「タイムマシンに乗って、お父さんが死んでしまう前の日に行き『仕事に行ったらあかん!』と言うんや」 ~シンポジウム「ブラック企業の見分け方と対処法」 2013.2.28

記事公開日:2013.2.28取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・久保元)

 2013年2月28日(木)18時30分、大阪市北区の大阪弁護士会館において、「ブラック企業の見分け方と対処法」と題するシンポジウムが開催された。このシンポジウムは大阪弁護士会が主催したもので、NPO法人POSSE(ポッセ)代表の今野晴貴(こんのはるき)氏が、第一部で基調講演を行った。

 今野氏は、「ブラック企業」の特徴や手口、問題解決に向けた課題などについて語った。第二部では、「過労死をなくすために」と題する報告が行われ、「全国過労死を考える家族の会」の代表世話人を務める寺西笑子(えみこ)氏が、過労死遺族の立場から、過労死根絶への思いを語ったほか、大阪弁護士会所属の和田香(かおり)弁護士と岩城穣(ゆたか)弁護士が、「過労死企業名の公表を求める裁判」の概要や、過労死を防止するための法整備の必要性などについて報告した。

※電波不良のため、一部見づらい場面がございます。何卒ご了承ください。

■全編動画 1/2

■全編動画 2/2

  • 講演 「ブラック企業の見分け方と対処法」
  • 今野晴貴氏(NPO法人POSSE代表)
  • 報告 「過労死をなくすために」
  • 寺西笑子氏(全国過労死を考える家族の会代表)
  • 岩城穣弁護士、和田香弁護士(過労死企業名の公表を求める訴訟の弁護団)
  • 日時 2013年2月28日(木)18:30〜
  • 場所 大阪弁護士会館(大阪府大阪市)

第一部「ブラック企業の見分け方と対処法」

 冒頭、今野氏は、非正規雇用の増加や若者の働き方の変化など、労働環境が大きく変化している状況に対して、あたかも若者自身の「劣化」や「意識の変化」が原因であるかのように印象づけようとする世論の傾向があることに苦言を呈した。

 続いて、ハローワーク前で独自に実施した退職実態調査や、今野氏らに寄せられる労働相談において、「会社都合」ではなく「自己都合」での退職に追い込まれるケースが急増しているとした。また、あらかじめ一定数の退職者を出すことを前提とした大量採用が行われ、会社側が退職させると決めた従業員を心理的に追い込み、自分から辞めていくように「戦略的に」仕向けているケースや、マニュアルの暗記や試験を課し、一定条件をクリアできないと反省文やレポート提出を義務付けるケースなど、さまざまな手法で従業員を追い込んで選別していく「選別型ブラック企業」の事例を紹介した。

 待遇面の問題も指摘した。従業員を長時間働かせる一方で、それに見合う残業代を支給しない事例や、新卒者を大量採用して長時間労働に就かせ、体調を壊して新卒者が大量に退職すると、再び大量に新卒を採用するという、「使い捨て型ブラック企業」が増えているなどの事例を挙げた。特に、そうした企業の特徴として、「代わりの人間など、いくらでもいる」という安易かつ傲慢な考えをし、人材を長期雇用する気がないため、従業員の健康管理をおろそかにしている実態も問題点として挙げた

 日本特有の労務体系についても言及した。わが国においては、従来から長時間労働や転勤命令など、労働者にとっての厳しい労働環境は以前から存在しつつも、終身雇用と年功型の賃金体系が存在し、その中で企業は人材を育て、従業員も勤務先の企業を信用し、会社側の無理も聞くという、そのような労使関係が、良くも悪くもこれまでは成り立ってきたことを説明した。しかし、ブラック企業の姿勢について、今野氏は、「企業と従業員の信頼関係を逆手に取り、人材育成のためではなく、従業員を使い潰すために、強力な命令権を厳しく行使している」と指摘した。特に、「社会が二十数年間かけて育成してきた人材を、ブラック企業がわずか数年で潰してしまう。社会にとって非常に迷惑な話だ」と厳しく批判した。

 また、「好景気になり、雇用が増えても、それがブラック企業ならば意味がない」とした。その理由として、ブラック企業は景気の良し悪しで労働待遇を変えず、普段から従業員を使い潰すことによって業績を維持している点を挙げたほか、企業側の顧問弁護士や社会労務士が、法規違反との指摘を免れるための戦略提案や、「残業代の支払いを拒否する」「係争が起きた際のみ対処する」といった、企業側に有利になるような、悪質極まりない「指南」を行っている実態を問題点として挙げた。

 「ブラック企業の見分け方」については、一般的に、離職率の高い会社や平均年齢の低い企業がブラック企業だとされていることについて、「職種や仕事内容によっては、離職率が高いからといって、必ずしもブラック企業であるとは限らない場合もある」とした。その上で、「いわゆる『固定残業制』を導入している企業は、ブラック企業である可能性が高い」とし、「固定給と残業代の大まかな金額を提示することをせず、わかりにくくしているのは、勤務内容をだまそうとしているとしか考えられない」との主旨の見解を示した。

 また、「裁量労働制を導入している企業も、ブラック企業である可能性が高い」とし、「本来は、限られた分野の専門職を対象とする裁量労働制を、普通の企業が、普通の従業員に適用する必要性はない」と指摘した。さらに、いわゆる「偽装店長」問題など、管理監督者とされた従業員が残業や休日勤務をした場合、いわゆる「サービス残業」ですらなく、「自己判断」「自己責任」で働いたことにされてしまっている現状を、「恐ろしい問題である」と憂慮した。

