【特別寄稿】足りないのは「獣医の全体数」ではない! 根本的な問題は地方公務員獣医師のおかれている理不尽な環境にある!~震災後、被災ペット救済ボランティアに取り組んできた視座から加計学園問題を見つめる 小林美貴子さん特別寄稿! 2017.6.30

記事公開日:2017.6.30 テキスト
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 「1校に限定して特区を認めた中途半端な妥協が、結果として国民的な疑念を招く一因となった」――。

 加計学園問題で追い詰められた安倍総理が、自らの不誠実さを棚に上げ、「逆ギレ」に出た。

 安倍総理は6月24日、神戸市内で行われた講演会で加計学園にのみ獣医学部の新設を認めたことが失敗だったとの倒錯した見解を示し、「規制改革推進の立場から、速やかに全国展開を目指す。地域に関係なく2校でも3校でも意欲あるところは新設を認める」などとの意向を示した。

 こんな重大な決定を「頭に来た」からと言って、トップダウンで下せるということは、「加計一校に認めた中途半端な決定」もまた、安倍総理がトップダウンで下したものであろうと、容易に推測がつく。

 他方で、安倍政権を追い詰める追及の手は止まらない。

 6月29日発売の「週刊文春」は、下村博文・自民党都連会長が加計学園から200万円の違法献金をもらっていたとするスクープを報道。同日中に下村議員は記者会見を開き、「内部情報を漏らしているのは昨年私の事務所を退職し、現在自民党以外から立候補している元秘書」だと、鉾先を元秘書に向ける発言をした。

 下村都連会長と安倍総理、加計孝太郎氏の関係が密接なものであることは、疑いない。2013年11月15日に開かれた、加計学園のイベントには、安倍昭恵夫人と下村今日子夫人が参加し、加計孝太郎氏とともに写真に収まっている。

▲(前列左から4番目)下村今日子夫人、(中央)加計孝太郎氏、(右から4番目)安倍昭恵夫人(加計学園杯日本語弁論国際大会決勝大会より)

 これまで政府は、大学の獣医学部の新設を抑制する方針を半世紀以上にわたって貫いてきた。背景には獣医師への社会的な需要と獣医師数のバランスを保つ目的があったが、それを突然、安倍総理が思いつきで土台からひっくり返そうというのである。社会における需給バランスなど考慮もせず、私憤をはらすために弊害をかえりみないデタラメな規制緩和を行うなど、一国の総理大臣としてあるまじき権力の濫用である。その発想は、まさに独裁者としか言いようがない。

▲加計孝太郎氏(左)と安倍総理(右から2番め)(昭恵夫人のFacebook投稿より)

 6月22日、日本獣医師会は声明を発表し、「獣医学部を新設し、教育資源の分散を招くことは、これまでの国際水準の獣医学教育の充実に向けた取組に逆行するもの」と改めて反対を表明している。IWJはWebで全文掲載しているので、ぜひご覧いただきたい。

 IWJは今回、東日本大震災以降、ペットを救済するボランティアに精力的に取り組んできた、IWJ会員の小林美貴子さんから、貴重な原稿をお寄せいただいた。

 小林さんは日本に足りていないのは「獣医の全体数」ではなく、地方公務員の獣医師のおかれる理不尽な環境にあると指摘。加計学園の系列校は国家資格試験の合格率も高いとは言えず、結局、難関である獣医師資格の合格者があまり輩出されない可能性にも言及している。

 小林さんよりいただいた原稿をIWJ編集部で編集・追記・リライトしたものを以下に掲載する。ぜひご一読いただきたい。

(IWJ編集部)

足りないのは「獣医の全体数」ではない! 根本的な問題は地方公務員獣医師のおかれる理不尽な環境!

 震災以降、被災ペット救護のボランティアや脱原発、福島支援活動などをしてきました。

 真実と自由な報道の為に頑張るIWJを、応援する会員でもあります。

 公務員獣医師不足問題が緊急だから強引にすすめる! と言った安倍総理の記者会見を見て、その内容のあまりの酷さに、どうしても書かずにはいられませんでした。

 安倍総理の会見に、国民は全く納得していません。

 人と動物が共に幸せに暮らせる社会を心から願う一市民の立場から、政府には私たちの税金を、公明正大なやり方で、本当に望まれる行政を行っていただきたく、公務員獣医師不足の問題について調べたことを書いていきたいと思います。

