【特別寄稿】がれき広域化の闘いから見えたもの(Ⅱ)~「腐敗の絆」と手を切るか、メディアの正念場(環境ジャーナリスト・青木泰)

記事公開日:2013.12.21 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJ編集部)

 今年、東日本大震災で発生したがれきの広域処理が、ひっそりと終息した。終了予定時期の前倒しもさることながら、当初400万トンと見積もられていた広域処理予定のがれきは、12万トン、当初予定のわずか3%が処理されただけだった。

 2012年、多くの国民、そしてネット世論を巻き込んで大々的に「絆キャンペーン」を張った大手メディアで、このがれき広域処理の「破綻」を報じているところはあまりに少ない。終了したことを知らない国民も少なくないだろう。

 この事業は蓋を開けてみたら、「がれきの総量の水増し」「処理の二重発注」そして「予算の流用化」など、まるで正当性のない、国民の血税の無駄遣い、どころか予算の横領とも言える犯罪的なものだった。こうした様々な問題が明らかになった後も、このキャンペーンに加担したメディアは、自らの報道の総括を行なっていない。

 今回、がれきの広域処理の問題点・不法性を指摘し続けてきた、環境ジャーナリストの青木泰氏に、その闘いの中で見えた大手メディアの致命的な欠陥、他方で広域処理を破綻に追い込んだ市民たちの奮闘について、ご寄稿いただいた。今なお続く、官僚による復興予算流用化との闘いの今後をふまえ、必読の総括となっている。ぜひご覧頂きたい。

┏━【特別寄稿】━━━━━━━━━━━━━
◆◇がれき広域化の闘いから見えたもの(Ⅱ)
「腐敗の絆」と手を切るか、メディアの正念場◆◇
2013年10月15日 環境ジャーナリスト 青木泰
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 「被災地のがれきを全国で受け入れることは、被災地の復興につながる」――。

 確かに絆キャンペーンでの「被災地との絆を強める」と言う点は、誰もが賛同できた。しかし、キャンペーンの具体策として示されたがれきの「広域化処理」は、放射能汚染物やごみの処理処分の原則から大きく外れたものだった。

 まず、このキャンペーンは、「拡散、焼却、希釈をしない」という放射性物質の処分管理の原則に反していた。がれきが放射能汚染のおそれがあるからだ。

 また、がれきという震災廃棄物を発生地から遠くはなれて処理することは、「ごみ(廃棄物)は、発生地で分別・資源化処理することにより、ごみ処理量を減らすことができる」と言うこみの処理処分の原則にも反していた。本来、発生地で処理することで資源化できるものと有害物を分け、処理するごみの量を減らすことができるのだ。

 にもかかわらず大手メディアは、この政府広報を新聞紙上に見開きの2ページにわたる全面広告として掲載し、CMを打った。本来行政を監視する役割を持ち、したがって数々の特典を持つメディアが、国論を2分するがれきの広域化政策を巨大広告として宣伝したのだ。

 新聞には大津波で破壊されたがれきの山が大きく掲載され、「がれきの処理が無くては、被災地の復興は無い」と言うメッセージが効果よく掲載されていた。

 大手メディアは、このCMの効果に自らも縛られ、がれきの広域化については、地方局の末端まで、環境省や行政発表をほとんど垂れ流し、これに批判するメッセージや声は無視し続けた。

 これに対して住民サイドは、ネットを活用し、創意工夫にあふれた反対活動を続け、結果、がれきの広域化は破綻した。全国の住民の力で、危険で、無駄ながれきの広域化は阻止することができたが、環境省の役人たちは、巨額の余った復興資金の流用化を行った。

 がれきの広域化は、がれき量の架空見積もり、同じがれきの2重契約、データ操作、データ隠しなど環境省の主導の下、法令違反を重ねた「腐敗の絆」(岩上氏談)の実態を持つに至ったが、この間この問題を取り上げる大メディアは無く、従来リベラル誌を自認する週刊誌や月刊誌でさえも、無視を決め込み今日まで来た。

 「がれき広域化の闘いから見えたもの(Ⅰ)」で書いたように、復興資金の流用化は、他人の不幸を利用し、自らの懐を肥やす、もっとも恥ずべき行為である。社会の堕落のきわみであり、大メディアは、今この件に批判のペン・剣をあげることができるか、正念場に来ている。

<何がメディアの問題だったか?>

(1)国論を2分する問題に政府広報のCM

 メディアのがれきの広域化に対する基本姿勢が表れた代表的なものに、絆キャンペーンに基づく政府広報の大CMを、新聞が掲載したという問題がある。

 2ページの見開きの全面広告では、がれきの山の写真が紙面を覆うように掲載され、文字は左上から右下にかけて3つの言葉が並べてあった。(*1)

「復興を進めるために乗り越えなければならない壁がある」(左上)

 「2012年2月24日 石巻市」(がれきの山の説明)(中央)

 「みんなの力でがれき処理」(右下)

 新聞社は、紙面の内容にかかわる編集部門と、販売やCMなどの広告宣伝に係わる営業部門は、決定の仕組みは異なり、紙面の内容は、広告のスポンサーで「ある」と「ない」にかかわらず、「影響されることはない」というのが建前であろう。「スポンサーであっても、不祥事を起こせばニュースで取り上げる」と。

 しかし、がれきの広域化処理を推進する政府広報のCMを、大々的に広告し、絆キャンペーンに乗ったことにより、各メディアががれきの広域化を「是」とする立場に大きく傾いたことは、事実であろう。(その中でも、各新聞社毎にどのような違いがあったかは、ここで論じない)

 当時、国論を2分したがれきの広域化問題は、下記のような幾つかの論点があり、独自の視点で迫ることが十分可能であった。

・広域処理しようとしているがれきは、放射能汚染されていないとしているが、本当か?

・汚染がれきを焼却処理しても、バグフィルター等で99,99%除去できると言う環境省の見解は本当か?

・広域化がれきの受け入れは、東日本の汚染地域の自治体で行う。と発表した環境省の約束は、守られたのか? 静岡県島田市や大阪市、北九州市、富山県そして秋田県などの非汚染地域に持ち込まれたが、この点の追跡取材はあったのか?

・がれきの広域化処理の政策立案にあたって、なぜ全国の自治体に事前相談がなかったのか? そして受け入れに反対した自治体の見解はどのように伝えられたか?

