チーム宇都宮、社会を正したい「市民意欲」を実感 ~低投票率下の前回比増は「次」への弾みに 2014.2.15

記事公開日:2014.2.15取材地: テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 「マスコミは終始、『舛添 vs 細川』の構図で、今回の都知事選を取り上げた。その中で、得票が細川氏を上回ったことは実に大きい」──。2月9日に投開票された東京都知事選挙で、次点落選した宇都宮健児氏(弁護士)は、こう胸を張った。足立区、荒川区、葛飾区といった東京東部で、特に票が伸びたという。

 都知事選から約1週間後の2月15日、文京区民センター(東京・本郷)で、宇都宮氏の後援団体「希望のまち東京をつくる会」が開催した、今回の選挙戦を振り返る集会、「東京デモクラシー、起動中」でのひとこまである。「継続的な市民運動の一環に、選挙への出馬がある」と折に触れて強調してきた宇都宮氏。この日も、自身が展開する市民運動を、今後、どう発展させるかに、すでに意識が向いていることを示す発言を重ねた。

 ただし、今回の選挙戦を巡り、大いなる「不満」を抱いているのも事実。集会では、政策アピールの格好の場になるはずだった「テレビ討論」の大半が取り止めになったことが「残念でならない」と訴え、その原因を作った立候補者を痛烈に批判した。

■ハイライト

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入より御覧になれます。

一般・サポート 新規会員登録単品購入 330円 (会員以外)

 冒頭、宇都宮氏の陣営が、今回の選挙戦の中でもっとも印象深いシーンとしている、2月2日の、東京・渋谷のハチ公前広場で行われた、辛淑玉さんによる応援演説の様子をスクリーンに映し出した。

 「私は、宇都宮健児さんが大好きだ。私には投票権はないが、宇都宮さんが都知事にならなければ、私たちに明日はない」と声を張り上げるそのスピーチは、言ってみれば「魂の叫び」。収入格差の進展を背景に、東京の底辺でもがき苦しむ大勢の若者の声を、辛さんは、自分の半生に重ね合わせて代弁している。

 「私は、ここ渋谷で生まれ育った。高校は地元の都立第一商業だった。在学中は、朝は新聞配達をし、昼間は学校に行って、夜は焼肉屋で働く日々が続いた。空き缶やビール瓶を集めてお金に換えることもして、ようやっと生きてきた」「貧乏は嫌いだ。しかし、今の日本は、今の若い世代に、私と同じような生き方を強いている」「明日がない。仕事がない。こんな世の中にしたのは、これまでの政権と今の政権であり、その現実をちゃんと見ようとしなかったのは、これまでの都知事だ」──。

 その応援演説で、「私は、この土地に生きている。日本国籍を持った人たちと、一緒に生きている。さまざまな人たちが、この土地で生きている」とも強調する辛さん。「今や、東京はレイシズム(人種差別)のメッカだ」とし、自身が、レイシズム問題の克服を狙って、国際ネットワーク「のりこえねっと」を立ち上げたことに言及し、こう述べている。「宇都宮さんに『一緒にやってくれない?』と水を向けたら、二つ返事で了承してくれた。私に1票はないが、宇都宮さんを全力で応援する」。

 宇都宮氏がこの動画に接するのは、この日で2度目とのこと。「1回目は八王子の喫茶店で見たが、今日も涙が出てきた」と語った。

「今は、すがすがしい気分だ」

 今回の選挙結果について、「舛添要一氏(新東京都知事)に負けたことは非常に残念だったが、充実した戦いを展開することができた」と切り出した宇都宮氏は、「雪の影響で投票率は低かった。前回より16パーセントぐらい下がっているが、その中で、得票数と得票率は、ともに前回を上回っている」と続けた。

 今回の東京都知事選での宇都宮氏の得票は、約98万2000票で第2位(舛添氏は約211万2000票)、得票率は約20パーセント(同約43パーセント)だった。ちなみに、前回、2012年の都知事選では、宇都宮氏の得票は約96万8000票で第2位(猪瀬氏は約433万8000票)、得票率は約14パーセント(同約65パーセント)だった。

