「他者を見下し、攻撃しようとするネット右翼の態度は、排外主義と親和的だ」 ~大阪社会調査研究会「排外主義って何だろう」 金明秀氏 2013.11.30

記事公開日:2013.11.30取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ 関根/奥松)

 「排外主義の高揚が、世界中で進行している。ただし、日本と欧米との大きな違いは、日本では『外国人が仕事を奪っている』という意識が低いことだ」。金明秀氏は、このように日本の排外主義の特徴を述べ、その理由を「在日コリアンは自営業者が52.1%を占める。そのため、在日コリアンが日本人から仕事を奪う、という意識は生まれにくかった」と結論づけた。

 また、日本人が美徳と信じて疑わない同化主義の潜在的な危険性を語り、「将来、人口減少により、日本に移民が大勢入ってくる。その前に、多文化主義の重要性を理解し、同化主義の問題を自覚しておかなければならない」と訴えた。

 2013年11月30日、大阪市北区にある龍谷大学梅田キャンパスで「第5回大阪社会調査研究会『排外主義って何だろう』」が開かれ、関西学院大学教授の金明秀氏(計量社会学)が、内外の実証的調査・研究に基づいて、日本における排外主義について報告を行った。

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  • 主催あいさつ 岸政彦氏(龍谷大学社会学部准教授)
  • 報告 金明秀(キム・ミョンス)氏(関西学院大学教授)
  • (報告後行われた質疑・討論は録画に含まれません)

人種差別、植民地主義と排外主義

 金明秀氏は「フランスの移民関連の専門紙に、排外主義の論文を投稿した。フランスでも、20年前くらいから排外主義が強くなってきていて、同化主義的な傾向は日本と似ている」と話した。

 そして、在日特権を許さない市民の会(在特会)のヘイトスピーチやデモなどの活動について、「彼らが主張するような『特権』は存在しない。特権には値しない権利を誇張して、まさに不正をしているような印象操作をしている。しかし、資金面では小口寄付金で支えられており、賛同者の地下茎は広がっているようだ」と述べた。

 また、「2000年くらいまで、排外主義についての詳しい研究はなされてこなかった。最近になって、ユーロバロメーター(EUの世論調査)やISSP(国際社会調査プログラム)の調査が発表され、実証的な研究が始まった」と背景を語り、もっとも定評のあるISSPの調査結果を紹介した。なお、日本でも同様の調査が、1995年、2003年、2013年(未発表)に、ナショナル・アイデンティティで実施されている。

 金氏は「排外主義の高揚が、世界中で進行している。ただし、日本と欧米との大きな違いは、日本では『外国人が仕事を奪っている』という意識が低いこと」と指摘。「マクロ的に、排外主義には2つの要因があり、ひとつは、移民が多ければ仕事が奪われ、福祉にただ乗りされる、という脅威。もうひとつは、文化的侵害への嫌悪感。さらに、極右政党の有無も影響する」。

 「世界的には、ブルーカラーや非正規雇用者、学歴や収入の低い層で排外主義が強い。ところが日本では、それが当てはまらない。ちなみに、アメリカでは保守主義者は移民を認める傾向にある」などと説明した。

戦後も受け継がれた「不逞鮮人」のレッテル

 次に、金氏は日本の排外主義の歴史的背景について、「日本人は自営業者が23.5%に対し、在日コリアンは自営業者が52.1%を占める。なぜなら、1980年代半ばまで、激しい就職差別があったからだ。そのため、日本人には『在日コリアンが仕事を奪う』という意識は生まれにくかった」と話した。

 「それゆえ、在特会は『在日特権』というデマを作り出し、喧伝せざるを得なかった。また、日本人は治安の脅威への先入観が強い。それは、植民地独立運動(1919年の三・一運動)に由来するようだ。その偏見が、関東大震災の朝鮮人虐殺につながった」。

 金氏は「戦後になっても、不逞鮮人(ふていせんじん=テロリスト)というレッテルは受け継がれ、政府も一般国民も、犯罪予備軍として見ていた。ちなみに、大英帝国でも同様なことがあった。移民とユダヤ人に対する嫌悪感が込められたのが、ドラキュラ物語だ」と述べた。

ネット右翼と同化主義

 続けて金氏は、ネット右翼の言動を例に挙げ、「厳罰志向があり、他者を見下し、攻撃しようとする態度は、排外主義と親和的だ」とし、速水敏彦氏の提唱した仮想的有能感(他者を軽視し自分への肯定感、誇りを感じること)を引用、「それも排外主義につながっているのではないか」と分析する。

 次に、社会的排除感(孤立感)も要因に挙げて、「丸山真男の言った『抑圧の委譲』(権力が上から下へ縦に使われ、その抑圧を自分で忖度し服従してしまう。また、虐待の連鎖)は、それほど強くない。やはり同化主義が強い」と指摘した。

 さらに、金氏は、山岸俊男氏が主張する一般的信頼、つまり集団主義型の秩序原理(まわりの人たちから嫌われるリスクを小さくして、人々が身を慎むように行動する秩序)をキーワードに、「日本人には同化主義が2割ほどあり、排外主義を決定している」と、同化主義に原因を探った。

 「日本で、同化主義は強い美徳にされ、異質性を排除する傾向が強い」と述べ、中曽根元首相の単一国民国家発言を例に挙げた。「当時、これは民族浄化を肯定する意味にもなったが、批判がなかった。つまり、本当の仲間になるためには同化してほしい、という意識だ」と解釈し、「他者化機能の否定に、自覚がない」と断じた。

将来のために、同化主義を美徳となす意識を変えること

 金氏は「人付き合いの点から見ると、外国人との付き合いが強いほど、多種な職業の人とのふれあいが多い人ほど、排外主義は弱くなる。より幅の広い付き合いがあることが、重要だ」とし、次のように述べた。「せっかくの多文化関係資源が、隣人間で共有されず、世代間でも継承されずに消失してしまう。外国人との付き合いが、この社会の民主主義を安定させる資源になっていることへの理解がない」。 

 ここで金氏は、三重県鈴鹿市で広まった悲しい例として、凄惨な少女強姦事件と老夫婦襲撃事件を語った。結果的に、鈴鹿市民の間に排外主義が強烈に高まったこと憂い、「偏見の感染は早いが、鎮めることは不治の病にも等しい。偏見には、ワクチンを先に打っておかなければ防げない。異文化交流、人権教育などを、みんながやらないと予防ができない」と訴えた。

 そして、「将来、人口減少による国家の破綻が予想され、日本社会への移民の導入は不可欠になる。その前に、多文化主義の重要性を理解し、『日本人には同化主義を美徳となす潜在意識がある』ことを自覚しておかなければならない」と、同化主義の危険性を指摘した。

 金氏は「ヘイトスピーチを、表現の自由で許そうとしているが、マイノリティの表現の自由は、すでに侵害されていることを忘れている」と述べ、「日本社会は、人種差別や排外主義よりも、まず、同化主義が美徳とされていることを、もう一度、よく考えるべきだ」と力説して講演を終えた。

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