2012年11月9日(金)、東京都千代田区の司法記者クラブで、郷原信郎弁護士 記者会見が行われた。
(文字起こし:IWJテキストスタッフ・@sekilalazowie リライト:@KinocoMX)
2012年11月9日(金)、東京都千代田区の司法記者クラブで、郷原信郎弁護士 記者会見が行われた。
■内容 融資金詐欺事件の審理再開について
【以下、全文書き起こし】
<朝倉氏弁護人として>
郷原信郎弁護士「昨年の9月に、東京地検特捜部に融資詐欺事件ということで逮捕、起訴された朝倉亨氏、佐藤真言氏など3名の事件の関係でお話をしたいということでお願いしました。
この事件、朝倉亨氏の関係でわたくし、控訴審から主任弁護士を務めてます郷原です。それから、一審の段階から弁護人を務めている弁護士の浅野弁護士です。
10月3日に控訴審の第一回公判が開かれまして、わたくし、その直前に弁護人に就いたんですが、いろいろこの前、その日にも会見をしてお話をしたように、この石塚健司さん、産経新聞の石塚さんの本にも書かれているように、この事件、ひとことで言うと、普通に仕事をしていた中小企業の経営者と経営コンサルタントが特捜捜査で踏みつぶされたと我々が考えているような、本当に酷い事件です。
この事件について、高等裁判所のほうになんとかこの事件の実態を見てもらう方向で、控訴審での事実審理を求めたんですが、前回、事実審理の請求が認められませんで、ただちに結審。11月7日に判決の予定ということになりまして、私もいささかがっかりした状態で、ここで詳細にお話をしたところでした。
そういうことで11月7日、一昨日第二回の公判が開かれたんですが、その後、いろいろ動きがありまして、この事件に関して、最後なんとか被害弁償を行なうことによって、裁判所に審理を行なってもらうことができないだろうかということを考えまして、石塚さんが中心になって、お配りをしてますホームページを印刷してお配りしてますが、朝倉亨さんを支援する会というのが立ち上げられました。
ネットで朝倉さんの被害弁償をするための支援金と嘆願書を募集をされたんですが、この会には、ここに書いてありますように、元金融担当大臣で衆議院議員の亀井静香さんとか、評論家の佐高さん、作家の高杉良さんなど、色んな方が呼びかけ人として参加してくださって、ネットで支援金等、募集しましたところ、わずか10日あまりで360万円あまりの支援金が集まりました。
これを皆さんの支援の趣旨に沿ってなんとか朝倉さんのために被害弁償に当てようとして被害申告をしてます銀行側に提供しようとしたんですが、銀行側は、理由が良く分からないんですが、受領をしてくれませんで、やむなく供託という手続きを取りました。供託というのは、本来であれば、債務履行などで提供すべき金銭などの受領を拒まれたときに行なう手続きですが、その供託の事実だけでも被害弁償のために重要な一つのステップとなるわけですから、それを立証したいということで高裁のほうに弁論の再開を申し立てたわけです。
この、弁論再開の申立書もお配りをしています。そうしましたところ、裁判所のほうはこの弁論の再開の申し立ては、理由があるということを認めてくれて、一昨日の公判で弁論は再開されました。そこの再開申立書のなかにも書いてありますように、この供託の事実を立証するための供託書、それから嘆願書などの証拠の取り調べの請求を致しました。
ただ、これに対する検察官の対応がまことに不思議な対応でして、供託書も含めて、不必要、不同意だというようなことを言って、裁判所もいささか驚いてまして、何を言っているんだろうということで、相当、供託の事実を明らかにするだけなのに、どうして不同意ですか?と聞いていたんですが、どうも全くそういう事態が検察官が分かってなかったのか、そのまま結局、まともな回答ができないまま、それじゃあ保留ということにして、次回までに答えてくださいということになりました。いずれにしても、そういう経緯で弁論再開が認められ、この供託の事実も含めて、裁判所としては証拠を取り調べるという方向の審理が行われました。
我々としては、もしこの弁論再開が認められなければ、11月7日の判決、そしてなんら証拠関係が変わらないということでは一審の実刑判決が見直される可能性は低いということも覚悟しておりましたので、この全国の皆さんから集まった支援金で、まず裁判所にこの事件の実態を見てもらうための糸口がつかめたというところは本当によかったと思っておりまして、今後も、せっかくそういうことで裁判所も振り向いてくれたわけですから、更にこの支援の輪を広げたいということで、石塚さんのほうでさっそく、いったん締め切っていた支援金の募集をまた再開をすべく、また新たに口座を開設して、今お配りをしてます支援する会の支援のお願いのほうに書かれてますが、本日から支援金の募集を行なってます。
