高市大臣との面会叶わず、国連特別報告者デイビッド・ケイ氏が中間報告「停波の可能性に言及していること自体が問題」〜メディアにもダメ出し!「反論する力が弱体化」「記者クラブは廃止すべき」 2016.4.19

記事公開日:2016.4.24取材地: テキスト動画
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(取材:阿部洋地 文:葦澤美也子・ぎぎまき)

※4月24日テキストを追加しました!

 「話を聞かせてくれたジャーナリストの多くが、冒頭まず『匿名でお願いします』と言う。多くの人が匿名でなければ話せないのは異常事態と言えます」

 2016年4月19日、日本外国特派員協会の主催で、国連「表現の自由」特別報告者デイビッド・ケイ氏の記者会見が行われた。質疑応答を含め1時間半に及んだ会見で、ケイ氏は繰り返し日本のメディアの「独立性」に懸念を示した。そのハイライトの1つとして語られたのが、調査に協力したジャーナリストたちが共通して求めた、「匿名」による発言だ。

 ケイ氏は、こうしたジャーナリストたちの態度の背景には、内部告発者を守る法律「通報者保護法」の力が弱いことのほか、「明文化されていないソフトな圧力」があることを指摘。その圧力をちらつかせているのが、まさに現政権であることは疑いの余地がない。

 今年2月、「電波停止」発言の真意を確かめるため、高市早苗総務相に何度も面会を申し入れたというケイ氏だが、「国会会期中」との理由で実現しなかったと明かした。

 ケイ氏の訪日調査と時を同じくして、4月20日、国際NGO「国境なき記者団」は2016年の「報道の自由度ランキング」を発表。日本は前年より順位を下げ、180ヵ国・地域の中で72位に後退した。旧民主党政権時は11位だったことを考えれば、フリーフォールなみの「転落」と言っていいだろう。日本のメディアの独立性を危惧しているのはケイ氏だけでない。「国境なき記者団」も同様、「多くのメディアが自主規制し、独立性を欠いている」とする見解を示し、国民の知る権利そのものが危機的状況にあることを指摘している。

■ハイライト

  • 日時 2016年4月19日(火) 11:30~
  • 場所 日本外国特派員協会(東京都千代田区)

言論の自由を定めた現行憲法21条は高く評価、他方で秘密保護法、放送法「改善すべき」、記者クラブは「廃止すべき」

 「ジャーナリストの皆さんは、『日に日に圧力は強くなっているように感じる』と言っていました。コントロール、圧力、制約、検閲、こうしたもので法律として明文化されていませんが、変えるべきことはたくさんあると感じています」

 日本国憲法第二十一条では「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」「検閲はこれをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と定められている。ケイ氏はこの条文を「日本が世界に誇るべき素晴らしいもの」と称賛する一方、秘密保護法や放送法には「多くの改善の余地がある」ことに言及した。また、「記者クラブは廃止すべき」という立場も明確にした。

 今回の会見に先立ち、ケイ氏は調査の簡易報告をまとめている。その内容は、「メディアの独立性」「歴史教育への干渉(慰安婦問題)」「特定秘密保護法」「ヘイト・スピーチへの法規制」「政治的キャンペーンの制限」「インターネット上の著作権」「デモにおける表現の自由」の7項目に及ぶ。

 上記報告については国連の人権委員会のサイトに掲載されている(英文)。 また、調査の詳細は、2017年に行われる国連人権理事会にて報告される予定だ。

「停波に言及していること自体が問題。放送法4条はなくすべき」~希望した高市大臣との面会は「国会会期中」を理由に叶わず

▲今回ようやく訪日が叶った国連特別報告者デイビッド・ケイ氏

 デイビッド・ケイ氏来日は、そもそも昨年の12月に予定されていた。しかし、外務省からの正式な招待があったにも関わらず、直前になって、招待者である政府から延期を迫られた。ケイ氏は「国会の予算審議中で十分に対応できないといった理由しか聞いていない。キャンセルの真意は政府に直接聞いてほしい」としつつ、今回の訪日実現のために市民団体等の大きな力があったことについて謝辞を述べた。

 今回の訪日では、立法、行政、司法機関の代表者のほか、NGO、ジャーナリスト、メディアとも議論を交わした。訪日時の囲み取材でケイ氏は高市早苗総務大臣との面会を希望し、実際に何度も申し入れを行ったが、これも「国会会期中」であることを理由に断られたという。

 高市大臣と直接話したかった理由はもちろん「停波」発言に関する調査だ。

 大臣本人への面会は叶わなかったが、政府機関などへの聞き取りによりケイ氏は放送法第4条、174条について「停波の可能性に言及していること自体が問題」であり、「放送法第4条を取り消すことも考えるべき」と述べた。

