「天下分け目」の山形市長選、安保法制反対の梅津候補1773票差で惜敗、「反対」世論の猛烈な追い上げに、賛成派の佐藤新市長はどう応えるのか 〜開票日ルポ 2015.9.13

記事公開日:2015.9.14取材地: テキスト動画
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(IWJ・青木浩文)

 「五分五分の戦いになる。梅津候補がかなり追い上げているらしい。結果が出るのは23時頃になるだろう」

 2015年9月13日、山形市長選挙の投票日。開票結果を待つ梅津庸成(うめつようせい)候補(民主・共産・生活・社民推薦)の選挙事務所の取材に集まった記者達の間で、そんな会話が交わされていた。はたして、実際にその通りの結果となった。

▲安保反対を争点のひとつに掲げて山形市長選挙を戦った梅津庸成候補

 20時に全ての投票所での投票が締め切られ、21時15分から開票が始まった。事務所には100名余りの梅津候補の支持者が集まった。会場にはNHK山形が大きなスクリーンに映し出された。21時のニュース速報で、「出口調査の結果では自公推薦の佐藤孝弘(さとうたかひろ)氏が有利である」と報じられると、事務所には重たい空気が流れた。

 梅津候補の支持者達は、不安の表情を浮かべながらも、22時の開票速報で、「開票率13%、梅津候補、佐藤候補共に7500票」と選対から告げられると、会場から「よし!」と声がかかった。

 その後、22時15分、開票率34.1% で梅津候補、佐藤候補共に1万9500票。22時30分、開票率55.8%で共に3万2000票。

 そして、22時40分、開票率94.3%でもなお、両者が同じ得票数5万3000票であると発表されると、会場からは驚きとの声と共に拍手が沸きあがる。

 「近年まれに見る接戦だ」――
 「残票6588票です」――

▲開票率94.3%になっても、両候補の得票数は拮抗したままだった

 会場の熱気がピークに達したかに思えたその僅か数分後に、「あーーーっ」という、高いところから飛び降りたかのような女性の叫び声が響く。事務所に集まった支援者達は、NHK『サンデースポーツ』を放送していたテレビ画面の左上の速報文字に釘付けになる。

 「山形市長選挙 新人の佐藤孝弘候補 当選確実」――

 選挙事務所は大きなため息に包まれた。やがて、速報の文字は消え、テレビ画面では『サンデースポーツ』が大相撲秋場所初日での照ノ富士の取り組みを伝えていた。

▲21時にNHKの出口調査の結果が伝えられると支持者は不安の表情を隠せなかった

▲民主党・近藤洋介役員室長も事務所を訪れ、開票結果を待った

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  • 日時 2015年9月13日(日) 19:45~
  • 場所 梅津庸成候補 事務所(山形県山形市)

梅津候補敗戦の弁「安保法案反対の争点化は山形市民の声を踏まえたもの」

 最終結果は、佐藤候補56,369票、梅津候補54,596票、そして五十嵐右二候補(いがらしゆうじ)3,737票。投票率は56.94%で、4年前の市長選挙より9.34ポイントアップ。僅か1773票差という惜敗だった。

 選挙戦序盤は佐藤候補が大幅にリードしていたことを考えると、選挙期間中に「安保法制反対」の声が、市民のなかで猛烈に高まったことが分かる。

 佐藤氏の当選確実が報じられると、梅津候補は事務所に現れ、敗戦の弁を述べた。

 「これまで私を推してくださった皆様方には、本当に心から感謝を申し上げます。結果は結果でございますので、真摯に受け止めなければいけないと思っています」

 NHK山形の記者から、「安全関連法案をひとつの争点にあげていましたが、有権者の反応は実感のところいかがでしょうか?」との質問に対して、梅津氏は安保法案反対の争点化は、山形市民の声を反映したものであることを訴えた。

 「有権者の皆様方からは、安全保障の関連法案につきましても、『納得できない』、『やめてほしい』と言う言葉は選挙戦を通じて、さまざまな方からお話をさせていただいている中でも出てきた内容でございます。それゆえに私この安全保障関連法案の取扱いについても論点のひとつとしてあげてまいりました。