一昨日は例の東電OL事件の判決などもあって、ちょっとそれどころではないだろうというふうに思ったもんですから、今回の朝倉さんの件の、この場での記者レクは二日後の今日、行なわせていただいたわけです。なんとか、こういう活動を続けて、前もお話したように、こういったことが、こういう事件で中小企業の経営者が本当にまじめに仕事をしている人たちが、特捜捜査でこういう目に遭わされるということは二度と起きてはならないと思いますし、そういうことを多くの全国の方々が同じ思いで支援をしてくれたんだと思いますので、こういう活動を続けて、なんとか一審判決が見直されるように頑張っていきたいと思っています。とりあえず、私のほうからは以上です」
【質疑応答】
幹事社日テレ記者「朝倉さんの次回の会日というのは?」
郷原「はい、次回は11月21日の午後4時からです。若干補足説明をしますと、検察官が供託書も含めて、不必要、不同意といったんですが、どうもその意味がよく分からないんですが、その供託された事実があっても、それが被害弁償とどういう関係があるのか、本件とどういう関係があるのかがはっきりしないと。供託として無効の可能性があるというような趣旨なんじゃないかと思われるんですね。
ですから、検察官のほうでも、きちんと確認をするということですが、我々のほうでもなにか問題があるとすれば、事実確認をしようということですでにそれは始めてます。まず、一つ考えられるのは、朝倉さんの会社は特捜の強制捜査、朝倉さんが逮捕されたことによって、もうただちに銀行の融資が止められ、破産をしてます。ですから、もうすでに破産になってますから、その破産手続きとの関係で、今回、第三者から提供された被害弁償のための支援金がどういう扱いになるのかというところが、今回の銀行のほうにだけ払われていいのかと。他にも債権者がいますから。という破産手続きとの関係が一つ考えられます。
ただこれは、もうすでに我々のほうで確認済みです。破産の手続きの開始後に、入手したお金ですし、そういう第三者から提供されたものですので、これを受領することに問題はないということで、破産管財人の意見、見解も確認済みです。ですから、検察官が確認しても同じ事だと思います。
あともう一つ考えられるのは、これは前回もご説明したように、東日本大震災の復興のための緊急保証制度というのを使ったところ、そういう融資であるところに目をつけて、特捜部のほうが、震災資金を食い物にしたというような位置づけで事件に着手したものです。実際には、と言っても何が詐欺かというと、おそらくかなりの中小企業が同じような実態なんじゃないかと思われる粉飾決算の事実が詐欺だというんですが、そういうことで、東日本大震災の緊急保証制度を使っているもんですから、信用保証協会の保証がついてます。通常であれば、もしその融資が焦げ付いたときには信用保証協会が銀行のほうに代弁済をして、実質的には信用保証協会の負担になるんですが、今回の場合、信用保証協会が代弁済するかどうかというところに問題がある。そこが必ずしもそうなるとは言えないというふうなことも考えられます。
というのは、もし、融資した側の銀行が、粉飾決算の事実を認識していた。ある程度、暗黙のうちに了解していたということがあったとすると、これはむしろ銀行の側にも落ち度があるということになります。そうすると、信用保証協会が代弁済を拒否することもありますから、最終的な負担が銀行側なのか、信用保証協会なのか、分からないので、だから銀行としてもまだ被害弁償を受け取ることができないという可能性もあると思います。分かりません。
だから、それが理由となってもし、このせっかくの全国から寄せられた支援金が、受領が拒否されるということになると、これは逆にとんでもないことだと思うんですね。被害申告をしているわけですから、被害者は。騙された。お金を取られたと言って被害申告をしているんだったら、その被害弁償を提供されたら受け取るのが当たり前ですね。最終的に被害者かどうか分からないんだったら最初から被害申告なんてしなきゃいいわけです。
