「日本人は安全なエネルギーをみつけて、人々の健康を守って」 チェルノブイリで被曝した少女が語る28年 2014.4.26

記事公開日:2014.4.26取材地: 動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJテキストスタッフ・花山/奥松)

 「4歳で被曝し、13歳の時に甲状腺がんと診断された。がんと言われるまで病気はしていなかったが、疲れやすかったり、頻繁に鼻血が出たり、頭痛が起きたりしていた」──。チェルノブイリ原発事故で被曝し、甲状腺がんを患ったシネオカヤ・インナ氏は、自身の体験を語った。

 チェルノブイリ原発事故から28年となる2014年4月26日、三重県津市の津リージョンプラザお城ホールにて、「チェルノブイリ・福島 いのちは宝」が行われた。ウクライナから招かれたシネオカヤ・インナ氏が、幼児期から甲状腺被曝を抱えて生きてきた人生を振り返った。

 原発事故から9年後に甲状腺がんと診断され、甲状腺を摘出したインナ氏は、「元の生活には、永久に戻れないと知った」という。成長して結婚、医師の反対を押し切って出産に踏み切ったことについては、「人間の体の持つ可能性は、完全には解明されていない。どんな医師でも、わからないことはまだある」と述べ、「人は、それぞれの試練を乗り越えることができる」と前向きに語った。

 また、シンガーソングライターの内田ボブ氏、久居高校演劇部、小室等氏とこむろゆい氏のユニット「ラニヤップ」の3組が、チェルノブイリと福島への想いを込めた演目でパフォーマンスを行った。

■全編動画

  • シネオカヤ・インナ氏の話 「汚染の大地チェルノブイリ−それでも私たちは生きる」
  • シンガーソングライター「内田ボブさん」のライブ
  • 二世代ハイブリッドユニット「ラニヤップ」によるライブ
  • 久居高校演劇部による朗読パフォーマンス「子どもたち・若者たちのチェルノブイリ」
  • 日時 2014年4月26日(土) 13:30〜
  • 場所 津リージョンプラザお城ホール(三重県津市)

喉に違和感。甲状腺を摘出した13歳

 キエフ出身のインナ氏は、チェルノブイリ原発事故により4歳で被曝し、13歳の時に甲状腺がんと診断された。インナ氏は当時の状況について、「それまでは、普通に生活していて病気はしなかった。少しイライラしやすかったり、疲れやすかったり、それから頻繁に鼻血が出たり、頭痛が起きたりはしていた。そして、喉のところに違和感があった。これが、甲状腺の病気と関係があるとは、誰も思わなかった」と述べた。

 しかし、病院で検査を受けると、すぐに手術が決まり、甲状腺の全部と副甲状腺も切除され、手術後には放射線照射治療が行われたという。「足の頻繁な痙攣、体のだるさ、めまい、心臓の痛み、頭痛が起こるようになった。元のような生活には、永久に戻れないことを理解した」。インナ氏は「手術で首に残った無惨な傷跡が、心を重くした」と、10代の少女が受けた衝撃を告白した。

私のような人は、子どもを持ってはいけないと……

 成長して結婚したインナ氏は、自身の妊娠に直面した。「甲状腺はとても重要な体の器官であり、それがないと体全体の働きが狂ってしまう。ホルモン剤は、完全にその代わりとはならない。だから、私のような人は子どもを持ってはいけない、と医者たちは言ってきた。しかし、5年前に私は子どもを持つことを決心した」。

 「妊娠中、腫瘍マーカーのカルシトニンの数値が1500まで上がった。医師は『すぐに中絶をして検査しなければ、体中にがんが転移し、あなたの命はなくなる』と言った。私はショックを受けたが、すべての検査を拒否した。もちろん、それは大きな危険があったが、たとえ自分の命を失うことになっても、自分で子どもの命を消すことはしないと決心した」。

 その後、インナ氏は無事に出産した。「生まれたマリアンナは、今は5歳。とても陽気で、人づきあいの好きな女の子」と微笑み、「人間の体の持つ可能性は、完全には解明されていないと思う。どんな医師でも、わからないことはまだある。つまり、人はそれぞれ自分の試練を乗り越えることができる、ということ。その時に正しい選択をすることが大事である」と、自身の経験を振り返った。

原子力の事故は一生ついてまわる

 インナ氏は、福島の悲劇に関して、ウクライナ人は深い同情の気持ちを抱いているとし、「汚染された地区に住む方は、たとえ1年に1度でも、一定の期間、汚染のないところで過ごすことが大切だ。特に、子どもを保養に連れて行くことは、とても重要。それぞれに事情があることは承知しているが、病気にかかる可能性を少しでも減らすために、子どもたちを汚染のないところに、できるだけ連れて行くようにしてほしい」と呼びかけた。

 「将来、家族の誰かが病気にかかってしまうと、『あの時、あれをしておけばよかった』という思いに駆られる。だから、自分は最善を尽くしたと思えるように、今できることは全力でやっておかなきゃならない。原子力の事故は、一生容赦なくついてまわる」。

われわれは、どんな地球を孫たちに残すのだろう

 「私は、原子力発電所を使ってはならないと考える。チェルノブイリのような爆発が、もう一度起きたら、その被害は地球規模のものとなり、地域が破壊され、何万という人々が故郷を奪われ、健康や命も奪われる」と述べて、次のように続けた。

 「私たちのおじいさん、おばあさんは、放射能や化学物質に汚染されていないきれいな土地、遺伝子組み換えでない作物を残してくれた。近代科学の発展は、少数の独占的な資本家の利益にのみ貢献し、彼らは、たった1世紀の間に地球を危険なものにしてしまった。私たちは、どんな土地を孫たちに残すのだろうか」。

 インナ氏は「日本の人は、もっとも安全なエネルギー源を探し出し、美しい自然と人々の健康を守っていくと信じている。私たちは協力して、次の世代にこの地球を残すために、できるすべてのことをしていかなければならない」と訴えた。

放射能の原因を作ったのは大人、犠牲を受けるのは子ども

 内田ボブ氏は、チェルノブイリ原発事故を受けて1988年に発表した『おお チェルノブイリ』を演奏した後、「本当に、これから日本はどうなってしまうのか。地域の問題ではなく、どこに原発があっても大変なことだと改めて思った。これから時代を背負っていく人たちが、リスクを背負っていくということが悔やまれてならない」と述べた。

 久居高校演劇部は、チェルノブイリ原発事故から12年後に、子どもたちが絵と詩で綴った作品集『生きていたい!チェルノブイリの子どもたちの叫び』から朗読パフォーマンスを披露した。

 「一体、誰が放射能を育てたのか。どうして今になって。原因を作ったのは大人たち。そして今、その犠牲を子どもに負わせている。そう、大人たちは、過去の過ちを子どもたちに償わせた。でも、大人たちはただ黙ったまま、私たちの質問には答えようとしない。だから、償うのは私たち子ども。自分の命と引き換えに。あなたたち大人が命を大切に思うようになれば、あたしたちは人間の過ちを償い続ける」と、強烈なメッセージを伝えた。

 ラニヤップが『雨のベラルーシ』を披露した後、小室等氏は「福島で起きたことは『恐怖である』と、東京にいながら思った。そして、それは今も変わらない。非常に不当に、危険な目に遭わされている。他国に原発を売る前に、やらなければならないことがいっぱいある。しかし、そのことは触れられず、メディアでも騒がれない」と指摘した。

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です