【IWJブログ】生活保護世帯の子どもは「根が腐る」!? 札幌市長選の自民党候補が過去にヘイト発言連発 2015.4.11

記事公開日:2015.4.11 テキスト
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(取材・記事:佐々木隼也 文責:岩上安身)

 今、貧しい状態にあるとして、そこに至るには、様々な理由がある。能力も勤労意欲も高いのに、不慮の事故や病気で働けなくなった場合もあるだろうし、家族の大黒柱が働けなくなり、進学を断念したケースもあるだろう。

 貧しさには、様々な理由があるのだ。

 なんでこんな当たり前のことを書かなくてはならないかというと、日本の子供の6人に1人が貧困状態にある(厚生労働省HP:平成25年 国民生活基礎調査の概況)という痛ましい現状が我々の眼前に広がり、それを前提として、「貧しさは世襲する」などという、少しも笑えない愚かな発言が、政治家を目指す人間の口から飛び出してきているからだ。

 「生活保護は遺伝する、世襲制と言われる」

 「(生活保護をもらっている世帯の子どもは)根が腐ってしまう」

 貧困が遺伝によるものであるかのように断じ、在特会も顔負けのヘイト発言を連発したのは、2015年4月12日投開票の札幌市長選に自民党推薦で立候補している、本間奈々氏(45)だ。

 この発言は、2013年3月24日、右派系団体「日本のため行動する会(日行会)」(※)で本間氏が講演した際に飛び出した。

(※)系団体「日本のため行動する会」(日行会)…北海道札幌市で立ち上がった、日本の国柄と国益を守り、自主憲法制定に働きかける会(同会HPより)。

 問題の発言は、動画で確認できる。

https://youtu.be/uhEC1Xzbrok

 講演で本間氏は、「生活保護は遺伝するとか、世襲制だって言われていますけれども」と話し、生活保護を受給している家庭は、子どもに「(受給の)ノウハウを与えているのと同じ」「(勤労意欲は)みんなが働いていなきゃ、子どもも思えないですよね」などと、生活保護家庭の親を悪玉視。そして、「(子どもの)根を腐らせてしまう」などと続けている。

 また、大阪で生活保護受給が多いことをあげ、「ふきだまりになってしまうのが大阪なんですよ。大阪っていうのは”掃き溜め”になっちゃっている」などと暴言を繰り返した。

 北海道の人間が、大阪を「吹きだまり」などと、上から見下して差別する、というのも、あまり聞かないが、ある種の地域差別発言のひとつであろう。

 こうした発言を問題視した札幌の弁護士らが、3月28日に公開質問状を本間奈々氏の事務所へ送付した。しかし4月10日現在、本間氏側からの回答は、「生活保護制度について真摯に取り組んでいる」「回答は差し控える」といったもので、発言の真意については「ノーコメント」を貫いている。

 IWJは本間氏の事務所と、公開質問状を送付した池田賢太弁護士に電話取材。それぞれ話を聞いた。

池田弁護士「『根が腐る』と言われて傷つく子どものことは考えないのか」

 発言の真意について、IWJの電話取材に応えた本間奈々事務所の担当者は、「動画は観ていないのでよく分からない」としたうえで、「いずれにしても、本間奈々の現在の生活保護に関する考えは政策に載せている。それで察して欲しい。動画の発言も、悪意のある趣旨で話したことではないのではないか」などと語った。

 これに対し、IWJの電話取材に答えた池田弁護士は、「動画の発言はあまりに酷い内容。悪意がないとは思えない」と断言し、次のように続けた。

 「我々は『貧困の固定化』については議論します。その議論のなかで、『どうしても貧困が再生産されてしまう』という問題点は浮上しますが、それと『貧困の遺伝』というのは違う。本間氏にしてみれば、『貧困の固定化の問題を言い方を変えて言った』と言い訳はできるでしょう。しかし問題なのはその後の、『根が腐る』という発言の方です。

 子どもの貧困というのは、その子どものいる世帯全体の貧困です。子どもは親を選んで生まれてくるわけではない。子どもの貧困において、子どもにはまったく非がないのです。たまたま親が働けずに生活保護を受けている世帯の子どもに対し、『根が腐る』と発言した。本間氏は『子どもの貧困に力を入れる』と言っておきながら、この発言で、傷つく子どものことは考えないのか。この点は本間氏も言い訳はしにくいと思います」

 事実、本間氏側から、「根が腐る」発言そのものについての「弁明」は返ってきていない。

 公開質問状の送付に踏み切った理由について、池田弁護士は、「私は本間氏を攻撃したいわけではないし、対立候補や共産党の候補を推したいというわけでもありません」と語る。

 「札幌は不幸にも、生活保護を受給できなくて餓死するという事件を2回出していますから(※)、まだまだ福祉行政を見直さなければならないところがあるのです。生活保護へのバッシングは、基本的には人権侵害になっていくと考えています。

 そんななかで、国民、有権者が知らなければならないこと(候補者の過去の発言など)を知らずに投票に行ってしまい、『選挙ではこんなことは言ってなかったのに、こんなことになってしまった』という事態を避けたいのです」

 池田弁護士の提示する視点は、北海道市長選のみにあてはまる視点ではない。明日投開票を迎える統一地方選挙のどこでも、候補者選びに際して、必要な視点であろう。

(※)1987年1月、札幌市白石区の市営住宅の一室で、3人の子どもを持つ39歳の女性が栄養失調により衰弱死。女性は生活保護を打ち切られていた。2012年6月、札幌市白石区のマンションの一室で、生活保護申請が認められず、40歳と42歳の姉妹が死亡している。姉は3度も生活保護の相談に行っていたという。