この特捜部の起訴状では、銀行側と信用保証協会側、両方から被害届を取って、そして両方を関連的共謀、両方の犯罪が成立して、共謀するという形で起訴してます。そして、罰状も、246条一項と二項を区別しないで、246条とだけしてます。要するに、銀行からだったら246条一項。信用保証協会からだったら利得罪ですから、二項ということになります。どっちなのかもはっきりさせないまま、起訴しています。まさにそういう、誰が被害者なのかもよく分からない、訳の分からない事件を起訴してしまった。それによってこれだけの大きな金額の銀行の焦げ付きが生じてしまった、会社を倒産させてしまったために、そういう財産犯の加害者としては、当たり前の情状評価をしてもらおうとする被害弁償もなかなかやろうにもできないという、なんか訳の分からない事態になっているということだと思うんです。ということで、事実調査のために2週間ほど、とりあえず期間が与えられ、それが次回、11月21日午後4時からということで、期日が指定されています」
同記者「21日に採否が決まると?」
郷原「ええ。そこまでには当然、検察官のほうが、同意、不同意の意見を言うことになると思いますし、当然、同意をすることになると我々は確信してます」
同記者「今日、大坪さんの件でも」
郷原「これが終わってからお話します」
同記者「では、いったん、朝倉さんの件に関して、ご質問があれば、各社さんどうぞ」
テレビ朝日記者「ちょっと、すいません。供託金も合わせると、いくらまで弁償できるということに?」
郷原「まず、もともと朝倉さんの親族が提供してくれたお金が100万円あって、それも提供しようとしたところ受け取ってもらえなかったんですね。それと、今回、支援金として集まった361万。合せて461万2千円。利息を含めて、もうちょっとになりますけども、それだけのお金が被害弁償金として提供のために供託されているということです」「
同記者「これまでは、どこに入るか分からないといういことで入ってないということですか?」
郷原「破産の時点で、銀行に預金があって、その預金が相殺されている分、これも弁償に当たるはずなんですが、ちょっとこの相殺分がどの債権との相殺になるのか、はっきりしないので、その点も一昨日の公判で裁判所のほうから、そこをはっきりさせるようにということを言われてます。起訴状を前回、お配りしたと思いますけれども、起訴状によると、この被害額というのは1億円ぐらいになっているんですが、これは一審でも弁護人が主張して、そして控訴趣意書でも言ってますが、実質的な被害はそんなにないんです。
というのは、欺罔行為というのが粉飾決算とされてますよね。その公訴事実によって借り入れたお金のうちのかなりの部分は、それ以前の借入金の返済に回っているんですね。ですから、実質的に銀行がお金を出した、銀行から出たお金の金額というのは一審判決でも認定されてますが、2千500万程度なんです。ですから、とりあえずのところ、今460万という金額になってますが、それから相殺分もありますし、今後も更にこの支援金が集まれば、私は朝倉さんの量刑にも相当影響がある金額になるんじゃないかと思ってます」
幹事社記者「他、よろしいですか?じゃあ、大坪さんの」
<大坪弁護人について>
郷原弁護士「はい。それでは、引き続いて、私、郵便不正事件に関連する犯人隠避事件で起訴されてます元大阪地検特捜部長の大坪弘道氏の弁護人に、控訴審の段階から就いてます。5月に弁護人になりました。その控訴趣意書を10月末の提出期限に提出しました。これも、3日前、6日の日に、大阪の司法クラブでこの控訴趣意書の内容について会見を行なったんですが、この事件は、大阪の事件、大阪高裁の事件ではありますけれども、検察官側は最高検です。当初から、捜査も公判も最高検が行なってますし、今回、提出した控訴趣意書、これ二本立てで、一審段階からの弁護団の控訴趣意書と、二審から、控訴審から就いた弁護団の控訴趣意書と二本立てになってます。
私は、その控訴審から就いた弁護団の控訴趣意書を今回提出したんですが、そのなかでは、この大阪の事件との比較の対象として、陸山会事件をめぐるあの虚偽報告書作成の問題。有印公文書作成事件、いわゆる田代事件ですね。
この田代事件に対する検察の対応についても、犯人隠避の疑いがあるということで、例の市民の会から告発が行われ、6月27日の田代検事などの不起訴処分の際に、併せて不起訴処分が行われているわけですが、この陸山会事件に関する犯人隠避事件と、この大坪氏が起訴されている犯人隠避とは密接に関連するというか、当然、比較の対象になるべきだということで、この控訴趣意書の目次をご覧いただくと、第5、第6。特に第6のところに、陸山会事件との比較というところに詳しく書いてます。