 上記のような個別論点を、取材活動を通して煮詰めて行けば、がれきの広域化に関して傍観者的対応は取らなかったのではないか。これらの論点に迫って報じたのは、東京新聞の「こちら特報部」など一部の地方紙だけだった。

 今問題となっている復興資金の流用化の問題が、こうした政府広報と一体となったメディアの在り方の中で産まれたとしたら、大手メディアはどのような総括を出すのだろうか?

 結局、政府広報によるCMを出したことにより、スポンサーの意向に逆らえなくなったということならば、その点が最大の問題となる。

 大手メディアはこの反省を踏まえ、今後国論を2分する問題は、政府広報のCMを掲載したり、権力監視の役割を放棄しないという約束ができるのだろうか?

(2)安全性の問題は、「試験焼却」に集約 ――なぜ疑問が出ない?

 ① 安全性の論議は、試験焼却に預けてよかったのか?

 環境省は、安全性の問題は「試験焼却を行い確認する」と言うことで、乗り切ろうとした。

 東京都への広域化導入にあたって、大田清掃工場や品川清掃工場で試験焼却を行い、そこで安全性を確認しながら進めるとしてきた。そんな中、静岡県島田市での焼却試験は、非汚染地域への初めて導入ケースとして注目された。そして、この「試験焼却を行った上で、がれきの受け入れを始める方式」を改めて「島田市方式」、「島田モデル」と銘打って進めてきた。

 静岡県島田市が、試験焼却を条件に議会でがれき受け入れを決めた時(2012年3月15日)の新聞報道は、東京新聞の親会社である中日新聞では、「島田市―がれき月末めど着手」と1面トップで掲載し、関連3面をがれき受け入れ決定を称賛するような記事で満たした。

 1面では「島田モデル広がりに注目」と見出しを打ち、「東日本大震災からの復興の足かせとなっている大量のがれき。島田市が(岩手県)大槌、山田両町のがれきを本格的に受け入れると表明したことで、国が推進する広域処理化に弾みがつく可能性もある。」と解説することで、絆キャンペーンに乗った姿勢を明らかにした。一方、9000余の反対署名で市民が心配した「安全性の問題の検証」は、「試験焼却でクリアする」と文面上は済ませている。

 中日新聞は「住民の声は根拠がない不安感だ」として、次のように書いている。「しかし最終処分場周辺の住民や母親ら不安を抱える市民がなおいるのも事実だ。市は一層の粘り強い説明が求められる」。

 住民の不安感の背景にある「安全性への疑問」に対して、科学的に検証することなく、「市が説明すれば事足れり」としているのだ。

 そして、「桜井勝郎市長は、会見で『ぜひ島田市の取り組みやデータを生かしてほしい』と訴えた。島田市をモデルに支援の輪が広がるか注目される。」と結び、がれきの処理と島田市の受け入れに対し、称賛する翼賛記事としてまとめている。(ちなみに桜井勝郎島田市長は、今年5月の市長選で、現職市長でありながら落選した)

 中日新聞を引き合いに出したが、他の新聞もほぼ同様の報道姿勢だった。

 安全性は、「試験焼却」によって全て検証確認されるかのように行政は説明してきたが、ではどういう問題を持っていたか?

 ② 試験焼却は、科学的な「試験」だったのか?

 中日新聞では、試験焼却によって安全性が確認されたかのような記載になっているが、本当なのだろうか? そもそも試験焼却は、次のような問題点を孕んでいる。

(Ⅰ) 試験焼却と言いながら合否判定の基準を示さず

 通常入試試験や各種の資格試験では、合格基準や合格枠が示され、試験によって合否が決定する。しかし今回のがれきの受け入れに当たっての試験焼却では、全て合格になる仕組みである。不採用になったという話は聞かない。問題があっても総てコネクションで裏口入学させるような仕組みである。

 そもそも事業を進めようとしている事業者自身が、委託業者を定めて試験するのだから、業者は「不合格」を出せない。試験は住民の推薦する専門家が参加する第三者機関が行うものでなければ意味がない。島田市が行ったものは、試験焼却ではなく、実態に合わせて「実施のための焼却実験」「実施のためのパフォーマンス実験」とでも名称を変えたほうがよい。

 記者ならせめて、試験の客観性を問い、合否の判定の基準やどのようなデータが出た時には実施しないのかについて問う知性を持ってもらいたかった。

(Ⅱ)「不検出」は、「0」(=ゼロ)ではない。

 試験焼却の結果問われるのは、煙突からの排ガスに放射性物質が排出されていないかということである。

 ところが、試験の結果は、どこでも「不検出」「ND(ノット・ディテクト)」と示される。しかしこれは、放射性物質が排出されていないということではない。あらかじめ定められた数値(=検出下限値)以下だったということでしかない。検出下限値は測定器や測定方法で決まり、その値以下は「不検出」として扱う約束事である。検出下限値を大きい値にすれば、ほとんどが「不検出」となってしまう。

 島田市の場合、検出下限値は、0.3~0.4Bq/m3Nであり、焼却炉の排ガス流量は毎時約2万m3になるため、「不検出」の場合でも、1日で約15万Bqの放射性物質を放出する計算となり、バグフィルターで捕捉された飛灰中のセシウム量の約3割もの量となる。島田市は試験焼却で安全を確認したどころか、煙突から大量に放射性物質を放出していた可能性が高いことが分かった。

(Ⅲ)試験焼却でのバグフィルターの捕捉率は、60~80%

 バグフィルターで99.99%放射性物質が、除去できたと言う行政発表の一方で、住民が依頼した専門家の計算では、島田市の試験焼却のデータを使って計算するとバグフィルターで放射性物質は、65%しか取れていなかった。35%の行方は分からず、煙突から放出された恐れが強かった。(*2:行政発表は、投入された放射性物質量をベースに、物質収支を計算していなかった。)

 この点は326政府交渉ネットと環境省との交渉時に、その専門家が出て、計算データを説明したが、環境省はその後もまともな反論できないでいる。

・・・・・・

 この試験焼却問題を概観すると、試験焼却と言う「おまじない」を疑うことをせず、安全性が科学的に立証されたと思い込む現場の記者たちの姿が目に付いた。そこに居るのは自立したジャーナリストではなく、「科学」と言う言葉を聞いただけで、自分で考えることをせず、どこかに答えを頼ってしまう姿だった。

