原発ゼロ・京都アピール講演会 2012.11.17

記事公開日:2012.11.17取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/澤邉)

 2012年11月17日(土)、京都大学理学部6号館401号教室で「原発ゼロ・京都アピール講演会」(主催者は原発ゼロ・「京都アピール」呼びかけ人)が開かれた。演壇に立ったスピーカーは和田武氏(日本環境学会会長)と植田和弘氏(京都大学経済学研究科教授)の2人、それぞれ「再生可能エネルギーの可能性」と「日本のエネルギー政策」とのテーマで講演を行った。

■全編動画
※動画データ変換時のトラブルにより、動画開始後12分40秒以降、音声が聞き取れない状態となっております。 

  • 開始後10分~ 安斎氏、30分~ 和田氏、1時間30分~ 植田氏、2時間22分~ 質疑応答
  • 日時 2012年11月17日(土)
  • 場所 京都大学理学部6号館401号教室(京都府京都市)

「原発事故から1年8カ月。大飯原発は即時停止を」。こう記された横断幕が掲げられた演壇では、司会者が挨拶し、「原発ゼロを求める声は世論になってはいるものの、その実現可能性についてはまだ議論が十分でない」と主張。その上で、そろそろセンチメントではなく理論で原発ゼロを訴えていくことが肝要だ、との意味合いの言葉を重ね、主催者側の意思表示を行った。

 和田氏と植田氏の講演に先立ち、演壇に立った安斎育郎氏(立命館大学名誉教授)は「逃げ場のない約200万人の福島県民は放射能と向き合いながら自分の生命を紡いでいくことになる」と話した。

 安西氏は、原発事故と他の災害事故とでは、被害のスケールがまるで違うと強調し、「福島の原発事故ではセシウム137という放射性物質が、広島原爆の際よりもはるかに大量に出たと考えられ、それが10分の1に減るのには100年程度かかる。いわゆる除染にしても、あれをやったからといって、放射性物質が消えてなくなるわけではない。こんなにもやっかいな原発は計画的に廃絶されるほかない」と語った。
 その上で「この会場には原発問題に関心のある方々しか集まっていない恐れがある。帰ったら今日の講演の内容を、原発問題に関心のない人たちに語り継いでほしい」と、聴衆に呼びかけた。

 スピーカーのトップバッターとして登壇した和田氏はまず、「日本の再生可能エネルギーの比率は、2010年時点でIEA(国際エネルギー機関)加盟国中最下位だ。ドイツやデンマークが飛躍的に伸びているのに、日本は停滞している」と述べた。その理由について和田氏は「ドイツやデンマークでは、各地域の住民が普及の主体になっている。再生可能エネルギーの普及が進むにつれて支持する世論が高まり、ますます普及する好循環が生まれている」と説明した。

 和田氏はまた、再生可能エネルギーを普及させるには「買い取り制度の実施が有効」とし、こう話した。「風力発電で有名なデンマークでは当初、住民が国から設置費の3割補助を勝ち取った。電気料金の8割程度で買い取る制度だけでは不十分だったからだ。その後は、風車設備の価格は普及とともに下落し、設置者は損をしなくなった」

 そして「デンマークでは電力の2~3割は風力発電で賄われており、風力発電設備の所有者の8割は地域住民」と指摘すると、和田氏は「買い取り制度が機能しているため、金融機関は設備設置に必要な資金を住民に対し積極的に融資する。デンマークででは『マイ風車』という価値観が根づいている」と説明を続けた。

 さらに和田氏は、「ドイツでも、再生可能エネルギーは住民主導で普及した。ドイツの地域住民は太陽光の普及を狙い、関連部材などを製造する企業を自分たちで立ち上げており、それが雇用確保や人口流出の抑制に貢献している」と語り、再生可能エネルギーの普及は、さまざまな社会的好影響を地域住民にもたらすと訴えた。

 日本の再生可能エネルギー普及について和田氏は、「日本政府は長らく、原子力と競合する再生可能エネルギーの普及を政策的に抑制してきた。RPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)はその象徴で、これは毎年の再生可能エネルギーの導入量の目標を決めるものだが、その目標値が極めて低かった。ただ、そんな中でも市民の間には、経済的メリットがないにもかかわらず住宅に太陽光パネルを設置する動きが確実に存在していた」と語り、日本にも住民主導の再生可能エネルギー普及の萌芽が見られる点を評価する立場を示した。その上で、この7月に電力の買い取り制度が始まったことを話題にすると、導入支援制度がもっと充実すれば、原発ゼロ向けて日本は加速度的に前進する、との趣旨の発言を行った。

 終盤で和田氏は、ソフトバンクやオリックスといった企業名を挙げながら、こうも語った。「買い取り制度のコスト負担は、電気料金の支払いを通じて国民が負っている。大手企業によるメガソーラーばかりになったら、再生可能エネルギーで儲かるのは企業、負担は国民との図式が定着してしまう。これでは国民の間に批判が噴出し、日本に再生可能エネルギーは普及しない」。

 2番バッターとして演壇に立った植田和弘氏は「原発事故には航空機事故のように損害保険はかけられない。民間の損保会社では引き受けられないからだ」と語り、損害保険との親和性のなさという尺度で、「そもそも民間企業が原発事業を手掛けるのには無理がある」との考を示した。また「放射性廃棄物の処分をどうするかなど、たとえ原発を廃止してもやっかいな問題が残る」とも述べ、「政府はこういった部分をもっと表に出して国民的議論を喚起する必要がある」と主張した。

 その後、被曝労働に言及した植田氏は「働いている時に被曝するというのは大きな問題。地下原発の安全性を唱える向きがあるが、働く人の安全はどうなるのか」と語気を強め、「原発は、経済学的な安全性などを確保できるだけのものは持ち合わせていない」との現状認識を示した。

 さらに植田氏は、再生可能エネルギーの将来性については「原発を代替できるか──」といった議論が横行していることに懸念を表明し、次のように言った。
 「福島原発の例からも分かるわかるように、ああいった集中型だと一度事故が起きてしまうと、むしろ不安定供給源であるとことが判明する。一方の再生可能エネルギーは分散型だが、つなぐ、ためるといった技術が進めば、全体としては非常に大きな力を持ち、そこに新たな産業が創出される可能性すらある。再生可能エネルギーの将来を語る際には、そういった視点が欠かせない」。

 「買い取り制度」について植田氏は、プラス材料と評価しながらも、「普及支援策はその中身を厳しくチェックすることが肝要」との見方を示し、「固定価格買い取り制度にしても、最初の政府案通りで決まっていたら再生可能エネルギーは増えなかったただろう。法律を決めるという点で、やはり政治の役割は大切だ」と語った。

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