そういった問題は大阪の問題だけではなくて、東京の問題にも関連すると思ったもんですから、今日、朝倉さんの事件で、ついでと言ってはなんですが、その機会がありましたので、皆さんに大坪事件についてもちょっとお話をしたいと思って資料を持ってきたものです。
控訴趣意書をお配りしてますが、概要をパワーポイントにまとめてます。11月6日の会見で配ったものです。どうして、陸山会事件との関係が問題になるかということなんですが、この大阪の大坪、佐賀氏が起訴された犯人隠避事件というのは、こういう構成になっています。
ご存じのように、前田検事の証拠改竄の問題について、大坪氏、佐賀氏は前田検事側から故意の改竄、改竄をやった、フロッピーデータの改竄をやったということの告白を受けて、それを知りながら、それを過誤によってデータが変わっただけだと。過誤による、過失によるデータの改変だというふうに話をすり替えて、そういう証拠改竄の事件を隠蔽しようとしたと。実際、それによって隠蔽されていたんだと。これが、検察の、この大坪、佐賀の両氏の犯人隠避事件の捉えかたです。
この事件、最大の特徴は、控訴趣意書の最初にも書いてますけども、検察官の職務行為そのものが犯人隠避と捉えられた、まさに特異な事件だということです。証拠について、こういう問題行為があったということを特捜部長として、副部長として認識して、それに対してどう対応するかという対応のしかたが非常にまずかったというか、悪いことをやって、それが犯人隠避という犯罪になるということを言われたのがこの事件です。
しかし、本来、犯人隠避というのはどういうときに成立するかというと、原則は、犯人を逃がしたりかくまったりする行為です。それが、しかし中には、身代わり犯人の自首のように、直接、犯人を逃がすんじゃなくて、それによって真犯人の発見が困難になるという形態の事件もあります。まさに、今回問題にされようとしているのは、その真犯人が分からないようにする、真犯人が処罰されないようにするという行為が犯人隠避と捉えられているわけですが、一方で考えてみますと、検察官の職務というのは、不起訴という処分もあり得るわけですし、捜査をするかしないか。こういう判断いつもやっているわけです。
なかには、本当は犯人として処罰すべきだったのに、それを色々検察官側に落ち度があって、真犯人を取り逃がしてしまったとか、不起訴にしてしまったとか、そういうことはよくあるわけですね。それに関する判断の間違いもあるし、なかには、こんなことが分かったんだったら、当然起訴すべきだったじゃないか、逮捕すべきだったじゃないかというのに、それをやらないということだってあり得るわけです。
という意味では、検察官の職務行為というのは常に、犯人を逃がしたりする犯人隠避という結果と境を接しているわけです。だからまず、この事件は常識的に考えると、そういう検察官の職務行為が犯人隠避に捉えられるとはいったいどういうことなのかと。なぜ、今回の件に限って、犯人隠避という罪名が適用されるのかということをはっきりさせないと、検察官がいつも犯人隠避になるんじゃないかということを恐れながら仕事をしなくちゃいけないということになってしまいます。そこにまず、大きな問題があるということです。
もちろん、検察のほうも、そして一審の裁判所のほうも、その点が分からなかったわけではないと思います。そこで、こういう理屈を使ったわけですね。この事件は故意の改竄を過誤、過失にすり替えたんだと。そうやって犯人を処罰されないようにしたんだ。隠蔽したんだ。そういう行為は最初から一般的な検察官の職務行為とは違う。まさに完全に逸脱したものだという評価を事前にしてるんだと思うんですね。そういう考え方を。そういう考え方をしたうえで、本件の場合はすり替えだから、そういう一般論は必要ないという考え方だろうと思うんです。
我々は、まずそこを問題にしたいということです。それは言えない。ですから、先ほどから言っているような、少なくとも検察官の職務行為について犯人隠避はいかなる場合に成立するのかという一般論をまずきちんと述べないと、裁判所が適切に法令を適用したと言えない。ですから、まず法令適用が誤っているというところが、この控訴審からの弁護人による控訴趣意書の最大のポイントです。
