「このような被害が出たのは、アスベストの危険を承知しながら、労働者に対する配慮が欠けていた国の責任である」―。6月6日、第38回全国公害被害者総行動デーに際し、厚生労働省で行われた政府交渉では、大阪・泉南アスベスト国家賠償訴訟原告団・弁護団および首都圏建設アスベスト訴訟統一本部のメンバーが、訴訟の早期解決と、被害者保証基金の創設、被害防止対策の確立などを厚労省に要請した。
アスベストによる主な被害は、吸入すると呼吸困難や食事がままならなくなるなどの症状を引き起こすだけでなく、発ガンのリスクを高め、肺ガンなどを発症するとされている。また、悪性の中皮腫と呼ばれるガンの一種を発症した場合には、治療法がないのが現状だ。この日の交渉でも、原告側から被害の切実な実情が報告された。
※動画は交渉後のぶら下がり取材のものです。
- 日時 2013年6月6日(木)
- 場所 厚労省(東京都千代田区)
大阪・泉南アスベスト被害では、すでに9名が亡くなっており、現在も被害に苦しむ原告が多数いるという。2012年3月の泉南アスベスト国賠訴訟(2陣)判決では、大阪地裁が国の規制権限不行使を認め、原告団50名に対し総額約1億8千万円を賠償するよう命じた。今後、8月に2陣の高裁が結審し、判決が年内にはあるとの見通しから、「最高裁の判断を受けてもなお、国としての責任を認めないとなると、行政として大変な問題になる」とし、それまでに解決の決断をすべきだと主張した。
首都圏建設アスベスト被害でも、現在までに82名が亡くなり、訴訟期間も5年と長期に渡っていることから、「訴訟の結末を見ずに亡くなっていく方がこれほど多いことはありえない」。「産業発展のためには、労働者の命などはどうでもいいというような判決が出た。我々が働かなければ今の世の中はなかったのに、それを虫けらのような判決を出すことは言語道断だ」と痛烈に批判した。さらに、建設アスベストにおいては、今後も東日本大震災のガレキ処理や住宅リフォームなどで、さらに被害が拡大することが予想されるとの懸念が示された。
交渉の参加者は「国が建築基準法で(アスベストの)使用を義務付け、企業は利益のために人の命を顧みずに行った」とし、こうした企業の問題を国が追及していくべきだと主張。また、アスベスト被害を正確に診断できる医療機関が少ないことも指摘し、「これほどの被害を出したのは国の失策」であり、国、厚労省として被害をなくすための取り組みを強く求めた。
交渉後のぶら下がりでは、アスベスト被害により家族を亡くした原告から「『アスベストだからもうダメなんだ』という言葉を(被害者である家族から)何度聞いたか。これが頭から離れない。今後、この悔しさを(抱える人々を)増やしたくない。未来の子どもたちに同じ苦しみを味わわせたくない」と訴え、国、企業からの謝罪と、早急な対策を求めた。
交渉に参加した全建総連東京都連・顧問の渡邊守光氏は「2005年以前の建物には必ずと言っていいほどアスベスト建材が使われている。この問題が忘れ去られようとしているが、風化させてはならない」。「横浜地裁では犠牲が出てもしょうがないというような判決が出たが、最高裁までは患者のみなさんの命がもたない。さらに苦しみを帯びる人が増えることがないように、国・行政・司法に、この問題への理解を求めたい」と訴えた。
東京都建設組合・副組合長の鳥海和子氏は「アスベストは、建物の壁にも屋根にもあらゆるところにある。それを知らずに触ったりしている」ことから、そうした知識を教育機関等が注意喚起していく必要性を訴えた。さらに、日本で余った建材が第三国へ輸出されていることにも触れ、今後、他国でも同様の被害が出てしまうことに警鐘を鳴らした。