参議院・兵庫選挙区は、改選議席数が1増の3議席を、自民、民進、共産、公明、お維、こころなどの7人が争う激戦区だ。
政界の表舞台を去ったものの、いまだにおおさか維新の会政策顧問である橋下徹前市長の影響は強く、同党公認の新人・片山大介候補の当選確率は高いとみられている。片山候補は元NHK記者で同党の共同代表片山虎之助氏の次男でもある。
(取材:IWJ京都・萩崎茂、記事:本田望)
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※7月8日テキストを追加しました!
参議院・兵庫選挙区は、改選議席数が1増の3議席を、自民、民進、共産、公明、お維、こころなどの7人が争う激戦区だ。
政界の表舞台を去ったものの、いまだにおおさか維新の会政策顧問である橋下徹前市長の影響は強く、同党公認の新人・片山大介候補の当選確率は高いとみられている。片山候補は元NHK記者で同党の共同代表片山虎之助氏の次男でもある。
記事目次
応援に駆けつけたおおさか維新の会・松井一郎氏代表は、「政治とカネ」の問題にふれ、その解決策として、「民間でできる仕事は民間に委譲していく」と公共事業の縮小を訴えた。
「『政治とカネの問題』。甘利さんの問題もある。UR(独立行政法人都市再生機構)が行っているのはマンションの賃貸と分譲。民間に任せればいいのに、国の出先機関、出資法人になっているから国会議員が口を利く。完全に民間になれば、口利きができなくなり、ああいう『政治とカネ』の問題はなくなる」
甘利氏の汚職問題は当然、追及されるべきではある。しかし、公共の分野を縮小さえすれば『政治とカネ』の問題がなくなると言い切るのは短絡的に過ぎないか。
汚職はいつの時代、どんな形でも、ありうる。その時、政治権力におもねらず、司直が公正に裁くことが重要なのではないか。甘利氏のケースでは、東京地検特捜部が、動き出しも遅く、あげく起訴を見送った。誰がどう見ても、あのケースで不起訴はおかしいだろう。その点をなぜ問わないのか。安倍政権と安倍政権を守護する検察を擁護している演説に聞こえる。
見方を変えれば、水道民営化などを含んだ、あらゆる公共事業の民営化をすすめたいがための「方便」ともとれる。それは新自由主義に忠実なおおさか維新の持論を正当化する「我田引水」の理屈立てである。
片山大介候補も同様に「政治とカネ」の問題を論じる。
「東京の舛添前都知事の問題。みなさんも、ワイドショーやら、ニュースやら、週刊誌でさんざん見てきたと思う。こんなことをしているから、政治はいつまでたっても信頼を取り戻せない。だから、維新の会は今回、『身を切る改革』を政策の柱に据えている」
「身を切る改革」の中身について片山候補は、「国会議員の定数の削減とともに、国会議員の給料を削減する」と説明。実績として、おおさか維新の会の松井一郎代表と橋下徹氏が、それぞれ大阪府知事、大阪市長の退職金を廃止するなど、財政支出削減を実施したために、大阪府では高校の授業料の「無償化」を実現にいたったとアピールした。
高校の学費「無償化」は、もとは2010年3月31日に、当時の与党(民主党、社民党、国民新党)と、公明・共産両党の賛成で成立させた「高校授業料無償化法」が発端だ。大阪府は国の就学支援金に上積み支援をした自治体のひとつである。その額は国が負担する就学支援金が約168億円、大阪府が負担する上積み分の授業料支援補助金が約203億円である(2016年度分)。
大阪府が自治体として授業料支援補助金を上積みしていることは評価に値する。しかし、高校授業料無償化は民主党政権時代に国の政策として行ったものがベースである。その「手柄」をおおさか維新だけで「独占」するような演説は「フェア」とはいえないだろう。
おおさか維新の会は、政治が信頼を回復するためには、「政治とカネ」の問題の解決が必要であり、そのために「身を切る改革」、公共事業の縮小を訴える。
おおさか維新の会が主張するところの「身を切る改革」の実情はどのようなものなのか。大阪府では同党の橋下徹氏が2008年2月に大阪府知事として就任し、橋下氏の任期後は同じく同党の松井氏が知事の座を引き継いで現在にいたっている。彼らの「身を切る改革」により、府の財政状況は改善されたのであろうか。
府の予算額を見てみると、橋本氏が就任した2008年から松井府知事になった現在にいたるまでに、大阪府の予算額は4兆円台前半から、4兆円台後半へと逆に増えている。
さらに、財政構造の弾力性を判断するための指標である経常収支比率を見てみると、「(2014年度は、)府税収入が増加したものの、職員の給与減額措置のカット率縮小や給与月額を引き上げたことにより人件費などが増加し、前年度より1.2ポイント悪化し、99.9%となりました」と大阪府のホームページに書かれている。つまり「身を切る改革」とは逆行する形となってしまったのだ。
また、自治体の収入に対する負債返済の割合を示す、実質公債比率では、大阪府は2012年に18%を超え、全国都道府県中ワースト6位となり、その後19%へと悪化しているのが実態だ。
大阪は借金まみれなのである。こんなふうに財政を悪化させてきた責任は誰にあるのか? 橋下氏であり、松井氏ではないのか? 彼らに国政を任せたら、同様のことが国レベルで繰り返されるだけではないか。そうした財政赤字は、いずれ国民にツケ回しされるのだ。
演説に戻ろう。
片山候補は政治の信頼回復の重要性を強調する。
「政治に対する不信は根強いものがあります。でも、今こうして政治を語る立場になって、ひとつ言われることは、『政治には力がある。まだまだできることがたくさんある。だから政治は国民からの信頼を取り戻していかなければいけない』ということなんです」
どのようにしたら政治は国民からの信頼を回復できるのだろうか。仮に、おおさか維新の会が主張する公共事業の縮小が実現したとして、それが公共事業の民営化に直結するなら、企業によるロビーイングによって政治家が企業の利益のために便宜をはかった結果なのではないか、という疑いがつきまとう。しかも、おおさか維新の会がかかげる水道事業民営化やTPPは人々の生存権よりも企業の利益を優先させかねない。
大企業の利益が国民の利益と必ずしも直結しないグローバル経済の時代に、大企業の利益にかなう政策ばかり掲げておいて、「国民の信頼を回復する」というのは、虫のよすぎる話なのではないかと言わざるを得ない。