7月28日発売の週刊新潮に、先週号の週刊文春の「淫交」疑惑記事の「続報」が掲載される。文春の記事では、鳥越氏に「強引に」キスをされたという女性の夫が取材に応じていたが、当の女性には取材ができていなかった。新潮は、後追いの形で、当事者である女性の取材記録を載せたのである。
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(岩上安身)
※週刊新潮(7月28日発売)が「13年前の『被害女性』証言記録」と題する記事を掲載したことを受け、岩上安身が行った連投ツイートをリライトし掲載します。
7月28日発売の週刊新潮に、先週号の週刊文春の「淫交」疑惑記事の「続報」が掲載される。文春の記事では、鳥越氏に「強引に」キスをされたという女性の夫が取材に応じていたが、当の女性には取材ができていなかった。新潮は、後追いの形で、当事者である女性の取材記録を載せたのである。
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■フジテレビ・グッディ生出演終了後の鳥越俊太郎氏 への囲み取材
新潮が何年も前に取材したものの、掲載を見送ったネタを、文春が拾って当事者への直接取材はしないままに記事化したことを前回、指摘した。今度は新潮が古い取材ノート(新潮の記事によれば2003年の取材)を引っ張り出してきて、女性の告白を表に出したわけだが、疑問点がまたいくつか浮かぶ。
疑問点のひとつは、13年前に新潮が当事者の女性への直接取材をしながら、掲載を見送った理由と、今回は掲載すると判断した理由。新潮は、「本誌は、ここまで取材したものの、結局記事にはしなかった」と書く。その理由は何か。
13年前に掲載しなかった「その理由は、A子さんと男性が締切近くになって、『やはり、記事にはしないでほしい』と強く希望したからだ」という。これは当然の判断であろう。では、今回はなぜ掲載に踏み切ったのか? 当事者の女性から今度は改めて掲載承諾を取り付けられたのか。
ところがどうもそうではないらしい。記事のどこにも、「新たに承諾を得た」という記述がない。再度、コンタクトを取って再取材したとも書かれていない。掲載に踏み切った理由について書かれているのは、「文春報道で、その封印は解かれた」という言葉のみ。他誌の判断に追随したらしい。
さらに「鳥越氏が都知事に相応しいかどうかを考える際の材料として、13年前の証言を掲載した次第である」と続ける。記事のA子さんの証言は2003年に取材した当時のもので、現在のものではないのだ。
当時の取材記録が無意味だというのではない。だが、今回、記事を掲載するにあたり、当事者であるA子さんの承諾が得られたのかどうか、気にかかる。当事者の意思を尊重して掲載を見送った13年前の判断を、今回は「文春に出てしまったから」という理由で覆すのは賢明だったのか否か。
新潮の記事は、先行した文春の記事の裏付けになっているかどうか。これも読むと、気がかりな点が浮かんでくる。新潮では、A子さんが鳥越氏との関係について成り行きを細かく話している。鳥越氏から「好きだ」と告白されたこと。A子さんは鳥越氏のことを「尊敬し、憧れていた」こと。
なので、食事に誘われた時に「何の疑いもなく2人で食事」をし、「その後、彼が一人で借りているマンションに行った」こと。「そのマンションでキスされた」こと。「すごくビックリし」たこと。「それからも『好きだ』と言われ続け」たこと。
「だって、あなたには奥さんがいるじゃないですか」とA子さんが訊いたところ、鳥越氏は、「妻のことは全力で愛している。でも、それとこれとは別なんだよ」と答えたこと。やりとりが生々しく描かれている。鳥越氏の別荘に、2人きりで出かけたのは、その半月後のことだったという。
これでおや?と気づいた人も少なくないかもしれない。先週号の文春の記事では、別荘へ行く前に、A子さんと鳥越氏の間で、「好きだ」という告白や、食事などのデートを重ねたことや、キスをしていたことなどは、まったく書かれていない。いきなり別荘へ誘われたことになっているのだ。
前回、文春の記事の中で、「強引にキスをすると」という記述について、注意を促した。この「強引に」の3文字が、名誉毀損の裁判になったら問われる。たった3文字だが、ここが事実かどうかで、天と地ほどの差になる。記事を書いたのは週刊文春なので、文春が立証しなくてはならない。
名誉毀損の裁判では、本文だけでなく、タイトルも見出しもリードも問われる。タイトルは、「鳥越俊太郎知事候補「女子大生淫行」疑惑」である。「淫行」という言葉は適切かどうか、前回、疑問を呈した。
