国交省が都心部で飛行機を今以上に低空飛行させようと計画中
最近、飛行機の音が気になりませんか? 2008年の横田空域一部返還(※1)で内陸を飛ぶようになり、特に東京都城南地域周辺は以前に比べ、かなり騒音が気になるようになりました。
ところが、いま、国交省は、都心部をさらに低空で飛行機を飛ばす案を示しています。
飛行機事故は、離陸後3分間と着陸前8分間に一番多いといわれており、先日起きたばかりの大韓航空機エンジン火災事故、昨年相次いだ調布小型機墜落事故、茨城県阿見町小型機墜落事故など、いずれも空港近くで起きています。
これまで羽田空港を発着する飛行機は、大田区と国交省との間の「海(方向)から着陸し、海へ(に向かって)離陸する」という原則に従って飛んでいました。しかし、新ルート案は「陸(方向)から着陸し、陸に向かって離陸」する、つまり都心の上空を低空飛行するという世界でもほとんど例をみない飛び方です。
飛行機の墜落事故は、搭乗員や乗客の死亡に直結し、それ自体、たいへんな惨事です。1985年、日航機墜落事故では、乗客と乗員あわせて520名の方が亡くなりました。生存者はわずか4名でした。しかし、同じような事故が、群馬県の山中ではなく、人口の密集する都心の渋谷区、港区、目黒区、品川区などで起きたらどうなるでしょうか。どれほどの人が巻き添えになるかわからない、前代未聞の大惨事になりかねません。
こんな重大な問題を、東京都民の皆さんはご存知でしょうか?政府から入念なアナウンスがありましたか?大メディアによる警告を耳にしたでしょうか?
着陸直前に起きやすい航空機からの落下物――新ルートが実現すれば、海上ではなく都心に落ちる可能性も
▲羽田空港を離着陸する全日空の飛行機(Wikimedia Commons)
騒音も、飛行機事故の可能性も問題ですが、落下物も心配です。
航空機から漏れた水が上空で凍って、それが着陸直前に落ちてくることがあります。こうした氷の塊や部品などは、航空機が着陸のために胴体から車輪を出す、いわゆる「足下げ」の時に落ちてくることが多いといわれています。
成田空港では、開港以来、平成27年までに確認されている落下物だけでも158件にもなり、平成12年には19件も発生しました。その後、海上で車輪を出す対策が取られた結果、落下件数は年に数件程度に減少していますが、それでもゼロにはなりません。
成田空港周辺は畑や田んぼなどが広がる田園地帯です。それでも飛行機からの落下物が家屋の屋根に落ちたこともありますが、幸い、これまで人的な被害は出ていません。
しかし、これが、成田空港周辺とは比べものにならないほどの人口密集地の都心の上空を通過して、内陸部側から羽田空港へと着陸するルートになったら、人口密集地の上空で車輪をおろす可能性が高く、落下物がどうなるのか、非常に心配です。
▲羽田空港の新飛行ルート案に関する国土交通省の資料
戦後、地域住民が勝ち取ってきた羽田空港との共存の道が、東京五輪と機関投資家など大資本のための経済優先で危機に!
