「マダラなど低層魚は依然として安心できない」~はかーる・さっぽろ主催の集会で大沼淳一氏が基調講演 2013.9.28

記事公開日:2013.9.28取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 「海産物のストロンチウム検査を、すぐに始めるべきだ」──。

 9月28日、札幌市中央区の佐藤水産文化ホールで開かれた北海道集会「生活環境を脅かす放射能汚染・子どもたちのために子育て世代がいま知るべきこと」では、海への流出が止まらない福島第一原発からの放射性汚染水問題が、食卓に上る魚介類の安全に与える影響について、東海ネット市民放射能測定センター(Cラボ)運営者の大沼淳一氏がスピーチした。

 さっぽろ市民放射能測定所(はかーる・さっぽろ)の代表者が冒頭で挨拶に立ち、「福島原発事故による食品汚染は、今後100年以上続くとさえ言われている。われわれは、粘り強い活動を行っていきたい」と表明した。これに続き、共同主催者である高木仁三郎市民科学基金が助成した3団体(泊原発の廃炉を目指す会、モペッ サンクチュアリ ネットワーク、はかーる・さっぽろ)による活動報告が行われ、さらには、全国の市民放射能測定所が測定した食品データを一般公開する「みんなのデータサイト」開設の説明があった。

 基調講演を担う大沼淳一氏は、開始から1時間20分ほど後に登壇した。大沼氏は元愛知県環境調査センター主任研究員の経歴を持ち、現在は高木基金の選考委員も務めている。「科学の世界で、権力に近寄らない生き方してきた。放射能に関しては、福島の事故後に大慌てでかなり勉強した」と簡単に自己紹介した上で、「今日は、みなさんが日ごろ心配している海産物の放射能汚染状況を説明したい」と話し始めた。

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客観的データからわかること

 「水産庁のホームページ上にある『水産物の放射性物質調査の結果について』を参考にするのが手っ取り早い」。大沼氏は、そのデータを基にした放射性セシウムによる海産物汚染の経年変化をスクリーンに映し出した。

 「福島原発事故発生直後から2011年末までの推移を見ると、生息域がごく表層の魚(シラス、コウナゴなど)や表層の魚(サヨリ、カタクチイワシなど)は、事故直後は放射能濃度の数値が跳ね上がったものの、その後は低下傾向を示している」。

 大沼氏は「悩むのは、低層の魚(タイ、ヒラメ、マダラなど)」と強調した。1キロあたり1~1000ベクレル超のゾーンにプロット(黒点)が群集する傾向が続いており、「中層の魚(スズキ、メバチなど)もまた、高位安定の状態が続いている。貝やイカ、タコもしかりだ」。

 続いて2012年4月~2013年1月、2013年4~7月の結果を示し、大沼氏は「低層の魚は今なお、濃度の低下傾向がはっきりしない」と指摘。今の海産物汚染の主たる要因は、原発事故直後に海に大量に流れ出た放射性汚染水にある、との見方を示しつつも、「その後も汚染水の流出が続き、今なお問題解決の目処が立っていない以上、消費者の不安はまだまだ続く」と言明した。

 大沼氏は主催者側のリクエストに応じ、「冬の味覚」とされているマダラの、2012年度の調査結果も紹介。「一番高かったのは福島県沖で採れたもので、セシウムが1キロあたり約490ベクレルだった。北海道に限定しても、胆振沖で採れたものでも100ベクレルが検出された例がある。汚染水が北海道にまで達したか、福島で放射性物質を取り入れたマダラが北上したかの、いずれかだと思う」。今年4~9月でも、胆振沖と日高沖で採れたもので、それぞれ43ベクレルと40ベクレルが検出されており、大沼氏は「どちらも、子どもたちには食べさせられない水準だ」と述べた。

「ストロンチウム90」を測らない怠慢

 なお、淡水魚(ヤマメ、イワナなど)は、放射能汚染濃度に多少の低下傾向が見られながらも、全体では高位安定が続いており、大沼氏は「特にワカサギやマスなど、湖沼に生息する魚の場合、湖沼自体が閉鎖的であるのが悪材料」と力説した。

 「(一部の例外を除き)国がセシウム以外の放射性物質を測定していないのも、大きな問題」と懸念を述べた大沼氏は、「ストロンチウム」の毒性を次のように説明した。「この核種は、体内に取り入れられると骨に沈着してしまう。セシウムは食べてしまっても排泄されるため、大人で体内半減期は約90日だが、ストロンチウムは約50年(物理的半減期は約29年)だ。福島第一原発から海に流出した汚染水には、そのストロンチウムがどっさり含まれている。国は海産物を対象にしたストロンチウム検査を、すぐに始めるべきだ」。

 東京電力は8月21日、2011年5月から汚染水流出が続いていると仮定して、ストロンチウム90が最大で約10兆ベクレル(セシウム137は同20兆ベクレル)、港湾内に流れ出た可能性があるとの試算を発表している。合計で、通常運転時の海への年間放出基準値(トリチウムは含まず)の約100倍に上る。

 大沼氏は、ストロンチウムの測定には短くても2週間程度の期間が必要であることを認めながらも、「検査が難しいとする、国の言い分には承服しかねる」ときっぱり。「ドラフトチャンバー(局所排気装置)がある大学などの実験室であれば、どこでも検査は可能だ。必要な知識は高校生レベルの化学に関するもの。相応しい人員を確保し、短期間トレーニングすれば体制は整う」。

市販の納豆などを独自測定

 大沼氏は、Cラボの活動報告を兼ね、独自検査の結果にも言及した。原発事故後、愛知県岡崎市の幼稚園給食で使った「しいたけ」の放射能濃度をCラボで測定したところ、セシウムの濃度が1600ベクレルに達したという。「われわれの通報を受けた県が、慌てて測ってみたところ同じ結果が出た。県が販売業者に問いただすと、最初はすべて愛知県産だと言い張っていたが、実際は茨城県産を混ぜていたようだ」。

 またCラボは、地元のスーパーなどで「国産」と銘打って販売されている納豆、豆腐、小麦粉などの検査も実施している。「合計で約200の業者に電話をして、大豆の産地などを確かめた。たとえば、ミツカン社の納豆の場合は茨城産だった」。Cラボは実際にいくつかの商品を購入し、それぞれを測定。この日の集会では、その結果を商品の写真を添えてスクリーンに映し出した。「16ベクレルという高い数値のシリアル(トウモロコシ、米、小麦などを加熱調理したもの)や、13ベクレルを示した麦茶もあった」。

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