「日本のPCB処理は破綻している」 ~原田和明氏講演 2013.9.28

記事公開日:2013.9.28取材地: テキスト動画
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(IWJボランティアスタッフ・こうのみなと)

 日本の廃棄物処理の杜撰さは、使用済み核燃料だけに言えるものではない。有害物質であるPCBの処理においても、日本は先進国に大幅に遅れをとっている。

 2013年9月28日(土)14時から、福岡県北九州市小倉北区の小倉生涯学習総合センターにて、元化学会社社員で、現在、大学職員を務める原田和明氏が「PCB処理の現状と課題」と題し、約1時間半にわたって講演をおこなった。2013年1月に、「真相 日本の枯葉剤 日米同盟が隠した化学兵器の正体」(五月書房)を出版している原田氏は、「原子力ムラと同じくPCBムラが存在する」と指摘する。

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■全編動画

  • 講演 原田和明氏(大学職員)
  • 日時 2013年9月28日(土) 14:00〜
  • 場所 小倉生涯学習総合センター(福岡県北九州市)
  • 主催 日台油症情報センター

PCBとは?

 PCBとは、Poly Chlorinated Biphenylの略称であり、 不燃性、電気絶縁性が高い化学物質である。熱に対して安定で、電気絶縁性が高く、耐薬品性に優れているなどの理由で、電気機器の絶縁油、熱交換器の熱媒体、ノンカーボン紙などに非常に幅広い分野に用いられた。

 一方、生体に対する毒性が高く、脂肪に溶けやすいため、慢性的な摂取により体内に徐々に蓄積していく。発癌性があり、また皮膚障害、内臓障害、ホルモン異常を引き起こすことが分かっている。

 日本では、1954年に製造が始まったが、1968年に起こった「カネミ油症事件」をきっかけに、1972年の生産・使用の中止等の行政指導を経て、1975年に製造および輸入が原則禁止された。この過程で国内では、5万9千トンあまりのPCBが生産され、国内では5万4千トンが使用された。現在、処理対象とされている高濃度PCBは約2万トンとされている為、約3.5万~4万トンあまりのPCBは行方不明となっている計算となる。

破綻している日本のPCB処理

 2001年にはストックホルム条約(POPs条約)が締結され、2028年までにPCB廃棄物を処理することが、世界各国に義務付けられた。これを受け日本でも同年に、「PCB廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」が制定され、PCBを保管している事業者に対し、2016年7月までにPCB廃棄物を処分することを課した。

 この条約を受け、2004年には日本環境安全事業(株)(以下、JESCO)が発足し、前身の環境事業団の事業を引き継いだ。純度0.5%以上の高濃度PCBを処理する為に、2004年にJESCO北九州事業所が設立され、2005年に豊田事業所、2006年に大阪事業所、2008年に北海道事業所が相次いで操業を開始した。

 しかし、2011年に行われた「第2回PCB廃棄物適正処理推進に関する検討委員会」では、東京事業所の処分見通しが2037年(平成49年)とされているなど、日本がストックホルム条約の期限を守ることは到底不可能な状況である。

欧米の主流は、焼却方式。日本は、非効率な化学分解方式

 一方、日本とは対象的に、燃焼式処理を選択した欧米諸国では、高濃度PCB廃棄物の大半を既に焼却してしまっている。アメリカ、カナダ、ヨーロッパなどの多くの先進国では、残っているのは濃度の薄いPCB廃棄物だけである。処理は順調でほぼ完了している。

 日本では、「地元の理解が得られなかった」「施設を立地できなかった」との理由から、環境省は高濃度PCBの焼却処理を断念したとしている。  日本では、高濃度PCB(0.5%以上)を化学分解方式で処理し、低濃度PCB(0.5%以下)を焼却するという、欧米とは全く真逆の処理方式を採用している。

 この方式の選択ミスが、処理見通しの大幅な遅延と莫大なコスト増をもたらしたと原田氏は指摘する。

化学分解方式の問題点

 原田氏は、「化学分解方式の問題点は、PCBの液体そのものしか処理できず、それに付随する固体物は処理できないことにある」と説明した。大まかに整理すると以下の点が挙げられる。

 ・中間工程の洗浄作業が大幅に遅延

 トランスなどの処理においては、解体前の工程で十分にPCB濃度のレベルを下げる為に、洗浄を行う必要があるが、当初計画していた洗浄回数よりも大幅に増やさないと基準濃度まで下がらないことが判明した。また、対象物によっても洗浄回数に大きな差があり、計画通りに作業ラインが動いていない。

