1月24日に召集された通常国会の施政方針演説で、安倍総理は解釈改憲による集団的自衛権の行使容認に対し、改めて強い意欲を示した。
「戦後六十八年間守り続けてきた我が国の平和国家としての歩みは、今後とも、変わることはありません。集団的自衛権や集団安全保障などについては、『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会』の報告を踏まえ、対応を検討してまいります」
※第百八十六回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説(首相官邸ホームページ【URL】http://bit.ly/1ivBTV4)
安倍総理の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(通称・安保法制懇)は、第2次安倍政権発足から約2ヶ月後の2013年2月8日に召集され、以後、5回にわたり会合を開催。座長代理の北岡伸一・国際大学学長を中心に、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認に向けて議論を進めてきた。
※政策会議:安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(首相官邸ホームページ【URL】http://bit.ly/1bs1Uwt)
菅義偉官房長官は1月7日、BSフジの番組内で、集団的自衛権の行使容認を提言する「安保法制懇」の報告書が、4月にも政府に提出される見込みであることを明らかにした。与党の公明党は行使容認に慎重な姿勢を崩していないが、安倍総理は外交・安全保障政策で考えの近いみんなの党や日本維新の会と政策協議を行い、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認を目指す構えだ。
※菅長官、安保法制懇報告書は4月提出の見通し(産経新聞、1月7日【URL】http://on-msn.com/1hDJJIw)
※首相、みんなと政策協議へ 集団的自衛権の解釈変更見据え(産経新聞、1月27日【URL】http://on-msn.com/1mNlV66)
いよいよ現実味を帯びてきた、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認。山口大学副学長で、日本の有事法制に詳しい纐纈(こうけつ)厚氏は、「集団的自衛権の行使容認により、自衛隊は米軍の”雇い兵”になる」と警鐘を鳴らす。特定秘密保護法の強行採決、日本版NSCの創設、防衛大綱の改正、そして集団的自衛権の行使容認により、日本の自衛隊は、日本国民のためではなく、ただ米軍のためだけに、戦争をすることができる部隊へと変貌するというのである。
米国のために、軍事属国化につき進む安倍政権。その起源は、戦前・戦中に制定された軍機保護法や国防保安法といった秘密保全法制、そして戦後の「安保再定義」の中で押し進められた有事法制の整備にあると、纐纈氏は指摘する。
外交・安全保障、そして軍事の問題について、歴史を紐解きつつ分かりやすく解説した、必読のインタビューである。
◆インタビューのポイント◆
1.「安保再定義」と有事法制
1950年の警察予備隊の設置、1952年の保安隊への改編、そして1954年の自衛隊への改編と、日本の軍事力は、ソ連と中国という共産主義国家の脅威に対する「反共の防波堤」として、米国の意向を反映するかたちで整備された。
しかし、ソ連の崩壊など東西冷戦構造の終焉に伴い、日米安全保障条約と自衛隊はその存在意義を問われることになった。「安保再定義」の必要に迫られた日米両政府は、1997年9月の日米ガイドライン(日米防衛協力)改訂、1999年5月の周辺事態法、そして2001年9月11日の同時多発テロ事件以降に制定された武力攻撃事態法などといった一連の有事法制を整備し、日米の軍事的一体化を押し進めた。
安倍政権による特定秘密保護法の制定、日本版NSC(国家安全保障会議)の設置、集団的自衛権の行使容認、敵基地先制攻撃論は、こうした「安保再定義」以降に行われた有事法制の延長として理解することができる。
2.米国の東アジア戦略の変化
2013年10月3日、米国のケリー国務長官とヘーゲル国防長官が来日して日米安全保障会議(2プラス2)が行われ、日米両政府は2014年末までの日米ガイドライン再改定で合意した。
既に発表された日米共同文書でもその一端をうかがうことができるが、現在、実務者レベルで協議が行われているガイドラインの再改定では、米国の「対中国海洋戦略」が明確に打ち出されるものと見られる。
この、米国による「対中国海洋戦略」において最前線に投入されることになるのは、米軍ではなく日本の自衛隊である。米国は、経済的に交流が進んでいる中国との関係を考慮し、いざとなれば戦争の責任を日本側に押しつけようとしているのである。
3.秘密保全法制と戦争
戦前の秘密保全法制は、いずれも戦争の直前に制定されている。軍事上の秘密を保持する目的で軍機保護法が制定されたのは、1904年に日露戦争が始まる直前の1899年。この軍機保護法は、満州事変が始まる直前の1931年に改正されている。さらに、政治上の機密事項の取り締まりを目的に、日米開戦の直前である1940年、国防保安法が制定されている。
このように、日本における秘密保全法制はいずれも、戦争が始まる直前に制定されていることが分かる。このことから、特定秘密保護法も、戦争に備えるための法律であると考えることができる。
4.中国には戦争をする意図も能力もない
現在の日中関係の「躓きの石」になっている尖閣諸島の領有権問題について、中国の人民や多くの知識人は、共同管理による非武装地帯化など、穏便な解決方法を望んでいる。また、現在の中国政府には、米国を敵にまわしてまで、尖閣問題をきっかけに日本と戦争をする意図も能力もない。
