「貧乏人は水を飲むな」は対岸の火事ではない ――政府が進める水道料金値上げと完全民営化 ~マスコミが一切報じない我が愛すべき「麻生さん」の「水道民営化」発言(佐々木隼也の斥候の眼) 2014.4.16

記事公開日:2014.4.16 テキスト
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(IWJ・佐々木隼也)

※本稿は、IWJ会員無料メルマガ「IWJウィークリー」第27号(2013年11月30日発行)より転載したものです。会員登録はこちら

 一部の若者層やネトウヨの心をがっちり掴んで離さない、麻生太郎副総理が2013年4月19日、米ワシントンDCにある超党派シンクタンクCSIS(米戦略国際問題研究所)での講演で、「日本の水道を全て民営化します」と宣言してから半年、この件について触れたマスコミはほとんどない。

 取り上げたメディアは、IWJのほかには週刊東洋経済だけである。同誌の2013年5月11日付の記事をみると、「麻生太郎副総理が米国の保守系シンクタンクでの講演で、水道事業をすべて民営化すべきだと発言したことが、話題になっている」と、短く紹介されている。

 不思議なのは、麻生氏の発言が「話題になっている」と、この記事は書いているが、前述の通りこの件が報道された形跡は一切ない。「話題にはなった」が「報道は控えた」ということなのだろうか。

 メルマガ「IWJウィークリー」第13号・14号でも堂々カムアウトした通り、隠れ麻生ファンの一人である僕は、この状況に違和感を覚え、徹底的に取材を行った。すると、この発言が麻生氏のいつもの「失言・暴言」の類いではなく、安倍政権と官僚が裏で進める「国富の外資への切り売り」政策に裏打ちされた、「真実」を口に出しただけであることが明らかになってきた。

 そうした事実に背筋が凍りつつも、やはり隠れ麻生ファンの一人として、ひとしずくの親愛と敬意の念を込めて、今号でも「麻生副総理」ではなく、「麻生さん」と呼ばせていただきたい。また、僕がなぜ麻生ファンとなったのか、ということは稿を改めて書くことにしたい。本稿では、麻生さんですら口に出さなかった、官僚たちの本音について、筆を進めたい。

水の安定供給のためには、水道民営化は「必要不可欠」?

 麻生さんの発言と連動して、竹中平蔵氏が「産業競争力会議」で「インフラの運営権の民間への売却」に言及し、その先行モデルとして「大阪府市の上下水道・地下鉄等の統合および運営民営化」と明記された資料を提出したことは、前号(続報)外資が狙う日本の水道事業 ~マスコミが一切報じない我が愛すべき「麻生さん」の「水道民営化」発言(<IWJの視点>佐々木隼也の斥候の眼 IWJウィークリー14号より) 2013.8.22で紹介した通りだ。

 では、実際に政策を進める官僚たちの動きはどうか。

 政府内で、水道事業の民営化を進めているのは、厚労省と経産省である。彼らは7月24日から「水道分野における官民連携推進協議会」を開き、民間の水道会社などと、「民営化への具体的な道すじ」や「民営化後のあり方」を話し合っている。

 同協議会のHPをみると、「近年、人口の減少や節水意識の浸透、産業構造の変化等により、給水量の伸びが期待できないことや事業に携わる専門職員の減少など、水道分野を取り巻く環境が年々厳しさを増している」と問題提起したうえで、「これらの課題の解決には、運営基盤の強化を推進することが不可欠であり、事業経営の効率化や広域化と併せて、地域の実情を勘案した水道事業者等と民間事業者の連携の推進が重要です」と書かれている。

【厚労省HP「平成 25 年度 水道分野における官民連携推進協議会の開催について」】

 僕は、麻生さんの発言の真意を知りたい一心で、本協議会を主催する厚労省の担当者に、その目的や外資参入への懸念について、根掘り葉掘り聞いてみることにした。麻生さんが「水道民営化」を是としているのならば、それが「日本の国益につながる」という確証を得たい、というのが隠れファンとしての当然の心理である。