 ・真空過熱分離工程でダイオキシンが発生

 PCBに汚染されたアルミ箔・紙・木などを処理する工程では、「真空過熱分離方式」が用いられるが、これはまさに、カネミ油症事件でPCBを過熱し酸化・縮合させダイオキシン類を発生させた原因であり、安全性という点で大きな疑問符がつく。

 ・2次廃棄物が膨大に発生

 廃棄処理に用いる活性炭・作業者の保護具などは、当初の想定よりも発生量が大幅に増加し、事業所内での処理が全く追いついていない状況にある。JESCOの5事業所では、ドラム缶15,000千本の二次廃棄物が保管中とされており、更なる保管場所確保に迫られている。

PCBムラが存在する

 更に、原田氏は、「原子力ムラと同じくPCBムラが存在する」と説明した。

 JESCOの全国5か所の事業所は、10社の持ち回りで決まっており、馴れ合い体質の中にある。

 それを表す象徴的な事例は、2009年に行われた室蘭事業所の入札である。当初、約600億円で新日鐵の子会社が落札するという予想に反し、神戸市を本拠地とする川崎重工の子会社が突如、入札に参加し384億円で落札した。

 しかし、JESCOはこの入札を一方的に取り消し、室蘭市に事業所を置く新日鐵の子会社が275億円で再入札の末、落札している。つまり、当初の入札予定金額で落札されていた場合、新日鐵の子会社は2倍近い売上と利益を得ていたことになる。

PCB問題と原子力問題は根本的に同じ構造

 原田氏は、「PCB問題と原子力問題は根本的に同じ」と講演中、再三にわたって指摘した。

 カネミ油症事件が発生しても、PCBの生産を停止するどころか増産していった経緯。

 欧米で一般的な焼却方式を採用せず、コストが莫大にかかる化学分解方式を強引に採用した経緯。

 予想外の2次廃棄物が膨大に発生し、それを処理する目途が全くたっていない現状。

 どれをとっても、現在の日本の原子力産業を取り巻く状況とよく似ている。そして、現在のPCB処理は、福島第一原発の汚染水問題同様、明らかに破綻している。

 「いずれにせよ、いつかは現在の化学分解方式から、焼却方式に立ち帰らざるを得ない」と、原田氏は講演の最後を締め括った。

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「「日本のPCB処理は破綻している」 ~原田和明氏講演」への1件のフィードバック

  1. 荒井信一 より:

     PCB処理の現状と課題 原田和明氏講演の破綻しているPCB処理は、有意義な内容だ。この内容を念頭に今進行中の福島原発の始末を見ると、破綻している理由が、くっきり浮かんでくる。日本政府行政の体質的な問題を含んでいる。

    (1)PCB処理には、プラズマ溶融分解(高温処理)と化学分解処理があって、温度分解ではダイオキシンという2次的毒が発生する。事実真空加熱分解ではダイオキシンが発生し、これがカネミ油症事件の健康被害の主悪であるのが、後の知見で化学的に認識された。海外はこれの基準をある程度甘くして処理を進めた。
    (2)化学的処理はダイオキシンは発生しないが、木や紙や作業衣その他に染み込んだPCBが処理不能という本質欠陥が稼働してから明らかになった。処理の課程でも発生するこの類の膨大な量の廃棄物の処理と保管がネックになっている。海外の主流の処理方式と真逆の方式を日本がとった事が、破綻の原因である。
    (3)入札方式による参入規制でムラが守られ、利益を分け合う。その参入規制に設けられる条件により処理方式が限定され、それが結果不合理性を生んで、全体の計画が狂って処理が進まず、日程の目処が破綻し始める。

     つまり、処理を始めた当時の関係者の利益を分かち合う様に、入札時の処理方式を政治的に調整し、限定したことが、その方式自体の物理的・化学的・経済的な欠陥の存在が明らかになっても方針転換出来ずに、ズルズル日程が遅れ、処理自体の破綻に陥っている。これを包括して方針転換する組織も人も不明で、塩漬けになってしまう。一旦決まった方針を変えることをやれない。

    欧米は作業着でやっている。原因がPCBより処理過程で出たダイオキシンが人的症状を発生させた主原因であるのが、後付けで科学的知見として判明した。日本はこの知見を取り入れていない。

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