「世界の潮流は原発推進だ」という細田博之・自民党幹事長代行発言を徹底検証(<IWJの視点>野村佳男の「イッツ・ア・スモール・ワールド」:IWJウィークリー13号より) 2017.8.12

記事公開日:2013.8.12 テキスト
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 参議院選挙の余韻も醒めやらぬ7月22日、自民党の細田博之幹事長代行は、BSフジの番組で、こうまくしたてた。

・朝日新聞 2013年07月23日「世界の潮流は原発推進」自民・細田氏(リンク切れ)

 自民党は参院選の公約に「原発再稼働」をかかげ、安倍総理が自ら中東やインドへの原発輸出のトップセールスを行うなど、原発推進一辺倒であることは明らかである。参院選での自民圧勝という結果を受けて、もはや誰に遠慮する必要もなく、原発再稼動にアクセルを踏み込む腹なのだろう。

 東電の相次ぐ事故への対応や、福島の被災者への配慮をなおざりにした、自民党らしい、何ともあからさまな「為政者の論理」である。

 しかし、世論はそれほど単純ではない。前回のウィークリーでも紹介したが、原発再稼働への賛否は半々に分かれている。さらに、原発輸出に関しては、約6割が反対の姿勢を示している。

・時事通信 2013.7.12「原発再稼働、半数が不支持=時事世論調査」(リンク切れ)
・時事通信 2013.6.15「原発輸出、58%が支持せず=支持は24%-時事世論調査」 (リンク切れ)

 自民大勝という選挙結果で、原発推進政策がすべて信任されたと思ったら、大間違いなのである。

「脱原発」でも電力輸出超過のドイツ

 そもそも、世界の潮流は本当に「原発推進」なのだろうか。

 「脱原発」を政策にかかげた国としては、ドイツがよく知られている。2011年の福島第一原発事故を受け、メルケル首相はドイツの原発運転期間延長の凍結や古い原発の一時停止を矢継ぎ早に決めた。そして、世論が「脱原発」に向かうと判断するや、2022年までの原発全廃を決定した。

 「日本の出来事からわかるのは、科学的にありえないとされてきたことが起こるということだ」。メルケル首相はこのように語っている。

 「ドイツはフランスなど原発大国から電力を輸入しているから、例外だ」という人もいるかもしれない。これは、3.11後に、原発推進側からたびたび仕掛けられてきた、情報操作のひとつである。

 実際には、ドイツは2003年以降電力の輸出が輸入を上回っているのである。脱原発でも、太陽光や風力発電をはじめとした再生可能エネルギーの急速な普及によって、着実に輸出が伸びているのだ。

・日本経済新聞 2013年4月3日 「脱原発でも電力輸出超過 ドイツ、前年の4倍」


(出典:ドレスデン情報ファイル「ドイツの電力輸出入」)

減り続ける、世界の原発依存

 それでも「脱原発」はドイツに特有な現象であり、世界全体で見れば、原発依存はまだ高いと思われるかもしれない。しかし、The World Nuclear Industry Status Report 2013という国際的な調査報告書によると、2012年の世界の原発発電量は3年連続で減少し、ピークだった06年と比べて6年で11.8%減、総発電量に占める比率も過去最低の10%であることが明らかになっている。原発なしでは、現代世界の電力供給はおぼつかない、というのは、推進側の流す最大のプロパガンダであり、根拠の薄弱な「神話」に他ならない。

・毎日新聞 2013年07月11日 「世界原発発電量:12年は6.8%減少 3年連続減」(リンク切れ)

 調査チームの一人である細川弘明・京都精華大教授は「世界の原子力産業は下り坂にある」と指摘している。さらに驚くべきことに、「インドと中国では原発の発電量を再生可能エネルギーの発電量が上回るなど、再生可能エネルギーの優位さが目立っている」と分析している。インドや中国といった新興国でも「脱原発」が進んでいるのである。

米国もフランスも「脱原発」

 では、「原発先進国」である米国とフランスはどうだろうか。日本は、米国から原発の燃料である濃縮ウランを大量に輸入し、フランスには使用済み核燃料の再処理を委託するなど、原発政策において両国とは密接な関係がある。

 米国では、1979年のスリーマイル島の原発事故以降、新規の原発は一つも建設されていない。一方、ウィスコンシン州にあるキウォーニー原発や、フロリダ州のクリスタルリバー原発、ニュージャージー州のオイスタークリーク原発など、昨年から次々と古い原発の廃炉が決定されている。

 そして今年の6月には、放射性物質が漏れ出す事故を起こしたカリフォルニア州のサンオノフレ原発2基の廃炉が決まった。事故原因となった蒸気発生器を設計・製造した三菱重工業には、138億円超の損害賠償が請求されている。

・朝日新聞 2013年7月19日「三菱重工に138億円超の賠償請求 事故で廃炉の米原発」(リンク切れ)

