【IWJブログ・特別寄稿】候補統一を呼びかける知識人たちに感じた違和感~福島からの避難当事者からの声(宍戸俊則) 2014.2.7

記事公開日:2014.2.7 テキスト
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 以前、私が取材でお話をうかがった、福島からの避難当事者である宍戸俊則さんが、今回の東京都知事選で候補者の一本化を求める動きがあることについて、ご自身の思いをTwitterに投稿されている。そこで、宍戸さんから、改めて原稿をお寄せいただいた。以下、掲載する。(岩上安身)


細川当選で自民党の暴走を止められる保証はない

 私は、原発事故発生時には福島市内で県立高校の教員をしていた。その後避難指示以外の区域から、一家で北海道に区域外避難生活を続けている人間だ。

 最初にお断りしておくが、鎌田慧氏のこれまでの業績や、反原発に関する鎌田氏の真摯な態度には、私は常々敬意をはらっている。鎌田氏が札幌にやってきて脱原発のデモに参加してくださったときには、鎌田氏の横で横断幕を持って歩いたこともある。

 しかし、今回の東京都知事選に関する鎌田氏ら、「脱原発都知事選候補に統一を呼びかける会」の動きには、賛同できないのだ。

 言うまでもなく今回の東京都知事選挙は、安倍首相の政策への評価を正面に問うものではない。ましてや、細川候補は「反安倍政権」とか「戦争反対」を公約に掲げているのでもない。細川氏の政策の第一は「脱原発」で、その具体的な内容とは、東京電力に原発再稼動をさせないこと、なのだ。

 瀬戸内寂聴さんの話題に続く鎌田氏の文章は、いつもの鎌田氏の主張を繰り返しているだけで、今回自民党系も一部合流している保守系候補を支持する理由としては説明不足だ。「今回の選挙こそが日本の運命を変え、右傾化を止める最後の機会だ」という話は鎌田氏が選挙の度に繰り返し、革新系の候補者を応援する時の定型文のようなもので、なぜそれが今回は保守系候補を支持する理由になるか、私にはわからない。

 論理の詳細は不明だが、今回はいよいよ「保守系の勝てる候補」を支持して勝たせない限り、安倍政権の暴走を止めることができない、という判断らしいことは読み取れるが、「細川候補が当選すれば、自民党の暴走を止められる」という確約がどこにあるのか、皆目見当がつかない。

 再度確認するが、細川候補は「安倍政権の軍事的傾斜にストップを掛ける」などとは言っていないし、応援の小泉氏にしても、そんな話はしていない。そこで提出されている、安倍政権の方針への反対点は、「原発を再稼動させない」だけだ。せいぜい選挙戦後半になって「善隣友好」を口にする程度だ。

 細川候補の政策と、鎌田氏の主張には一致点が少なすぎる。

「既に被害を受けている人を助ける政治」を期待する

 鎌田氏は、今回の文章の続きで、宇都宮候補を応援する人たちを勝手に一定の枠の中に押し込めて見せているが、この論法には全く賛成できない。鎌田氏への批判は「感情論」で、宇都宮候補の支持者は宇都宮氏の人柄を評価して支持している人ばかりだ、と決め付けている。

 前回の都知事選では宇都宮候補の選挙カーに乗って惨敗する側に立った鎌田氏は、「人柄ではなく勝てる候補を」という所まで追い詰められたので、今回は細川候補支持に回ったと明記している。なんの事はない、人柄で候補を選んできたのは、前回までの鎌田慧氏自身の話なのだ。

 他の人はともかく、今、私自身が宇都宮氏を支持する理由は、一言で言えば、既に被曝して、現在も被曝しつつある状況を問題として指摘しているからだ。

 区域外避難者である私達を含めて、避難した人も現地で頑張っている人も、首都圏で被曝を心配している人も、宇都宮候補は等しく支援する姿勢を明確にしている。これから起きる原発事故のことだけではなく、既に発生した事故で現に被害を受けている人を支援する方針を出しているからだ。

 宇都宮候補はこれまで、サラ金による被害を受けた人達を助けてきた。生活弱者を助けてきた。原発事故からの避難者を助けてきた。今後発生するかもしれない被害を予防するだけでなく、今、現に被害を受けている人を助けている。私が期待する政治とは、既に被害を受けている人を助ける政治なのだ。

 鎌田氏は、元首相が4人(※編集部注:細川護熙氏、小泉純一郎氏、菅直人氏、鳩山由紀夫氏の4人。しかし鳩山氏は、現在の所、細川氏への支持を正式に表明してはいない)も脱原発を言っているのだから、信じようと呼びかける。しかし、元首相が何人言おうが、批判を拒否する安倍政権には有効な打撃とはならないだろう。

