【検証レポート】2015年1~2月、岩上安身が北の大地で倒れるまでの道程 ~IWJスタッフあてメールも検証。「心臓の動脈の痙攣」を引き起こしたストレス、過労の実態と、追い打ちをかけた「世界の危機」の正体・後編 2015.3.9

記事公開日:2015.3.9 テキスト
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(記事:原佑介 リサーチ協力:平山茂樹)

前回の続き。前回の記事はこちらからご覧いただけます。 →【検証レポート】2015年1~2月、岩上安身が北の大地で倒れるまでの道程~IWJスタッフあてメールも検証。「心臓の動脈の痙攣」を引き起こしたストレス、過労の実態と、追い打ちをかけた「世界の危機」の正体 2015.3.5

北海道取材開始。西尾正道医師インタビュー

 18日に北海道に入りした岩上さんは、翌2月19日(木)、北海道がんセンター名誉院長である西尾正道先生のお宅にお邪魔し、西尾先生に、約3時間にわたるインタビューをしました。

 西尾先生は北海道がんセンターの名誉院長で、臨床医として約40年もの間、癌の治療に取り組んできました。中にセシウムの入った「セシウム針」という針を用いて、直接、身体の中の癌細胞を消滅させる技術を持つ、日本で唯一の医師です。

 放射線による内部被曝の破壊力を逆用して癌細胞を退治してきた西尾先生だからこそ、内部被曝がいかに危険かも熟知しており、内部被曝を過小評価するICRP(国際放射線防護委員会)の考え方を強く否定しています。インタビューでは存分に語っていただきました。

 インタビューで西尾先生は、医師としての立場から、TPP参加で起こりうる健康被害についても言及しました。

 2013年3月4日号の『TIME』誌は、「米国の製薬医療関係のロビー活動が一番強い」と書いたそうです。つまり、TPPのターゲットは「医療」ということになります(もちろん他にも多々ありますが)。

 「抗がん剤などは数倍に値上がりするでしょう。今、日本は薬だけでも輸入超過が2兆円ですが、それも上がるだろうし、もし、日本政府が薬価をおさえたら、ISD条項で訴えられるだろうと思います」

 ISD条項とは、「投資家対国家間の紛争解決条項」のことで、FTAなどの自由貿易協定を結んだ国同士において、企業と政府との賠償を求める紛争の方法を定めたものです。西尾先生はさらに続けます。

 「(TPPによって流通する)女性ホルモン入り飼料で育った牛肉を通して、ホルモン依存性がん発症が高まる。ホルモン依存性がんが、この40年間、5倍に増加しました。乳がん、前立腺がん、子宮体がん、卵巣がんが米国産牛肉消費量に比例して増えています。

 残留農薬、遺伝子組み換え食品も入ってきます。ミツバチの絶滅も、農薬ネオニコチノイドが原因と言われ、オランダでは禁止されました。ところが、日本の使用量は、EUの100倍。中国、韓国、日本の順で使用量が多いんです。残留農薬は1000倍の使用量にもなるんです。

 遺伝子組み換え(GM)食品の危険もある。モンサントでは、自社のGM食品は食べていないと言います」

札幌トークカフェ開催

 西尾先生の話は目を覆いたくなるような、聞くからに恐ろしい話でした。健康の重要性を強く意識させられたこの日の夜、札幌市内のワインバー「Φ(ファイ)」で岩上さんのトークイベント、「トークカフェ」を久しぶりに開催しました。

 トークカフェでは、岩上さんはウクライナ危機とその裏で暗躍する米ネオコンやジョン・マケイン議員などの動きを紹介し、ウクライナで農業支配を進める米国の「アグリビジネス」企業の実態などにも触れました。

 いつもなら立ったままで2時間でも3時間でも話し続ける岩上さんが、この日は腰をかばって着席したまま話し続けました。

 肥沃な土地を抱えるウクライナは、トウモロコシでは世界第3位、小麦では世界第5位の輸出量を誇る農業大国ですが、2014年2月、ユーロマイダンでの事実上の「クーデター」によって、ヤヌコビッチ政権が崩壊した後、モンサント、カーギル、デュポンといった米国のグローバル企業がウクライナの肥沃な農地を大量に取得しています。米国による、ウクライナの土地収奪(ランド・グラビング)が進んでいるのです。

 さらに現在のキエフ政権には、米国人投資家を含む3人の外国人が閣僚入りし(任命当日にウクライナ国籍を与えられるという離れわざ)、政治権力も土地も奪われつつあります。