 獣医学部の増設がどうしても必要であったか、それに加計学園が最もふさわしかったか、私は両方とも「☓」だと思います。

 問題とされる地方公務員獣医師は確かに人手不足と言われていますが、それは、獣医師の全体数が足りないのでなくて、地方公務員獣医師のおかれている理不尽な環境により、成り手が少ないからです。学部を新設したところで、解決する問題ではありません。

 獣医師の資格を持つ方が、せっかく地方公務員として就職しても、やめていかざるを得ない現実があると聞いています。安倍総理は、そんな現実を理解しているのでしょうか? 安倍総理の事実認識に大きな誤認があると感じます。

数年ごとに転勤があり、激務の割に給与も低く、「殺処分」業務まで! 〜地方公務員獣医師が不足する理由

 なぜ、地方公務員獣医師は不足しているのでしょう?

 公務員の獣医さんは、家畜保健所で、牛や豚などの診療や伝染病の予防をする家畜専門の獣医さんと、保健所などで、動物愛護業務の他に、食品の安全や、公衆衛生食肉検査など、地域住民の食の安全を守る仕事を専門とする獣医技師さんがいます。

▲代表的な家畜である牛(ウィキペディアより)

 また、医薬品の開発に携わる分野でも活躍しています。

 動物愛護と食品生活衛生課の獣医さんは動物の苦情処理から、食中毒まで担当します。お役所仕事なので、理系でありながら、文書作成までこなす高い能力を必要とされます

 動物愛護業務とともに、国民の食と衛生を守る尊い仕事ではあるけれど、公務員なので、制約も厳しく、2年~数年ごとに転勤があり、地味で激務の割には給与も低く、そして、地方によってはつらい殺処分の業務もあります。

 動物の殺処分をめぐっては、国会議員や女優の杉本彩氏なども、問題提起しています。ぜひ、この機会にIWJの下記のアーカイブもご視聴ください。

 地方公務員の獣医師さんとは、ペットの命に対して、無慈悲で無責任な飼い主と、冷淡で無関心な社会の両方の「罪」を代わりに背負い、地域住民のために働く仕事です。

 なのに、動物愛護団体からは責められ、「犬殺し」と罵られることもあります。職業を子どもに隠す方々もいるほどです。

「動物行政」は低予算! 環境省の動物愛護管理室は非常勤を入れて11人、年間予算はわずか約2億5千万円!

 そのような状況の地方公務員より、都会の小動物のペット相手の方が高収入であり、動物を助けるお医者さんという役目を果たすことができます。特に最近増えた女性獣医師に、ペット病院の開業医の人気が高いのが現状だそうです。

 大ヒットしドラマ化もされた漫画『動物のお医者さん』(作者:佐々木倫子)の影響もあり、モデルとなった北海道大学獣医学部の応募数が跳ね上がったこともありました。

▲動物のお医者さん 佐々木倫子著(花とゆめCOMICS、amazonより)

 今治市の「大学獣医学部の誘致に関する意識調査結果について」でもよくわかるように、獣医師が「動物の命を救う、ステキな職業」であるというイメージがとても大きく、現実の仕事とのギャップもあるのかもしれません。

 獣医学部を出て、公務員獣医師になってもやめていく方が少なくない、その理由には、保健所のつらい業務に精神的についていけない、専門である獣医師の仕事以外の業務を幅広くこなすことを求められる、という理由があるようです。

 また動物行政の予算はとても少なく、環境省の動物愛護管理室ですら、たった7人、非常勤入れて11人! 年間の予算が、わずか約2億5千万円です。

 そのうち、地方行政への動物愛護のための補助金は、全国でたった1億円! 資金不足に苦労しながら、ごくわずかな人員で激務に追われているそうです。

 なぜ、動物愛護行政の予算がこんなに少ないのか?

 ひとつには、税金をできる限り、公平に公正に使うため、という理屈も考えられます。動物を飼ってない人も、嫌いな人もいるからです。

 また、公衆衛生という観点から、狂犬病ワクチン接種、登録制度、放浪犬の保護などに重点が置かれ、その一方で、保健所の収容施設において、捨てられた犬猫を新しい飼い主希望者が現れて譲渡できるようになるまで、長期間飼育する予算は割いてもらえず、早々に殺処分にしなくてはならないという、動物愛護向上を目指す獣医師にとって、苦渋の決断を繰り返し何度も迫られることになります。

 岩上安身さんのインタビューにおいて、日本獣医師会顧問の北村直人先生がその意義について熱を込めて説いておられました。

 公務員獣医師を増やしたいなら、まずは、医師免許保持者に来てもらえるように、獣医師に対する待遇の向上、その仕事を取り巻く状況の改善や予算の増額も大切だと思います。

加計学園の系列校は国家資格試験の合格率も高いとは言えない! 獣医師資格合格者があまり生まれない可能性も!

