外交評論家の佐藤優氏が東京新聞のコラムで「辺野古新基地建設の端緒」が民主党政権にあったとの文章を掲載!! 辺野古の「端緒」となった交渉の責任者は2006年に外務大臣だった麻生太郎氏! 2018.10.7

記事公開日:2018.10.7 テキスト
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(文:IWJ編集部)

 9月30日投開票の沖縄県知事選挙に関し、辺野古新基地建設反対を掲げた玉城デニー氏が、過去最高得票となる39万6632票で当選したことを受け、その勝因について様々な報道や論説が出始めている。そうした記事を確認する中で、県知事選の勝因という主題から若干ずれたところで、読者をミスリードしかねない文章が目に止まった。

 外交評論家の佐藤優氏は10月5日付東京新聞の「本音のコラム」で次のように書いている。

▲佐藤優氏(2017年3月25日、IWJ撮影)

 「そもそも辺野古新基地建設の端緒は、民主党政権時代、菅直人首相下で日米両政府が、辺野古湾を埋め立ててV字滑走路を建設することに同意したからだ。立憲民主党の枝野幸男代表は、菅政権で内閣官房長官をつとめていた」

▲読んだ直後の東京新聞(2018年10月5日)

 「辺野古新基地建設の端緒」という佐藤氏による表現は、まったくの事実無根とまでは言えないが、読者をミスリードする懸念がぬぐえない。

 実際には辺野古新基地建設とV字滑走路案が日米間で最初に合意されたのは2006年5月1日であり、小泉純一郎内閣の時期にあたる。この合意の米国側の代表者は、ライス国務長官とラムズフェルド国防長官であったが、日本側は麻生太郎外務大臣と額賀(ぬかが)福志郎防衛庁長官がその責任者だった。いわゆる2+2(ツープラスツー)による合意である。「辺野古新基地建設の端緒」を話題にするのであれば、菅政権期の2011年ではなく、2006年の小泉政権時代のこの合意をあげるべきであろう。佐藤氏はなぜ自民党政権期の最初の合意に言及しないのか。

▲2006年5月1日の2+2合意で辺野古新基地建設とV字滑走路敷設を認めたのは当時外務大臣だった麻生太郎氏。枝野氏に比べてその責任は明らかに重い。


 上記の2006年5月1日の合意の後、滑走路に関しては詳細をめぐる交渉に移った。2009年、「県外移設」を掲げて政権交代を果たした民主党の鳩山由紀夫政権は、公約を果たすことができず「県外移設」を断念。交替した菅直人政権期の下で、2011年6月21日、V字滑走路に関する合意がなされた。

 しかし、これは2006年の合意と同じく2+2、すなわち米国の国務長官・国防長官と日本の外務大臣・防衛大臣との間の交渉で取り交わされており、当時官房長官だった枝野代表の責任を直接的に問うのは少々強引に思われる。

 佐藤氏は、沖縄でほとんど存在感がなく、今回の玉城デニー氏の勝利にわずかな貢献しかしなかった立憲民主党の枝野氏にどういうわけかこだわり、長々と「立憲民主党が辺野古新基地建設の見直しを主張するよりも前にやるべきことがある。菅政権の官房長官としてV字滑走路の建設を認めたことは、政治的に間違っていたという認識の表明だ。これなくして立憲民主党が沖縄人の信頼を得ることはできない」と書く。その上で、「与党であれ、野党であれ、自らの政治的思惑のために沖縄を利用しようとする政党や政治家を沖縄は忌避する」とまで述べる。

 真に地元のことを思っていない政党や政治家が忌避されるのは沖縄県に限らず、どの地方でも当然だろうが、一定の政治的思惑をまったく持たない政党や政治家というのもまた、いったいどこに存在するのだろうか。沖縄の選挙戦でほとんど存在感を示すことがなかった(終盤に沖縄入りした程度)枝野氏だけを、佐藤氏がなぜ、ことさらにフォーカスするのか不自然さがぬぐえない。

 玉城デニー氏を知事に押し上げたのは、沖縄における最大の政治勢力である「無党派」がオール沖縄という市民の集合体として再び結集したからであって、特定の政党や政治家が沖縄の人々を導いたわけではない。そんなことは選挙戦を取材した者であれば、誰でも知っていることだ。佐藤氏は現場での取材をしたのだろうか。