鎌田慧氏の「矛盾」

 特に、原発事故からの区域外避難者、つまり被害当事者である私の立場で書くならば、今回細川氏とそれを支持する元首相は、原発事故被災者を支援救済するための具体的な活動を個人的に行った、という話を聞いたことがない。つまり、被害者に直接謝罪をしていない元首相たちなのだ。

 加害者であるのに「被害者に謝罪はできませんが、これから新しい被害者を出さないようにしますから支持して下さい」というのは、被害が継続中である時点で加害者が採るべき態度だとは、私には思えない。「原発推進は間違いだった」というなら、原発事故で直接の被害を被った、私達のような福島からの避難者の目の前で言って見せてほしい。

 そういう意味では、残念ながら鎌田氏自身も同じだ。彼には「フクシマの人たち」の声が聞こえているつもりかもしれないけれど、今まさに被害を受け続けている現実の被害者の声が、耳に届いているとは思えない。ただ、東京電力原発事故を、脱原発のダシに使おうとしているように思える。

 ひとしきり「安倍政権打倒の必要性と緊迫性」を書いた後、鎌田氏は「勝てる候補への一本化」を要求する。残念ながら、鎌田氏が「勝てる」と考えている都知事候補と候補を支持する元総理は、そろいも揃って国家の秘密を保護する法律の推進者だ。そういう候補で良いのだろうか?

 結局、文章の最後で鎌田氏が候補者を選ぶ視点は、人間性の問題に戻っている。「人柄で支持する候補者を決めては、選挙に勝てない」と前半で書いておきながら、最後には「人間性」に戻っていく。

 個人的には、そういう人間くさい鎌田慧氏を嫌いではない。しかし、鎌田氏の文章が矛盾しているのは確かだ。

 今、格差に苦しんでいる人がいる。原発事故により避難している人がいる。原発事故で環境や飲食物が汚染されて困っている人がいる。今、泣いている人がいるのだ。「これから泣く人を増やさない」のは当たり前だと私は考える。

 その上で、今泣いている人を助けるのは、どの候補だろうか?

なぜ細川陣営を疑わないのか?

 続いて、脱原発都知事選候補に統一を呼びかける会 記者会見を録画で見た感想をまとめる。

 今回の東京都知事選挙に小泉元首相の支援を受けて細川元首相が「脱原発」を掲げて立候補したことについて、鎌田慧氏が「歴史的転換点になりうるチャンス」「これを逃したら、未来の子ども達に謝罪しきれないほどのチャンス」と考えたのだという事は、よく理解できた。

 その為には「脱原発」以外について鎌田氏に考えが近い宇都宮氏に降りてもらってでも「脱原発」候補の勝利を願っているのだということもわかった。そして、同じ会見に臨んだ他の「文化人」のそれぞれが、「脱原発」実現以外については、それぞれ微妙に異なる感覚であることもわかった。

 会見が開かれたのは、2014年2月3日。細川候補と宇都宮候補に要求した回答期限は3日後の6日。その6日に再び、「統一を呼びかける会」は記者会見を開き、両陣営からの回答を公開するとの事だ。実質的に、中2日しかない。率直に言って、統一は時間的に無理だと思う。

 今日の会見で「統一を呼びかける会」の賛同者の多くが認めたように、宇都宮氏陣営は、原発以外のことについても細かい政策を提示している。他方、細川氏の陣営は、選挙戦が始まってから色々と付け加えてはいるが、正直「現状維持」に近いものに精神論を加えただけの代物だ。

 細川氏の陣営に自民党の関係者が多数いるのに、なぜ「脱原発」以外の政策が大雑把なのか、考えたことはないだろうか?細川候補は、選挙開始時から、都庁幹部職員へのリスペクトを何度も表明していることを、「統一を呼びかける会」の人々は知らないのだろうか?

 細川陣営では、様々な点で現在の都政をそのまま継承する、というのが政策なのだろう。民主党の多数と自民党の一部が関与している細川陣営で、実は何も細かい政策を考えていない、などという事はありえない。猪瀬都政を継承する意図はあるが、言わないだけではないか。

 さて、私個人の立場にかかわって記者会見を論評させてもらう。

 彼らの視界に、私達原発自主避難者の存在が入っていたとは、全く思えない。私は北海道を選んだが、実は福島県からの自主避難者の最も多い避難先は、東京都であり、多くの人は住民票も移動し、都知事の選挙権もある。そういう避難者の存在は、全く念頭にないかのような会見だった。確かに、膨大な東京都の人口の中では、避難者の人数などたかが知れているのかもしれない。しかし、そういう少数者、弱者の存在を無視して実現する「脱原発」が、果たして歴史的にどんな意味を持つか、考えてほしい。