 しかし結論から言うと、その希望は打ち砕かれることになる。政府に、「国民一人ひとりへの安価で安定的な水の供給」という意識は、どうやらないようなのだ。

「日本の水道は安すぎる」!?――水道料金値上げを画策する政府

 現在の改正水道法ではすでに、市町村の同意があれば、民間企業が水道事業そのものを経営する、いわゆる「完全民営化」は認められている。しかし今のところ、リゾート地のような採算の取れない小規模な地域では、民間に完全委託された水道事業が存在しているものの、市や町の単位で「完全民営化」がなされているところは皆無だ。

 取材に応えた厚労省の担当者は、こうした事例をあげながら「経営も含めた『包括的な委託』(いわゆる完全民営化)や、『一部の技術委託』など、自治体それぞれの特色にあった民間委託の選択肢を広げていく」と、同協議会の目的を説明し、「ただ、あくまで『健全な水道事業の運営』がゴールだ」と強調した。

 「健全な水道事業」とはつまり、水質管理や施設の危機管理の他に、安定した水道料金の維持を意味するのだろうか?

 しかし民営化した場合、施設の老朽化に伴う大規模な改修工事により、その莫大な費用が水道料金に上乗せされてしまうのではないか、という懸念がある。

 これについて担当者は「国としては『適正な水道料金』を推奨している」と語った。

 「市町村によっては、水道料金を安く抑えて、その不足分を一般会計から出すということをしている自治体もある。それはそれで良いのだが、やはり『適正な価格』というのはあると思っている」と、担当者は水道料金の値上げに肯定的な見解を示した。

 さらに担当者は、「安すぎる水道料金で無理をして、投資すべき投資をせずに、事業を行なっている状況の方がむしろ、施設は老朽化するし、事故の頻度は上がるし、危機管理上もよろしくない」と付け加えた。

 驚くべきことに、政府は「日本の水道料金は安すぎるので、『適正な価格』まで値上げすべきだ」と各自治体に指導しているのだ。しかしこの『適正な価格』とは、一体何なのだろうか。誰がどのような基準で判断し、一体どの程度の金額を指すのが。

 この当然の質問に対して、担当者は困った様子で言葉を濁した。目標の定まらない、ゴールの設置されていない値上げを、政府は進めていくということなのだろうか。

 生活に必要不可欠な「水」は、当然全ての国民に無理のない価格で分配されるべきであり、価格もその水準を目指すべきである。水が乏しい途上国ならいざ知らず、水源の豊富な日本においては、多少国が負担してでも、安く安定的に水を届けることは十分可能なはずだ。実際この国では、地域によって水道料金はバラつきがあるものの、きちんと自治体が管理し、地域住民に無理のない価格設定を維持している。

 しかし、「完全民営化」が推進され、収益を第一に考える民間企業が経営に参入した場合、設備投資等に掛かった費用を水道料金に上乗せしようとするのは想像に難くない。「『適正な価格』への値上げ」などと曖昧なことを言って、企業による価格のつり上げを後押ししている現状であればなおさらだ。

 水道を完全民営化する恐ろしさを、政府は自覚しているのだろうか。世界に目を向けると、水道事業の民営化によって外資が参入し、水道料金が何倍にも跳ね上がる事例が頻発しており、時には紛争にまで発展している。

「貧乏人は水を飲むな」――世界中で勃発する水紛争

 フィリピンのマニラ市では、1997年に世界銀行の提案をのむかたちで、水道事業を民営化した。イギリスのユナイテッド・ユーティリティーズ社と米国のベクテル社(※)、日本の三菱商事が参加した。この民営化の強行により、水道料金は4~5倍にまで跳ね上がった。

 なんと、低所得者層は、水道メーターの設置料4000ペソを払う金がないという理由で、水道の使用が禁止された。さらに、水道が使用できない人に水を分けたり、売ったりすることまで禁じたのだ。

 こうした事例はフィリピン以外にも、世界中で後を絶たず、ボリビアでは死者が出る紛争にまで発展した。

 1999年、ボリビア第三の都市コチャバンバ市では、フィリピンのマニラと同様、世界銀行の主導の下、水道事業が完全民営化され、ベクテル社が買い取った。ベクテル社はすぐさま、ダムの建設費用の調達のためとして、水道料金を200%以上も値上げした。結果、最低月額給与が100ドルに満たない町で、水道の請求書は月額20ドルに達した。