そしてその答えを用意していたのは、官僚たちや官僚が業務委託したコンサルたちである。中味を検証することなく、「試験焼却の結果」「安全性が確認された」と集団催眠にかかったように記事を書く記者たち。官僚たちは高笑いをしていたに違いない。

 大手の新聞社は、本社には「科学部」や科学部門を持っている。おそらく現場と本社ないし科学部をパイプがさび付いていたのであろう。
自壊しつつあるのは中央官僚機構だけでなく、メディアも同様ではないか

(3)調査のたびの「下方修正」をチェックできない記者たち

 もう一つの大きな視点は、がれきの総量に係わる情報のチェックの問題である。被災地のがれきは、その処理が、被災市町村、県、もしくは広域処理で行われるかを問わず、ほぼ100%環境省が補助金を交付するとしていた。したがってがれきの総量は、すなわちその処理を行うための費用「お金」の問題でもある。大メディアの記者たちは、そのような意識でチェックしてきただろうか?

 それにしては、お粗末だった。

 がれきの広域化において、当初環境省が予定した400万トンが、12万トンで終了した点については、当初予定の3%と言う酷さだが、なぜメディアは、最後の最後に至るまで、この点のチェックができなかったのか?一気に3%になった訳ではない。途中で何度もチェックする機会があったはずだ。

 ①宮城県のがれきの大幅下方修正は、H24年8月末には発表されていた。

 がれきの広域化の9割弱を占めていた宮城県発のがれきの広域化が、今年1月に、終了を発表していたことは、「がれきの広域化と闘いの中から見えたもの(Ⅰ)」にも報告した。この時の宮城県や環境省の説明では、H24年11月の再調査の結果、がれき量が減ったので、県内処理でできることになり、最後に残っていた東京都や北九州市、茨城県も平成24年度末(H25年3月31日)には終了すると説明した。しかしそれはまったく事実と異なっていた。

 昨年(H24年)8月にはこのことは分かっていて、北九州市や東京都三多摩地区の自治体には広域化の必要が無かったのだ。

 表1に宮城県のがれきの広域化での主な経過を示した。宮城県は被災市町村を4つのブロックに分け、市町村で処理できないがれきを、県が処理するとし、各ブロックとも複数の建設ゼネコンで作るJV(ジョイントベンチャー)に業務委託した。北九州市や東京都は、石巻B(ブロック)(石巻市、東松島市、女川町)から運ぶ計画にしていた。

表1:宮城県のがれき処理―経過概要
H23.9 宮城県は、石巻Bのがれき685万トンを、鹿島JV(鹿島建設他ゼネコン8社)に業務委託。約1923億円
H23.11 宮城県344万トン、岩手県57万トン計約400万トンのがれき広域化予算を含む、H23年第3次補正予算確定。
H24.3 H24度災害復興予算確定。(第3次を含めこの中でがれきの処理費は、1兆700億円予算立てる。)
H24.3. 野田総理全国の都道府県知事にがれきの広域化への協力を呼びかける。
H24.4.19 TV朝日系モーニングバードで、宮城県のがれき担当課長が、県内だけで処理できると発言。
H24.5.21 環境省、宮城県のがれき約400万トン下方修正発表
H24.8.7  環境省工程表発表 宮城県発のがれきは、北九州市、東京都そして調整中の茨城、群馬を除き中止。
H24.9 宮城県議会に 鹿島JVとの契約の変更を発表 がれきの処理量を下方変更
685万トンから310万トン。契約金を約1482億円に。(*3):契約金の詳細は、1923億6000万円で契約、変更金額は1482億6156万5550円)
H25.11 宮城県がれき量の再調査
H25.1.10 宮城県がレキの広域化を、年度内で終了することを発表

 石巻ブロックのがれきの総発生量は、表2で見るように846万トンであり、宮城県全体のがれきの発生量(1819万トン)の約5割を占めていた。
そして同ブロックの3市町が処理した上で、処理できなかった分が、685万トンが発生していたが、宮城県は、その分全量をH23年9月には鹿島JVに業務委託していた。

 ところが宮城県と環境省は、宮城県が広域化するとした344万トンのうち、約85%に当たる293万トンをその石巻ブロックから運び出すと計画を立てていた。

 つまり、石巻ブロックのがれきは、県が業務委託した鹿島JV(ジョイント・ベンチャー)で、すべて処理することになっていたため、広域処理するがれきは、1トンも無かった。にもかかわらず、293万トンを架空計上し、広域化の予算を立てていた。

 この不正については、筆者らはネットだけでなく、北九州市でのがれきの持ち込みに反対したひまわりプロジェクトの市民、斉藤弁護士らとともに、宮城県に事実を記載した通知書を届け、また斉藤弁護士らは訴訟提起し、そのたびに記者会見を行い、メディアに伝えてきた。

 事実を、一部の市民が知っているということに留めず、行政当局やメディアにも知らせたが、それでもその記者会見は、ごく一部で取り上げただけであり、厳密には、まだまだ世に知られるところまでになっていなかった。

 しかし同年9月、宮城県は、H24年9月議会で、鹿島JVと結んでいた契約の変更を行い、委託がれき量を685万トンから310万トンに下方修正していた。広域化処理に回すどころか、すでに県の仕切りで事業委託していた分まで、半減以下にしたのである。

 つまり県内処理を業務委託した鹿島JVは、当初予定していた仕事量が約半分になり、差引375万トンの仕事の上での余力ができていた。北九州市や東京都の持ってゆく予定の数万トンは、そのわずか1%でしかなく、がれきの広域化処理は、だれの目にも必要なくなっていた。

 それでも宮城県と環境省は、9月以降も強引に広域化を図り必要のない広域化を進めて行ったのである。今年(H25年)1月10日の行政の発表は、改めてそうした事実を容認し、がれきの広域化を前倒しにして終了させると言うものであった。

 筆者らがネット上も提供してきた事実関係を、たどれば11月の「再調査の結果」終了宣言されたものでないことが分かった筈である。

 ②岩手県、がれきの量が「再調査の結果」10分の1に

 また岩手県発のがれきも、野田村から埼玉県に運ぶものが、昨年(H24年)9月に契約したものが、わずか2か月後の11月の再調査の結果、10分の1になった。そして山田町から静岡県に運ぶものが、同じ再調査の結果7分の1になり、埼玉県と静岡県は、次つぎと終了した。