放送法第4条
放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

放送法第174条
総務大臣は、放送事業者(特定地上基幹放送事業者を除く。)がこの法律又はこの法律に基づく命令若しくは処分に違反したときは、3月以内の期間を定めて、放送の業務の停止を命ずることができる。

 「メディアの情報を政府がコントロールすることはあってはなりません。第3者による規制を考えるべきで、その第3者は政府が定めたものでもいいが、政府そのものが関わるべきではありません」

「匿名」でなければ話せないジャーナリストたち~記者クラブが「市民の知る権利」を奪っている懸念

 冒頭でも触れたように、ケイ氏は、多くのジャーナリストがまず「匿名で」と前置きすることについて、「異常事態だ」と指摘している。ケイ氏の目には、この発言が、メディアの独立性が担保されていない現状を示す象徴的な出来事と映ったのであろう。そして、この背景には、日本特有の記者クラブのシステムや、政府から独立した規制機関がないことが関係していると考察した。

 「独立(しているべき)メディアの幹部が政府の主要人物と会食をしているという話も何度も聞きました。特定のメディアが、政府に近いネットワークに存在している。ソフトではあるが、抵抗するのが難しいという圧力になっています」

 この圧力に対してケイ氏は、日本のジャーナリストがよりプロフェッショナルな組織となるために、メディア横断の「報道委員会」「報道理事会」といった組織を設立し、団結力、結束力を体現する組織をつくることを勧めた。

 また、記者クラブに所属する者だけが、政府高官にオフレコで重要な話を聞き取ることができる一方、オフレコからのメモや議事録がオープンにされていない現状についても懸念を表明した。

 「記者クラブ制度は、アクセスジャーナリズム(*)を促進し、調査ジャーナリズム(**)を制限することにつながっている。情報へのアクセスを弱体化し、市民の知る権利を制限しています。記者クラブ制度の廃止を提言したいと思っています」

(*) アクセスジャーナリズムとは情報提供者から情報をもらうために妥協を強いられるジャーナリズム
(**) 調査ジャーナリズムとは任意の一つの項目に対し深く掘り下げて調査するジャーナリズム

「憲法21条を誇りに思うべき」~自民党改憲草案に真っ向から反論

 ケイ氏は、もう一つの大きな懸念として「特定秘密保護法」をあげ、「メディアに暗雲のようにかかるプレッシャー」と位置付けた。

 「例えば、安全保障や原発に関することなど、非常にセンシティブなことを書こうとするとき、皆さんにとって非常に関心の高いトピックですが、そこがまさに特定秘密保護法のもとで規制されうるホットトピックでもあります。これは、最も国民の関心の高いところが規制されうるということです。

 ジャーナリストの皆さんに厳しい罰はないということを“解釈”として言うのではなくて、法律を変えるという根本的な手を打つことが必要です」

 日本国憲法第二十一条では「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」「検閲はこれをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と定められている。ケイ氏はこの条文を「日本の皆さんが誇るべきもの」と称賛。質疑応答で自民党の改憲草案について問われた際には、「これについては時間を割きました」と答え、重要性を認識していることを示唆した。

現行憲法 第21条
・集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
・検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

自民党憲法草案 第21条
・集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
・前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
・検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。

 「“公益あるいは公共の秩序に反しない場合は”という条項が付け加えられることは問題です。日本が批准している市民的及び政治的権利に関する国際規約の19条に違反することになり、矛盾が起きます。(改憲の可能性は低いと思うが)理論的には脅威があるし、発言の自由を弱体させるという懸念もあります。デモ活動や政治的キャンペーンについても、政府が圧力をかける懸念になる。『干渉されることなく意見を持つ権利。公の秩序・道徳の保護と表現の自由』を目指す市民的及び政治的権利に関する国際規約の19条とは真逆です」

 また、この件に付随し、「政治的キャンペーンに対する制約を緩和するべき」という課題も示した。現在日本では、選挙期間中の政治的活動は大きく制限されている。しかし、ケイ氏は言う。

 「特に選挙のときはしっかり議論をすべき時期。政治的キャンペーンは奨励されるべきです」

 これも注目すべき、大事な指摘である。中身のある演説は禁じられ、名前の連呼だけ話されるというのはどう考えてもおかしい。本当に「外部者」の視線というものは大事である。「岡目八目」とはまさしくこのことである。

▲ケイ氏は長時間にわたる質疑にも1問1問丁寧に回答した

地震の断層の上にある原発……議論はきちんと呈されているのか?「政府からの圧力をさらに押し返して議論を呈すことこそ、ジャーナリズムの役割」

 今回の訪日中に、思いがけず熊本での震災報道に接することになったケイ氏は、「日本語が読めないので確認できていない」としつつも、メディアが「ウオッチドッグ(見張り役)」としての機能を果たせているのかどうかについても懸念する。

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