ノーベル賞も日本人が取らないと無関心?「科学をおもしろく伝えたい」 〜サイエンスカフェにいがた 2014.4.19

記事公開日:2014.5.3取材地: テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJテキストスタッフ・花山/奥松)

 「科学は、なぜ伝わらないのか。科学者が、科学者同士のコミュニケーションに慣れきっているからだ。ブログやツイッターなどの手段で、一般の人たちに向けて発信することが重要」──。

 2014年4月19日、新潟市中央区の中央図書館ほんぽーとで、サイエンスカフェにいがたによる「累計100回記念『つながろう、新潟のカガク!』」が開かれ、2011年の第1回化学コミュニケーション賞受賞者の佐藤健太郎氏(有機化学美術館館長)らが講演を行った。

 自然科学がめざましい発展を遂げている現代社会では、一方で、市民と科学との距離が離れていく問題も指摘されている。科学をより良い方向で使うためにも、市民一人ひとりが科学への関心を高めることが必要だとして、「サイエンスカフェ」は企画された。学問の敷居を下げ、専門家や研究者が市民と一緒に語り合い、科学を身近に感じてもらう試みで、喫茶店や書店など、気軽に参加できる場所を使って各地で開催されている。また、同じような企画に、哲学カフェやバイオカフェなどがある。

■全編動画
・1/2(20:59~ 44分間)※後半に画像が乱れます。何卒ご了承ください。

0分~ 林氏講演/14分~ 本間氏講演/29分~ 佐藤氏講演

・2/2(21:45~ 51分間)

0分~ 佐藤氏講演〔続き〕
  • 林豊彦氏(新潟大学、サイエンスカフェにいがた顧問)「サイエンスカフェは現代社会にどうして必要なのか?」
  • 本間善夫氏(サイエンスカフェにいがた事務局幹事)「極小物質の秘密をツタエル」
  • 佐藤健太郎氏(有機化学美術館館長)「化学をツタエル技術」
  • この後に行われた「新潟の科学コミュニケーション活動紹介」は録画に含まれません

「サイエンスカフェ」で科学を国民にわかりやすく

 林豊彦氏(新潟大学、サイエンスカフェにいがた顧問)は、サイエンスカフェが現代社会に必要なのは、学問が役に立たないからではないかとして、「まず、『役に立つ』とは何かを考える。役に立つとは、お金が儲かる、幸せになれる、利便性が上がるということである。しかし、私が知っている学問のほとんどは、これらに関係ない。ということは、それを職業にするにはパトロンが必要となる。そういう学問が必要だと思って、支えてくれる人がいれば良いわけである」との仮説を展開した。

 続けて、「私たちは、今の民主主義社会におけるパトロンである、主権者である国民に、科学をわかりやすく説明する責任がある。サイエンスカフェは、そういう場ではないか。そして、科学はおもしろいと思ってもらうことが大切である。しかし、嘘をつくことなく、おもしろいと思ってもらうことは難しい。試行錯誤を続ける以外にはない」と話した。

 本間善夫氏(サイエンスカフェにいがた事務局幹事)は、科学への関心について、「タンパク質に関してGPCRというものがある。この研究は、2012年にノーベル化学賞を受けている。しかし、日本人が受賞していないので、全然知られていない。また、2013年に同賞を受けた、計算化学も話題にならない」と現状を憂慮した。

 さらに、科学をもっと知ってもらうために、「はこだて国際科学祭というものを、2009年から夏に9日間ぐらいやっている。こうした企画をサイエンスカフェ以外にも考えていく必要がある。そして、具体的に科学を勉強してもらうためには、『科学の情報を早く出す』『科学の話題の連携性を高める』『講演後、おもしろかったで終わらず、家に帰って調べさせる』というような取り組みが必要」との認識を示した。

科学が伝わらないのは難しいから。それで終わらせてはいけない

 佐藤健太郎氏は、「科学は、なぜ伝わらないのか」を考察してみせた。「科学者同士では、みんな同じ程度の知識を持ち、論文や学会発表など、定式化されたコミュニケーションがあり、こうしたやりとりに慣れきっている。これらの知識を持っていない人と話をする機会はほとんどない」。

 このように話す佐藤氏は、「しかし、一般市民とやり取りをする場合には、立場、意識、年齢はさまざまであり、論文などのコミニケーション手法も確立されていない。つまり、科学者にとって『どのように話していいか、わからない』ということがある」と指摘した。

 それでも伝えるにはどうしたらいいのか。佐藤氏は「何をやれば伝わるのか、伝えたいことは何か。これをシンプルに決める。そして、誰に伝えるのかを明確にする。伝えたい相手の情報を踏まえて語る。そうすれば、伝わる確率が高くなる。相手は何を知っていて、何を知りたがっているのか把握することが重要である」と述べた。

 さらに、研究者以外との話が必要だとして、「自分で発信することが練習になる。最近は、ブログやツイッターなど、いろんな手段がある。研究者もそういうことをやって、個人で発信することが必要。そして、反響を確認して、フィードバックしていくことが一番である」とし、おもしろく発信したり、商売として成り立つような本を書くなど、さまざまなアプローチをしていかないと、科学を伝えること自体が続かなくなる、と危機感を表した。

数字やビジュアルを駆使し、具体例を示せ!

 佐藤氏は、科学をおもしろく、印象深く伝えるために、まずは『理解する』とは何かを知ることが必要、と力を込める。「ただ、知識を頭の中に詰め込むだけでは、いずれ抜けていくので、それは理解とは言わない。すでに頭の中に持っている自分の知識に、新しい知識が結びついて、はじめて『理解する』ことになる。ということは、理解させるには、相手が何を知ってるかをできる限り見通して、相手が持っている知識を想定して結び付ける『アンカー』を用意していなければならない。うまく理解させることができれば、読者をどんどん引き込んで、付いて来させることが可能になる」。

 伝えるための技術的なポイントとしては、「抽象例を挙げてから、具体例を挙げること。学者の文章は、抽象例だけでどんどん先に行ってしまうので、自分の理解が本当に合ってるのか、不安になりながら先を読まなければならない。そうではなく、具体的にどういうことなのかを、きちんと説明することが必要である」と述べた。

 さらに、「科学を伝えるにあたって、『何とかのようなものですよ』と言うのは、不正確となってしまうので、比喩を活用すること。相手の持っている知識に結びつけるために、これほど有効な手段はないので、私は使っている。ただ、的を外さないことが求められるので、しっかりと考えに考え抜いて使うようにしている」と自身の手法を紹介した。

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です