 今回、当選できなかったいうことでございますから、結論は出ているわけでございますけれど、たいへん多くの方々の安全保障法案に対する懸念、そして『やめてもらいたい』という声が、私にとっては非常に多かったと、そう思っております

 いずれにいたしましても、安全保障法案についても、私のこの選挙を進める上での論点であったということについては、これは市民の皆さまの声を踏まえたものであったと
いうふうに考えております」

 梅津氏はNHK山形のテレビ用のインタビューが終わると、すぐに会場を後にしてしまったため、新聞記者等のための取材会見は行われなかった。

▲敗戦の弁を語る梅津庸成候補

「安保だけでなくて、アベノミクスの効果の問題や冷え切った地方経済の問題」も論点にすべきだった――連合山形会長代行岡田新一氏

 梅津候補を応援した連合山形会長代行の岡田新一氏は、記者団の囲み取材の中で、敗戦の理由について、次のように語った。

 「安保だけでなくて、アベノミクスの効果の問題とか、冷え切った地方経済が大きな問題になってきますので、その身近な問題を取り上げて、どう県民生活の向上を図るかというところが、課題ではないかと思います」

 また、記者からの「今回最後のほうは平和の問題ということで、『安保一点突破』という戦略をとられたと思うが、それが作戦として、戦略として攻め切れなかったという側面があったようにも見えるが」との指摘に対して、岡田氏は、次のように敗戦の理由を分析した。

 「確かに今回安保の問題が焦点となって、色々な調査でも7割近い皆さんが安保に反対ということで。ただ問題はやはり、その7割近い皆さん方の意見を、こちら側ですべて吸収しきれなかった。短期決戦の中で、集約しきれなかったというところはあると思います」

佐藤氏は安保法案に賛成の立場――「新党改革、次世代の党の代替案」に近い考え

 佐藤氏は13日に深夜、山形テレビ(YTS)のニュース番組に出演し、「今回選挙の争点であった安保法案について、賛成反対、どちらの意見なんですか?」との質問に対して、次のように語り、賛成の立場を示した。

 「私の個人の考えですけれども、基本的に最近の中国や北朝鮮の動向を考えるとですね、あの内容(安保法案)の必要性は私は認めております。ただ、実際今出ている案の中ですと、新党改革さんとか、次世代の党さんの出している代替案ですかね。全ての案件を原則国会承認にかけると、それが私の考えに一番近いと思います」

山形市を二分した選挙――行きのタクシーと帰りのタクシーで異なる支持者

 投開票前、選挙事務所に向かうタクシーの運転手に「どちらの候補を応援するのか」と聞いたころ、答えずらそうにしながらも、「やっぱり、流れを変えたほうが良いんじゃないんですかね」と教えてくれた。

 『流れを変える』。これは、佐藤候補が今回の選挙で掲げたスローガン。山形県では49年間自民党の首長が誕生していない。ずっと革新系の社会党、社民党、共産党が勤めてきた。自民党は野党。この流れを変えるという意味が込められている。つまり、行きのタクシー運転手は佐藤候補を支持するという意味だ。

 帰りのタクシーの運転手は、「今日、選挙速報をずっとラジオで聞いてましたけど、面白かったですね。拮抗してて。いやあ、でも残念でしたね。結果が逆だったらよかったのに」と語った。つまり、梅津候補を支持したということだ。

 二人とも同じタクシー会社、しかし行きと帰りで、支持者は分かれた。まさに、今回の山形市長選挙は、山形を二分した選挙なのだと、あらためて感じた。

 今回の梅津候補の惜敗は、間近に迫った安保法制の採決、そして来年夏の参議院選挙にどのような影響を与えていくのだろうか。時事通信は「国会審議が大詰めを迎える中、佐藤氏が法案反対を掲げた梅津氏に競り勝ったことで、与党は粛々と採決を進める方針だ」などと報じている。

 全国から注目を集めたこの選挙から、有権者は多くのことを学ぶべきなのかもしれない。

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