 鎌田氏を始め、今日の会見に臨んだ人々は、いざ候補の統一ができれば、その後は宇都宮氏の識見や手腕に期待して、弱者を切り捨てない都政が可能になることを期待しているのかも知れない。しかし、それは甘すぎだろう。細川候補の実働部隊が政治実務の経験豊富な人が多い事を考えれば、妥協を引き出すのは非常に困難だろう。

 それ以前に、私は、細川陣営が今回の「統一を呼びかける会」の呼びかけを黙殺するだろうと考えている。こんな呼びかけに返答するだけの良識があれば、告示前日に出馬会見をするような戦術を展開できるはずもないだろう。公開討論を拒絶することもないだろう。

 不必要な深読みをする癖がある私としては、今回の「統一を呼びかける会」の動きには、もっと先を考えた意味があるのではないかと勘繰っているのだが。実際にどうなのかは、今後の展開を注目したい。どっちにしても、この選挙で原発政策の全てが決まることは、ありえないのだから。

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「【IWJブログ・特別寄稿】候補統一を呼びかける知識人たちに感じた違和感~福島からの避難当事者からの声(宍戸俊則)」への6件のフィードバック

  1. 伊崎 裕之 より:

    まったく同感です。

  2. 石川 克子 より:

    宇都宮さんは既に2年前の東京都知事選に出ていますから、細かい政策については検討済み、しかし細川
    さんは立候補を決意したのは数か月前。

    当然の事ながら細かい政策論議を闘わせれば宇都宮さんにとって有利なのは目に見えています。

    ただし今度の東京都知事選は「脱原発都知事選候補に統一を呼びかける会」が主張しているように一
    地方公共団体の選挙ではありますが、日本の巨大都市東京が国政に与える影響は大きいはずです。

    舛添氏を勝たせることが安倍首相の原発再稼働の実施、大きな地震がまたきて原発事故が起き
    日本国土が汚染されて住めないとなったら、もはや貧困、福祉や教育などという次元の話では
    なくなります。この事は鎌田さんたちもおっしゃっています。

    阿倍政権は秘密保護法の約1年以内の施行、憲法9条改正、集団自衛権と簡単に戦争が出来る国に
    しようとしている危険極まりない政権です。それに歯止めをかけるためにもなんとしてでも舛添氏
    に勝たなくてはなりません。

    統一は無理と分かっていても、最後まで望みを捨てず頑張った「〜統一を呼びかける会」の皆様に
    私は敬意を表したいと思います。

  3. IWJサポート会員KF より:

    > 残念ながら、鎌田氏が「勝てる」と考えている都知事候補と候補を支持する元総理は、そろいも揃って国家の秘密を保護する法律の推進者だ。そういう候補で良いのだろうか?

    細川候補は特定秘密保護法には反対を表明しています。
    http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/2014tochiji/list/CK2014020602000120.html

  4. 岩上休め より:

    宍戸氏に賛同する。

    小泉の真意は舛添の当選にあり、細川の当選ではない。細川は、左派の票を割るための傀儡候補である(小泉が自ら出ると当選してしまう)。小泉にとっては、脱原発よりも「戦争遂行」の方が優先順位が高い。

    結局は(既存メディアが報じない)単純小選挙区制の問題に行き着くので、都民は東京とイスタンブールの決選投票を思い出して欲しい。

  5. 橋本 聖 より:

     名古屋で原発即0を掲げて行動している一市民です。宍戸さんのご意見に全く同感です。胸のつかえが下りました。今回の「脱原発都知事選候補に統一を呼びかける会」の会見は本当に残念でした。情緒的で理性に欠けるという印象です。実はこの一連のごたごたが原発推進勢力にどれだけ利するのかが見抜けないのでしょうか。脱原発0の社会へと進めるのは都民であり主権者たる有権者です。マスコミに注目されろ人気の政治家個人ではないということです。一つの政策での一本化で選択肢を奪うのは民主主義に反します。なぜなら、原発問題は憲法、貧困と格差、景気。福祉など様々な課題と結びついており、人権問題でもあるからです。その基本政策を抜きにし、当選の可能性のある人気度と勝ち目だけを問題にすれば、都民の願いとの乖離を生み桝添都知事が誕生したとなれば大きな禍根を残すでしょう。本当に原発がない社会を目指すのなら、今からでも遅くないので「脱原発都知事選候補に統一を呼びかける会」からの勇気と見識ある知識人として、新たな「回答」を求めます。

  6. hanako より:

    IWJ 会員KF さま、

    細川さんは、「秘密保護法」に反対ですよ。

    きちんと情報を確認してから物申してください。

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