許されざる弱者への「殺人教唆」!元フジテレビアナウンサー・長谷川豊氏が人工透析患者をターゲットに「殺せ」と暴論を展開したブログをBLOGOSが転載後、謝罪し削除! 2016.9.25

記事公開日:2016.9.25 テキスト
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(佐々木隼也、文責:岩上安身)

 在特会が在日朝鮮人に対する悪質な「ヘイトスピーチ」を繰り返し、生活保護受給者へのバッシングを自民党の片山さつき議員が煽り、さらには障害者に対する残忍な「テロ」である相模原殺傷事件が起きるなど、「正義面」してマイノリティーを叩く愚行が連続する中、今度は人工透析患者が、差別と偏見、そして攻撃のターゲットになった。

 煽っているのは、様々な暴論・極論で幾度となく「炎上」騒ぎを巻き起こしてきた元フジテレビ・アナウンサーで、現在はフリーアナウンサーの長谷川豊氏。長谷川氏は、2016年9月19日に「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!」と題するブログを書き、あろうことか、大手投稿サイトのBLOGOSが「殺せ!」という文言までそのままに転載したのだ。

▲長谷川豊氏の公式HP

▲長谷川豊氏の公式HP

 このブログ記事は、大手投稿サイト「BLOGOS」が転載したことで、一気に拡散し、多くの人の目に触れられることとなった。

「人工透析患者」が「ディズニーで横入り」という悪質なデマを、調べもせずに掲載した長谷川氏

 当該記事で長谷川氏は、「知り合いの医師」の、「はっきり言って大半の患者は自業自得」という声を紹介しつつ、人工透析患者の「大多数」が、周りの忠告も聞かずに不摂生して「糖尿病」になり、「にも関わらず、運動もしない、食事も先生から言われたことをろくに守らず好き放題」した結果だと断言。そのうえで、人工透析患者が「身体障がい者1級」に該当することをあげ、その「ディズニーランドで横入りできる」などの優遇措置を批判した。

 もちろん、「身体障がい者1級」の方が「ディズニーランドで横入りできる」というのは、長谷川氏によるデマだ。

 東京ディズニーリゾートでは、身体障害者や精神障害者など、列に長時間並ぶことが困難な方に対し、待ち時間のあいだ、列の中ではなく別の場所で待機することができる措置を講じている。しかし、その間の「待ち時間」は列に並んでいる他の利用客と同等で、むしろ通常の利用客よりも待ち時間が長くなる場合もあるという。これは、東京ディズニーリゾートのHPに明記されており、長谷川氏の言う「横入り」とはまったく異なる。長谷川氏が、いかに基本的なリサーチすらせずに、記事を書いているかがよく分かる。(あるいは、あえて歪めて伝えているのかもしれないが、だとしたらなお悪質である)

「先天的な遺伝的理由」以外の人工透析患者をすべて「自業自得」とレッテル貼り…その論拠は!?

 デマはこれだけではない。このブログ記事のほとんどが、長谷川氏の取材不足、知識不足、そして悪意に満ちた思い込みで構成されていると言っても過言ではない。

 長谷川氏は、人工透析患者へのヘイトスピーチを繰り広げ、患者全体への憎悪を煽り立てながら、記事の最後に、申し訳程度に以下のように結んでいる。

「注:本コラムは記事内にもありますように『先天的な遺伝的理由』で人工透析をしている患者さんを罵倒するものでは全くありません。誤解無きようにお願い申し上げます」

 まるで、「先天的な遺伝的理由」以外の人工透析患者は、「自業自得」だと言わんばかりの書きぶりだ。

 だが、最終的に人工透析に至った個々の患者の方々の病因の、どこからどこまでが遺伝に由来し、どこからどこまでが生活習慣に由来するのか、きっぱり線引きできるのだろうか。

 遺伝的に糖尿病や腎不全になりやすい人はたしかに存在するが、その方たちが、必ずしも腎不全になるとは限らない。そして、遺伝性以外の透析患者でも、長谷川氏があげる糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎の患者でも、しっかり自己管理をしている人はいくらでもいる。

 また様々な事情で貧困に陥り、食生活に気が回らず、医師の診察も受ける余裕のなかった人間や、出産によって腎臓に負担がかかり倒れた女性もいる。

 しかし長谷川氏は、そうした個々の事情、環境や社会的背景を無視している。「出産の影響で腎不全になった女性」に対し、「自業自得」だと言えるのか。それを判断するのは誰なのか。医師が「自業自得」と判断して良いのか。そのうえで、「自業自得」だとみなされた患者は、実費負担が叶わなければ「殺して」よいというのか。

 長谷川氏が記事で紹介した、「はっきり言って大半の患者は自業自得」「患者さん?お金にしか見えないですね」と語った「ある『人工透析』を担当しているお医者さん」とは誰なのか。長谷川氏は、自説の根拠となったこの医師の名前を明らかにし、その論拠を明示すべきである。それができないというならば、自ら「大半の患者が自業自得」という根拠を示すべきではないか。

腎臓病の患者会が抗議声明!「偏見、排除や排他の思想を助長するものであり、とりわけ命を脅かす発言はとても許すことができない」

 日本最大の腎臓病の患者会である、全国腎臓病協議会(全腎協)は9月23日付で、長谷川氏に対し、記事の撤回と謝罪を求める抗議文を、長谷川氏がMCを務める情報番組「バラいろダンディ」を放送する東京MXテレビに送付した。(※長谷川氏個人ではなく、東京MXに送付したのは、長谷川氏個人の連絡先がHPなどに記載されていないため)

