<福島第一原発汚染水問題・徹底分析特集!> 特集5. 連鎖する危機 タンク事故は地下汚染水対策にも致命傷を与えるのか!?( IWJウィークリー15号より) 2013.9.2

記事公開日:2013.9.2 テキスト
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(文責:岩上安身/ 取材:箕島望・大西雅明/記事構成:原佑介)

豊かな水脈に「恵まれてしまっていた」福島第一原発の実態

 約300トン、計24兆ベクレルの高濃度汚染水流出事故は、本来、絶対に起こってはならない「最悪の場所」で発生した。

 漏洩したタンクの位置は、「地下水バイパス」のすぐ西、つまり、福島第一原発に流れ込んでくる地下水の「上流」にあたる場所なのである。

 福島第一原発の4号機下などには、建設以前はもともと「川」が流れていた。福島第一原発は、水の流れが非常に多い地域で、事故以前も、地盤の弛みを防ぐため、毎日850トンの地下水を汲み上げては捨てていたほどだ。

 現在、毎日300トンほど漏れ出ている「地下汚染水」も、山側から流入してくる莫大な量(一日800~1000トン)の地下水が主たる原因となっている。この原因を取り除くために、重要な役割を果たすのが「地下水バイパス」である。

 山側から流れてくるピュアな地下水は、原子炉建屋周辺の超高濃度汚染水と混ざることで、「地下汚染水」となってしまう。地下水バイパスは、地下水が原子炉建屋付近に到達して、汚染水となる前に汲み上げ、ピュアなまま海へ捨てようというものである。

 汚染水になってからでは、海に流出させることはできず、回収しなければならなくなる。タンク事情が逼迫(ぴっぱく)している現状を見ると、東電としては、何としてでも地下水バイパスを運用したいところだろう。

これまでも「風評被害」の観点から使用が許されなかった「切り札」

 地下水バイパスは、今年3月に完成した。4月から試運転を行い、汲み上げた地下水からは1リットルあたり0.22Bqのセシウム134と、0.39ベクレルのセシウム137が検出された。東電は、海への放出条件を、1リットル当たり1Bq未満の放射性セシウム137としている。

 原発事故で大量の放射性物質が広域にわたって飛散し、今もなお一日あたり2億4千万ベクレルの放射性物質が放出され続けている以上、地下水から一定量の放射性物質が検出されることは当然である。

 しかし、地下水のサンプリング結果は、東電の設けた基準を下回ったにも関わらず、地元漁業者からは風評被害を心配する声が噴出し、これまで「地下水バイパス」は使用されずにきた。

 東電は粘り強く説明し、理解を得たいと訴えてきたが、今回のタンクからの汚染水漏洩事故によって、地下水バイパス計画は破綻することになりかねない。なぜか。

▲<参考>2013年8月23日東電プレス向け資料地下水バイパス位置と漏洩タンク位置

▲<参考>2013年8月23日東電プレス向け資料地下水バイパス位置と漏洩タンク位置

 上の図を参考にしていただきたい。向かって上が海側で、下が山側である。

 地下水は、山から海に、つまり、図の下から上に向かって流れる。地下水バイパスは、原子炉よりも山側に設置されているため、原子炉付近で汚染される前の状態で、地下水を汲み上げることができる計算になっている。

 しかし、タンクから地面に漏れた300トンの高濃度汚染水が、もし、地下水脈に到達していれば、地下水バイパスで汲み上げるはずの地下水は、決してピュアな状態ではなく、「汚染水」となってしまう。なぜなら、タンク汚染水の漏洩地点は、地下水バイパスよりも山側、つまり、地下水の上流にあたる場所だからだ。

 先述の通り、東電は、漏洩した汚染水を土壌ごと回収し始めているが、莫大な量の汚染水はすでに地面に浸透しており、しかも、漏洩してからどれほどの時間が経過したのかもわかっていない。今更、汚染水を回収できるのか、かなり怪しい。

 21日の会見で、IWJは、汚染水バイパスへの影響をどのように評価しているのかと質問したが、東電は「地下水バイパスは、地下汚染水を緩和する上での重要な施策」と認めながらも、「いずれにしても、バイパスで汲み上げた水は、放出する前に水質を確認するので、その原則は変わらない。(今回の事故が)どのように影響するかの評価はできていない。漁業者には、今後も丁寧に説明する」と回答した。

 しかし、タンクからの漏洩が発覚する前から、漁業者らは地下水バイパスへの理解を示してこなかった。ただでさえ理解を得られずにいたのに、今回の事故で、同意を得るのはより困難になったのではないか。

「ただの地下水を海洋に流出するといいながら、汚染水を流すのではないか」

 JF福島漁連指導部のAさんの意見は、こうだ。

「地下水バイパス計画については早く実施してほしいと思っている関係者と、そうではない者と意見が割れている。反対する理由は、東電を信用していないから。ただの地下水を海洋に流出するといいながら、汚染水を流すのではないかという疑いが拭えない」

「検査の結果、安全だったから流させてほしい」。東電がそう申し出たとしても、地元の漁業者が拒む可能性はないとはいえない。これまでの経緯を考えると漁業者の怒りももっともであると思う。

 東電は、自ら信頼を失った結果、東電自身の首を締めてしまっているのである。

レベル3

 今回のタンク漏洩事故を「レベル3」と評価するにあたって、原子力規制委員会では、「すでに最悪のレベル7と評価されている事故の中で、事故収束のための応急措置として設置された施設に対し、通常の原発と同様にINES評価を適用することがふさわしいか」といった議論もなされている。現在、IAEAの判断を待っている状態だ。

 しかし、日本政府は2011年12月16日、国内外に向け、福島第一原発事故の収束宣言を出している。都合よく「事故は収束した」「事故はまだ終わっていない」などと、使い分けられてはたまらない。収束宣言を出したのは当時の民主党・野田政権だったとは言え、安倍政権が正式に収束宣言を撤回したわけでもない。

 福島第一原発を視察した安倍総理は、「事故が収束したとは言えない」などとの感想を述べてはいたが、今後の原発再稼働を見据えれば、収束宣言を撤回して、事故をむし返すようなことは避けたいところなのだろう。

 今回のタンク漏洩を受け、菅義偉官房長官は26日午前の記者会見で、茂木敏充経済産業相に対し、「抜本対策を早急に進めるべく、今年度予算の予備費の活用も含め、財政措置もできる限りのことを行うよう指示した」と述べ、「国としても一歩前に出ていく」と強調したという。

 2年前に却下した山側の遮水壁設置工事を、海洋流出が発覚してから再検討する。2年以上前に用意した簡易型タンクから、汚染水の漏洩が発覚して、ようやく溶接式タンクへの交換を検討する――。

 これらのことは、コストさえ惜しまなければ、事故を起こす前にある程度クリアできた問題ではある。しかし、起こったことは取り返しがつかず、新たに噴出した問題を対処するのは、より困難をきわめる。もはや、コストをかければ解決する問題ではない。

 菅官房長官が「国としても一歩前に出ていく」と言うのであれば、ぜひ、見える形でその言葉を実行していただきたい。これは、新たな「レベル3」の原発事故であると肝に命じて。

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