そして、そこで問題になるのは、そのすり替え論というのが果たして通用するのかということです。ここで問題になるのは、故意の改竄を過失にすり替えたと、仮に言うのであれば、これが故意の改竄であったという確定的な認識がなければいけない。それをはっきり分かってながら過失にすり替えたということであれば、それはちょっと普通の検察官にあるまじき行為だったということが言えるでしょう。
ところが、この現判決の問題点について、4ページ目、5ページ目のあたりで書いてますが、この問題は、重要なことは、佐賀被告人関係の証拠と、大坪被告人とは大きく違うということです。
佐賀氏は前田氏から直接電話を受けて、そこで改竄の告白をされたと検察官は主張してます。佐賀氏は否認してますけども。そんな電話は受けていないと言ってますけども。ですから、もしその電話の事実があったとしたら、佐賀氏は故意の改竄を確定的に認識していたということになります。
しかし、大坪氏は、そういう電話は受けてません。裁判所が、検察の主張でどういうふうに言ったかといったら、佐賀氏が電話を受けたんだとしたら、当然その内容を大坪氏に報告していたはずだと。これが検察の主張であり、それを現判決が丸呑みしたわけです。
しかし、まさにそこが最大の問題なんですが、4ページの上のほうで書いてるんですが、佐賀氏から大坪氏への報告があったと。改竄の告白を受けましたという報告があったという証拠はまったくありません。現判決が何を根拠に、この報告があったと言っているかといったら、佐賀氏は、もし電話を受けてたとしたら、告白を受けてたとしたら、当然、大坪部長には報告していたはずだと言ってます。言ってる。そして、判決では、裁判所では、その事実はあったというふうに認定した。だから、佐賀氏は大坪氏に報告したはずだという認定なんですね。
はっきり言って、そんな推認は一般社会でも通用しないです。私は、そんな電話受けてませんよ、受けてたら当然、報告してたはずですよ、と言って、一生懸命否定している人間に、他の証拠であんたは電話をしたんだと。だから、報告をしたんだというような認定などおよそ通用しません。ほとんどそれ以外、証拠らしい証拠がないんです。
ですから、まず、故意の改竄を確定的に認識していたという事実自体が、およそ認定できない。ということは、さきほど言った故意改竄を過失にすり替えたというような前提はまったく成り立たないということです。
それを前提に考えたとき、最初に戻って、今回の犯人隠避事件というのは、検察官の一般的な職務行為から逸脱しているのかどうかというところの認定は不可避です。
となると、ちょうど、この大坪氏の事件で、前田の故意改竄について、前田氏は過失だと弁解していたと。少なくともその時には。それを過失だと信じたのはおかしいじゃないかということを検察のほうから厳しく指摘され、そんなものは過失と信じてたんじゃないと。故意の改竄だと分かったはずだという認定をされているわけですね。現判決では。
それと同じように、あの陸山会事件の田代事件に関して、あの段階で、昨年の1月の段階で、石川反訳書を入手して、田代報告書の内容は全然違うと。これはもう、取り調べの内容とはまったく違うことが書いてあるということが分かった時点で、田代検事から話を聞いたら、4か月前の勾留中の取り調べの記憶と混同しましたというふうに言ったと。こんなものを誰が信じられるかという話と、大坪氏が前田の過失の弁解を信じたことがおかしかったという話と、これはほとんど同じレベルというよりも、むしろこの田代検事の故意の虚偽公文書作成を否定した、問題ないという判断としたぐらいであれば、それが犯人隠避に当たらないというぐらいであれば、大坪氏の事件も当然、犯人隠避に当たらないということになるということをこの控訴趣意書のなかで指摘をしたわけです。
この控訴趣意書のなかでは、それを検察官の職務行為一般との比較ということで詳細に論じているわけですが、結局のところ、それについて、故意改竄の認識があったんだという前提を検察が維持するのか。答弁書で。それとも、それが故意改竄の認識が認められないとしても、というような主張を、この答弁書でするのかというところを、検察がどういうような答弁をするのか。私は注目をしています。
もし、故意改竄の確定的な認識が認められない。要するに、佐賀氏から前田から改竄告白を受けたことについての報告を受けたとは必ずしも言えないという前提で、検察が何か主張してくるとすれば、これは当然、両事件の比較について、きちんと検察としては説明をするべきであるということを、このなかで強く指摘をしてます。
