「地方から狼煙を上げる!」――安保法制を強引に推し進めようとする安倍政権への審判となるか――山形市長選挙投票日前日ルポ 2015.9.12

記事公開日:2015.9.12取材地: テキスト動画
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(IWJ・青木浩文)

 「これは天から与えられた運だ」——。豪雨のため東京に戻れなくなってしまった小林節・慶応大学名誉教授は、そう語ったという。

 2015年9月10日、山形を記録的豪雨が襲い、山形新幹線はもちろんのこと、高速、一般道などの山形県外に出るための交通手段が絶たれてしまった。野党4党(民主・共産・生活・社民)の推薦を受けて山形市長選挙に立候補した梅津庸成候補の応援のために、7日に山形入りした小林氏は、10日には東京に戻る予定でいた。安保法制をめぐり参議院が開催する15日の中央公聴会に出席することが決まっており、その打ち合わせを行う必要があったからだ。

 しかし10日の豪雨により、結局12日の午前中まで山形市にとどまり、梅津候補の応援演説を続けることとなった。小林氏はそこで、安保法制の採決を乱暴なやり方で強引に推し進めようとす安倍政権に対し、「地方から狼煙を上げなければならない」と強い口調で訴えた。

 安保法制に反対を訴える梅津候補と、自公推薦の佐藤孝弘候補の一騎打ちとなった山形市長選挙は、安倍政権に対する審判を問う戦いにもなっている。したがって、全国から注目が集まっている。

 「公示日に取材されていたTBSの方がおっしゃっていました。『全国放送のTBSが地方の市長選を取材するのは珍しい。沖縄の名護市長選挙以来』だと」(梅津候補の広報担当者)

 IWJも、この「天下分け目の決戦」を現地から伝えるべく、12日に山形入りし、投票日を明日に控えた選挙戦の様子を取材した。

 学生からなる「SEALDs TOHOKU」は12日、SNS上で、梅津候補の支持を表明した。

 「SEALDs TOHOKUは無党派ですが、安保法案に反対し、廃案にするために行動する議員さんは応援し、協力していこうというスタンスで活動しています。今回の山形市長選は、安保法案をめぐる、与野党対立の構図がそのまま反映されており、安保法案は重要な争点であると言われています。SEALDs TOHOKUは、自公擁立候補である佐藤氏に対して、オール山形・安保法案反対の梅津氏を応援します」(SEALDs TOHOKU SNSより)

 12日に行われた梅津陣営の最終ミーティングでこのことが発表されると、選対事務所は大きく湧いた。

「これは『吉村山形県知事』対『遠藤五輪大臣』、『山形市』対『上から目線の日本国政府』の戦いだ」

支援者に握手をする梅津候補

梅津候補選挙カー。『安保反対』の大きな文字

 選挙戦の最終日である12日、梅津候補のもとには吉村県知事に加え、長妻昭・民主党代表代行が訪れ、大沼デパート前で応援演説を行った。街頭には、150名余りの支援者の姿があった。梅津氏はその後、選挙カーを走らせショッピングセンター、スーパーなどで選挙演説を行った。

【大沼デパート前での応援演説の模様(吉村県知事、長妻昭氏の演説)】
■ハイライト

【梅津候補の演説動画】
■ハイライト

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 梅津氏候補の支持を訴えた山形県知事の吉村美栄子氏に、遠藤利明五輪担当大臣から「恫喝」があったとの噂が、そこかしこから聞こえてくる。

 「本当に恫喝があったらしいのです。知事はそのことに本当に怒ってしまい、本来であれば8月の決起集会で、梅津氏の支持を表明する予定だったのが、それを早めて7月にはもう支持すると発言されたんです」(梅津候補支援者)

 梅津候補の支援者が、最終ミーティングの席上でマイクを握ってこう叫んだ。

 「これは『吉村山形県知事』対『遠藤五輪大臣』、『山形市』対『上から目線の日本国政府』の戦いだ」

【梅津陣営最終ミーティングの動画】

「山形市民が決めるのは山形市政」「4年間努力してきた彼か、3ヶ月前に担がれて出てきた候補か。山形市民が決めること」―佐藤候補選対事務所

 12日夕刻、IWJ記者は佐藤候補の選挙事務所を訪ねた。梅津氏のイメージカラーが黄緑であるのに対して、佐藤氏のイメージカラーは水色。事務所では水色のポロシャツを着た年配の女性たちが、静かに作業を行っていた。

佐藤候補事務所。この日早朝行われた決起集会には1500人が集結したという

 入り口を入ると、左手の壁には佐藤候補に対する70名以上の推薦状が張られ、右手には佐藤氏を押す遠藤利明・五輪担当大臣が応援演説の写真が貼られていた。

 佐藤候補は、この日の早朝に決起集会を行い、そこには1500名もの支援者が集まったという。最終日は特に街宣は行わずに、ひたすら山形市内を車で遊説する予定だという。

 広報担当者に話を聞こうと声をかけると、遠藤大臣の秘書、井上和行氏に話を聞くことができた。梅津陣営が安保法案を今回の選挙の争点のひとつとしていることについて尋ねると、井上氏は眉をひそめた。

 「山形市民が決めるのは山形市政。安保を含めた国政が全く影響ないかといったら嘘になりまけど、あちら(梅津候補)は市政の政策などはうたっていなくて、国政で安保を含めて反対の人を全部取り込もうとしている。最初は、『色んな形で、もっと山形市民のための施策を』と言っていたのが、途中から市政のことなんかよりは、安全保障のことばかりですからね」

 井上氏は安保法制が争点化することに懸念を示した。そのうえで、佐藤候補の地道な努力をアピールした。

 「(佐藤候補は前回)落選した日から、4年間しっかり市政にもう一度チャレンジするということで、山形市内に後援会も33箇所できました。今、後援会がしっかり機能しています。最終的に4年間がんばってきた彼が報われるのか、3ヶ月前に担がれて出てきた方か。我々としては4年間の彼の努力を応援したい」

 こう語る一方で、井上氏は「山形県は49年間自民党の首長が誕生していない。革新系の社会党、社民党、共産党。自民党が野党、で、今回『流れを変える』ということで、がんばっておりますが、山形市民がどういう判断をするのか」と、厳しい選挙情勢をうかがわせた。

投票箱は山形のタクシー会社が運ぶ

 今回、現場を回る際に使用したタクシーの運転手に選挙について尋ねると、興味深い話を聞くことができた。

 「私はよくわかりませんね。私は山形市外なんです。そういえば、投票日はタクシー会社は、全ての投票所から開票所へ立会人と共に投票箱を運ぶんです。山形市内には10数社タクシー会社がありますので、それぞれ分担するんでしょうけどね」

 明日、山形のタクシーが運ぶ投票箱は、山形市のそしてこの国のどんな未来へと運ぶことになるのだろうか。13日、投票は20時(一部の投票所は19時)に締め切られ、21時半から開票が始まる。

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