 この時に、同じ調査を行っていた秋田や大阪、富山に持って行く分の調査結果は県が発表せず、その結果富山、大阪は、H25度に入って初めてがれきの受け入れを行った。秋田市は25年度に入った4月1日には、25年度も受け入れ継続するとしていたが、4月半ばには中止を発表した。

 岩手県の担当者は、契約のわずか2か月後の11月に再調査を行ったのかの理由として、25年度を新たに迎える時期にあり、改めてその必要性を検証するための調査だったと話した。

 しかしこの時点で行政の発表は、事実を注意深く追いかけた時には、2つの問題が見えていた。筆者らは、記者会見やネット上この問題を訴えた。

 一つは調査を終えたはずの秋田、大阪、富山の調査内容は発表されなかった問題である。がれきの広域化は、広域化ありきではなく、法令上も被災地が処理できなくなった時に広域化処理に協力するとして進められた。広域化は運送費だけでも処理費と同額かかり、闇雲に広域化を進めることは、税金を無駄使いすることになった。調査内容を発表せず、広域化を進めることは論外であった。

 しかも秋田、富山は、それぞれ野田村と、山田町からの持ち込みであり、野田村は埼玉県、山田町は静岡県の調査で調査していた。大阪に持ち込む宮古市の場合も、調査は行っていた。しかし調査結果は発表せず、岩手県に情報開示請求された当該調査情報は、黒塗りで非開示とした。(*4)

 秋田や富山や大阪へは、なぜがれきの広域化が必要なのかを説明しないまま、がれきの広域化を進めた。

 もう一つの問題が、がれき量がわずか数か月で、10分の1や7分の1になったという点についてである。がれきの総量の推定が、素人目には難しいと言っても、役人たちが測定する訳ではない。この業務については、専門の業者に委託し、測定してもらっていた。

 専門の測量業者の測定値が、数か月の間に、何度も図り直さねばならず、そのたびに半分になったり、10分の1になったり下方修正される。そのようなことはありえない。1~2割の補正やしゅうせいぶんがでたというはなしとは違う。1~2割の量に減ったというのである。

 もしそのようなことがあれば、修正される前のデータが出鱈目だったということになり、対価を払う価値のある仕事がなされていなかったということになる。しかもその発表された測定値によって、広域処理の必要性の有無が変わっていたのである。

 発表内容によると一番基本になる容積あたりの重量を示す比重を間違い、がれきの山の下に土砂の山があったことを見落とし、混合物に混入している可燃物の量を4倍近く見誤ったというのである。

 つまり木くずだと思っていたのが、土砂であり、土砂と考えていたのが木くずだったと言う位に「狐に抓まれたような話」なのだ。

 どのような分野であれ、このようなでたらめな仕事は、商売上許されない。ましてや税金を使う公共事業にこのような詐欺師のような話を通してはダメである。このような話を見逃すのは、ジャーナリストとしての資格が問われるような話である。

 しかも今回の場合、岩手県がかかわるがれきの測量は、4月を期初として1年契約で(株)応用地質と言う同一専門会社と契約を結んでいたことが分かった。
同じ業者が測定した測定値がこのように変わるというのはますますあり得ない。もうこのあたりまで来ると、新聞記者が常識を欠如し、役人たちの通常ではあり得ない説明に付き合って、聞き流している問題が目立った。

 ここでも行政の発表をそのまま信じ、チェックできない記者たちがいた。

 多分小学生を記者にして、行政の説明と筆者らの分析を利かせたほうが,よりチェクできたのではないかと考える。行政の広報紙に成り下がった現行の大メディアの記者たちは、小学生にも到底及ばない知性と勇気の無さが目立った。

 それとも記者たちの記事を抑え込むデスクの腐敗があったのか?

<行政に「協力&加担」するメディアの姿>

本寄稿前半の「メディアのどこが問題があったか」では、

・権力の監視を忘れ、住民サイドに立つ報道を欠如し、ついには政府広報のCMを掲載することにより、自縄自縛の状態になってしまったこと

・もっとも注力しなければならない安全性の問題について、論議を組み立てることをせず、科学的客観性の無い「試験焼却」に判断の基準を置く誤魔化しに乗ってしまったこと

・がれきの広域化の必要性があったのか、必要性を問う論議では、再調査のたびに下方修正した行政の幼稚な調査結果発表をチェックできない記者たちの劣化が目立ったこと

 などの問題点を指摘した。本稿ではさらに、環境省や行政の姿勢を「チェックできない」から次に指摘するような「加担」もしくは「協力する」(結果的に)と言う大メディアの報道や報道姿勢についても、改めて疑問点を述べ、公開質問としたい。

(1)宮城県は「減った」の報道と、岩手県は「増えた」というNHKの報道

 宮城県はがれきが津波で海に流されていたため、再調査の結果、「がれき量が減った」と報告した。ところが、NHKは、岩手県では再調査の結果「がれきの量が増えた」と言う行政発表をそのまま報道していた。

 がれきの広域化の必要量は、次の式で計算された。

 「被災地のがれきの発生量」-「被災自治体での処理量」=「広域化必要量」
したがって被災地でのがれきの発生量の変化は、広域化必要量に大きくかかわり、H24年5月21日、環境省は、がれきの発生総量を再調査した結果、宮城県では400万トンが削減されたことを発表した。

 大幅な測定誤差がなぜ産まれたのかの理由として、環境省は、津波で海に運ばれた量を計算しなかったからだと答えた。説明によると、これまでのがれきの総量は、津波で侵害されたエリアを住宅地図上で追いかけ、侵害エリアに存在していた住宅戸数や住宅面積から計算したという。ところがその際、津波によって海に持って行かれた量を計算していなかったため、その分発生量が、2割以上も減ることになったという。街中に散在していたがれきが、郊外の第1次集積所に集積され、実際のがれき量が分かり、発表されたものだった。

 丁度その約1月前の4月18日には、TV朝日系の「モーニングバード」の玉川キャスターの取材に答えた宮城県のがれき担当課長は、がれきは、発生量が減ったこともあり、県内で処理できると話し、その内容は知事自身も認識了解していると話していた。