 しかし、佐藤氏が取り上げた立憲民主党と沖縄県知事選との関係は、問題の全体像に比してあまりにちっぽけな話ではないか。「自らの政治的思惑のために沖縄を利用しようとする政党や政治家」というならば、第一にあげるべきは、2006年5月1日のV字滑走路に関する合意をした当事の外務大臣である現財務大臣の麻生氏、その麻生氏を起用している安倍晋三総理である。彼らこそ「自らの政治的思惑のために沖縄を利用」している面々だと糾弾せずに、沖縄ではいたって存在感の薄い枝野氏1人を標的にして糾弾するのであれば、著しく公正さを欠く主張だと言わざるをえない。

▲奇しくもI字とV字を示す安倍晋三総理(2017年10月7日 IWJ撮影)

 たしかに、立憲民主党の公式ツイッターアカウントは、「立憲民主党及びオール沖縄」が推薦した、玉城デニー候補が当選を果たした」とまるでオール沖縄を立憲民主党がリードしたかのようなツイートをした。

 実際には、立憲民主党は推薦していない。しかも、選挙戦の前に「可能な範囲でというか、イデオロギーよりアイデンティティの範囲内で」と、限定的な支援であることを、枝野氏は表明している。立憲民主党沖縄県連合は、8月29日になってようやく政党支部として設立届を提出した。玉城氏が圧勝した後、立憲民主党の公式ツイッターが「ちょっと調子に乗っている」と感じた市民がいたのも事実だ。

 本件に関し、IWJ編集部は10月6日に東京新聞に問い合わせた。最初に電話に出た担当者は「あの、これはたぶん佐藤さんがお書きになられたものをそのまんま載せているのではないでしょうか、と思うんですが、わからないんですね」と答えた。

 そこで、IWJの記者が「コラムなので、佐藤さんの文章をそのまま載せたのではないかとおっしゃいましたね」と確認したところ、電話口の担当者が「私の判断です。こちらではいじってないと思いますが、すいません」と述べ、東京新聞の特報部へまわされた。特報部の回答は「答えられるものがおりませんので、週明けにお願いできますでしょうか」とのことだった。現在、質問のFAXを送り、回答を待っている状態である。回答が届き次第、続報ないし追記としてお伝えする予定である。

 外部の筆者からの寄稿とはいえ、『新潮45』が、寄稿された記事の内容が不適切であったために休刊(事実上の廃刊)となったことは記憶に新しい。媒体側も、寄稿内容について、その編集責任が問われる。

 また、先の沖縄県知事選挙では、玉城デニー候補に対し、根拠のない誹謗中傷や実現性のない虚偽の公約が飛び交った。街宣でマイクを握って、「携帯電話料金4割値下げ」などという虚偽の公約を口にした菅義偉官房長官を始め、玉城氏への中傷を繰り返した遠山清彦氏、青山繁晴参議院議員など、自民・公明与党の大物政治家とその応援団とも言うべき右派文化人たちの言動こそ、あまりにも薄汚いやり口ではなかったか、と問わなければならないはずだ。

 そうした道義的、政治的責任を問われるべき「主役」級の大物ではなく、沖縄の今回の知事選では「脇役」に過ぎなかった人物に鉾先をそらすのは、やはり不可能である。佐藤氏がコラムで枝野氏に焦点をしぼった意図はよくわからないが、結果的に与党やその応援団への批判に対する追及を鈍らせる役割を果たすものだとしたら、不適切であり、読者は注意を払わなければならないだろう。

 なお先の沖縄県知事選挙において「自らの政治的思惑のために沖縄を利用」し、虚偽の公約を熱弁した菅官房長官の様子は、フリージャーナリスト・横田一氏による、以下の特別寄稿をご覧いただきたい。

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  1. 無党派 より:

    佐藤優は宗男とプライムニュースに出演し安倍プーチンの長門会談について「フックを引っかけた」と

    成功したと期待持たせてた宗男は安倍の太鼓持ちだしこの二人は信用できない

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