 プーチンとロシアを悪魔化する大宣伝を繰り広げながら、その実、米国の狙いが何であったか、この日、トークカフェに集まって岩上さんの話に聞き入っていた人には、嫌というほどわかったことと思います。

 土地も政治も米国に実権を握られたウクライナは、もはや米国の経済植民地と化してしまったと言えます。TPPで日本の主権が事実上、奪われ、企業も土地も外国企業に買収されていけば、ウクライナ同様、米国の経済植民地になりかねません。農業に依存する北海道は真っ先にその犠牲となるでしょう。

 ソースが明確な事実をひとつひとつ提示して話す岩上さんの話には、恐ろしいほど説得力があったと思います。

 札幌トークカフェ参加者の皆さんは、TPPに対する危機感が他の地域に比べて高かったようで、2次会の懇親会でも、TPPの話題では特に盛り上がりました。

 トークカフェの幹事を引き受けてくださった「Φ」のオーナー・山田賢三さんは、「ノンベクレル(放射性物質検出限界値未満)」の食材にこだわっており、「Φ」も「飲食セーフティーネットワークワーク」に加盟しています。懇親会で幹事として挨拶した山田さんは、「地面に落とした食材をまな板に乗せないのと同じように、放射性物質で汚染された食材は使いません」と話し、飲食店オーナー兼、料理人としての矜持を示されました。

 トークカフェはおかげ様で、懇親会を含めて大盛況のうちに終え、その日は深夜2時過ぎまで山田さんや「Φ」のスタッフらと、店内で語り合いました。岩上さんは日頃から深酒を控えているので、その日の夜も、ワインをグラス2杯ほど飲んだのみで、あとはコーヒーなどしか口にしていません。

 山田さんたちは、岩上さんの健康とIWJの経営をとても心配してくださいました。難しい経営の話をしておりましたが、原佑介はこれまで、カメラを持って取材し、記事を書くだけで1日があっという間に過ぎる、という働き方をしており、目の前で繰り広げられていた会話が、自分とはあまり関わりのないものであるかのように感じていました。

 「誰か、岩上さんの片腕となって、経営やマネジメントの補佐をしてくれるスタッフはいないのか」といった話だったかと思いますが、そんな人も、そんな人を雇うお金もIWJにはありません、と岩上さんが説明をしていました。実際、今いるスタッフは、それぞれが大変な仕事を抱えており、みんな、それをこなすだけで精一杯です。

 同席していた方から、原さんが手伝いをしてはどうか、と話を振られた瞬間、反射的に「無理無理無理無理無理無理!」と突っぱねました。記者仕事だけでもパンク寸前だというのに、これ以上どうしろと言うのだ、とてもじゃないが、それどころじゃない、というのが素直な気持ちでした。

 人にはそれぞれ役割がある。経営は自分の仕事ではない。中間管理職ですらない。そう思っていました。

 実は、僕は、先日、社員というものになったばかり。人生で初めての社員体験で、健保とか年金について、顧問の社労士の方にいろいろ説明を受けて、ほおーと感心しながら、メモを取るのに忙しかった記憶があります。

 それ以前は、「社員制度を作るんだが、社員にならないか?」と岩上さんから言われても、「シャインって、何ですか?バイトとどう違うんですか?税金を天引きされるのイヤです」と拒んでいたほどで、要するに社会の仕組みとか、会社の内部とか、何も知らなかったし、知ろうともしなかったのでした。

 自分は自分の目前の仕事にだけ集中していればいい。そう考えていました。今にして思えばコドモもいいところですが、そもそも岩上さん不在のIWJなど、この時は想像もしていませんでし、いつまでも頼りにしていられると思っていました。「俺がいなくなったら、どうするんだ、考えているのか」という岩上さんの言葉にも、何も反応せず、右から左へと聞き流していました。親父にあまえて好き勝手する、放蕩息子のような感覚だったのだと思います。

「日教組!」総理とは思えない安倍総理の下品な野次

 ちなみにトークカフェを開いたこの日、国会で安倍総理が「野次」を飛ばし、波紋を呼びました。

 問題の場面は、衆議院予算委員会の質疑でのこと。民主党の玉木雄一郎議員が質疑で、西川公也農林水産相(当時)への献金を「脱法献金だ」と主張した際、安倍総理が「日教組はどうするの」などと野次ったのです。過去の日教組加盟組合による、民主党議員への献金事件を指したと見られますが、玉木氏は「日教組の話はしていない」と応じました。

