「今の日本の米国に対しての従属は、日本国憲法の上に日米地位協定があって、国会の上に日米合同委員会がある」
2018年8月8日に亡くなった翁長雄志前沖縄県知事は、名護市辺野古での米軍基地建設のための埋め立て承認撤回を発表した7月27日の沖縄県庁での記者会見で、こう言って日本が米国の属国である現実を指摘した。全国的な注目が集まった会見であったが、この重要な部分は大手主要メディアはほとんど報じようとしていない。見事なまでにスルーしている。この点をまず、指摘しておきたい。
翁長氏はさらに、激変する東アジア情勢を受けて、「(各国とも米国・中国との)距離を測りながら国際外交をやっている。日本だけが寄り添うように米国とやっているが、今の日本の動きではアジアから締め出されるのではないかというものを感じている」と、安全保障面で米国に一方的に依存し、その結果、外交面でもいびつに歪んでしまった日本政府の方針を鋭く批判した。
辺野古埋め立ての問題をめぐっては、環境保全や災害防止に十分配慮するべく、事前協議を経た上で承認を得ることが事業者に求められている。しかし、再三の指摘にもかかわらず、沖縄防衛局はこの取り決めを守らず、土砂投入に向けた準備を開始したため、沖縄県として承認撤回に向けた聴聞手続きを実施すると、翁長知事はこの会見で発表した。
▲記者会見にのぞむ翁長雄志前沖縄県知事(2018年7月27日、IWJ撮影)
質疑応答において翁長前知事は、傍若無人かつ、なし崩し的に工事を進めようとする日本政府に対する憤りを表明するとともに、軍事的脅威として名指しされてきた北朝鮮が韓国・米国との間で劇的に関係を改善しつつある状況を踏まえて、20年前に合意された基地建設の根拠や妥当性にも疑義を呈した。
IWJでは、約40分にわたる記者会見の模様を全編映像で公開するとともに、以下その内容をテキスト記事としてお届けする。より多くの読者の皆様に、翁長知事の最後の記者会見の一部始終をご覧いただきたい。
この翁長知事の埋め立て承認撤回の表明記者会見を受け、同日沖縄県庁前で緊急集会が行われた。こちらもあわせてご覧いただきたい。
- タイトル 翁長雄志 沖縄県知事 記者会見 〜辺野古の新基地建設に伴う埋め立て承認の撤回表明
- 日時 2018年7月27日(金)10:30〜
- 場所 沖縄県庁(沖縄県那覇市)
辺野古埋め立て承認撤回に至る背景 ~激変する東アジア情勢、必要数の3倍を超える「県民投票」を求める署名
「はいさいぐすーよー、ちゅーうがなびら(こんにちは、皆さんご機嫌いかがですか)」
沖縄方言のあいさつから切り出された翁長知事の記者会見。この会見冒頭で翁長知事は、辺野古埋め立ての賛否を問う県民投票を求める署名の中間集計を発表した。すでに、必要数の3倍を上回る約7万7000筆が集まっており(9月の提出時には9万2428筆)、翁長知事は、日本政府がこれにしっかりと向き合うことを要請した。
また、東アジア地域での緊張緩和に向けた取り組みが急速に進んでいることに言及し、北朝鮮に対する脅威認識を主たる根拠のひとつとして進められてきた辺野古新基地の建設計画は、県として容認できるものではなく、この問題をめぐる日本政府の姿勢にも大いに疑問があると述べた。
続いて、「聴聞手続きに関する関係部局への指示について」の知事コメント発表に移った。これは、仲井真前知事がおこなった「辺野古の公有水面埋め立て承認」の撤回に向けて、埋め立て事業者である沖縄防衛局への聴聞の手続きを実施する、という表明である。
辺野古の埋め立てをめぐっては、環境保全や災害防止に十分配慮することが要件として定められており、事前協議なども義務付けられている。
「しかし沖縄防衛局は、全体の実施設計や環境保全対策を示すこともなく、公有水面埋め立て工事に着工し、また、サンゴ類を事前に移植することなく工事に着工するなど、承認を得ないで環境保全図書の記載等と異なる方法で工事を実施している」
さらに、辺野古埋め立てを承認できない沖縄県の見解として、翁長知事は他にも数多くの理由を挙げた。
まず、沖縄防衛局による土質調査で、一部護岸が軟弱地盤で倒壊する可能性が判明したこと。また、活断層の存在が専門家によって指摘されたこと。米国防総省の航空機安全航行の基準となる高さ制限があるが、辺野古基地が完成すると、国立沖縄工業専門学校の校舎などが、この高さ制限に抵触すること。