 環境省の発表は、宮城県は広域処理の必要性が無くなったとは言わなかったが、宮城県発の広域化予定量が344万トンだったこと、発表された削減量がそれより多い400万トンだったことや、「モーニングバード」での発言を加味すれば、がれきの広域化は終了すると発表したと同様の内容だった。

 ところがNHKは、岩手県では、再調査の結果逆にがれき量が100万トンも増えており、そのため広域化必要量は従来の57万トンから150万トンになったと数日前の5月18日に発表していたのである。

 この時点では、環境省は宮城県のがれき量が400万トン減ったという情報の発表を控え、その影響を小さくする算段を考えていた時期である。

 宮城県が減ったにもかかわらず、岩手県のがれきが増加したというのは、広域化政策を進める立場で言えば、好都合な宣伝方法であった。

 しかし増えたのは、木くずや可燃物でなく、土砂や不燃物である。土砂や不燃物は、極力地元での地盤低下などの災害の復旧に使い、広域化の対象としないという確認が早い時期から指摘され、土砂系や不燃系については、被災県から持ち出さないというのが約束されていた。

 従って土砂系や不燃物が増えたからと言って、それがそのまま広域化量の増加に繋がらないのは分かっていたはずだが、NHKは、土砂系を中心に100万トン増えた量をそのまま、「広域化の加算量になる」と大変な誤報情報を流してしまっていた。

 この発表は、がれきの広域化の終了ムードを一気に冷ます効果があった。がれきの広域化を全国の市町村に呼びかけ、広域化推進のかじを取りかけた環境省にとってNHKは、まことに都合のよい公共報道だった。

 しかし、宮城県のがれきの総量が下方修正された理由である「津波で海に運ばれた」を考えた時、岩手県でも同じく、津波で海に運ばれていたはずではないだろうか。それが何故増えるのか? たとえそのような発表を環境省や行政機関が行ったとしても、論理の一貫性のないこの発表を、メディアはそのまま垂れ流すのではなく、行政のアドバルーン情報、都合の良い大衆操作情報として、チェックする必要があった。

 一言「宮城県は減ったのに、なぜ岩手県が増えたのか?」を問えば、次の事が分かっていただろう。

 「岩手県が増えたのは、これまで勘定に入れていなかった土砂分を計算に入れたためであって、広域化の対象としていた木質系や可燃物系については、岩手県でも35~40%減っていた」(宮城県災害廃棄物処理詳細計画 H24年5月版)

 つまり、宮城県、岩手県とも再調査の結果、広域化するがれきは、大幅に減っていた。従って、この時点での正しい報道としては、「宮城県、岩手県とも大幅に減った」というもので、「広域化の見直しは必至だ」というものではなかったかと思う。

 この発表によって無駄な広域化が進められ、その後の資金流用化の流れもできたとすれば、NHKが行政発表を口移し的に発表した罪は比較にならない位大きい。この取材記者、発表させたデスクに釈明を求めたい。

(2)広域化が破綻した段階で、なお成果を讃える記事をなぜ書くのか?

 昨年末から今年1月には、がれきの広域処理が次々と崩れ、予定を前倒しにした終了発表が行われるなかで、広域化がそもそも必要だったのかが誰の目にも問われる状況になっていた。ところが多くのメディアは、終了にあたっての行政の発表、「被災地の復興に役立った」をそのまま報道した。

 今年(H25年)1月10日には宮城県副知事が北九州市を尋ね、「再調査の結果、広域化必要量が減り、年度内いっぱいで終了する」ことと、「これまでの北九州市の協力の結果復興が大きく進んだことに感謝したい」と発表した。

 先に述べたように再調査するまでも無く、宮城県の広域化処理が必要ないことは、昨年の8月には分かっていた。ネット上では、当たり前になっていた情報に見向きもせず、広域化の必要性を報じてきた大手メディアは、実際は広域化が前倒し終了し、がれきの量がなかったという事実を突き付けられていた。しかしその責任を自分たちも問われることを恐れてか、「役に立った」と言う「猿芝居」のような情報をそのまま流した。

 宮城県議会でも、昨年9月議会で、鹿島JVとの間で結んだ業務委託契約の大幅な変更提案が行われ、そこでは、「北九州市になぜ運ぶのか」の質問が出されたが、理由を明示せず、「感謝の気持ちを表すため」という笑い話のような知事答弁が行われた。

 それでも環境省を後ろ盾にして、宮城県は、強権的に北九州市にがれきを運び、広域化を進めていた。1月の発表のベースとなった再調査は、契約後わずか2ヶ月で行い、広域化の必要がないことを確認した。

 最初から広域化など必要なかったこと、そして広域化することにより、被災地の復興に使わなければならない貴重な財源を、遠方への輸送費などに、無駄に使い、逆に復興の足を引っ張ったことが、改めて明らかになった。

 このお金は被災地につぎ込まなければならないお金だった。

 必要性を説明できない広域化を無理に進めた理由が、被災地の復興に役に立ちたいということでなく、復興費を自治体の予算につまみ食いできるということにあったとすれば、本当に罰当たりな北九州市である。

 行政発表の嘘の情報に踊らされ、権力側に裏切られ続けてきたメディアが、なおも無理に推し進めた計画が、結果、破綻して終了した。これに対して最後に気骨を示すこともできず、宮城県と北九州市による「お役にたてた」「感謝したい」と言う「猿芝居」をそのまま報じる提灯記事を書いてしまった。この提灯記事は、がれきの広域化に協力的に論陣を張ってきたメディア自身の瑕疵を隠す意味もあったのではないか? 反対活動にかかわってきた人たちのメッセージを申し訳程度に掲載したからと言って、許される訳ではない。

 そして今年9月になって、地元の小倉タイムスが、北九州市はこの時期、環境省から廃棄物処理施設の基幹工事(45億円)への交付金を受け、本来なら自治体自身の予算で進めなければならない分を、復旧・復興枠の交付金・交付税を得て、工事を進めていたことを報じた。(小倉タイムス2013年9月11日)

 必要性の無いがれきを受け入れた背景に、被災地の復興資金を流用する事実が隠されていた。北九州市ががれきの受け入れ処理に使った処理費用が約4億円であり、基幹工事への復興資金の流用額は現在分かっているだけで約20億円である。