 安倍総理は昨年秋の国会質疑中にも、民主党の枝野幸男幹事長に対し、JR総連やJR東労組から献金をもらっていると指摘し、両労組と過激派を一緒くたにさせ、「殺人を行っている団体」から「献金を受け取った」などと、一方的な主張を展開していました。

 安倍総理は23日になってようやく、「正確性を欠く発言があったのは遺憾であり訂正する」と述べ、発言を撤回しましたが、現役の総理大臣が答弁席から野次を飛ばすなど、品格を欠いた行為だと批判せざるをえないでしょう。

 幼稚な野次だけでなく、閣僚からは、政治とカネの不祥事が続出。前代未聞の「不良内閣」ですが、この「不良内閣」を叱り飛ばしたい思いがあるのに、思う存分、取材したり、書いたり、発言したりすることにエネルギーを注げないことに、岩上さんは、じれったく思っていたようです。

2度目の提訴! 元朝日新聞記者・植村隆さんインタビュー

 翌2月20日(金)、午後2時より、岩上さんは札幌市内で、元朝日新聞記者・植村隆さんに2度目となるインタビューを行いました。

 植村さんは、いわゆる保守系の言論人や「ネトウヨ」などから、「朝日の植村記者が、韓国人の従軍慰安婦の存在をスクープし、慰安婦問題の火付け役となった」「信憑性が疑われる吉田清治氏の証言に基づいて、慰安婦の記事を捏造した」などとして誹謗中傷されていますが、まったくの事実無根で、吉田証言記事は一本も書いていないことは岩上安身1度目のインタビューでも明言されていました(※)。

 しかし、植村さんが何度となく説明を繰り返しても誹謗中傷は一向に止まず、植村さんの家族や、勤務先の北星学園大学にまで脅迫の手紙などが相次いで送られています。植村さんはついに今年1月、バッシングのきっかけとなる記事を掲載した週刊文春と執筆者の西岡力氏(東京基督教大教授)を名誉毀損で提訴しました。

 第二弾の反撃相手は、ジャーナリスト・櫻井よしこさんです。櫻井さんは、植村さんや植村さんの家族などが、脅迫や暴力の恐怖に晒されている事実を知りながらも、今なお誤った認識のもと、植村さんが捏造記者だという誹謗中傷を繰り返し、さらには、植村さんには教員の適格性がないという人格非難まで続けているといいます。この日のインタビューでは、岩上さんが第二弾の訴訟について詳しくうかがいました(※)。是非、この点をアーカイブで是非ご覧ください。

札幌〜帯広間、3時間の旅と天然温泉

 植村さんのインタビューを終え、岩上さんと同行スタッフの原佑介は「スーパーとかち」に乗車し、帯広へと移動しました。乗車時間は約3時間。帯広は札幌よりもきっと寒いんだろうな、と少し怯えながらメールの返信作業などをこなしました。

 このとき、岩上さんが車内の様子をつぶやいています。

2月20日 ツイッターより

IWJは、独立プロレス団体みたいな名前だ、とよく言われるが、地方を回っていると、本当に地方巡業中のような気がしてくる。腰痛に悩まされ、コルセットを締めて北海道巡業中のポンコツレスラー。今、札幌から帯広への移動中。
posted at 21:15:45

続き2 スーパーとかち、昼間だったら車窓からの眺めもさぞかし。あいにくの夜。真っ暗で何も見えない。当然のことながら、街灯もほとんどなし。
posted at 21:17:58

続き3 北海道巡業、3日目。昨日は西尾正道・北海道がんセンター名誉院長のインタビューのあと、夜は久々の札幌トークカフェ。大充実の一夜だった。本日は、朝日新聞の植村隆元記者の再度のインタビュー。そして、帯広への延々3時間の長旅。明日は、石川知裕元衆議院議員の裁判報告会。
posted at 21:24:13

 3時間かけてようやく到着した帯広は、札幌市内よりはやはり寒く感じましたが、風がなかったためか、または湿度の問題なのか、思ったよりも寒くありませんでした。荷物も重かったのでタクシーを拾おうかと思いましたが、タクシー運転手にホテル名を告げると、「そのホテルなら、この駅前通りを信号2つ分いったところにあるから、歩いて行ったほうがいい」と言われ、結局、歩いてみることにしました。

 帯広駅前にはホテルが立ち並んでいて、「天然温泉」と書かれた看板があちこちにありました。そういえば東京を出発する前に、IWJ事務スタッフの女性に「温泉楽しんできてくださいね」と声をかけられたな、と思いだしました。我々が泊まったホテルも、1室5畳ワンルーム程度の一般的なビジネスホテルでしたが、天然温泉つきでした。