 「選対本部と事務局、さらには労働組合や政党を含む支援者が『チーム宇都宮』として強固なスクラムを組んだことが奏功した」──。宇都宮氏はこう力を込め、「早々と立候補を表明し、いわゆる『後出しジャンケン』的な(姑息な)戦い方を選ばなかったこともあり、今は気分がすがすがしい」と言明した。

「出馬した以上、討論番組を避けるな!」

 そして、宇都宮氏は「政策面では、ほかの候補者を圧倒していた自信がある」と言葉を重ねるのだが、その後は、やや表情を固くしながら「批判」の議論を展開。矛先は、テレビ局の報道姿勢に向けられた。

 「街頭演説の重要性は、前回の選挙でも感じたことだが、街に出てこない有権者の方が俄然多いのが現実。そういう層には、テレビを通して政策をアピールするのが一番なのだが……」。

 宇都宮氏は、テレビの「公開討論」が10回以上も流れたことが残念でならないと訴えた。「私は、政策を語る準備を整えて出番を待っていたが、合計3回しか行われなかった。これは有権者への情報提供という点で、大いに問題がある」。 

 3回のテレビ討論が、どれも実際は非討論型(=司会者と個々の候補者の対話形式)であったことも良くない、とした。「クロストークのテレビ討論が数多く実施されていたら、展開は違っていたはずだ。私には、舛添氏の勢いを崩す自信が十分あった」。

 宇都宮氏は「彼は厚労大臣時代に、生活保護の母子加算を廃止しているのに加え、介護保険料も引き上げている」などと、舛添氏に突っ込みを入れるためのネタをいくつも用意していたと明かした。その上で、テレビの討論番組がどんどんなくなった原因を生んだ、ある候補者を痛烈に批判した。

 「その候補者は『討論は嫌いだ』と出演を拒んだのだが、覚悟を決めて出馬した以上は、呼ばれたらどんな場所にも出ていって、自分の政策を堂々と語るのが候補者の使命ではないのか」。

市民運動をベースに、引き続きがんばる

 今後について宇都宮氏は、「市民運動の中から、スターを作り出すことが肝要」とし、韓国のソウル市長、朴元淳(パク・ウォンスン)氏は、まさにその「成功モデル」と強調した。朴氏は、韓国の主力市民運動グループである「参与連帯」の創設にかかわった人物だ。

 宇都宮氏は言う。「今、日本の民主主義が危うくなっており、憲法も危うい。一方では、原発の問題も気がかりだ。要するに、市民運動の輪が広がりやすい状況なのだ。したがって、もう何段か、市民運動の輪が広がれば、(市民運動のスターが)都知事選に勝つ可能性は十分出てくるし、政権を倒すだけの影響力を持つことも不可能ではないと思う」。

 宇都宮氏は「自分の世代での実現が不可能でも、若い有志たちが実現させるに違いない」と続け、「若手の活動家の中には、将来のスターの卵が何人もいるように感じられる。もっとも、私にはバイタリティーがあるので、私自身も引き続き、皆さんとがんばっていくが」と述べた。

 司会役の男性スタッフは、今回の選挙戦を通じて、市民参加型の選挙活動が前進したことを実感したと表明。「前回の都知事選から今回までの間に、山本太郎氏(参院議員)や三宅洋平氏(日本アーティスト有識者会議代表)という、市民運動のリーダ的存在が立候補したことが大きい」と分析し、「彼らの選挙活動を、ボランティア・スタッフとして支援した若い市民が、今回は、われわれの陣営の手助けに回ってくれた」とした。

 さて、今回の都知事選で話題を集めたものに、スマートフォン(スマホ)やツイッターを活用する選挙運動「ネット選挙」の解禁がある。宇都宮氏は、現時点ではテレビ出演で政策を訴えるのが効果的としつつも、今回はネット選挙にも力を入れた旨を話している。事実、宇都宮陣営のスタッフはスマホを使い、街頭演説をインターネット中継している。