 コチャバンバ市において、20ドルは5人家族が2週間食べる食費に相当する金額である。当然この大幅な値上げは、家計を直撃した。さらに、ベクテル社は「天から降る水の利用権は契約上、我社にある」として、雨水の利用にまで料金の支払いを要求し、挙句、雨水を個人が溜めることさえ禁止する法案を作らせたのだ。

 もはや正気の沙汰ではない。企業が水道事業を握ると、ここまで際限ない横暴がまかり通ってしまう。

 耐えかねた住民たちは大規模なデモを起こし、「ベクテル社の水道事業からの撤退」を訴えた。これに対して当時のウゴ・バンセル・スアレス大統領は武力での鎮圧を命じ、6人の死者と175人の負傷者を出した。この騒動はボリビア全土に広がり、血なまぐさい紛争へと発展した。

 大規模な無期限ストライキや、激しい国民からの抗議の声により、結果的にベクテル社は事業撤退を表明し、ボリビア政府も最終的にこれを受け入れた。しかし、ベクテル社は撤退後、なんとボリビア国民に対し2500万ドルの損害賠償を請求した。

(※)ベクテル社
石油コンビナート、発電所、ダム、空港、港湾など、世界中のありとあらゆる建設事業を請け負う、世界最大級の多国籍企業。米国国内でのベクテル社の原子力発電設備のシェアは50%を超え、韓国の古里原子力発電所3号機・4号機の設計も担うなど、世界中で多くの原子力関連設備の建設に関わっている。

日本でも、青森県の日本原燃六ヶ所再処理工場の設備建設への技術参加をはじめ、関西国際空港、東京湾アクアラインの建設などに関わっている。2003年4月17日、イラク復興事業として、発電施設や水道、空港などのインフラ整備で総額68億ドルの受注を発表し、話題になった。

日本も対岸の火事ではない

 こうした外資や民間企業による乗っ取りへの懸念について、先に紹介した厚労省の担当者は、「市場が開放されたとしても、水道局が勝手に外資に全面委託するというのは、普通に考えてないと思う。値上げについても言えることだが、市町村の議会の同意もいるし、住民への説明もいる。突然外資が乗っ取るという懸念はない」と、否定する。

 確かに日本は、ボリビアやフィリピンのように世界銀行の管理下に置かれているわけでも、水道インフラが未整備の発展途上国でもない。

 しかし、こうした「貧乏人は水を飲むことを禁ずる」という事態は、決して対岸の火事ではない。TPPなどに代表される「市場開放とグローバリズム」の波は、日本においても、ボリビアやフィリピンで起こった惨禍を引き起こす危険性を孕んでいるのだ。

 日本が交渉に参加しているTPPでは、「国の独占的な市場占有」は「非関税障壁」とみなされ、「これを取り除き、公平・公正な自由競争を推進すること」が要求される。そしてTPPには、こうした「非関税障壁」について、海外企業が「国の規制や独占的な市場占有によって、本来得られるべき正当な利益を得られなかった」と判断した場合、その国を相手取って、損害賠償の訴えを起こすことができる、「ISD条項」が盛り込まれているのだ。

 この「ISD条項」においては、裁判はその国の裁判所ではなく、米国ワシントンDCの世界銀行の建物内にある「紛争解決機関」で、密室のなかで行われる。過去の「ISD条項」による賠償金は、数千億円という莫大な金額に及んだ事例もある。この高額な賠償金額は、その国の政府を「萎縮」させるのに十分な効果を発揮する。

 「日本がTPPを批准し、参加した場合、ほぼ100%公営である水道事業が「非関税障壁」とみなされる可能性は高い。日本の水道民営化の裏には、この「ISD条項」の「萎縮効果」により、「訴えられる前に国内で規制緩和をして、非関税障壁を取り除こう」という意識も作用しているのではないだろうか。

 厚労省の担当者は、この「TPPのISD条項によって外資に訴えられる懸念」について、「採算が取れそうな都市部については、民間企業は参入したいと考えるだろうが、そういうところは公共の方も人材が揃っており、技術もしっかりしているので、自治体も『民間が入らなくても良い』と考えるだろう」と半ば的はずれな回答を返した。 