 また、新たに獣医学部を新設する前にやるべきことがあるはずです。既存の獣医学部に、公務員業務に対処できる教育過程を入れること。

 地方自治体と、大学との提携、推薦枠や、現在業務内容に悩む公務員獣医師に対するサポート、実務や文書作成のセミナーも必要でしょう。やめてしまった獣医さんにヒアリングを行い、どんな対策を取るべきか言い分をよく聞いて、復職サポートも行う必要があるのではないでしょうか? それらは、政府がすべき不可欠な対策だと思います。

 獣医学部を新設すればいいというわけではないのです。新しい学部ができても、上記の問題は、未解決なままです。仮に獣医師が増えても、それが、地方公務員獣医師の成り手が増えることに直結はしません。

 税金を有効に、公正に使ってほしいと思います。新学部の創設のために、公共の土地や公金が投じられることが、本当に必要なことかどうか立ち止まって考え、オープンに議論をすべきです。

 文書作成、事案を解決、災害時の対応、新たな事業も起こす発想力までも必要とされる公務員獣医師は、バランスのとれた、高い知的能力を必要とされる職業だと思います。

 加計学園に関わるいろいろなデータを目にする限り、加計学園が、知的レベルの高い生徒を集め、高水準の教育を施すことができているのか、疑問に思われます。偏差値が全てとはいいませんが、1つの指標にはなります。新しく獣医学部を創設する予定の岡山理科大学の偏差値は、必ずしも高くありません。

▲岡山市内にある岡山理科大学キャンパス

 また、学校法人・加計学園が経営する各学校の国家資格試験の合格率も高いとは言えません。獣医師の免許は、医師免許と同じく国家資格であり、かなり難易度の高い資格試験ですから、新しく獣医学部を新設し生徒を集めても、そこからが本番であり、これまでの実績を見る限り、国家資格試験の合格者を高い合格率で誕生させることができるかどうかは、何とも言えません。

▲加計学園系列の学校(加計学園ホームページから)

 家畜獣医の不足問題について、獣医行政をつかさどる農林水産省は、家畜やペットの数が年々減っていることもあり、「獣医師の数は不足していない」との見解を示しています。実際、ペット数は頭打ちです。ペットを適正に飼うにも生活の余裕が必要ですが、経済的にも時間的にも、その余裕のない方々が年々増えていると思われます。また、都会ではペット不可の賃貸住宅が多いし、全国的に人口も減少しつつあります。今後ますます人口が減っていくと、ペット数も減少していくことでしょう。

家畜専門の医師の仕事が減少することは明らか! ベジタリアンも年々増加!

 その上、政府自らが規制緩和して、関税障壁を取り除くことに熱心な現状では(トランプ政権の誕生で、TPPが見送りになっても、TPPに代わる自由貿易協定を、と熱心なのは日本政府です)安いお肉がますます外国から輸入されることになるでしょうし、国内の畜産業は厳しい状況に置かれることが予想されます。

 実際、先行して米韓FTAという自由貿易協定を結んだ韓国では、畜産農家の廃業が相次ぎました。これもIWJの視聴者・読者の方ならばよくご存知の話です。

 ですから、これも需給がミスマッチしていることになります。国策として、強引に自由貿易協定を進める政策をとりながら、どうして国内でこんなに矛盾したことができるのか、不思議でなりません。

 また、動物愛護、環境保全、健康の観点から、そして世界中から飢餓をなくすためにも、ベジタリアン、ビーガンとなる人々が増えつつあります。

 ビーガン人口の増加に連れ立って、肉食する人の数も少しずつ減っていくでしょう。また、先進国では常識のアニマルウェルフェア(動物福祉)の観点からも、今までのような大量屠畜、経済効率一辺倒の狭い畜舎での飼育方法は見直されていくと思います。

 結局のところ、日本の家畜数はますます減っていく見通しです。家畜専門獣医師の数が不足しているので急いで増やさなくてはならない、などという状況にはありません。獣医師については、これからは数より質です。少数でもより優秀で心ある獣医師さんが誕生することが望ましいと思います。