 夜ご飯には、ホテルが食堂で無料サービスとして出している「夜鳴きそば」というラーメンをすすり、翌日に備え、簡単な打ち合わせをしました。その日は、岩上さんも原佑介も天然温泉に浸かり、少しばかり疲れを癒やしました。ラーメンにはチャーシューも入っていないし、温泉も決して広いわけではありませんでしたが、それでも我々にとっては十分なサービスでした。

男の約束「石川知裕・元議員裁判報告会」のコーディネート

 2月21日(土)。北海道ツアーは、すべてはこの日のイベントを軸にして組んだものでした。石川知裕・前衆議院議員の「裁判報告会」です。岩上さんはこのイベントのコーディネーターを石川さん本人から依頼され、引き受けたのです。

 一連の事件は、2004年(平成16年)10月、小沢一郎議員の資金管理団体の陸山会が、東京の世田谷に4億円で土地を購入したことに着目した検察が、贈収賄での立件を試みたことから始まりました。

 小沢議員の元秘書で、現職の国会議員だった石川さんを含む3名が2010年に逮捕され、政治資金規正法違反の容疑で全員が有罪となりました。しかし、石川氏の取り調べ段階での調書捏造が発覚するなど、特捜部の捜査方法にはさまざまな疑惑があり、小沢失脚を狙った国策捜査との指摘が相次いでいました。

 また、検察リーク情報を流し続け、「小沢=悪」のイメージを国民に刷り込むかのようなマスメディアの偏向報道が際立つ事件でもありました。

 小沢議員は、検察審査会が強制起訴をしたものの、2012年に無罪判決が確定しています。しかし、秘書3名については高裁で有罪判決がくだりました。石川さんだけは最後まで無罪を訴え、最高裁まで争おうと上告していましたが、最高裁には2014年9月30日付で上告を棄却され、有罪が確定してしまいました。

 報告会では、石川さんの主任弁護人を務めた安田好弘弁護士が改めて石川さんの冤罪を主張し、次のように語りました。

 「結果的に、陸山会事件で小沢氏は民主党の代表辞任、幹事長辞任、民主党離党。その後、自民党が政権に復帰し、憲法改正や新自由主義の跋扈へとつながっていく」と語り、「弱者を切り捨て、強い者が勝つことで日本が強くなると思っているのが今の政治。皆さん、それを見極めてほしい」

 さらに安田弁護士は、石川さんが無罪であることを強調。「検察に疑われているというのに、石川さんは底抜けの楽天家で、危機感ゼロでした。これは冤罪の特徴なんです。でも、弁護士はむしろ困ってしまう。本人はやっていないので、過去のことを思い出す努力もしないからです」。会場からは笑いが起こりました。安田弁護士は続けます。

 「でも、石川さんの場合、客観的な(無罪の)証拠もあったのです。控訴審で、検察庁が開示した1万点もの証拠の中に、あるノートを見つけました。水谷建設の川村社長が石川さんに5000万円を渡したとされる当日、鹿島建設仙台支店長のノートに、川村社長と一緒にいたと記されていたんです。川村社長に問うと、『石川さんに金を渡していない』と言ったのです」

 岩上さんは、「福島県知事だった佐藤栄佐久氏の贈収賄事件も、水谷建設の証言で有罪になりました。これも、国策捜査ではなかったか。もし、佐藤知事が辞職に追い込まれなければ、福島第一原発のプルサーマルは止まっていたかもしれません。国策に邪魔な佐藤知事を排除したのではないでしょうか。こういう事件について、われわれは、ちゃんと目を見開いていなくてはいけない。私たちがどう政治に関わるか、日々の生活をどう過ごすのか、直結している課題だと思います」と語りました。

 石川さんは、「昨日、検察から36箱分の書類が戻ってきた。それを見て、国会議員としてやりかけていた仕事を思い出した。私は、再び国会で仕事をするために、がんばりたい」と強い口調で決意を語り、報告会は幕を閉じました。

 そういえば、と考えてみます。陸山会事件が紙面を賑わせていた2009年、2010年、この事件を自分はどういう視点で見ていただろう、と。漠然と小沢一郎とその秘書3人の「政治とカネ」問題を、大手メディアが報道している通りに鵜呑みにしていたのではなかっただろうか。

 今回、岩上さんがコーディネーターとして指名されたのは、岩上さんが、検察、メディア側の小沢一郎氏に対する攻撃の「異常」を当初から指摘し続けてきたジャーナリストだったからだと思われます。