7ページの上のところですね。少なくとも、田代事件に対して、最高検まで了解を得て行なったこの対応。これは検察官の職務上の犯罪に対する検察の一般的な対応であるということは、検察としても絶対に否定できないと思います。
そうだとすれば、これが一般的な対応、田代事件が一般的な対応であるのに、なぜ故意改竄の確定的な認識が認められない前提で大坪氏の行為が犯人隠避に当たるのかということについて、しっかり説明してもらう必要がある。その説明が行なうべき立場にあるのは、大坪事件の起訴検事であり、そして、あの田代事件についても実質主任検事であった、最高検の長谷川充弘検事。現在、公判部長ですね。でしかあり得ない。
ですから、長谷川充弘氏には、ぜひ証人として出てきていただきたいということを、この控訴趣意書のなかで証人尋問の請求をするということを明確に述べています。この控訴趣意書のなかで、証人尋問請求について言及しているのは、長谷川充弘検事だけです。
この控訴趣意書は、さきほども言いましたように、二本立てです。原審弁護団のほうは、基本的に一審判決で原審弁護団の主張はことごとく否定されたわけです。排斥されたわけです。それに対する反論を述べてます。ところが、いま私が言った法令適用の話。犯人隠避の法律論がきちんと述べられてないとか、佐賀氏から大坪氏に対する報告の証拠がないじゃないかとかいうような主張は、原審ではほとんど行われてないですね。そういう原審で行われていない法令適用の誤りや、それに関連する主張の部分を控訴審からの弁護人の控訴趣意書、この控訴趣意書で展開をしてます。そういう意味で、役割分担をしてます。別に考え方が矛盾しているとか、分裂しているとかいうことではなくて、それぞれの立場で、現判決の問題を指摘したということです。
私のほうからは以上です」
幹事社記者「記者さんの質問がありましたら、お願いします」
不明「控訴審理では、証人申請は長谷川検事一人と考えていらっしゃる?」
郷原「いまのところ、そうです」
不明「一審でやった人間をもう一度ということは?」
郷原「我々としては、原審で取り調べた証拠を前提にしても、少なくとも大坪氏に関する限り、故意改竄の確定的な認識は絶対認定できないと思っているので、確信しているので、そうなると、原審とは違うところが争点にならざるを得ない。それに関して、重要な証人というのは、この、まさに陸山会事件の田代事件対応との比較。長谷川証人だと思っています。それ以外のところは原審で取り調べたところで十分だと思っています」
不明「もう一点、過誤ストーリー***、要するに、前田さんと佐賀さんの間で自然発生的に、ということになると、佐賀さんのほうの認識が」
郷原「はい、これはですね。どういうことかというと、一審の判決で、一審弁護団が主張していた、前田、国井による責任転嫁ストーリーというのが排斥されているわけですよ。一審弁護団は、結局、じゃあ誰が過誤ストーリーを考えたんだということについて、一審弁護団が主張したのは、前田、国井の二人が、色んな形で共謀して、大坪、佐賀の二人で故意改竄を過失にすり替える、そういうたくらみをしたんだというストーリーを作り上げたんだと主張したんです。
ただそれはかなり苦しいところがあるんですね。じゃあ、誰を通してそういうような相談をしたのか。朝日新聞のスクープがあってから、もうその日のうちに前田氏は逮捕されてますし、国井との間で直接相談をする機会なんて、どれだけあったのかと、色んな問題点があって、一審判決でそれがもう完全に否定されているわけです。
確かに、そこの点が、我々が主張する事実に関しても、確かに問題にはなるわけです。誰かが過誤ストーリーを作り上げたからこそ、真実は故意の改竄だったのに、それが過誤のように扱われたという事実がたしかにあったわけです。誰かが作り上げたんじゃないか。そうなると、結局、前田本人は別に、自分は本当のことを告白して、潔く罪を認めようと思っていたのに、それをミステイクでいく、という大坪氏の言葉で気持ちが変わって、過誤でいいことにしたというような検察官の主張が覆せないんじゃないかというところが当然、問題になるわけです。