 全腎協は、「年齢や性別、経済力に関係なく、治療費の心配をせず誰もが安心して週 3 回、1 回 4 時間の透析治療が受けられるようになり、多くの患者が職場や家庭に戻り、自己実現を果たすことができるように」なったとしたうえで、「透析患者のみならず、高額な医療費がかかる慢性疾患患者全体に対する偏見、排除や排他の思想を助長するものであり、とりわけ命を脅かす発言はとても許すことができません」としている。

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 IWJの電話取材に対し、全腎協担当者は、長谷川氏の記事をきっかけに、不安を感じた全国の患者やその家族から、問い合わせが殺到しているという。

 そのなかには、「週3回、1回4時間接している医師や医療スタッフが、本当は『自業自得だ』などと考えているのだろうか。信頼関係を築いてきたと思っていたのに、腹の中ではこんな恐ろしいことを考えていると思うと、恐怖で夜も眠れない」という、今後の治療に対する深刻な不安の声や、「相模原殺傷事件の犯人と同様の長谷川氏の主張と、彼に賛同する多くのコメントを見て、次は人工透析患者がターゲットになるのではないか」などという、真剣に命の危険を感じている声もあったという。

「殺せ」というヘイトスピーチを「キツメのスラングだ」と開き直る長谷川氏

 長谷川氏は、その後の反論記事で、「炎上」は多くの人が考えるきっかけになるから「素晴らしい」などと書いている。批判に対して聞く耳をもたない、開き直りの態度だ。

 長谷川氏は、9月24日付の最新の記事で、自身に対する批判に対し「言葉狩り」だと反論。自分の「殺せ」という言葉について、「保育園落ちた、日本死ね」を引き合いに出し、「あれ、テロリストですかね。だって、国家を殺そうとしてるんだし。はっきり言ってるしね。『死ね』って…」などと書いている。そのうえで、「『そんなに怒っていますよ』という、キツメのスラング(崩し言葉)に決まってんでしょうが」などという詭弁を弄している。

 「死ね」と「殺せ」では、意味合いが違う。「死ね」という言葉は好ましい言葉ではもちろんないが、呪詛にとどまるそれに対して、「殺せ」は殺人を呼びかける煽動である。しかも、対象が不明瞭な「日本死ね」と、特定の病気の患者を「殺せ」というのとでは、まったく違う。「日本死ね」は、「殺人」の対象となる相手も、呼びかける相手もおらず、そもそも呼びかけてもいない。

 しかし長谷川氏の放った「殺せ」という言葉は、その「殺人」の対象をしっかり明記したうえで、ブログ記事を読む読者に、自身と同様の思想を持つ者に、はっきりと「殺人」を呼びかけている。これは刑法上の「殺人教唆」に相当する。

 どこをどう解釈しても、「キツメのスラング」などというごまかしは通用せず、長谷川氏の反論は、まったく反論になっていない。これでアナウンサーだとか、キャスターだとか、言葉のプロとして胸を張っているのだから恐れ入る。

 長谷川氏の、悪質なヘイトスピーチは、相模原殺傷事件を引き起こした植松聖容疑者の歪んだ思想や、「朝鮮人は皆殺しにしろ!」と新大久保の路上で叫んだ在特会のそれと何が変わるだろうか?

 こうした長谷川氏の暴論が多くの人々の注目を浴びてしまったのには、ブログを転載したBLOGOSの責任も重大だ。BLOGOSは日本最大級の大手記事投稿サイトとして、送られてきた記事を編集部がチェックし、選択して掲載しているはずだ。だからこそ、ハフィントン・ポストと並んで、大きな信頼を得てきたはずである。しかし今回、「殺せ」などという「殺人教唆」を含んだ記事を転載し、批判と非難の声が殺到するまで掲載し、さらにTwitterなどで記事を宣伝し続けた責任は、大きく問われることとなる。

 BLOGOSは、長谷川氏の記事を転載した3日後、9月22日に、多くの批判の声が殺到したことを重くみて、記事を削除。「誹謗中傷・公序良俗に反すると捉えられかねない表現、事実とは異なる可能性のある内容を掲載・拡散させてしまうことは、もとより本意ではありません」とする謝罪文を掲載した。今回、このような記事を転載してしまったのは、「掲載段階でのチェック体制の不備」が原因であり、今後は「チェック体制を見直し」ていくという。

 なぜ、こうした「チェック体制の不備」が起きてしまったのか。そして、今後はどのような「チェック体制の見直し」を行っていくのだろうか。現在、IWJはBLOGOSに電話取材を試みているが、現段階では常に電話は話し中の状態で、まだ取材は叶っていない。また長谷川氏本人についても、「いつでも議論を受け付ける」とする反面、HP等で連絡先を一切公開していないため、本稿執筆時点では本人にコンタクトができていない状況だ。

人工透析に至る前段階の糖尿病患者を「バカ扱い」

 ちなみに、長谷川氏が数年にわたってプレゼンターをつとめていたフジテレビの「とくダネ!」で、メインキャスターを務める小倉智昭氏は、30年ものあいだ、糖尿病と闘い続けていることをオンエア中に何度も言及している。長谷川氏はブログ記事で、糖尿病について「バカみたいに暴飲暴食を繰り返す。腹は出る、腰は痛める。周囲に注意されているのに、無視。それでも食べ続け、運動もしない。周囲は必死に注意。でも無視。で、糖尿病になる」などと断言している。

 長谷川氏は、人工透析患者だけでなく、その前段階である糖尿病患者に対しても、「バカ」扱いして誹謗中傷を繰り広げているわけである。

 小倉氏は、また全国にいる316万6000人の糖尿病患者とその家族は、どういう気持ちで、この長谷川氏の記事を読んでいるのだろうか。

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