「ネット選挙」のバナー戦略は写真がカギ

 この日の集会では、担当したスタッフの男性が「ネット選挙」を振り返り、バナー(ウェブサイトに示される垂れ幕型の広告)の使い方をどう工夫したかについて話した。「ブロガーの座間宮ガレイ氏のレクチャーを1月末に受け、それを参考にして『バナー戦略』を急いで練った。ポイントは、自分たちが伝えたいことを、サイト閲覧者に端的に伝えることにあった」。

 スクリーンには、「ギョウザと呼ばないで下さい、宇都宮けんじです」「KO!ひんこん」「宇都宮けんじを見逃すな!」などとコピーが表記された、実際のバナーが次々に映し出された。「陣営内にバナープロジェクトを立ち上げ、フェイスブックやツイッターにどんどん流した。バナーの数の合計は、われわれが手掛けたものだけで優に300を超えている。『とにかく、たくさんあればいいよね』というノリで大量生産した」。

 言うまでもなく、示されたバナーには概して宇都宮氏の写真が載っている。「色の具合を含め、写真が魅力的であることカギ。魅力的な写真を見ると、それを使ったバナーを作りたくなる」。コミカルなものも、かなり作ったとのことで、宇都宮氏の頭部がクローズアップされた「はげまして、光り輝く東京へ」といったバナーも紹介され、会場の笑いを誘った。

寄付の件数が大幅増加

 「すでに、マスコミの取材で『ネット選挙で、どれだけ票が得られたか』という質問があった」と司会役の男性スタッフは明かす。「具体的な票数を把握することは難しいが、他の候補者の陣営に比べて、ネット選挙を活発に進めたことは間違いないと思う。若い有権者を政治に参加させる手法として、今後も注目していきたい」。

 その男性スタッフからは、チーム宇都宮の、今後の活動スケージュールに関する言及もあった。「今回の選挙戦で得た、市民間のつながりの継続と再構築が大きなテーマのひとつ。3月16日に開く『振り返り集会』は、前向きな内容にするつもりだ。『舛添新都知事は1年持たないだろう。われわれは武装解除せず、このまま突き進むべきだ』といった声を上げる仲間もいる」。

 なお集会では、今回の選挙活動の収支報告も、途中段階ながら行われた。会計担当の女性スタッフは「何とか、赤字にならずに済みそうだ」と声を弾ませ、その要因を次のように説明した。

 「2012年の都知事選と比べて、寄付の件数が飛躍的に伸びた。具体的には、従来の振込みによるものに加え、街頭で直接寄付を募るやり方を導入したことが成果を上げた。前回は、件数が1400件程度だったが、今回は2100件程度に増えた」。

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入より御覧になれます。

一般・サポート 新規会員登録単品購入 330円 (会員以外)

関連記事

「チーム宇都宮、社会を正したい「市民意欲」を実感 ~低投票率下の前回比増は「次」への弾みに」への2件のフィードバック

  1. うみぼたる より:

    山本太郎さんや三宅洋平さんの選挙フェスから、選挙が面白くなってきました。私は都民ではないのですが宇都宮さんの選挙に一喜一憂しておりました。今回の宇都宮さんの選挙で掲げたデモクラシーとは、”多国籍企業が支配する世界からの脱却・これまでとは違う新しい社会システムへの移行”を連想させます。この表現はローカリゼーションやスモールイズビューティフルをかかげる活動や映画からお借りしました。
    グローバルからローカルへが第4の革命と言われるのですから、おお!宇都宮さんたちは最先端を走っているのでは!
    IWJのアーカイブで映画「幸せの経済学」監督のヘレナ・ノーバーグ=ホッジ氏の講演を再視聴してイメージを膨らませています。
    その一方で私のもとに届いたメールには、大雪で山梨・長野・群馬・栃木・埼玉の農家のハウスが倒壊とか、お野菜の出荷が難しいとか、小松菜やブロッコリーが全滅というお知らせ。
    大規模な災害はローカリゼーションにはネックになるのでしょうか。
    (逆かな。ローカリゼーションが進めば、災害は早急に対応がなされ被害は小さくなっていくはず。)

  2. emmirria より:

    選挙を支えてくださっていた方々、お疲れ様でした。宇都宮さんの「困難だからこそたたかう必要がある」という言葉に勇気をもらいました。東京都民ではありませんが、これからも応援していきます。ありがとうございました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です