「保育園落ちた日本死ね!!!」の匿名ブログが公開されてから約1ヶ月。この間、母親たちの不満や怒りが国会を動かし、与野党ともに待機児童を解消するため協議を重ねてきた。民主、維新、共産、社民、生活の野党5党は2016年3月24日、保育士らの給与を月額5万円引き上げるための独自法案を衆議院に提出。ブログに共感する母親たちの切実な声に後押しされ、1ヶ月というスピード提出となった。
(取材・文 ぎぎまき)
※3月29日テキストを追加しました!
「保育園落ちた日本死ね!!!」の匿名ブログが公開されてから約1ヶ月。この間、母親たちの不満や怒りが国会を動かし、与野党ともに待機児童を解消するため協議を重ねてきた。民主、維新、共産、社民、生活の野党5党は2016年3月24日、保育士らの給与を月額5万円引き上げるための独自法案を衆議院に提出。ブログに共感する母親たちの切実な声に後押しされ、1ヶ月というスピード提出となった。
記事目次
■ハイライト 「保育士等処遇改善法案」国会提出後の報告集会
■ハイライト 民主党「待機児童緊急対策本部」第4回会合
「様々な立場の人が自分のできる範囲でそれぞれの役割を果たし、野党共闘で法案提出にまでこぎつけた。提出は一つの通過点。成立させなければ『助けて』という声に応えたことにはならない」
2月29日の衆院予算委員会で「保育園落ちた」ブログを取り上げて以来、母親や保育士たちを国会に招き、先頭に立って現場からの声を吸い上げてきた民主党の山尾志桜里議員は、法案提出後、衆議院議員会館で報告集会を開き、記者からの質問に応じた。
「匿名である以上確かめようがない」ーー。
29日の山尾議員への答弁で安倍総理は、匿名を理由にブログの信憑性を疑った。これが母親たちの怒りに油を注ぐ形になり、3月4日、1人の女性の呼びかけで国会前で「保育園落ちたの私だ」スタンディングが行なわれた。
直後の9日には、保育園の整備加速や保育士の処遇改善などを求め、母親らは塩崎恭久厚生労働相に2万7682人分の署名を提出。興味深いのは、ブログを書いた母親とスタンディングを呼びかけた女性、署名を集めた母親はお互い顔も名前も知らない、もともとのつながりのない個人であるという点だ。特定の党派や組織に所属していたり、ネットワークで結ばれた人間が「連携」して行動しているのではない。一つのブログをきっかけとして「連鎖」していった行動力は、それだけ待機児童問題の当事者が多いことを意味している。
厚労省が公表しているデータによれば、保育士の賃金は産業別で見ると、月平均10万円以上低い。保育士は国家資格でありながらも、「子守りの延長線上」ととらえられがちで、事実、政府与党は無資格でも保育に携われるよう、基準を緩和する方針を打ち出したが、保育の質の低下につながると異論の声が上がった。
今回、5野党が打ち出したのは、保育士らの給与を月額5万円増額するために国が助成金を支給するというもの。対象になるのは、保育士の他に、幼稚園の教員や児童養護施設の職員、調理師なども含まれる。予算規模は2800億円だというが、山尾議員と並んでこの問題に取り組んできた民主党の山井和則議員が、財源確保について説明した。
「安倍政権になって、年間の公共事業予算と租税特別措置による減税がそれぞれ一兆円膨らんでいる。そこから2800億円の予算を捻出する。もし政府与党が5万円が多すぎるというなら、具体的な数字を出してもらいたい」
山井議員によれば、法案が成立すれば、早ければ参院選選挙が行われる7月には5万円アップが実現するという。
「政府与党は法案審議に応じると思うか」。IWJの質問に山井議員は「本気で向き合う気があるならば、審議には応じてもらいたい」と答えた。
「今まで議員立法であれ、重要な法案で審議されなかったものは少ない。法案の審議には絶対に応じて欲しい。世論の後押しがあれば可能だと思っている。保育士の給料をあげることについては、与野党で賛成していること。問題はそれが自民党がいっている、5000円(※1)なのか野党の5万円なのか。10倍の差があるが、方向性は逆ではない」
(※1)自公から緊急提言が提出される前の3月中旬、政府は賃金の低さを要因とする離職率を改善するために、保育士の給与を一人あたり平均2%引き上げることを検討。「2%」は月4000〜5000円にあたる
しかし、自公は3月25日、保育士の給与水準を平均4%引き上げる対策などを盛り込んだ緊急提言を安倍総理に提出。「4%」が具体的にどれほどの増額になるのかははっきりしていないが、「2%」 が4000〜5000円であれば「4%」は8000円〜1万円にあたる。たったこれだけの増額で保育士の処遇改善につながるのか。安倍総理は与党からの提言を受けて「保育士の待遇改善を進め、保育所に入れる環境を作らなければならない」としつつも、財源確保の厳しさにも言及したという。
さらに、自公は「小規模保育所の定員拡大」も提言に盛り込んだ。これは、今まで19人だった定員の上限を20人以上にするというもの。これについて山井議員は、「定員を拡大するのであれば、当然、職員も増やすんですよね?まさか、増やさないわけはないですよね?」と疑問を呈した。保育の質低下は、子どもの死亡事故につながりかねないからだ。
2001年に小泉純一郎元首相が「待機児童ゼロ作戦」を打ち出してから、保育所の規制緩和が加速し、以後、明らかに事故死が増加したと指摘されている。2000年度までの40年間で起きた認可園での死亡事故件数は計15件。これに対して、2001年度以降では8年間で22件も起きている。年間の事故発生件数が7倍以上にも増えているのだ。規制緩和との相互関係は明らかではないだろうか。
もし政府が自公の緊急提言を取り入れ、緊急的に定員拡大を計るならば、保育士を増員する措置も同時に行なわれなければ、子供たちの安全は確保できない。しかし、そもそも保育士を確保することが最大の問題になっている中で、「4%」引き上げで新たに保育士を確保することができるのか。それとも保育士の数を増やさず、子供たちの定員数だけ拡大するつもりなのか。
3月29日に開かれる「第5回待機児童緊急対策本部」では、政府与党の待機児童緊急対策について厚生労働省や内閣府にヒアリングする予定だという。
「(法案を)提出しても審議されるとは限りません。与野党みんなで成立させたいが、成立が約束されたわけではない。ここにいるみんなで最後まで一緒に結果を出して、普通の人が声をあげれば政治は動くということをお見せしたいと思っています」
(…会員ページにつづく)
2016/03/24 「保育士等処遇改善法案」国会提出後の報告集会と民主党「待機児童緊急対策本部」第4回会合(動画) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/293308 … @iwakamiyasumi
「日本死ね」ブログから始まったこのうねり。声を上げることは決して無駄ではない。
https://twitter.com/55kurosuke/status/713356291226279936