広島市北部の安佐南区で、8月20日未明、前日からの豪雨の影響により、大規模な土砂災害が発生した。
23日の時点で、死者は49人、行方不明者は41人にものぼる。警官、消防隊員、自衛隊員が懸命の捜索活動にあたっているが、現在も断続的に降り続く雨のため、救助活動は難航している。
(取材・文:平山茂樹、文責:岩上安身)
広島市北部の安佐南区で、8月20日未明、前日からの豪雨の影響により、大規模な土砂災害が発生した。
23日の時点で、死者は49人、行方不明者は41人にものぼる。警官、消防隊員、自衛隊員が懸命の捜索活動にあたっているが、現在も断続的に降り続く雨のため、救助活動は難航している。
最も被害が大きかった安佐南区八木に隣接する、安佐北区に住むAさん(35)は、IWJの取材に対し、「今回のような被害の拡大は、事前に防げたのではないか」と語る。
広島では土砂崩れが発生する一週間ほど前から連日雨が続いていた。前日の19日夕方過ぎに猛烈な雨に襲われ、19日夜には広島駅周辺で冠水する事態となった。電車が止まり、タクシーやバスも走行不能に陥るなど、一時、広島市内は公共交通機関がマヒする状態となった。Aさんは、「かなりインパクトのある豪雨でした。とても外を出歩ける状態ではありませんでした」と振り返る。
この19日夜の豪雨は一時勢いを弱めるが、日をまたいで20日未明再び勢いを増し、土砂崩れが発生することになる。この豪雨がすぐに報道され、行政が避難勧告などの対応に迅速に動いていれば、これほどまでに被害が拡大することはなかったかもしれない。しかし、広島市が避難勧告を発令したのは、最初の土砂崩れ発生の通報から1時間後の20日午前4時半頃だった。
広島市の松井一実市長は、22日の記者会見で、避難勧告に関する対応の遅れについて、「判断が慎重になった。今後は直ちに出すように変えていく」と認め、今後、手順を見直す考えを明らかにした。
多くの既存メディアは、今回の広島市での豪雨について、「3時間で観測史上最大となる200ミリを超える記録的な雨」という点を強調して報じている。まるで、避難勧告の発令が後手に回った行政の不手際を、擁護するかのような報じ方である。しかしAさんは、こうしたメディアの報じ方に疑問を呈する。
「19日夜の広島駅周辺の冠水なんかも、Twitterなどネット上では、その際の模様が拡散されていましたね。しかし、このことはテレビでは全然、ニュースにならなかったのです。
なぜかというと、地方では、ローカルニュースがテレビで流れる時間帯は、夕方の17時と18時のニュース枠の中です。今回の豪雨は、19時以降に激しさを増したので、ニュースのタイミングに合わなかったのです」
即時に情報が流れ、行政と住民の双方が事態の深刻さに気づけば、「初動」のタイミングはもっと速まっていたかもしれない。地方局のテレビ・ニュースのサイクルに情報の感度をあわせていると、命取りになる可能性がある。このことは指摘しておかなくてはならない。
首都圏で発生した事件や事故であれば、NHKの「ニュースウォッチ9」やテレビ朝日の「報道ステーション」など、21時以降のニュース番組で取り上げられることもある。しかし、地方のニュースは、夕方の17時から18時というタイミングを逸すると、テレビのニュース番組で取り上げられにくくなるという。
都会と違い、地方になればなるほど、SNSをはじめとするネットメディアよりも、テレビに対する依存度が高まることは否めない。高齢者が多い地域であればなおさらである。今回の土砂災害における被害の拡大は、ローカルニュースを扱う地方テレビ局の、構造的な問題——というよりもメディアとしての限界——として考える必要があるのではないだろうか。
もう一つ、被害拡大の要因として考えられるのが、自衛隊の到着までにかなりの時間を要したことだ。
広島県から陸上自衛隊に対して災害派遣要請が出されたのが、20日の午前6時30分。陸上自衛隊第46普通科連隊(人員約30名、車両約10名)が海田市駐屯地を出発したのが午前7時40分だった。
海田市駐屯地から、土砂災害が発生した現場である安佐南区八木までは、直線距離で15キロしか離れていない。しかし、自衛隊の第1陣が到着したのが10時半過ぎ。3時間近くもかかっている。渋滞に巻き込まれていたのが原因だという。( 産経新聞 8月21日「土砂崩れ 20日未明に広島県が災害対策本部」)
自衛隊が渋滞に巻き込まれて到着が遅れた事実を、たとえば産経新聞は上記のように伝えている。しかし、なぜ渋滞に巻き込まれたのか、その原因については言及していない。
現地の地理に詳しい地元のAさんによれば、このような渋滞は「十分に予想できたこと」だという。
「自衛隊が移動していた8時~10時というのは通勤ラッシュの時間帯です。土砂崩れの影響で、安佐南区の主要道路は各所で通行止め、JRも運転見合わせ。通勤ラッシュに加え主要道路が通行止めになっているわけですので、周辺道路が広い範囲で渋滞を引き起こすのは普通に考えれば予測できた事だと思います。
自衛隊をパトカーで先導するとか、渋滞を回避する方法はいくらでもあったはずです。もう1時間早く自衛隊に要請が出ていたら、現場に到着した時間は全く違ってきたのではないでしょうか。今回の件を、ぜひ、教訓として残してほしいと思います」
災害救助といえば、今では誰もが自衛隊を頼みに思う。
しかし、自衛隊も万能ではない。渋滞にあって現場到着が遅れれば、そのもてる力を発揮することもできない。
現場の部隊の動きを責めているのではない。Aさんの指摘の通り、警察との連携など、今後の課題は数えあげることができるだろう。
しかし、自衛隊を動かすに際して、最も検証しなければならないのは、トップの最高指揮官の動きである。安倍総理の「動き出し」はどうだったのか。
今回、広島県に災害対策本部が設置されたのが、20日の午前1時15分。首相官邸の危機管理センターに「情報連絡室」が設置されたのが午前4時20分だった。官邸の主、最高指揮官は、言うまでもなく安倍総理である。
前回のブログでもお伝えしたように、安倍総理が夏休みを過ごしていた山梨県鳴沢村の別荘を出発し、ゴルフ場「富士桜カントリー倶楽部」に向かったのが午前7時26分。官邸の「情報連絡室」の設置から3時間も経った時点で、なおも「官邸の主」はゴルフ遊びに出かけようとしていたのだ。
これは、自衛隊が出発する直前の時刻である。なぜ、自衛隊の出動を、Aさんの言う通り、1時間でも2時間でも早められなかったのか。そうすれば渋滞にも巻き込まれなかったはずだ。その間に、土砂崩れ被害で助かったかもしれない命がどれだけ失われたことか。
安倍総理がゴルフを切り上げるのは、1時間後の9時22分になってのこと。10時59分、ようやく官邸に到着した。この間、海田市駐屯地を出発した自衛隊は、渋滞に巻き込まれていたことになる。
広島県に災害対策本部が設置されてから、安倍総理がゴルフに出かけ、自衛隊が出動するまでの約6時間、どのように情報が伝わり、どのような指示が下されたのか、検証する必要があるだろう。
集団的自衛権行使容認の閣議決定を強行し、「積極的平和主義」の名のもと、自衛隊を「海外で戦争ができる軍隊」にしようと躍起になっている安倍総理。しかし、被災地で国民の救助にあたるという、自衛隊において何よりも重要な任務に対しては、無関心のようである。