 自分が岩上さんに弟子入りする前の話ですが、2010年1月23日、小沢一郎銀はホテルニューオータニで記者会見を開き、「陸山会」の土地購入と資金の流れについて説明しました。会場には500人もの記者が詰めかけたそうですが、その中で唯一、小沢議員を犯罪者と決めつけたメディアスクラムの「異常性」について問いただしたのが、岩上さんだったそうです。

 「おかしいものは、おかしい」と、言い切る姿勢を、岩上さんは貫いてきました。小沢氏や石川氏と、それまで特別なお付き合いがあったわけではない。それでも、この強制捜査もメディアスクラムも異常だ、異常なものは異常だと、たった1人であっても指摘しなければいけない。そうした思いで、貫いてきた果てが、この帯広行きでした。

 石川さんのために、というよりも、日本が正気を取り戻すために、どうしても発言し続けなければならないし、そのためにも帯広へ行かなければならない、と、思ったそうです。

 裁判報告会の模様は、詳しくは記事ページからアーカイブをご覧ください。

ユーロマイダンでの騒乱から1年

 石川さんの報告会を終えた岩上さんは、懇親会へと向かいました。懇親会に出る必要性のないスタッフの原佑介は機材の撤収後、ホテルで別の仕事に取り掛かるために岩上さんと分かれ、会場を後にしました。

 ちなみにこの日は、ウクライナのユーロマイダンで騒乱が起こり、多数の死傷者を出した日からちょうど1年。ポロシェンコ大統領は演説に臨み、政変はウクライナ側の「勝利」であったと述べました。

 他方ロシアでは、ウクライナで起きた政変は「不法なクーデター」であったとして、モスクワをはじめとする各地で「アンチマイダン(反独立広場)」を訴えるデモが開催されました。

 「右派セクター」を背後で操るジョン・マケイン上院議員の暗躍や、モンサントやカーギルといった米国発のグローバル企業による「ランド・グラビング(土地収奪)」の実態を見ると、この1年間のウクライナ危機の背景に、米国のネオコンが存在することは間違いありません。

 ウクライナで危機を煽り、ロシアのプーチン大統領を「悪魔化」することで、新たな冷戦構造を演出しようとする、米国のネオコン。集団的自衛権行使容認や、特定秘密保護法の施行により「軍事国家」に向けて一直線の日本は、こうした米国のネオコンにとって、ただ都合のいいだけの存在になってしまいます。

 今となると、米国のネオコンの理不尽な戦略や、そこに「集団的自衛権」という看板をぶら下げて、米国の尻にくっついて行こうとする日本政府のアメポチぶりの構図も、自分のような者でもわかります。

 ですが、ユーロマイダン騒動が起こっている当初は、何が起きているのか、この騒動が何を意味するのか、皆目、わかりませんでした。2013年の初冬、だんだんきな臭くなってくるキエフからの映像や情報をみながら、岩上さんが、しきりに「これはおかしい」と言っていたのを思い出します。あれから、日本の大手メディアは、米国政府の言い分を鵜呑みにして、ロシア叩き、プーチン叩き一色に染まりましたが、これにも「おかしい」と岩上さんは言い張り続けました。

 陸山会事件でも、ウクライナ危機でも、おかしい、と言い続けた岩上さんは、TPPについても、最初からおかしい、と批判を加え、12年もコメンテーターを続けてきた番組を降板させられました。

 おかしいものをおかしい、と言い続けて孤立を恐れず貫くのは大変です。そもそも、世間どころか、身近な身内がまず、理解していない。自分を含めて、最初に岩上さんが何か言い出しても、ほとんどのスタッフは、理解できず、キョトンとしています。

 ああ、そういえば、あの時、全然、わかってなかったなぁと、こうして振り返って、いろいろなことがわかります。もっと前から、ちゃんと耳を傾けていればよかったなぁと、やはり思います。

 今国会では、戦争参加へ向けた法整備が主眼になりそうです。IWJも、今まで以上に忙しくなります。

「胸が苦しい」ホテルで身体の異変を訴えた岩上安身

 ホテルに戻った後、スタッフの原佑介は裁判報告会のデータを東京に送ったり、翌日に控えた帯広畜産大学教授・杉田聡さんのインタビューにあたり、杉田さんの著書『天は人の下に人を造る―「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)の書評を書くため本を読んだりしていました。