で、我々はその点について、どういう可能性があるのかということを最後に付け加えたんです。それは、仮に1月30日の電話で、佐賀氏が前田からそういう改竄をしましたという話を聞いたとしても、まだそれは、本当に変えたのかと。データを変えるなんてことはできるのかというような、本当に大まかな曖昧な話しか聞いてないわけですね。その事実があったとしても、2月1日に、佐賀氏が最初に大坪氏に報告をしたあと、大坪氏の命を受けて、前田氏から直接、電話で確認をしているわけです。その確認のときに、普通に考えたら、どうもなんかデータを変えたというようなことを言ってたけども、故意の場合と過失の場合と両方考えられるんじゃないか。前田に対して、本当に故意に変えたのかと。過失ということはないのかということを聞くということがむしろ自然な流れとしてあり得るんじゃないかと。そうかどうか分かりませんよ。可能性として、それは充分あり得るじゃないかと。
そうしたとすれば、前田のほうだって、それはやっぱり仕方がないかと思っていながらも、故意の改竄ということが世の中に出たらどんだけ大変なことになるか。自分もそうだ。家族もそうだ、ということを考えたらなんとかして、罪を免れることはできないかということは当然、考えていたはずですよね。
そうすると、佐賀氏のほうから、過失という言葉がかりに出たとすれば、それをきっかけにあらかじめ考えていた過誤ストーリーというのを説明するということも十分考えられる。ということは、誰かが意図的に、故意を過失にすり替えるストーリーを作り上げたという大げさなものじゃなくて、自然な形でそういう過誤ストーリーが出来上がるということも、可能性としてはあり得るんじゃないかと。
そういったことすべて否定できなければ、検察官がこの犯人隠避の事実を立証したことにはならないということが言いたいわけです。ということで、これは我々が立証できると言っているわけではなくて、この可能性が否定できますか、ということを、この控訴趣意書の第7で書いてるわけです。
一審弁護団のほうは、前田、国井の責任転嫁ストーリーというのを一生懸命主張した。それが、仮に否定されたとしても、それが不合理だとしても、決して検察のストーリー通りになるわけではないということを言いたかったということです」
不明「検察官の職務行為の関係というのは、一審ではまったく争点にはなってなくて、判断が示されてない?」
郷原「はい。まったく争点になってません。一審では、1月30日の電話があったかなかったか。そこが最大の争点。それを佐賀氏が否定していたもんですから、それを検察官現職検事、白井、塚部、国井、もう何人も証人を立てて、その事実があったということが認定され、それでほとんど勝負が決まってるんですね。法律論というのはほとんど原審では問題になってません」
時事通信鈴木記者「時事通信の鈴木と申しますけど、検察官の、この同様の犯人隠避出の判例なんてものはないと思いますけど、警察官とか、いわゆる他の捜査当局でも当てはまる部分もあるかと思うんですけど、そういった犯人隠避の関連での判例みたいなのはあるんですか?」
郷原「10年あまり前に、神奈川県警で、現職の警察官の覚せい剤の事件をもみ消したという犯人隠避事件が摘発されたことがあります。これはもう、ちょっと全然、この事件とは全く違って、そのままで捜査に入ると尿から覚せい剤が出るから、なんとかして覚せい剤が出ないように間を置くとか、いろんな隠蔽工作をして、本当に明白な覚せい剤事犯を隠蔽したという話ですから、それはもう本件とは全く違いますね。こういう職務行為そのものが犯人隠避に問われたというのは、希有な例だと思います。検察官については、もちろんそういう例はありません」
不明「検察側の答弁書の提出というのはいつごろですか?」
郷原「まだ、主任検事のほうにはその連絡はないということらしいんですが、おそらく近いうちに裁判所のほうから検察のほうに打診があって、いついつという話があって、弁護人のほうにも、それでいいかというような問い合わせがあるんだろうと思います。控訴趣意書は二本立てですし、大坪関係だけでも二本立てですし、佐賀弁護団のほうの控訴趣意書も出てますし、それなりの期間は見てくれといってくるんじゃないかと思ってますけども、とにかく私は、その期限までにその検察官の答弁書を注目してます。どういう主張をしてくるのか。故意改竄の確定的な認識が仮になかったとしても、ということを言うのか、言わないのか。ここが最大のポイントだと思います」
不明「大阪のほうで把握されているのは、主任検事というのはどなたになってるんですか?」
郷原「公判の主任検事?いやあ、一審段階では、あれは中村検事だったですね。高裁段階で、控訴審段階で主任検事が誰になっているのか、ちょっと私は把握してないんですが」
幹事社記者「各社さん、よろしいでしょうか。後は各自で。どうもありがとうございました」