 適当な情報で国民とメディアを翻弄した行政には、倍返しを!このままでは権力になめられたままになる。

(3)2重契約の問題に蓋をした毎日新聞

 宮城県の広域化は、H24年の5月の減量発表で実質終了したようなものであったが、それでも環境省は、広域化の旗を降ろさず、2点の指摘が行われるまで、広域化を言い続けた。

 一つは環境総合研究所の池田こみち、青山貞一両顧問、奈須りえ前大田区議らが発表した、「宮城県は、広域処理する必要はない。県内処理で賄いきれる」という各種情報を整理した発表を行った。(*5:http://eritokyo.jp/independent/aoyama-democ1525..html

 もう一つは、宮城県に筆者らが情報開示請求し、宮城県と鹿島JVとの契約書を確認し、「宮城県が処理するとしていたがれきが、全量が委託されていた」ということを確認したことである。(*6:http://gomigoshi.at.webry.info/

 これらの事実から、宮城県石巻ブロックのがれきは、県内処理で済まされ、1トンも広域化する必要がなかったことが明らかになった。

 そして環境省と宮城県が、全国の自治体にがれきの受け入れを要請していたが、そのまま持ち込むためのがれきの処理契約を交わせば、2重契約、虚偽の契約を結ぶ犯罪行為になってしまった。もしそのままがれきの処理を進めて補助金が支払われれば、補助金の詐取、業務上の横領になっていた。

 そうした経過もあり、環境省は同年8月7日に閣議決定にかけた後、工程表を発表し、宮城県発のがれきは、話が進んでいる東京都、北九州市、茨城県などを除き、全て実質中止することを発表した。

 このようにすでに宮城県内を4つのブロックに分け、被災市町村から処理の委託を受けていた宮城県が、その全量をゼネコンJVに処理契約を結んでいたがれきを、北九州市をはじめ、全国の自治体と契約を交わし、がれきを運ぼうとした。これが2重契約問題である。

 この問題についての環境省の公式見解は、県が委託した鹿島JVなどの事業者が、処理事業を進めるに当たって、県内の処理施設での処理だけでなく、県外の民間会社(産廃事業者)に再委託処理を考えていたが、再委託先の民間業者が所在する自治体の許可を得ることができず、その分、広域処理に回さざるを得なくなった。と言うものであった。

 いかにもありそうな話ではあったが、筆者は、川田龍平参議院議員事務所の設定でH25年2月6日に行われた環境省との交渉に参加し、この2重契約問題を問うた。すると担当の役人はやはり、「宮城県の県内の入札で、鹿島JVが落札した事業内容のうち、県内処理と県外の事業者に下請け委託する分があり、県外処理を予定していた分が、処理できず広域化処理に回すことになったと説明した」と答えた。

 そこで間髪を要れず「もしそのようなことだとしたらまず鹿島JVとの契約を縮小変更し、その上で広域化の計画を立てないと2重契約になる。鹿島との契約の変更はH24年9月であり、広域化予算は、H23年11月には決めていた。1年以上も前である。理屈が成り立たない」と再質問すると、担当の役人は答えられなくなった。
 環境省の役人の答弁は、全くの方便であり、宮城県が石巻ブロックから広域処理に回す分は、無かったにもかかわらず、293万トンを2重契約しようとしていた。筆者らは「326政府交渉ネット」での集会や情報発信によって、この事実を伝えたが、大手メディアは報道しなかった。

 特に毎日新聞や朝日新聞は、がれきの広域化で全国の担当者を配置したが、たとえば毎日新聞の日野行介記者などは、何度も取材に来たものの、2重契約と言う特別な犯罪行為を、環境省の役人の「県外処理分の代わりに広域化した」という言い訳通りに解釈し、取り上げることはしなかった。(*7)

 大手メディアが、がれき問題について全国に担当者を置いたのはよかったが、その担当者が2重契約問題をなぜ避けたのか? その時点で取り上げていれば、もっと早くがれきの広域化は終了させることができていたのではないだろうか?

<メディアが、行政監視の役割を怠ったところには不当弾圧>

 一昔前は、環境問題といえば公害問題だった。環境省は元々公害の監視・規制が、本来の業務である規制省庁である。予算規模の小さい省庁で、その中で地方自治体の焼却炉建設への数百億円の補助金事業が、環境省内の最大の予算事業だった。ところが、東日本大震災を受けて、がれきの処理費に1兆円、除染処理に2兆円の事業を推進する巨大事業推進省庁となった。一気に数十倍もの事業予算を取り扱う事業所になってしまった。そうした中で規制省庁としての役割を忘れたように、振る舞ってしまった。

 大手メディアは、こうした行政機関を監視し、正していくのが役割であるが、今回振り返ってみてきたように、上から下まで問題だらけだった。

 がれきの広域化にあたって、その受け入れは、自治体の自由意思、権限の下で進められてきた。とはいえ環境省は、被災地でのがれきの発生量や、処理量からなぜ受け入れが必要なのかを説明することは、最低限必要であった。

 ところが、北九州市、大阪府・市、富山県などでは、なぜがれきの広域化が必要なのかが説明できず、いずれも被災自治体が望んでいるからと説明を済ませる酷さだった。そしていずれも、がれきの広域化の必要性を疑わせる変則的な終わり方をした。尚且つ、それらの自治体は、がれきの受け入れの裏で復興交付金を流用していたことが分かった自治体である。

 これらの自治体では、被災地や東日本の汚染地域から子供を連れて多くの避難者が避難した非汚染地域であり、その意味で避難者を追いかけるようながれきの広域化処理に反対の声が上がった地域でもあった。

 そうした住民活動に、権力による弾圧が加えられたが、その弾圧のレベルもメディアの監視が無いところでは、よりひどい弾圧が繰り広げられた。

 警察権力は、メディアの様子をよく観察している。

 北九州市は、議会が全会一致で受け入れを決め、住民が自力で反対活動をするほかはなかったが、時々に記者会見も頻繁に行われ、情報発信した。しかし住民側の声は、ほとんど新聞メディでは取り上げられず、試験焼却の際の反対活動で、2名の逮捕者が出た。

 大阪の場合、住民サイドの活動は、極めて活発に行われた。大阪市の受け入れ説明会は、阪南大学の下地真樹准教授なども質問の先頭に立ち、行政を追い詰め、住民監査請求は、1000人を超える人が署名提出人となった。しかし大手メディアは、住民監査にあたっての記者会見にすらほとんど参加せず、記事として取り上げることは全体でも1~2回だった。そうした中で下地准教授が、駅の片側から反対側にある大阪市庁舎に向かい駅を通っただけで、威力業務妨害で事後逮捕されるという事態が起こった。「環境省や大阪府・市の行政施策に反対すれば、犯罪である」と言った酷い弾圧であり、最終的に9人もの逮捕者がでた。