生活保護の実態を認識しているか ~発言の真意について明言避ける本間氏

 日本の生活保護の利用率は、2015年1月時点で217万人、人口に占める割合は約1.7%だ。これは、先進諸国(ドイツ9.7%、イギリス9.3%、スウェーデン4.5%)に比べてもかなり低い。

 問題となっている不正受給だが、厚労省の調査によると、2012年度で生活保護利用世帯数215万人のうち、不正受給件数は約4万2000件で全体の1.9%。金額にすると約190億円で、全体の0.5%にすぎない。

 また、国立社会保障・人口問題研究所の調査結果によると、2012年度の生活保護受給世帯の構成比は、高齢者世帯が43.7%、母子世帯が7.4%、障害者世帯が11.9%、傷病者世帯が19.2%、「その他世帯」が18.4%となっている。

 一般的にはこの「その他世帯」がバッシングの対象となるが、これは全生活保護受給世帯のうち、高齢者世帯、母子世帯、障害者世帯、傷病者世帯のいずれにも該当しない世帯を指す。つまり、父子世帯や、子どもが18歳以上となった母子家庭、祖父母と孫が暮らしている世帯、配偶者が疾病を抱えている世帯も、すべて「その他世帯」に含まれる。冒頭で記した、不慮の事故や病気で、父親や夫など、一家の大黒柱が働けなくなってしまったケースも、実は「その他世帯」に入れられ、「働けるのに働かない人」扱いされてしまうのである。

 池田弁護士は公開質問状で、この「その他世帯」を「働けるのに働かない人」と見ることは「安直に過ぎ、その実態を理解していない」と指摘している。

 質問状ではさらに、こうした点をふまえて、「この受給構成比率のどの部分から、問題の発言をしたのか。働きたくても働けない高齢者や乳飲み子を抱えた母子世帯のことは念頭にはなかったのか」などと指摘。本間氏の生活保護受給者に対する認識や、「子どもの貧困」に対する認識、生活保護世帯の子どもたちについて「根が腐る」などと発言した真意を聞いた。

 これに対し本間氏側は書面で、自身のHPに掲げている生活困難世帯への支援充実策を貼り付け、「生活保護制度につきましては、この基本的な考えに基づき、十分に検証し、真摯に取り組んでまいりたい」などと回答。発言の真意については明言を避けている。

再度の質問状、公選法を盾に「回答拒否」 ~ 週刊文春の取材には「過激な言い回し」のみを「反省」!?

 弁護士らは、「明確な回答をいただきたい」と再度の公開質問状を送付した。すると、本間氏側は、「公開質問状とそれに対する回答は、公選法142条で禁止されている『文書図画の頒布』に抵触する恐れがあると思慮するため、回答は差し控えさせていただきます」などと回答。なんと公選法を盾に、「答えるつもりはない」という姿勢を示したのだ。

 この回答に対し池田弁護士は、「仮に問題があったとしても、罪を問われるのは頒布した私であり、本間氏側が問われるものではない。回答を拒む理由ではないところで拒んでいる」と憤りを露わにした。

 公選法が禁じているのは、「選挙運動のために使用する文書図画の規定外の頒布」である。回答を選挙運動のために使用するわけではない。本間氏側の回答は、「公開質問状とそれに対する回答」がどのように公選法に抵触するのかを明らかにしていない。

 また、ネット選挙が解禁された後の改正公選法では、「選挙運動又は当選を得させないための活動に使用する文書図画を掲載するウェブサイト等には、電子メールアドレス等を表示することが義務づけられる」とある。つまり、「直接の連絡先」があれば、ウェブ上での掲載も問題ない。

 本間氏側は、「公選法に抵触する恐れがある」と曖昧な言葉で、公選法を盾に「これ以上この件で詮索するな」と、ガードを固めているようにも見える。現在掲げている政策と、過去の自身の発言に矛盾が生じている以上、有権者としては、発言の真意と、今現在の生活保護に対する認識を聞きたいと思うのは当然だろう。選挙期間中であればなおさらである。有権者には、候補者に政策やその根本となる考えについて、知る権利がある。

 弁護士らの公開質問状ははねつける一方、『週刊文春』の取材に対しては、本間氏は「過激な表現だったと反省しております。言わんとすることは、貧困の連鎖。それを『遺伝』と言ったのはよくなかった。2年前に動画が出た時から、反省しています」などと語っている。

 しかし、この釈明においても、「生活保護は遺伝する」という部分のみを、しかも「言い回しが過激だった」という理由で謝罪しているだけだ。では、言い回しがオブラートに包まれていればいいのか。池田弁護士が問題視する、生活保護を与えることで子どもの「根が腐る」という発言の真意や、現在、子どもの貧困についてどのように認識しているのか、答えていない。また、「反省している」というのなら、生活保護に対する認識は変わったのか。一票を投じる有権者にとって大事な部分に関しては、一切説明がない。

「アイヌヘイト」を繰り返す日行会と自民党議員のつながりとは

 本間氏はこの講演を行う以前から、このような生活保護蔑視の思想の持ち主だったのだろうか? それとも、本間氏が言うように本当にただの「過激な言い間違い」なのだろうか?

 池田弁護士は、「本間氏が講演した『日行会』自体が、在特会と日本会議をベースにしているところなので、そこで話をしているということですから…」と語った。

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