 また、安倍首相がことさら必要というライフサイエンス分野ですが、新しいウイルスや感染症など、新薬の研究は動物実験ありきです。

 動物愛護の見解からも、動物実験廃止が望まれる世界の流れとは逆行しています。

 また、ライフサイエンスを重視するというならば、ライフサイエンスに力を入れている、大阪府立大学生命科学研究所が、何十年も前から取り組んできています。

 この、実績のある大阪大学が、獣医学専攻の定員20人増を7年間求めてきたのに認められていません。

 政府は既存の、実績のある獣医学部の増員を認めず、なぜ加計学園の新学部の新設にこだわるのでしょうか?

獣医学部を設置するなら加計学園ではなく、愛媛大学や香川大学のほうが合理的!

 加計学園に対して、評価額36億円の公有地を無償で提供し、96億円もの税金を支援のために提供してまでして、新設する意味はどこにあるのでしょうか?

▲加計学園・岡山理科大学獣医学部の建設予定地(2017年3月26日、IWJ撮影)

 戦場に自衛隊が派遣されることを念頭に入れて、細菌兵器などへの対応を研究するなど、軍事研究の拠点にするのではないかとの噂も聞こえてきて、不安になります(・_・;)。

 もちろん四国に獣医学部を作るな、といっているわけではありません。

 今治市の「大学獣医学部の誘致に関する意識調査結果について」のデータを見ても、四国は獣医師不足が深刻のようです(「獣医師の活動地域の選択割合」の「公務員獣医師」は、四国が4.5%で全国で2番目に低い)。

 新しく獣医学部を作れば、地域活性にもなるし、ほんの少ない人数でも、地元で就職もし、獣医不足も緩和されるかもしれません。

 しかし、国家試験にパスし、国立大学の同僚と同等に働けるような、公務員獣医師にも適応できる高い能力教育や、鳥インフルエンザや口蹄疫、新薬の研究を行う人材を育成しようとするなら、四国において、農学部、医学部がすでにある、既存のレベルの高い大学に併設されることのほうが望ましいと思われます。

 仮に獣医学部を新設するとしても、それが加計学園である必要はありません。

 加計学園に獣医学部を新設する大義名分として、「四国に獣医学部がないこと」「獣医師不足」「鳥インフルエンザなどの人獣共通感染症が拡大する中、需要が高まっていること」などが挙げられていますが、本当にそうでしょうか。

 四国ではもともと、愛媛大学や香川大学の農学部が地域の農業、畜産業に根ざした研究活動を行っており、これらの大学に獣医学科の設置を認めた方が合理的だという指摘もあります。また、両大学には医学部もあるため、人獣共通感染症対策でもスムーズに連携できるでしょう。こうした理由からも、加計学園に新たに獣医学部を作らせる合理的な理由はありません。

安倍総理の独裁政治は「緊急事態条項」の導入を待たずして、すでに現実化している!?

 もちろん、日本獣医師会も文科省も、頑なに獣医師を増やさないと言っているわけではありません。

 獣医師の質を落とさない、需要供給のバランス、論議を重ね、検討を重ね、より良き策を模索してきました。実際、増員申請にもこたえています。

 主要な獣医大学で増員申請が出され、文科省が承認(2017年度)をしています。

【2017年度→2018年度】
北里大学 200名 → 220名 20名増
麻布大学 120名 → 130名 10名増
日本大学 130名 → 136名 6名増
日本獣医生命科学大学 80名 → 90名 10名増
(2018年度)
~ 獣医学部大学の学生定数 2016年度 ~
大学名 定数 学部学科名 国家試験合格率
<国立>
北海道大学 40名 獣医学部共同獣医学課程 93.1%
帯広畜産大学 40名 畜産学部共同獣医学課程 88.9%
※ 帯広畜産大学は畜産科学過程を入れると計260名
岩手大学 30名 農学部共同獣医学科 90.3%
東京農工大学 35名 農学部共同獣医学科 91.7%
東京大学 30名 農学部獣医学課程 89.0%
岐阜大学 30名 応用生物科学部共同獣医学科 90.1%
鳥取大学 35名 農学部共同獣医学科 94.2%
山口大学 30名 共同獣医学部獣医学科 90.7%
宮崎大学 30名 農学部獣医学科 91.8%
鹿児島大学 30名 共同獣医学部獣医学科 91.4%
<公立>
大阪府立大学 40名 生命環境科学域獣医学類 88.8%
<私立>
酪農学園大学 120名 獣医学群獣医学類 89.7%
北里大学 120名 獣医学部獣医学科 87.5%
日本獣医生命科学大学 80名 獣医学部獣医学科 92.1%
日本大学 120名 生物資源科学部獣医学科 89.3%
麻布大学 120名 獣医学部獣医学科 84.5%