 これらの廃炉決定により、ピークで104基あった米国の原子炉は、100基を切ることになる。さらに、今後20年以内に43基が廃炉になるという予測もある。

・JBPress 2013月7月31日「米国で一転、急速な広がり見せる原発不要論」

 原発の新規建設の見通しもない。2012年8月、米原子力規制委員会(NRC)は、「核廃棄物の最終処分の基準が決まるまでは、新たな原発の建設や、原発稼働の期間延長を凍結する」という決定を下した。原発施設稼働の判断に、廃棄物の最終処理も含めた安全性の担保が必要であるという、画期的な決断である。

・日本経済新聞 2012年8月8日「規則改善まで原発認可せず 米原子力規制委員会

 高レベル放射性廃棄物処分場の唯一の候補地であったユッカマウンテンは、2009年オバマ政権により計画中止となった。その後、この問題を検討する「ブルーリボン委員会」を設置するが、今のところ代替案は見つかっていない。つまり上記のNRCの決定は、事実上の「原発建設中止」を意味する。

 厳格な安全基準を満たすためのコストを考えると、原発の稼働を続けることが採算に合わなくなっている。安価な「シェールガス」の登場で、状況が様変わりしているからだ。世界最大の原子力発電事業者であるフランス電力公社(EDF)は、米国の原子力発電市場から撤退する方針を発表した。

・ロイター 2013年 7月 31日「仏電力公社が米原発市場から撤退、シェールガス革命で

 一方フランスでは、2012年5月に新大統領に就任したオランド政権が、それまでの原発政策を転換し、2025年までに電力の原子力依存度を現在の75%から50%に下げる目標を掲げている。

 オランド大統領は、ドイツとの国境近くにある2基の原子炉を2016年末までに廃炉にすることを決定した。全58基の原子炉を今後どうしていくか、電力業界、労働組合、環境団体、消費者など様々な立場の人が参加する討論会や市民フォーラムが行われ、2013年中に法案をまとめる予定である。

・NHK 2012年12月19日「ここに注目! 「原発大国フランスの廃炉」 (リンク切れ)

 フランス財務省の試算では、原発58機の廃炉解体費は320億ユーロにも及ぶ。大統領自身が今後の国際的な廃炉ビジネスにつなげたいと提案し、フランス企業のヴェオリアが原子力設備の解体事業を受け持つことで政府と合意するなど、この機会を自国の利益につなげようという動きがすでに始まっている。

・仏Les Echos 2013年1月15日「フランス、競争に入った原発の廃炉・解体産業

 ここまで見てきて、米国やフランスも含め、実は世界の潮流は原発推進どころか、明らかに「脱原発」であることは疑いのない事実であろう。

原発は、日本に押し付けられている!

 しかし、「何かおかしい」と感じるかもしれない。「米国は日本に原発を続けろと言っているじゃないか。フランスも、オランド大統領が来日して、原子力政策で共に協力すると言ったばかりだ」と。

 そう、おかしいのである。

 米国もフランスも、自国では原発縮小を公約に謳いながら、日本に対しては原発の再稼働や核燃料サイクル、高速増殖炉「もんじゅ」の研究開発などに協力すると言っているのである。

 民主党政権だった2012年9月、野田首相(当時)の代理として訪米した大串博志内閣府政務官(同)が米エネルギー省のポネマン副長官に、プルトニウムを普通の原子炉で燃やす「プルサーマル発電」の再開をひそかに約束していたことが、公文書で明らかになっている。

・毎日新聞 2013年06月25日「Listening:虚構の環・安全保障の陰で プルサーマル、米に約束 昨秋・民主政権、国民に説明せぬまま」(リンク切れ)

 そしてその約束通り、2013年6月、仏アレバ社が製造したプルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料が高浜原発に持ち込まれた。福島第1原発事故後、MOX燃料が海外から日本に輸送されるのは初めてだ。

・時事通信 2013年6月27日 「MOX燃料、高浜に到着=仏から、福島事故後初-関電」(リンク切れ)

 自民党の原発推進政策に米仏は一緒になって協力しているのかと思いきや、危険性や世論の動向、経済的理由などから自国では廃れつつある原発ビジネスを、単に日本に押しつけているだけではないのかという疑念が膨らむ。

 いや、それは「疑念」ではない。IWJが繰り返し伝えてきたように、「第3次アーミテージレポート」には、以下のような記載がある。

 「日本は、エネルギー効率の向上において非常に大きな進歩を遂げ、エネルギーの研究開発で世界的なリーダーとなっている。日本人は、エネルギー消費の削減と、エネルギー効率に関する世界最高の基準の設定において、驚異的な国民的結束を発揮してきたが、近未来における原子力エネルギーの欠如は、日本に重大な影響を及ぼすであろう。原子力発電所の再稼動なしでは、日本が2020年までに二酸化炭素 (CO2) 排出量を25パーセント削減する目標に向って有意義な進歩を遂げることは不可能であろう。原子力は、現在も将来も、排ガスのない基底負荷発電の唯一の実質的ソースとして残るであろう」。

 このように、米国は、原発の再稼動を日本に対し、あからさまに要求してきている。

 「第3次アーミテージレポート」の注解と詳細な分析は、メルマガ「IWJ特報」でお伝えしているので、そちらも参照にしていただきたい。

 そして、それを嬉々として受け入れている安倍政権。これが自民党の言う「強い外交」なのだとしたら、笑うに笑えない冗談である。

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