 夜22時半頃、「そろそろ温泉でも浸かりにいくか」などと考えていたところに岩上さんから着信がありました。

 「すまないが、水を買ってきてくれないか…」

 この電話で初めて岩上さんがホテルに戻ったことを知りましたが、この時、すでに「なんか様子がおかしいな」と感じました。声の調子が、何か差し迫ったものを感じさせました。

 今でも少し不思議なのですが、滞在したホテルの自販機には、お茶や炭酸水はあったのですが、なぜか純粋なミネラルウォーターというものがありませんでした。どの階の自販機にも、です。軽く舌打ちをしながらパジャマ姿でホテルを出て、小走りで近くの自販機まで向かいました。小銭を入れ、ボタンを押し、ミネラルウォーターを手にしたところで、二度目の着信を受けました。

 「何やってるんだ、早くしてくれっ!」

 「ホテルにミネラルウォーターがなくて」と弁明したものの、明らかにおかしい。なぜ、こんなに急かすのか。声の調子も変だし、ものすごく焦っている。1本のミネラルウォーターを、たった5分ほども待てないのか。急いで部屋へいくと、ドアを開けて出迎えた岩上さんの顔が明らかに赤黒く、なぜか息切れしているようでした。

 岩上さんが深酒をしているところは見たことがありません。確かにアルコールを入れると顔がすぐ赤くなるタイプではありますが、あの顔色は酔いで赤くなった顔とは明らかに異なるものでした。しかも、出迎えておきながら、ミネラルウォーターも受け取らず、すぐにベッドに戻って横たわりました。

 「…苦しい……」

 鎖骨の下あたりを押さえ、息を切らしながら悶え、「苦しい、息ができない」と叫ぶ声も異常にか細く、ほとんど何を言っているかもわからない。せっかく買ってきた水に手をつけようともしない。まるで事態が把握できないが、素人目に見ても、この状態はまずい。

 「救急車を呼んでもらいます」と告げ、すぐにフロントに電話しました。岩上さんが何かこちらに伝えようとしていましたが、よく聞こえませんでした。

 それでも必死に耳を傾けると、懇親会の三次会でタバコの副流煙を吸い、具合が悪くなって途中退席したこと、つい今しがたホテルに戻ったこと、ホテルまでは三次会参加者の希望に応え、話しながら零下の帯広の街を、徒歩で帰ってきたことなどがわかりました。「とにかく水を飲んでください」とミネラルウォーターを手渡しましたが、水を一口飲んでもまるで苦しさは収まる様子がありませんでした。

 すぐにサイレンの音が近づいてきました。思ったよりも早い。上下とも肌着しかまとっていなかった岩上さんに、急いでズボンやパーカーなどを渡し、原佑介は救急車にすぐに乗れるよう、岩上さんの財布、iPhone、リュック、ブーツ、マウンテンジャケットなどをまとめました。

 救急隊が岩上さんをストレッチャーに乗せ、救急車に担ぎ込む。岩上さんが体調を崩すまでの経緯などを救急隊員に尋ねられ、わかる範囲で答えたりした気もするが、あまり記憶がない。ミネラルウォーターは持って行ったほうがいい気がして、バッグに忍ばせたのは覚えています。

 救急車の中では脈拍や血圧などが測られていたようでした。隊員からは、「アナフィラキシーショックの症状に似ていますが、何か普段食べないものでも食べましたか?」などと聞かれていましたが、変わったものなどは食べていなかったようです。
普段は高血圧の岩上さんの血圧が、このときは上が90、下が50ほどしかなかったことが印象的でした。高い時は上が170ー110もあるというのに――。

IWJの運営を背負うという自覚のなさに気付く時

 ここからは、これまでにも皆さんに報告したとおりです。

 岩上さんは帯広市内の緊急病院に搬送され、集中治療室に入り、心電図をとって心臓に異常があることが判明。「冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)」と診断されました。

 「カテーテル検査」で管を身体に通し、「造影剤」を注入し、冠動脈(心臓に酸素を豊富に含んだ血液を供給する血管)が痙攣していることがわかったのです。この狭心症でも、症状が比較的軽い場合は自然と発作が治まるようですが、今回、岩上さんを担当した医師の方は、「救急車を使って正解だった。薬を使わなければしょうがない症状だった」とおっしゃっていました。よほど重い発作だったということがわかります。

 医師が言うには、まず何よりの原因は「過労」、そして「ストレス」であるとのことです。強く、断言する口調でした。もちろん、これまでにも体調を崩すことはありましたが、心臓発作など初めてのことでした。自分だけでなく、当の本人の岩上さん自身が心臓病についてまったく知識がありませんでした。