 富山県でも試験焼却のがれき搬入反対の闘いに、富山広域圏事務組合の森管理者(富山市市長)が告訴し、2か月後に警察が受理するということがあった。広域化の必要性や安全性を説明せず、行政の進め方の問題を棚上げした反対市民潰しの告訴だった。いわゆるスラップ訴訟(*8)と言われているものだ。

 しかしここではチューリップTVや北陸中部新聞、毎日、朝日、読売新聞などが、がれきの広域化の必要性を調査し、疑問を投げかける報道を行っていた。

 また住民側の監査請求や意見書提出にも、内容を紹介する報道を続け、筆者が見たところでも、当たり前のメディアの報道姿勢が目立った。そうしたこともあってか、告訴は告訴のままに終わり、続く弾圧へとは進まなかった。

 環境省が本来の公害規制省として働かず、メディアも行政の監視の使命を忘れ、記者たちも本来の役割を忘れている姿が目に付いた。本来果たすべき役割を怠れば、民主主義は私たちの足元から崩れて行く。官僚たちの独裁とそれを闇雲に支える警察国家となってしまう。

 改めて、逆説的にメディアの役割の大切さを教えてくれた、がれき広域化との闘いだったと言える。

<まとめー時代状況の把握ができないメディアは、滅びるー>

 がれきの広域処理で見たとき、富山県や地方での一部のメディア以外は、行政情報を無批判に垂れ流す対応を上から下まで取ってきたと言える。

 がれきの広域化との闘いにおいて、よりはっきりしたのは、活動している住民の方が重要な必要情報をより速く、的確につかんでいたということであろう。大手メディアは、当初の行政寄りの姿勢もあって、真実情報を報道するという点で全く出遅れてしまったと言える。そのため報道記事の物足りなさに対して、現場の記者をそのまま批判するのは、筆者は気の毒だと思ってきた。住民側がつかんでいる情報はできるだけ情報提供し、情勢の認識レベルでできるだけ、同じ報道レベルにおいたうえで報道してもらおうと考え、市民団体には、各地でメディアに向けて極力記者会見をするなどして情報発信することを薦め、立ち会ってきた。

 また実利的な観点からも、悪徳官僚機構や行政との闘いにおいて、マスメディアは味方にする必要があり、情報提供による情報の共有化が大事だと考えてきた。

 がれき問題を闘ってきて,今振り返ってみて、それにしてもメディアの劣化はここまで来ているのかの思いを強くした。ではどこから手を付けていけば良いだろうか?

(1)行政機関の変質を認識し、組織の構造改革を

 今回のがれき問題を振り返って、メディアの劣化は、第1に中央官僚機構も含め、行政機関がまず大きく変質している点を、組織としての共通認識にしていないという点が大きい。

 今回の環境省のがれきの処理方針の立案や、法制化、広域化の計画、実行などどこからとっても、中央官僚たちによる独裁的進め方であり、事実が表面に出れば、担当者の首がいくつあっても足りないやり方だった。

 たとえばがれきの広域化や放射線対策特措法等の法案成立に向けて持たれた「災害廃棄物安全評価検討委員会」と言う有識者会議は、非公開で進められ、そのうち議事録さえ取らなくなった。大手メディアはそれをチェックすることさえしなかった。

 今進められている特定秘密保全法でも同様で、毎日新聞が法案提出の経過も含めて情報開示請求したところ、黒塗りの文書が開示(つまり非開示)されている。

 一昔前は、行政機関は、メディアには虚偽の事実を言ったり、嘘を言うことはまずなかった。一度それをすれば、メディアを敵に回すことになり、行政機関として得策ではないと考えていたからである。しかし最近は事情が変わってきた。

 事実が明らかになれば、天地がひっくり返るような騒ぎになるため、中央官僚たちの戦略は、事実は知られても、ネットの世界や、少数者にとどめ、国民多数への波及は留める。そのため場合によっては、大メディアー新聞、TVには扱わせないようにする、と言う戦略だったように筆者は考える。(この戦略自体、真実は、権力を使って籠の中に閉じ込め、言論や表現、活動を実質抑え込んでゆくというファシズム的戦略と言える)

 そのために、要所では、周到に虚偽の事実や嘘を用意し、現場の記者に対しては、屁理屈で誤魔化すように仕掛けてきた。

 今回の場合、環境省、宮城県、岩手県の間での連絡を密にし、「虚偽の事実」「嘘」「屁理屈」の摺合せをしていた。

 今大手メディアは、中央官僚たちが仕掛けた「腐敗の絆」に与しないというのならば、こうした官僚たちの腐敗の陣形を破るために、一に住民・市民・国民サイドに立って活動するものたちとの意見交換の場、ツールを作り、ニにメディアの虚偽の事実や嘘を、記者会見の場で打ち破る突破力のある記者を配置し、三に、嘘をつかれた時には、付いた相手に責任を取らせるまで執拗に追求できる組織を、作り出す必要がある。

 大ヒットドラマ「半沢直樹」は、理不尽な行為に対し、土下座させ、倍返しにするという姿勢を示し、圧倒的な支持を得た。そうした時代になっている。このまま行けば大手メディアは、土下座と倍返しの対象になるという警告として見るべきだろう。

 評論はいらない。記者会見場に望み、気の利いた質問ひとつできず、行政の広報紙のような紙面を作っている記者たちは、2軍に回し、使えるフリーの記者やOB記者を配置し、急場を凌いではどうか?

