロシア軍がドネツク州に追加の軍事部隊を派遣することを妨げ、ロシア軍の兵站を困難にする、という3つの目的を示しました。

 重要なのは、3番目です。先ほど、ウクライナ軍が精鋭部隊を攻防線上から引き剥がして、ロシアに送り込んだのは、背後を突かれる可能性がある、危ない賭けではないか、と記しましたが、ウクライナ側も、ロシア領からウクライナ東南部を実効支配しているロシア軍の背後をついて、兵站を切断する目的を持っていることを明らかにしたからです。

 であるとすると、ロシア側は、ウクライナ軍の部隊を、国境外まで一気に押し出してしまわず、しばらく領内に引き込んで、森の中で、隠れんぼをさせておき、戦略的に重要な目的を攻略したり、ウクライナ領内のロシア軍の補給を担う兵站線を襲うなどの意味のある「仕事」はさせないようにして、泳がしておく、ということを行っているのかもしれません。

 13日付『ISW』は、「ゼレンスキー大統領は8月13日、ウクライナ軍がクルスク州の74の地域を『支配している』と述べた」が、「ISWは、8月13日時点でウクライナ軍がクルスク州の約41の集落またはその近くで活動している」ことを確認したにとどまる、「ウクライナ軍が主張するウクライナの進攻の最大範囲内の領土すべてをウクライナ軍が支配しているとは評価していない」と報告しています。

※Russian Offensive Campaign Assessment, August 13, 2024(ISW、2024年8月13日)
https://www.understandingwar.org/backgrounder/russian-offensive-campaign-assessment-august-13-2024

 上記の12日付『ISW』は、 ウクライナ軍のオレクサンドル・シルシキー司令官が12日、「ウクライナ軍は、ロシア領土のクルスク州内で、およそ1000平方キロメートルを『支配』している」と述べたと報告し、「支配」についての見解は異なるが、「ISWは、ロシア軍が2024年1月から7月の間にウクライナ領土のさらに1175平方キロメートルを占領したと評価」していると付け加えました。

 つまり、『ISW』は、ウクライナ軍は、ロシア軍が今年に入って占領したウクライナ領土の広さに匹敵する広さのロシア領を「支配」したと主張している、とわざわざ説明しているわけです。

 『ISW』の分析は、ブライエン氏が述べた、「クルスク攻防戦は、ウクライナが和平交渉でロシアに影響力を持つための賭けなのだ」という言葉と符合します。

 その一方で、不意を突かれたロシア側が、ウクライナ軍の意図に気づき、プライドやメンツの問題は後回しにして、ウクライナ側に時間稼ぎをあえてやらせておき、自らはハリコフや、オデッサのような、重要な戦略目標へ向かっていく、という方針を取る事にしたとも、読めます。そうした戦略方針の転換を行うかどうかは、いずれ、明らかになるでしょう。

 兵力をさらにロシア領内につぎ込んでいけば、ロシアを攻略できるぞ、とウクライナ側およびその背後の米国とNATOが誤った判断をした場合、兵力を投入すればするほど、ウクライナ国内の戦線が手薄となります。

 どちらが最終的に勝利を得るのかは、わかりませんが、この機会を冷静に利用した方が、有利となる事は間違いないと思われます。特に相手の兵站を切ることに、どちらが成功するか、その点も鍵となります。

 現時点の報道や論評を踏まえて、ウクライナ軍のクルスク侵攻の目的を整理しておくと、軍事的な目的と政治的な目的の2つがあり、それに対するロシア側の次の手も、考察すると、次のようになります。

1)スジャの天然ガス施設の占拠:ウクライナ側の目的としては、前述した通り、ハンガリーやスロバキアなどへの天然ガスの供給を断つこともできるし、ウクライナ国内への供給を「断たれないこと」もできます。そして、ガス施設を破壊したくないロシア軍の滑空爆弾による攻撃を回避する拠点を確保することも狙いのひとつでしょう。

 他方、ロシア側は、滑空弾を使ってウクライナの部隊を破壊できないことに困り果てている、とは限りません。

 ウクライナ側が、本当にガスを締めたり、ガス施設を破壊して、ハンガリーやスロバキアを窮地に陥れたら、ウクライナに猛攻をかける大義名分が手に入ります。ガス施設を「安全圏」にしてきたウクライナ部隊を、容赦なく攻撃して壊滅する理由もできますし、報復として、ウクライナ国内の占領地を拡大することもできるでしょう。