 TPPではそもそも、自治体が民間に任せる意向であろうがなかろうが、外資が「自治体が不当に水道事業を占有している」とみなせば、訴えを起こすことが可能となってしまうのだ。

 曖昧な『適正価格』への値上げを推進し、TPPによる外資参入の恐ろしさを問題視しない、政府のこうした「不用心さ」には不安を禁じ得ない。麻生さんの「水道民営化」発言が、世界で起きている水を巡る紛争や、こうしたTPPの恐ろしさを踏まえ、対策をきちんと練ったうえでの発言であることを願うばかりだ。

 …ちなみに、こうした海外からの投資への対抗措置として、米国では「エクソン・フロリオ条項」という規制がある。この「エクソン・フロリオ条項」の「日本版」を提唱したのが、麻生さんの盟友、故・中川昭一元財務相である。そして「日本版エクソン・フロリオ条項」を訴えた政治家がもう一人いる。山本太郎参議院議員である。

 山本議員は質問主意書で、この麻生さんの「水道民営化発言」に触れ、「日本版エクソン・フロリオ条項」の導入が必要なのではないか、と内閣に訴えている。この条項の内容や、山本議員の質問主意書の中身については、前号で紹介しているので、そちらをご覧いただきたい。

現実となりつつあるもう一つの麻生発言――「特区」で学校民営化

 麻生さんの水道民営化発言だが、実は同講演では、もう一つの民営化にも言及していた。それが、「学校の民営化」である。

 問題の発言は、同講演で水道民営化に言及したすぐ後に出てくる。以下、その発言部分を掲載する。

 「例えばいま、世界中ほとんどの国ではプライベートの会社が水道を運営しているが、日本では自治省以外ではこの水道を扱うことはできません。しかし水道の料金を回収する99.99%というようなシステムを持っている国は日本の水道会社以外にありませんけれども、この水道は全て国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものをすべて、民営化します

 いわゆる学校を造って運営は民間、民営化する、公設民営、そういったものもひとつの考え方に、アイデアとして上がってきつつあります」

 麻生さんが「アイデアとして上がってきつつある」というのは、麻生さんが議長代理、安倍晋三総理が議長を務める「産業競争力会議」の場で、という意味である。麻生さんの講演2日前の4月17日、この会議で竹中平蔵主査が提出した資料に「水道民営化」が盛り込まれていることは、前々号でも触れたが、なんとこの資料には「学校民営化」についてもしっかり言及されていたのだ。

 資料にはこう書かれている。

 「官業の民間開放の一環として、公立学校の民間委託(公設民営)」「『公設民営学校』についてもまず特区での推進を検討」

 この「公設民営学校」が検討されている「特区」とは、安倍政権が11月5日に閣議決定し、8日に衆議院で審議入りした「国家戦略特区」のことである。

 麻生さんが講演で紹介した、この竹中氏のアイデアの一つが、すでに実現する可能性があるのだ。もう一つのアイデアである「水道民営化」についても、今の安倍政権なら実現させようとするのではないだろうか。

 完結の予定だったが、続編あるかも的な末尾となってしまった。なにせ、衆院選・参院選で大勝し、「最強の内閣」になってしまった安倍政権の「政策具現化能力」たるや、僕らの予想を遥かに上回るのだからしょうがない。できることなら、かつてないリーダーシップで日本の国益にかなう政策を次々実現していく麻生さんを礼賛し、評価する記事を書きたい。我が愛すべき「麻生さん」、こんなレポートを僕に書かせないでくれ、と願う。

 …などという願いもむなしく、11月11日、大阪市の橋下徹市長が、市の水道事業の運営権を売却して民営化する方針を発表してしまった。竹中平蔵氏の産業競争力会議での提言を、そして「麻生さん」のCSISでの発言を、橋下市長が実現に向けひた走る。彼らはいったいどこへ走っていくのだろうか。IWJに入ってしまった以上、途中で見逃すことは(隠れ麻生ファンとしても)許されない。早く「完結」させたいと願いつつ、これからもこの問題を注視していきたい。

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