今回の羽田空港で発生した大韓航空エンジン火災事故は、離陸の際に起きています。同様のことが、内陸部上空を飛ぶルートに変更後に起きたら、どうなるでしょう。新飛行ルートの中には、B滑走路西向きに川崎市の石油コンビナート上空に向かって飛ぶ案も示されています。石油コンビナート上空は安全上の観点から飛行が制限されてきたにもかかわらず、その上を低空で飛ぶのを認めようというのです。安倍政権はいったい何を考えているのでしょうか!?非常に心配です。
羽田空港は、戦前から事故が相次いでいたことや、戦後、GHQが空港周辺住民に対し48時間強制退去命令をだしたこと、その後も安全や騒音上の問題は回避されず、昭和48年10月9日、大田区議会は、「航空運輸事業の公共性のみを重視し、地域住民の生活環境を無視した当局の計画には絶対反対」を表明し、「区民生活の安全と快適な生活環境が確保されない限り、東京国際空港の撤去を要求する」との決議文を採択しています。
これがきっかけとなり、羽田空港は沖合に移転し、騒音問題を緩和するとともに、国際線は成田空港、国内線は羽田空港という方向に進んだわけです。
ところが、沖合移転事業(※2)が完了して数年を経過したいま、国交省は、オリンピックや「豊かなくらしを支える経済のために」という理由で、羽田空港の増便に伴う今回の飛行ルート変更案を提示しています。
安全と騒音問題のために空港撤去を決議し、莫大な税金を投入し行った沖合移転事業は一体何だったのでしょうか。
しかも、これまでの羽田空港に係る経済は、住民の生業に係る経済であり、雇用や賃金に直結した経済でした。しかし、安倍政権のアベノミクス経済政策は、投資家のため、それも機関投資家といった大資本のための経済であり、住民の暮らしとは直結しません。
反対運動つぶし?行政による“やる気のない”住民説明にも違和感
今回の新飛行ルート案に伴う、国交省の進め方や東京都・大田区をはじめとする各自治体の対応がこれまでと大きく変わってきていることに、大きな違和感をもっています。
これまで、こうした住民生活に大きな影響を与える変更にあたっては、説明会を開催し、意見交換を行ってきていますが、あらたに国交省が生み出した”「オープンハウス型説明会」は、カラフルで体裁の良いパネルを並べ、説明員を立たせて質問を受け付ける形で、まるで企業のプレゼンテーションのようです。
質問・疑問があっても、十分な情報は提供されず、意見を書くことを促されるだけで、住民の理解が進まないばかりか、この事業に関わる住民同士の共感にもつながりません。反対運動を防ぐためには非常に効果的な説明方法かもしれませんが、果たしてこれで、行政の責任を果たしているといえるでしょうか。
私は、これまで、大田区議会、大田区、東京都、国交省が、この羽田空港に係る安全や騒音の問題にどのように取り組み、対応してきたのか、過去の議事録などを紐解いてきましたが、住民に寄り添う姿勢が大幅に低下しており、これまでとの大きな変化を感じます。
日米政府が結んだ「航空自由化」で、すでに米国と前約束ができている!?
私は、こうした背景に、航空業界の規制緩和があるとみています。
今年に入り、日米航空交渉において、昼間時間帯で日米双方1日5便ずつ、深夜早朝時間帯枠(午後11時~翌午前6時)で双方1日1便ずつの配分で決着しました。「B滑走路西向きに国際線が飛ぶこともある」と大田区も言っており、日米航空協議により、燃料をたくさん積んだ大きな航空機が内陸部に向けて離陸をするわけですから、新飛行ルートにも大きな影響を与えます。
同じく2010年には「日米オープンスカイ了解覚書(※3)」が交わされています。これは航空業界へ独占禁止法の適用除外ということで、国交省が許認可権を担ってきた新規路線の開設、増便、運賃の設定、チャーター便の運航、他企業との提携等が、民間企業にゆだねられることを前約束しています。
国家間の条約など国際法は、国際法秩序において、国内法に優越すること。国家がその国内法をもって免責事由とすることは許されないことが認められています。
これらから考えれば、国交省は、国民や大田区民との合意形成の前に、アメリカ航空業界と前約束をしているわけで、住民にきちんと説明しない、住民の声を届けないといった「やる気のなさ」はこうした国民を蚊帳の外に進める規制緩和にその理由があるのではないかと思えてなりません。
しかし、約束は、前約束であり、国家間の公文書の締結がなければ効力を発揮しない内容です。