 発作に至るまで、身体が多くのシグナルを出していたことは、この稿で整理した通りです。激しい腰痛に襲われ、休んでも疲れが取れず、微熱も続く。それでも無理を押して北海道取材を敢行。ハードスケジュールをこなしながら、石川知裕・元衆議院議員との約束を果たし、気が緩んだのか、ついに限界を超え、心臓が悲鳴を上げたものと思われます。

 この二週間、静養を続けてはきました。しかし、今も夜になると発熱したり、心拍数と血圧が突如として上がったり、不安定な状態が続いています。帰京後も、救急車こそ呼ばなかったものの、深夜の病院に車で緊急搬送したこともありました。このときはちょっとした打ち合わせをしただけでしたが、それが身体に応えたようです。

 原佑介は、ここに至るまでの岩上さんの一連の体調不良を目の当たりにしてきたことから、岩上さんの代役としてIWJ内部でのスタッフとの連絡役などを務めてきました。なりゆきです。身近に頼れるスタッフが他にいなかったからかもしれません。自分も、なんでもいいから力になってサポートしなくてはと、必死でした。務めてみると、岩上さんが抱えてきた仕事の大変さが身を持ってわかります。

 特に、岩上さんから急いでやってくれ、と言われたのは、人事面での調整です。3月いっぱいでIWJを退職するスタッフがいる、その穴埋めをするために、別の部署のスタッフに異動してもらう。異動したスタッフの穴を埋めるために別の部署から、またスタッフに異動してもらう。玉突きのようです。時間がないので、急がなくてはなりませんでした。

 みんなそれぞれ仕事を抱えていますが、しかし異動してもらわなければIWJが回らない。みんなから話を聞き、頭を下げ、お願いする。決して楽しい仕事ではありません。岩上さんから託された案件の中には新人教育のような若手への指導もありました。岩上さんの代わりに若いスタッフを叱咤しなくてはならないこともありました。現場にも出られず、世の中のニュースを追うことだけでも精一杯な状況に陥りました。この前まで情報を発信する側だったつもりが、急に取り残されたような気持ちにもなりました。

 はっきり言えば、自分が何をしているかもわからないので、今もこうしてうまく書けずにいます。業務として自分の週次報告を書いても、「◯◯さんとMTG(ミーティング)」「岩上さんからの指示を共有」ばかりで、自分が仕事していると言えるのかどうか、本当にはわかっていません。必要なことをしている、という自覚だけはあるのですが、自分のしていることが何か、名前がわからないのです。ミドルマネジメント?中間管理職の仕事?調整役?

 気になるのは、自分が岩上さんから託された仕事に取り組む間、テキスト班の仕事ができず、他のテキスト班のスタッフの佐々木さんや平山さんに迷惑をかけているのではないか、という気がして仕方がありません。気が引けて仕方ないのです。しかし、とにかく毎日バタバタと過ごしており、他のことに手が回る状態ではありません。

 そこでようやく気づきました。岩上さんは、毎日、こんな苦労をしているんだ。その間に、ジャーナリストとしての仕事をこなし、ツィッターで情報発信し、さらに経営者としての仕事や悩みなども抱えているのだと。何となく大変そうだな、と思ってはいましたが、実感としてその負担の重さが、その一部が、ようやくわかった気がします。

 自分が負担したのは、スタッフと仕事のマッチングの調整のような役目ですが、岩上さんだとここにお金の出し入れという、文字通りの経営の労苦が加わります。

 財政面の苦しさも、少しリアルにわかってきました。岩上さんは、自分がこれまで、働きづめに働いて蓄えてきた貯金をIWJに貸し出し、自身の貯金はもう空っぽだといいます。IWJが行き詰まれば、岩上さんは貸しつけたお金を回収できず、貸し倒れに終わって、財産もなくなってしまうわけです。IWJになぜそんなに貸す必要性があったかと言えば、毎月の人件費など、運転資金のやりくりのため、その時、その時で自腹を切ってきたのです。

 近々、前期の決算とともに、IWJの借金についても、きちんと正確な数字を発表する予定です。岩上さんは、経理や会計事務所と相談しながら、その発表の準備をしていたところで倒れてしまったのでした。

 もちろん、何千万円ものお金を注ぎ込んだりするような、そんな経営など、僕には真似できません。そもそも、そんなお金もありません。

 発作で倒れるにあたり、「岩上さんは、どれだけ多くのものを抱えていたんだ…」と、ことの深刻さと、背負っているものの大きさに気付かされました。これまでは岩上さんのジャーナリストとしての仕事ばかりが目に映っていて、少しでも記者としてその一端を担えればいい、くらいに考えていましたが、自分たちで裏方としてIWJを支えなければ、いざというとき簡単にIWJは沈んでしまう。そんな意識も持てていませんでした。