 そして、警戒すべき点として、募集や内定、本契約の段階ごとに、待遇や条件などの内容が変わる企業に対しては、「騙す意図があるのではないかと疑うべきである」と指摘した。一方、ブラック企業だと見抜けなかった場合や、ブラック企業だと気付いていてもその企業に入るしか方法がない場合などに、あとから自責の念に駆られる人がいるとした上で、「いじめやパワハラに遭っても、うつ病にならないようにすることが最も重要である」とした。

 さらに、今野氏は、「もはや反抗できないぐらい、従業員を戦略的に追い込むケースがみられる。心身が壊れ、思考停止に陥ってしまい、次の行動が取れなくなる。これが企業の『やり得』につながっている」と指摘し、「これは企業による『民事的殺人』である」と厳しく批判した。その上で、「会社を信用して頑張るしかない」などと思い込まず、「会社を信用せずに疑ってかかることが重要である」と強調した。

 今野氏は、規制緩和の問題点も指摘した。橋下徹大阪市長が最低賃金の撤廃に前向きな発言をしていることについて、「労働規制を緩和すると安心して働けなくなり、経済効率は落ちる」とし、さらに、「解雇規制が緩和されると、『首切り自由』を振りかざし、サービス残業の強要を招くのは必至である。従業員が安心して働けないと、少子化も止まらなくなる」とした。また、過労死防止基本法の制定の必要性を説いたほか、労使間で結ぶ「三六(さぶろく)協定」により労働者保護が形骸化している現状を改めるため、欧米先進国で常識となっている「労働時間の上限規制」を設けるべきであるとの見解も示した。

第二部「過労死をなくすために」

 第二部では、まず、「全国過労死を考える家族の会」の寺西氏が登壇した。寺西氏は、17年前に夫(享年49)を過労自殺で亡くした過労死遺族の立場から、過労自殺の背景となった飲食店での過酷な労働実態を説明した。この中で、寺西氏の夫は20年間にわたり、長時間労働の中でもやりがいを見出して仕事をこなしてきたが、店長に就任して以降は、年4000時間を超す長時間労働や過大なノルマ、さらに、これまで積み上げてきた実績や人格をも否定されたことによってうつ病を発症し、飛び降り自殺に追い込まれたことを詳細に語った。また、当時は精神疾患の労災認定基準がなかったため、泣き寝入りの状態が続いたとしながらも、「過労死110番」への相談をきっかけに、労災認定まで5年間、さらに企業との5年間の裁判闘争を経て、真相の究明と夫の名誉回復を勝ち取ったことを説明した。その一方で、夫の命を救えなかったことへの後悔の念を持ち続けていることも率直に語った。

 寺西氏は、自身の子息も含めた若年層が「過労死予備軍」となっている現状を問題視したほか、世の中に過労自殺への偏見がみられることにも憂慮の念を示した。また、同じ境遇で苦しむ遺族との交流や情報収集など、さまざまな取り組みを行っているとした。そして、「大きくなったら僕は博士になりたい。そして、ドラえもんに出てくるようなタイムマシンを作る。僕はタイムマシンに乗って、お父さんが死んでしまう前の日に行く。そして、『仕事に行ったらあかん!』って言うんや」という、過労自殺で父親を亡くした男児(当時6歳)が書いた「ぼくのゆめ」という詩を紹介した。その上で、このような悲しい事例が二度と発生しないように、国に対して、過労死防止法の制定や、過労死企業の公表を求めていく姿勢を明確にした。

 続いて、「過労死企業名の公表を求める裁判」に携わる和田弁護士と岩城弁護士が、裁判の進捗状況を説明した。この裁判は、長時間労働による心筋梗塞などが原因で突然死に至った労災認定事案について、加害企業名の公表を求めて大阪労働局に情報公開請求を行ったところ、非開示との決定がなされたため、訴訟に踏み切ったもので、1審は全面勝訴したものの、2審では逆転敗訴し、最高裁に上告しているとの進捗状況を和田弁護士が説明した。

 また、岩城弁護士は、「昭和60年(1985年)頃から過労死が社会問題化し、『24時間働けますか?』というドリンクのCMが流されるなど、長時間労働を肯定するかのような社会背景があった」とした上で、以前は責任世代と呼ばれる、「中高年男性の過労死が多かった」のに対し、近年の過労死では、「年齢性別や職種を問わず、精神疾患による自殺が増加している」とした。具体的には、「脳や心臓疾患による突然死」よりも「精神疾患による自殺」の人数が2007年にはじめて上回ったことを問題点として挙げた。その上で、今後の対応として、従来から法制化されている自殺対策基本法に加え、国や事業者による過労死回避の責務を明文化した、「過労死防止基本法」の制定を求めていく決意を表明した。

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「「タイムマシンに乗って、お父さんが死んでしまう前の日に行き『仕事に行ったらあかん!』と言うんや」 ~シンポジウム「ブラック企業の見分け方と対処法」」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    今野晴貴氏「もはや反抗できないぐらい、従業員を戦略的に追い込むケースがみられる。心身が壊れ、思考停止に陥ってしまい、次の行動が取れなくなる。これが企業の『やり得』につながっている。これは企業による『民事的殺人』である」
    https://iwj.co.jp/wj/open/archives/62232 … @iwakamiyasumiさんから
    https://twitter.com/55kurosuke/status/971510874430058496

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