 こうしてみると、安倍総理の古くからの友人である加計孝太郎氏の、獣医学部を手に入れたい、という個人的欲望に、安倍総理がこたえて、公正であるべき行政を歪めてきた可能性が高いと思わざるをえません。

 私は獣医学部増設に反対しているわけではありません。他の地方大学でも、獣医学部が新設されれば、国家試験を通る為の競争も活発になり、より優秀な獣医師が誕生するようになるかもしれません。

 問題はやり方です。歪んだ癒着政治を、「公務員獣医師不足の問題」にすり替えて、「歪んだ行政を正す」などと開き直って真逆の宣言をした安倍首相の記者会見の内容は、あまりにひどいものでした!

▲加計学園の獣医学部新設を「ゆがんだ行政を正すもの」だったと強弁する安倍総理(2017年6月19日、記者会見で:総理官邸ホームページより )

 これも、共謀罪の強行採決と同じ様に、権力の暴走です。安倍総理の独裁政治は、改憲による緊急事態条項の導入を待たずして、すでに現実化し、誰にも止められなくなっているでしょうか?

 特にNHKや読売新聞のような巨大メディアが、政権を批判するどころか、後押しをするような姿勢を見せていることが、ぞっとするほど怖く、そして悲しくもあります。

加計学園は銚子市を自治体として破綻寸前に追い込んだ!? 獣医学部新設のツケは今治市と今治市民に重くのしかかる!

 この問題は、自治体の財政破綻の問題にもつながります。

 銚子市には、同じく学校法人・加計学園が経営する千葉科学大学がありますが、この大学の開校をめぐっては、今治市での岡山理科大学の新獣医学部の新設のケースと非常に似通っている類似点があります。

 ひとつは、立地自治体の大きな負担です。新しい学校の誘致は、若い人を呼び寄せ、賑わいを生み出し、地元自治体に税収アップを期待させるので、各自治体がこぞって土地を無償提供してでも学校を誘致しようとしてきたのは事実ですが、それが税収増にもつながる、という「神話」は今や昔の話。

 加計学園の大学を好条件で誘致した銚子市では、財政が逼迫し、「第2の夕張」、つまり自治体として破綻寸前にある、という始末なのです。市立病院は休止(2008年)、市の職員の給与はカットだそうです。これでは定着人口が増えるどころか、若い人は流出して減る一方ではないでしょうか。なお2003年に大学開設の調印後(当初は「千葉理科大学」)、銚子市の建設助成金は最終的に77.5億円にもなりましたが、当初見込まれた「年間69億円」だったはずの経済効果は、2013年の公表では「年間23億円」だったとのことです。

 ひるがえって、愛媛県今治市は、学校用地として約17万平方メートルを約36億7400万円で市土地開発公社などから買い戻し、加計学園に無償譲渡することを決めています。

 これに加えて愛媛県と今治市で校舎建設費の総額192億円のうち、最大96億円を助成することも決まっています。

 このうち愛媛県は最大で32億円を、今治市は64億円を負担することになります。

 このまま岡山理科大学獣医学部が新設されたとしても、他大学獣医学部の平均の3倍という定員160人が集まらなければ大学は経営難に陥り、当然ながら地域振興につながる経済効果も期待できません。

 当然ながらそのツケは今治市と今治市民に重くのしかかることになります。先行した銚子市のケースをよく検証すべきです。

 原発事故以降、被災ペットボランティア、保健所の応援などの活動を通して垣間見た公務員獣医師不足の問題を、無知な私なりに感じたこと、調べたことを、まとめてみました。

 動物や自然が大好きな一市民として、命を大切にする優しい社会になってほしいと心から願っています。

 最後に写真を1枚、紹介させていただきます。この一枚で、公務員獣医師の苦悩、境遇が見えてくると思います。

▲愛媛県動物愛護センターの職員さん達のメッセージ(月刊誌『DAYS』2008年6月号より)

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