(2)ネットとアナログメディア(新聞、TVなど)の立場の逆転

 これまでのメディアの役割として、広範な情報探索能力によって、「事実」や「真実」を把握するという点と、それを国民、市民、住民への告知するという点があった。ところが今回、前者の点「事実、真実の情報探知能力」では、ネットに大きく劣ったということが指摘できる。

 一方「国民、市民、住民への告知能力」と言う点では、これまで通り圧倒的な強さを持っていた。

 しかし前者があってこそ、発信する情報への信頼が醸成される。前者が無くなった時、告知能力として維持し続けることができるのは、時間の問題である。

 事実の探索能力においての逆転は、次のように考えられる。がれきの広域化が問題だとする住民は、時間の許す限り、関連情報を入手しようとしている。一方、地域の様々なニュースを追いかけ、毎日何らかの記事を報道しなければならない現場記者は、自ずとハンディがある。また筆者らは、環境省との交渉(2012年3月26日)をきっかけに、「放射性廃棄物拡散阻止政府交渉ネット」(通称326政府交渉ネット)を作り、関連情報を交換し、より速く届ける場を作った。それがきっかけで、各地で情報交換のメーリングリストができ、情報は分秒単位で届けられるようになった。

 真実情報の面で、既存アナログメディアが、市民活動に遅れをとるのは、ネットが普及した社会情勢の中で当然の成り行きだった。この点については、情勢の変化にアナログメディアや週刊誌メディアまで気が付いていなかったといえる。

 NO1は、新聞だ、TVだと言う旧式「脳」のまま来たため、電通や博報堂と言った広告宣伝会社にその点を狙い撃ちされて、がれき問題では政府広報紙や広報誌となってしまったと言える。

 現状のまま行けば、絶滅した恐竜たちと同様の運命をたどるだろうが、このがれき広域化との闘いで、広域化を破綻させた「力」を探る中で、再生の道は見えてくるだろう。その方策として、各社に「アンタッチャブル」な情報探索と発信できる戦略拠点を作ってゆくことが必要だ。現状では、広告宣伝会社に勝てない。

 一つのヒントとしては、IWJのようなネットメディアとの提携関係を作ってゆくこと、もう一つは東京新聞の「こちら特報部」のような生き方がある。東京新聞のように、自分たちが本当に伝えたいことを「特報部」と言う形で守り、市民活動の声を生かして行くのである。

(3)排外主義のバブルに向かう週刊誌&TV

 行政の垂れ流す真偽不明な情報が、人を引き付けるはずはなく、活字離れに拍車をかけることになる。この状態は週刊誌メディアを含め否応なく覆いかかることになる。

 そこで向かうのが、国内の出鱈目や矛盾に目を向けるのではなく、穏便に済ませながらも目を外に向けさせる排外主義の道である。

 以前メディア報道を席巻したPM2.5を例にあげたい。2.5ミクロン近辺の微小浮遊物質。これは中国が専売特許ではなく、日本の焼却炉からも排出されている。中国からPM2.5が流れてくることは問題だが、日本の焼却施設から排出されるPM2.5は、なぜ問題にしないのか?

 焼却炉で焼却しても放射性物質は、99.99%除去できると環境省が主張する根拠に使われたのは、京都大学の高岡昌輝准教授のPM2.5についての実験結果である。これは、ごみの焼却施設から排出されるPM2.5が喘息の原因になっているというEPA(米国環境保護庁)の報告を検証するための実験だった。(*9)

 メディアは、自国の政治の矛盾を批判せず、中国や韓国、対外の批判にのめり込んで行けば、国内の差別・矛盾を放置し、排外主義を進めることになる。

 振り返って、現在の環境省は、環境問題としても被曝領域の問題は、まったく放置してきている。

 批判の目を持って、環境問題を構築しなければとんでもないことになる。

・汚染水の流失
・福島第1原発から放出された放射性物質の処理
・汚染廃棄物―指定廃棄物処理
・除染によって刈りだされた樹木や産廃がれきを燃料とするバイオマス発電
・汚染廃棄物の処理ー一般廃棄物施設を使った焼却処理
・汚染廃棄物(焼却灰等)を原料とするエコセメント化
・被曝の影響の実態調査など

 国内の矛盾に目を向けることなく、排外主義にのめりこんでゆけば、日本の軍国主義やナチスの二の舞になること。自国政府や官僚機構による行政施策とその問題は、自国のメディアでしかチェックできないこと肝に銘じてもらいたい。(青木泰)

【注釈】
*1:URL:http://furuyayasuhiko.blog15.fc2.com/blog-entry-865.html
*2:行政発表は、投入された放射性物質量をベースに、物質収支を計算していなかった。
*3:宮城県と鹿島JVとの業務委託契約の詳細は、当初685万トンのがれき量で1923億6000万円で契約、変更後は、310万トンで、金額は1482億6156万5550円
*4:岩手県広域調査一覧表が、黒塗り非開示された件については、請求者が岩手県情報開示審査会に異議申し立てを行い、同審査会から開示を求める答申が出された。
*5:環境行政改革フォーラムHP,「がれき広域処理は合理的根拠なし」(http://eritokyo.jp/independent/aoyama-democ1525..html
*6:青木泰ブログ(http://gomigoshi.at.webry.info/)「宮城県の2重契約に逃げ出す受け入れ自治体」「違法を重ねる広域化と未来につなげるそのチェック」
*7:日野行介記者は、毎日新聞(H24年10月3日)で「福島健康調査で秘密会」のスクープ記事を書き、「福島県原発事故―県民健康管理調査の闇」を先ごろ岩波新書から上梓した記者である。その記者にして、2重契約問題を避けてしまった。
*8:スラップ訴訟、公に意見を表明したり、請願・陳情や提訴を起こしたり、政府・自治体の対応を求めて動いたりした人々を黙らせ、威圧し、 苦痛を与えることを目的として起こされる 報復的な訴訟
*9:環境省が放射性物質は、焼却炉で焼却しても99・99%除去できると言う主張の根拠にしたのは、実はこのPM2.5についての高岡教授(当時准教授)による実験結果である。なぜPM2.5が、99.99%除去できるという実験が、放射性物質が除去できるという結論になるのかというと、非公開にした有識者会議で仮定に仮定を重ねた除去論でしかなかった。放射性物質が焼却されてガス状になれば、バグフィルターでも除去できないが、そのガスがPM2.5に付着すれば除去できるとしたのだ。仮定が多すぎると有識者会議の中でも高岡准教授の師に当たる酒井信一教授から批判があったが、その高岡論文をバグフィルターで99・99%除去できるの根拠にした国立環境研究所の大迫政浩研究センター長の主張を良しとした。この件については、東京新聞「こちら特報部」「見切り発車の災害がれき処理」(2012年1月22日)及び「空気と食べ物の放射能汚染」(青木泰著-リサイクル文化社)でPM2.5について記載。

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です