そして、米国会計検査院の報告で、辺野古基地が固定翼機には滑走路が短すぎると指摘された際、当時の稲田防衛大臣が、「条件が整わなければ、辺野古基地が完成した後も、普天間飛行場は返還されない」と答弁した(注)ことを挙げて、そもそも普天間飛行場の返還を前提に辺野古基地の建設が進んでいたはずなので、辺野古埋め立ての大前提が崩壊していることを指摘した。
▲稲田朋美元防衛大臣(2017年7月28日、IWJ撮影)
その上で、翁長知事は「公有水面埋め立て承認処分の効力を存続させることは、公益に適合し得ないものであるため、撤回に向けた聴聞の手続きを実施する必要がある」と結論づけ、2014年12月、辺野古基地の建設反対の声を受けて県知事当選を果たした自身の公約をかみしめるように、「私は、今後もあらゆる手法を駆使して、辺野古に新基地はつくらせないという公約の実現に向け、全力で取り組む考えであります」と締めくくった。
(注)稲田防衛大臣が、「条件が整わなければ、辺野古基地が完成した後も、普天間飛行場は返還されない」と答弁した:
2017年6月15日の参院外交防衛委員会で、民進党(当時)の藤田幸久議員が、普天間基地の返還条件のひとつである「普天間飛行場代替施設では確保されない長い滑走路を用いた活動のため、緊急時における米軍による民間施設の使用を改善する」という文言を示し、普天間が返還されない可能性についての質問に対する答弁。
稲田防衛相(当時)は「普天間の前提条件であるところが整わなければ、返還とはならない」と答えた。
県知事2期目続投について ~過酷な身体状況で臨んだ最後の会見で、公約の遵守を改めて宣言
続く質疑応答では、翁長知事は初めに沖縄タイムスの記者からの、今回のコメント発表のタイミングに関する質問に答えた。
沖縄県は、辺野古基地埋め立て承認の取り消しのため訴訟していたが、この会見の1年7ヵ月前、すでに最高裁で敗訴が確定している。また、1年4ヵ月前には、翁長知事は承認撤回をおこなうと明言をしていたが、なぜ、2018年7月末になるまで、承認撤回に踏み切らなかったのか、その点についても質問が出た。
これに対し翁長知事は、これまで沖縄県が沖縄防衛局に対して行政指導を度々実施してきたこと、それにもかかわらず、沖縄防衛局が工事を断行すべく、今年の6月から工事に必要な書類の提出や土砂投入に向けた手続きをはじめ、さらに、7月17日の工事停止要求にも応じようとしなかったという経緯を振り返り、このタイミングでの承認撤回の発表となったことを説明した。
翁長知事の任期は2018年12月までになるが、5月に膵がんを公表している。知事2期目続投に関する質問が出ると、翁長知事は、「日々、1日1日ですから。今ちょっと足、外反母趾で。痛めて、ちょっと歩くのきついくらいなんですが、人生は昨日おとといなかったものが、今日こうして外反母趾になって、歩きにくくなるようなことがありますので、それを含めて、考えていきたいと思います」と答えた。
映像をご覧の読者の皆様はお気づきかもしれないが、この記者会見の時点で、翁長知事の体調はすでに相当に悪化していた。
翁長知事の妻、翁長樹子(みきこ)さんが、9月4日に岩上安身のインタビューで語ったところでは、この時、翁長知事は抗がん剤の影響で口内炎が口全体に広がっており、身体状況は深刻で、普通に歩くこともままならず、そのカモフラージュのために「外反母趾」を口実にしていたのだという。会見前日、夫人の前で翁長知事は、「承認撤回の会見、できるかなぁ」と初めて不安を漏らしたという。
▲岩上安身のインタビューに答える翁長樹子さん(2018年9月4日、IWJ撮影)
これは翁長知事の「遺言」だ。
翁長雄志 沖縄県知事 記者会見 〜辺野古の新基地建設に伴う埋め立て承認の撤回表明 https://iwj.co.jp/wj/open/archives/428464 … @iwakamiyasumiさんから
https://twitter.com/55kurosuke/status/1028401564564652032
故翁長知事が取り組んだ最期の仕事の一つ、辺野古基地新設の承認撤回手続き。
これに対して国が私人として承認撤回の阻止要求?
もう何が何やら分かりません。
行政府の私物化、私人化(公共性の放棄)という流れで、分かりやすい法的な解説を望んでいます。
よろしくお願い申し上げます。