 これを1人でやっていたら、誰だって倒れるだろう、と素直に感じ、これまで好き勝手に現場取材ばかりをしていた自分の至らなさに気づきました。岩上さんがいなければIWJはどうなるのかということをいきなり突きつけられ、ふと自分たちの足元を見てみると、ほとんど何もできずにいることに気づきました。「Φ」でまるで人事のようにうつらうつらと話を聞いていた自分が情けない。どれだけ無責任だったのかと、痛いほど実感しました。

 人事的な仕事をしているうちに、気がつけば寝ても覚めても人事のことばかりを考えるようになっていました。あの人は協力してくれるかな、なんとか仕事してくれるといいな、もう少し気合を入れて働いてくれないものか、どうすればうまく回るのか――。

 2月28日(土)、1週間ばかり岩上さんの代役の一部を務めた頃には、すでに岩上さんの苦労がわずかながらわかった気がしました。岩上さんはiPhoneやPCの使用もドクターから禁じられていますが、思わず、メッセージを送ってしまいました。これまでの不義理を謝罪し、今後はもう少し自分が組織運営の負担を負う、と申し出ました。そのメッセを最後に公開します。

2月28日(土) iPhoneで送ったメッセ

原佑介:ほんの数日ですが、人事含めたスタッフの調整に関する岩上さんの苦労とかが、ほんの少しだけですがわかった気がします。
もっと今後は積極的に調整役などを務めますので、ストレスにならないためにも使える時に使って下さい。なんとか頑張りたいと思います。

 iPhoneの画面を見ないようにしていても、僕からの送信が目に入ったのでしょう。岩上さんから、「頼む」という返信がありました。さらに、もう一通、メッセージを送りました。

原佑介:これまで、本当に自覚が足りなかったと思います。なかなか見えにくいのところだったので。。。でも、これを岩上さん一人で続けてたら、死にます。誰でも死ぬと思います。負担を引き受けられるよう、なんとかします。

 ワガママなコドモのような振る舞いをする者は、自分だけではない、他にもいます。みんな、少しずつワガママで、甘えていて、自分の少々の勝手ぐらい許されるだろうと思っている。それが積もり積もると、一人マネージャーである岩上さんにかかる負担はものすごいものになるわけです。

 岩上さんは、冗談めかして磯野家に例えます。一家の大黒柱の波平が倒れた。でも、世間は、フネさんもいる、サザエさんもいる、マスオさんもいる、頼りになるオトナたちがいて、支えている、と思う。でも、ウチには、波平の下にはいきなりカツオしかいない。。。カツオがたくさん、ワカメもたくさん、でも頼りになるオトナがいない、と。

 笑い事ではありません。この例えは、ものすごくカッコ悪くて、こっ恥ずかしくて、勘弁してもらいたいのですが、でも、家のことはほっぽからしで、外に遊びに行ってしまうカツオの一人として、思い当たる節があります。

 岩上さんは近く復帰するつもりでいますが、これまでのような超人的な動きは二度とできません。無理してやろうとすれば、心臓の動脈がまた、痙攣を起こします。次こそ、助からないかもしれません。は微力で、未だに自立できていないカツオとワカメばかりですが、今、スタッフは皆、変わらなければなりません。でなければ、未来がない。ひとりひとりに覚悟が問われていると思います。

 岩上さんが倒れて以降、自分自身もあまり休めていません。365日休まず働いていた岩上さんの代理を引き受けているのだから当然です。岩上さんが倒れてこの間、長い2週間でしたが、振り返ればあっという間でした。岩上さんが近くカムバックした際には、1日休みをいただき、一度、とにかく眠りこけたいと思います。覚悟を確かなものにするためにも、頭の中を整理しなければならないと思っています。

 至らぬところばかりではありますが、IWJ一同、これまで以上に精一杯、成長を続けていきますので、今後とも、何卒ご支援のほど、よろしくお願いします。

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  1. okasimon より:

    岩上さんの苦しさを想像し、涙が出そうになりました。
    またスタッフの皆様の不安や心配もとても大きなものだと思います。
    なんとか岩上さんの負担を軽くし、分担してもらえれば・・・と思います。
    皆様、お仕事の量が膨大で大変忙しいと思いますが、ご自身の健康を守るために、まず体調に気を配ってあげて下さいね。

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