2)和平交渉でロシアに影響力を持つための賭け:仮に11月にトランプ氏が大統領選挙に勝ち、ウクライナ国内で劣勢を挽回できない現状で交渉が始まれば、ウクライナにとっては非常に不利な交渉になることが予測されます。しかし、ここでロシア領内に侵攻し、ウクライナ軍が一部を確保していると思わせれば、交渉に有利な材料になりうる。

 以上は、一般的に西側で流布されている分析ですが、これは、少々、甘い見通しではないかと思います。

 まず、トランプ氏が、政権を取れるかどうか、わからず、取っても、国内外での抵抗が強く、ウクライナの領土(ロシア系住民の集住地)割譲を含む、和平案をウクライナや西側の戦争屋に納得させられるかどうかは難しいとクレムリンは考えていると思われます。プーチン大統領は、「トランプ氏も、バイデン氏も同じだと見ている」という発言もしています。甘く考えているとは、思われません。

 また、ロシア国内にウクライナの部隊が一定程度存在しているからといって、それが和平交渉に有利になるというのは、どう考えてもウクライナびいきの妄想ではないでしょうか。

 現状程度ならば、ロシアにとって、致命的でもなく、痛くもかゆくもありません。この点を見誤っていると、ウクライナと西側がプロパガンダを行っていくうちに、そのプロパガンダに酔っ払って、現実を見失ない、自ら優勢を信じ込むようになり、失敗を重ねてきたこれまでの轍を踏む事になります。「大本営発表」と同様の自家中毒です。

 逆に、ロシア側は、ウクライナ軍がロシア国内に存在することを理由として、和平交渉に応じないかもしれません。ゼレンスキー氏は、今まで、ロシア軍がウクライナ領内から完全に撤退しなければ、和平はありえない、という立場を取ってきました。

 同じことを、ロシアが言い出したら、ゼレンスキー氏は引っ込みがつかなくなるでしょう。

 そういう意味でも、ロシア領内への侵攻は、宣伝以上の意味はなく、ウクライナにとっては悪手だったのではないかとの疑念がぬぐえません。

 時間が経てば、果たして、どちらが有利になるのか。

 米軍を含む、NATO軍の実戦部隊が投入されない限り、ロシアが次第に優勢になることは避けられないでしょう。NATO軍が、軍事力の行使の脅しや、兵器提供にとどまる限り、ロシアは怯える必要はない、と確信しているはずです。

 他方、NATO軍の投入は、欧米自らが、ロシア相手に殴り合いをしなければならないことを意味します。

 プーチン政権はこの間に、戦略核兵器の準備のレベルをあげています。戦術核ではなく、戦略核ということは、欧州だけを相手にするのではなく、直接、米国を相手に核ミサイルをお見舞いする覚悟はあるぞ、との無言のアピールです。

 米兵の血が流れる事も恐れるようになった米国が、いきなりの核戦争に心理的に耐えられるでしょうか。

 元はといえば、米国が、中国とロシアの弱体化を図ることを国策に掲げて始まった代理戦争です。ロシアが見据えているのは、キエフなどではなく、ワシントンとペンタゴン、そしてウォール街であることは、間違いありません。

■【IWJ号外】「ノルドストリーム爆破事件の『真実』を『ウォール・ストリート・ジャーナル』が『笑劇』の暴露! 破壊工作の責任者は、ザルジニー将軍(当時)! しかも作戦に関与したウクライナ軍の指揮官たちは誰ひとり起訴できないと認定!」を出しました!

 昨日「【IWJ号外】ノルドストリーム爆破事件の『真実』を『ウォール・ストリート・ジャーナル』が『笑劇』の暴露! 破壊工作の責任者は、ザルジニー将軍(当時)! しかも作戦に関与したウクライナ軍の指揮官たちは誰ひとり起訴できないと認定!」を出しました!

