「ヨーロッパとの大きな違いは、個人通報制度の有無」 ~『ヘイト・スピーチとは何か』師岡康子氏 2014.2.23

記事公開日:2014.2.23取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「2002年、拉致問題の表面化に伴い、在日韓国・朝鮮人に対する攻撃が激しくなり始めた。その頃は『嫌がらせ』と言い、ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムという言葉はなかった」──。

 2014年2月23日、大阪市天王寺区のクレオ大阪中央で、岩波書店から出版された『ヘイト・スピーチとは何か』の出版記念として、著者の師岡康子氏をゲストに迎え、トークセッションが行われた。

 師岡氏は「日本は、人種差別撤廃条約に入っている。しかし、差別禁止法を作らなくてはならないのに、手をつけない」と指摘し、さらに、「イギリスの警察や検察にはヘイト・クライム担当部署があり、法制度が整っている。それだけ、ヘイト・クライムや差別が多いということだが、それらを放置しないのだ」とヨーロッパの実情を語った。

※ 2月23日18時15分より収録したものを、3月3日21時より大阪1CHで録画配信しました。
■ハイライト

  • 講師 師岡康子氏(弁護士、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員)

拉致問題の浮上で、人種差別を隠さなくなった日本社会

 トークセッションは、コリアNGOセンター事務局長の金光敏氏の司会により、対談形式で始まった。金氏は「2002年に拉致問題が大きく取り上げられてから、在日韓国・朝鮮人の子どもや学校に対する攻撃が激しくなり始めた。師岡さんは弁護士として、人権擁護の点から、その調査をしていた」と説明した。

 師岡氏は「その頃は『嫌がらせ』と言い、ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムという言葉はなかった。当時、弁護士グループが朝鮮学校の中・高校生にアンケート調査を行ったが、女生徒の半分は嫌がらせを受けていた」と振り返った。

 金氏が「その時に、流れが大きく変わった。それまで(在日韓国・朝鮮人を)黙認していた人たちが、表立って差別的な意志表示をするようになった」と言うと、師岡氏はその背景について、「村山談話はあったが、日本政府は朝鮮半島の植民地時代について、ちゃんと向き合って来なかった。拉致問題により、一転して『北朝鮮は加害者、日本は被害者』ということになってしまった」と語った。

アメリカ、イギリスの人種差別への取り組み

 当時は、ヘイト・スピーチを制限することに、表現の自由の点で反対する弁護士もいたといい、師岡氏は、人権と差別に関する法制度を本格的に勉強するため、アメリカとイギリスに留学した。「イギリスのキール大学大学院に留学した時、留学生のための警察主催のオリエンテーションがあった。警察官から、留学生は人種差別を受けることがあると言われ、その対処法として、法律などのレクチャーを受けた」。

 そして、今回の著書に関しては、「どの国にも差別の問題はあって、法整備をすると、必ず、表現の自由の問題が立ちはだかる。それで、何度も改正や検討をしてきている、ということを伝えたかった」と述べた。

 金氏が「アメリカでは(表現の)自由を選び、規制には消極的のようだが」と水を向けると、師岡氏は「いくつかの州に差別規制法はあるが、ジェノサイド(民族浄化)やハラスメントは、連邦法でも規制している。ヘイト・クライムには厳しく取り組んでいる」と答えた。

現行法では不十分、放ってはおけない

 「在特会の敗訴(2013年10月9日、京都朝鮮学園裁判の判決)を見て、法制化をせずとも現行法で対処できるのではないか、との意見も多く出たが」との問いかけには、「しかし、毎週、排外デモは続いている。また、判決では『不特定多数には適用できない』と(現行法では不十分なことを)明言している。それを指摘しただけでも、ひとつの成果だ」と、師岡氏は見解を述べた。

 続けて、「国際的には、ヘイト・スピーチは表現でもあり、法制化は、乱用(拡大解釈)と萎縮効果も指摘されている。しかし、放ってはおけない。国連人権高等弁務官の年次報告の、ヘイト・スピーチ禁止などを織込んだ『ラバト行動計画』でも、そのバランスは課題になっている」とした。

個人通報制度の導入を無視する日本

 「ヨーロッパの法制度との大きな違いは、個人通報制度を導入していないこと。OECD34ヵ国で、日本と、もう1ヵ国だけが入っていない。個人通報制度とは、国内の裁判で解決できない場合、国際機関などに訴えることができる制度。そこでの結果は、日本の法案や判例にも影響し、日本の裁判所も、国際人権諸条約を意識せざるを得ない。民主党政権時に、加入寸前までいっていたのだが」。

 師岡氏はこのように語り、「日本政府が、差別政策をそのままにしていることが、ヘイト・スピーチやヘイト・クライムにつながっている。国連の人種差別撤廃委員会から『差別の実態調査をするように』と、2001年と2010年に勧告されているのだが、いまだ放棄したままだ」と批判した。

 金氏が「日本政府は、国連に『人種差別規制法が必要なほど、人種差別は存在していない』と答えている。しかし、今、起こっているヘイト・スピーチは、動かしがたい差別の実例となる」と述べると、師岡氏も同意し、「2013年1月の人種差別撤廃委員会への報告でも、日本政府は『差別はない』としているが、今では、京都朝鮮学園の判例やヘイト・スピーチなど、もう逃れようがなくなってきている。逆に私たちは、この機会を逃してはいけない」と語った。

「殺せ」という言葉は暴力、許してはならない

(…会員ページにつづく)

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