「説明」で安全や騒音の問題が解決するのか?国や自治体は、住民の声を真摯に受け止めるべき
行政から漏れ聞こえてくるところによれば、この飛行ルート変更に対し、反対の声は大きく、「説明」をしていかなければならないそうです。
では、はたして、十分な説明をすれば安全も騒音も環境も解決するのでしょうか。一人でも多くの住民がこの問題を知り、自分のこととして考える必要があると思います。
羽田空港の使い方は、大田区と協議をすることになっています。行政がその協議の相手としてとらえているのが、対象地域の町会長などで構成されている「移転問題協議会」の合意です。現在、協議会では、羽田地区の町会長のみなさんが異を唱えていると聞いています。
政府、東京都、大田区はじめ各自治体には、こうした多くの住民の声を真摯に受け止め、必要な対応を速やかに講じるべきであると考えます。
(※1)横田空域一部返還:横田空域とは、米軍横田基地(米第5航空司令部)の管制下にある東京、栃木、群馬、埼玉、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡の1都8県にまたがる空域。この空域の一部が2008年9月、日本に返還された。それにともない、羽田空港から関西・山陰・四国・九州など西方面への航空機の飛行距離は約11~31km(飛行時間にして2~5分)短縮された(国土交通省航空局資料2008年7月)。なお、2012年3月26日から、横田基地には航空自衛隊航空総隊司令部も併置。
(※2)沖合移転事業:国土交通省による呼称は「沖合展開事業」。東京都が造成した羽田沖廃棄物埋立地に、羽田空港を展開。第1期(昭和59~63年度:新A滑走路)、第2期(昭和62~平成5年度、第1旅客ターミナル)、第3期(平成2~18年度、新B、C滑走路、第2旅客ターミナル)、再拡張事業(平成17~22年度、D滑走路、国際線旅客ターミナル)を行った。さらに、新成長戦略(平成22年6月18日閣議決定)に伴って24時間国際拠点空港化を目指し、国際線の拡充、発着容量の拡大、長距離国際線の輸送能力増強を図っている。
(※3)日米オープンスカイ了解覚書:2010年10月25日、日米政府間で正式に署名した。同日の馬渕澄夫・国土交通大臣(当時)の談話「本日の署名をもって、日米の航空関係は完全に自由化され、日米双方の航空企業は、自由な経営判断により新規路線の開設、増便、運賃の設定、チャーター便の運航、他企業との提携等を行うことが可能になります」。
(大田区議会議員・奈須りえ)
千葉側も高度いれないと、情報として不公平。
元航空局職員です。いま話題の羽田空港陸上進入ルートには心配です。ルート直下の騒音強度は高層マンションなどでは、住宅の高度を基準に考えなければなりません。住宅の高さが100mであれば、地上での騒音よりそれだけ強烈でしょう。こんなマンションから逃げ出す人は、補償金をもらわないと納得できないでしょう。地価も住宅価格も安くなるのではありませんか? また、落下物が凶器となって降ってくるのはもっと恐ろしいです。成田空港会社NAAのHPには、年ごとの落下件数のグラフが載っていました。1991年頃に海上での脚下げが実施され、落下件数が激減した様子が分かりましたが、NAAは今月19日に落下物関係記事を全部消してしまいました。先生たちの発言に対する証拠隠滅行為だと思います。わたしは、1991年頃成田空港事務所で勤務していました。多分役所の差しがねで消したのでしょうが、ひどいことをするものだと、腹が立ってきました。先生たちのご活躍を期待いたします!
(つづき)今年1月頃、私は航空局管制課長に、羽田でも落下物は時々、陸上に落ちること(私が成田にいたとき、羽田への着陸機が氷塊を落とした事実が成田側に通報されたことがあります。私が羽田空港事務所が受け取り処理すべきだと言ったところ、羽田側では落下物なんてあり得ない、といって拒否しましたが・・)、羽田への着陸機はほとんど東京湾で脚出しするので、羽田側で氷塊落下を目撃する人は稀なのだということを教えて上げたのに、彼は2020年以降羽田の取り扱い機を40%増しにすることが至上命題であるようなことを言って、わたしの言うことを聞きませんでした。多分今頃は航空局内でも、騒音にしろ落下物にしろ、未検討な事項がいろいろ出てきたので、陸上進入ルートの正式提案はできない状態だと私は考えています。