 8月14日付の『ウォール・ストリート・ジャーナル(以下、WSJ)』が、「笑劇」の記事をアップしました。

 執筆したのは、『WSJ』の欧州政治担当主任記者、ボヤン・パンチェフスキー氏です。

 この記事のタイトルは、「酔いしれた夜、借りたヨット:ノルドストリーム・パイプライン破壊工作の真実」です。

※A Drunken Evening, a Rented Yacht: The Real Story of the Nord Stream Pipeline Sabotage(WSJ、2024年8月14日)
https://www.wsj.com/world/europe/nord-stream-pipeline-explosion-real-story-da24839c

 IWJは、この記事を、「ノルドストリーム・パイプライン爆破」の新しい物語作者の登場と見て、全文、ここに仮訳して、【IWJ号外】として、ご紹介しました。

 伝説のジャーナリスト、シーモア・ハーシュ氏は、2023年、2月8日に放ったスクープで、ノルドストリーム爆破事件を計画したのは米国であり、米海軍がノルウェー海軍と共に作戦にあたったと指摘しました。

※How America Took Out The Nord Stream Pipeline(SEYMOUR HERSH)
https://seymourhersh.substack.com/p/how-america-took-out-the-nord-stream

 このハーシュ記者のスクープ以降、『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』、『シュピーゲル』など、犯人と名指しされた米国と、被害国ドイツの錚々たるメディアが、共同でこれを否定する「新しい物語」を紡いできました。

 たとえば、『ワシントン・ポスト』と『シュピーゲル』が共同で、2022年9月26日に起きたノルドストリーム爆破事件の調査を行い、別々に記事を発表しました。2023年11月11日付『ワシントン・ポスト』と11月12日付『シュピーゲル』の記事がそれです。

※Ukrainian military officer coordinated Nord Stream pipeline attack(ワシントン・ポスト、2023年11月11日)
https://www.washingtonpost.com/national-security/2023/11/11/nordstream-bombing-ukraine-chervinsky/

※Ukrainian Special Forces Officer Allegedly Involved in Nord Stream Attack(シュピーゲル、2023年11月12日)
https://www.spiegel.de/international/world/ukrainian-special-forces-officer-allegedly-involved-in-nord-stream-attack-a-52a23ebb-85a4-43c3-b46c-de6cdce68134

 この合同調査では、ウクライナの反体制派グループが、アンドロメダ号と呼ばれる49フィート(約15メートル)のレンタルヨットを使って、バルト海で、専門的な潜水作業を行ってノルドストリームへの攻撃を行ったとする、これまでの主張に、一つの新しい追加情報を加えたものです。

 それは、ウクライナ軍の特殊作戦部隊に所属していた48歳のロマン・チェルヴィンスキー大佐を、突如として、登場させ、このロマン・チェルヴィンスキー大佐が、「ノルドストリーム作戦の『調整役』であり、身分を偽ってヨットを借り、深海潜水装置を使ってガスパイプラインに爆発物を設置した6人組の後方支援とロジスティクスを管理していた」(11日付『ワシントン・ポスト』)と主張するものです。

※【IWJ号外】『ワシントン・ポスト』と『シュピーゲル』が共同で、ノルド・ストリーム爆破事件の合同調査を実施! 「ウクライナ軍大佐が主犯として突如浮上」とするスクープの背後は!? 2023.11.14
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/519741

 この8月14日付の『WSJ』記事は、そのタイトル「酔いしれた夜、借りたヨット:ノルドストリーム・パイプライン破壊工作の真実」にあるように、『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』、『シュピーゲル』、『ツァイト』の物語に登場するロマン・チェルヴィンスキー大佐やヨット「アンドロメダ」号を登場させ、これまでの物語の大枠をすべて踏まえて、破壊の責任を現在のウクライナ英国大使、ザルジニー氏一人に帰すという、長々しいだけの茶番の物語です。

 しかも結論は、「計画に参加した、またはその内容に詳しいウクライナ当局者たちは、指揮官たちを裁判にかけることは不可能だと考えている。なぜなら、パイプラインを爆破することに関しては、少なくとも最初は全員が同意していた高官たちの間での会話以外に証拠が存在しないからである」なのです。

 8月14日付『WSJ』も、ほかの米独メディアと同様に、先行する物語に一つバリエーションを加えることで、破壊の動機がもっともあり、その能力と条件を持ち、しかも破壊を現に口にしていた、バイデン大統領を救済することが狙いとも言えます。

 詳しくは、ぜひ、【IWJ号外】を御覧ください。

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 それでは、本日も1日、よろしくお願いします。

 ご支援のほども、よろしくお願いします。

※日刊IWJガイドのフルバージョン(会員版)は下記URLより御覧ください。
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IWJ編集部(岩上安身、六反田千恵、尾内達也)

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