すると翌週の週刊文春(7/28発売)に「鳥越『淫行』報道すべての疑問に答える」という記事が掲載され、「『キスしただけで”淫行”はおかしい』小誌が先週号で報じた鳥越氏の行為について、インターネット上で、こうした書き込みをするジャーナリストも少なくない」と反論が。
「淫行」の定義云々は繰り返さないが、文春は「淫行疑惑」タイトルの上のリードで、「キスの経験もない20歳の大学生を富士山麓の別荘に誘い込んだ鳥越氏は二人きりになると豹変したという」と記したことについて、名誉毀損の裁判になったならば、説明を求められることになるだろう。
このリードは、どう読んでも、別荘に行くまでキスの経験もなかった女子学生、としか読めない。しかし、当事者のA子さんに直接取材している週刊新潮によると、別荘に行く半月前にキスをしたと、A子さん本人が語っている。
新潮は当人に取材しており、文春はしていない。この差は大きい。新潮の記事が正しければ、文春のリードの文章は間違いということになる。事実性を争う名誉毀損の裁判で、こんな基本的な事実関係で間違えていたら勝負にならないのではないか。
別荘で「強引にキスをした」という文春の記述が問題になるだろう、と先に書いたが、別荘に行く半月前にキスはすでに交わしていたことを、当の本人のA子さんが週刊新潮に喋っていたのだから、別荘でのキスについて「強引に」した、という形容も、真実性が疑われる可能性がある。
当事者のA子さんに直接取材している週刊新潮に書いてあることが、すべて事実だと仮にしよう。「関係を迫ったという事実はない。事実無根」とする現時点での鳥越氏側の主張は虚偽となる。しかし、同時に、新潮の記事は、文春の記事やリードのほころびをも浮かび上がらせる。
新潮の「参戦」は、文春の記事の裏付けになる、ともいえるが、名誉毀損の裁判の展開を考えていくと、文春の「援護射撃」には必ずしもならない可能性がある。
当事者に取材していない文春の記事のほころびは、名誉毀損の裁判では致命傷になりかねない。なぜ、そんなことを細々と書くかといえば、私自身が週刊文春で連載したベストセラー『脳内革命』と著者の春山茂雄医師についての記事で、名誉毀損の被告となった経験があるからである。
名誉毀損の裁判とは、細部を争うのであり、だからこそ、記事を書く者は、細部をおろそかにしてはいけない。私の裁判は空前の賠償請求額で当時テレビのニュースにもなった。一審を弁護士任せにしていたら、手抜きをされて敗れてしまった。それから弁護士任せにせず、自分自身で取り組んだ。
数十カ所の争点すべてに、それが、事実にもとづく記述であることを証明する証拠や証言を自分自身で揃えた。証人の陳述書も弁護士任せにせず、自分で書いて法廷に出した。すると裁判長から和解の勧めがあり、双方応じて、和解が成立した。記事の訂正や謝罪はなし。事実上の勝訴である。
名誉毀損の裁判は、大変な労力を必要とする。訴えられた側は、その争点一つ一つについて、事実であることを立証し、形容詞やレトリックにも妥当性があることを説得力をもって裁判官にアピールしなくてはならない。争点の大半において勝っても、一箇所でも原告の言い分が通れば敗訴である。
こうした名誉毀損の裁判の厳しさを、スクープを連発して週刊誌業界のトップをひた走る週刊文春の新谷学編集長が知らないはずはない。私が週刊文春で春山氏の連載を執筆していた時の担当編集者が若き日の新谷学氏だった。彼がまだ30代に入ったばかりの頃だ。
鳥越氏の陣営には、あの弘中惇一郎弁護士がついた。弘中弁護士らは、週刊文春に続き、週刊新潮に対しても、即座に名誉毀損と選挙妨害で東京地検に刑事告訴した。民事はこれからだろう。この裁判の行方がどうなるとしても、3日後に迫った都知事選への、両誌の報道による影響は避けがたい。
最後に、A子さんが13年前に新潮の取材に答えて、鳥越氏に対する感情を吐露したくだりについて。A子さん「あー、私のこと面倒くさくなったんだなって。直接謝ってほしいです。でも、メールを送っても返事すらありません」
A子さん「鳥越さん、自分は先が長くないと言っていた。激務で睡眠薬を飲まないと耳鳴りがして眠れないのだとか。年齢が年齢だし、すごく同情しました。実際、薬もたくさん飲んでいましたが、それも嘘だったのかな」。鳥越氏に対して怒りながら、身体を心配する思いが伝わってくる。
知事選の出馬騒ぎになる少し前、たまたまだがトークイベントへの出演依頼を鳥越氏にした際に、お互いの体調の話をしたことがあった。その時に鳥越氏は、耳鳴りがして、耳がよく聞こえず、毎晩、睡眠薬を飲んで寝ている、と言っていた。A子さんが聞いていた話とぴったり符合する。