軍事力を増強しているのは、中国人民解放軍ではなく、実は日本の自衛隊のほうである。自衛隊は「ひゅうが」や「いせ」、そして「いずも」といったヘリ護衛艦を保有しているが、これらの実態は、いずれも戦闘機の離着陸が可能な空母である。日本の海上自衛隊は、既に専守防衛のための部隊ではなく、海外への進出が可能な「外征型」に変化している。
特定秘密保護法の可決が危惧される日に
▲纐纈厚氏
岩上安身「みなさんこんにちは。ジャーナリストの岩上安身です。本日は、山口大学副学長の纐纈厚(こうけつ あつし)先生にお話をうかがいます。纐纈先生、はじめまして。よろしくお願いいたします」
纐纈厚氏(以下、敬称略)「よろしくお願いします」
岩上「本日(2013年12月5日)、参議院の国家安全保障特別委員会で集中審議が行われていまして、16時頃に自民党が質問をすることになっています。その質問の直後に強行採決が行われ、特定秘密保護法が委員会で可決してしまうのではないか、と言われています。
そんな日に、有事法制、あるいは軍事史の専門家である纐纈先生にお話をうかがえるのというのは、本当に。これはいいタイミングと言って喜べることでもないんですけれども」
纐纈「ええ、喜ばしいことではありませんね」
岩上「でも、先生にお話をうかがえるのはたいへん貴重な機会と思っておりますので、よろしくお願いいたします」
纐纈「こちらこそ、よろしくお願いします」
岩上「まず、先生のご著書を紹介させてください。まず、『侵略戦争と総力戦』(※1)。こちらは社会評論社というところから出ているたいへん分厚い本です。
それから『侵略戦争』(※2)という、ちくま新書から出ているコンパクトな本があります。『有事法制とはなにか~その史的検証と現段階』(※3)という、インパクト出版会から出されているご著書もありますね。
このように、戦前戦中の大日本帝国時代の歴史を総括するお仕事、それから、つい最近の有事法制のあり方を研究されていらっしゃる訳ですね。
さらに、『監視社会の未来』(※4)というご著書もあります。ご専門にされている戦時体制と、国民を監視するような監視国家化というのは表裏一体な関係ということですね。それと、『防諜政策と民衆』(※5)というご著書。これは秘密保護法に非常に深く関わるお仕事ではないかなと思います。
それから、こちらが12月8日に発売される『日本降伏~迷走する戦争指導の果てに』(※6)。先生、たいへんな多作でいらっしゃいますね」
纐纈「にほん(日本)降伏です」
岩上「にっぽん(日本)ではない?」
纐纈「破裂音ではありません」
岩上「にほん(日本)降伏。それはなにかこだわりがあるんですか?」
纐纈「もちろんあります」
岩上「では、そのことも含めて後ほどうかがわせてください。さらに、『日本はなぜ戦争をやめられなかったのか』(※7)というご著書も同じ12月8日に出ます。こうしたご著書に沿ったお話もうかがおうと思います。
ですが、なんといっても今日は特定秘密保護法、それからこれに関連する日本版NSC設置法や集団的自衛権の行使容認など、現在の話を中心にお話をお聞きしたいと思います。これらは突然降ってわいたものではなく、十数年間にかけて用意されていった一連の法整備の果てにあるものなのではないでしょうか。さらには、これら現代の有事法制が、戦前戦中の法制度と比較して、何が重なりあい、何が違うのか。このあたりのお話をうかがっていきたいと思います。
まず、『にっぽん(日本)』ではなく『にほん(日本)』だと。これはなぜなんですか?」
(※1)纐纈厚『侵略戦争と日本』(社会評論社、2011.07) 出版社紹介文「われわれは、侵略戦争を強行してきた戦前社会と同質の社会を生きているのではないか。連続のキーワードとしての「総力戦体制」の形成と挫折、その現代的復活を通史として明らかにする」(【URL】http://amzn.to/1l6s9jn)
(※2)纐纈厚『侵略戦争~歴史事実と歴史認識』(ちくま新書、1999.07) 出版社紹介文「日清戦争から十五年戦争にいたるまで、日本を貫いてきた侵略思想とは何だったのか。明治期、西欧に対抗するべく強大国家=覇権国家を建設する過程で形成された帝国主義は、なぜ南京大虐殺や慰安所設置に代表される暴虐を生み出したのか。歴史事実の実証を通じて、自己本位の侵略思想が再生産される構造と体質を明らかにするとともに、歴史認識の共有による”平和的共存関係”への道を探る」(【URL】http://amzn.to/1dYUOS6)
(※3)纐纈厚『有事法制とは何か~その史的検証と現段階』(インパクト出版会、2002.03) 出版社紹介文「戦前期から現在に続く有事法制の変遷を概観し、その歴史的かつ政治的な位置確認を行うことでその危険性を指摘し、露骨な軍事主義に貫かれた今日までの有事法制に対して反論の機会を創り出す」(【URL】http://amzn.to/1cMMpmP)
(※4)纐纈厚『監視社会の未来~共謀罪・国民保護法と戦時動員体制』(小学館、2007.09) 出版社紹介文「国の安全と引きかえに何が失われるのか?戦前・戦中の治安立法の制定過程から有事法制・共謀罪の危険を読み解く」(【URL】http://amzn.to/KnUgwl)
(※5)纐纈厚『防諜政策と日本~国家秘密法制史の検証』(昭和出版、1991.01) 出版社紹介文「防諜(スパイ防止)政策は戦前期日本の民衆動員と統制を目的として強行された。それは民衆の監視態勢を用意し、最終的に民衆の弾圧・排除へと突き進んだ。いま、民衆支配の実態の一端を告発する」(【URL】http://amzn.to/1g5cHAc)
(※6)纐纈厚『日本降伏~迷走する戦争指導の果てに』(日本評論社、2013.12.08) 出版社紹介文「本書は、1945年、ポツダム宣言という形で「降伏勧告」を受けながら、結局ソ連参戦、原爆投下という外圧によってしか『終戦決定』=『天皇の聖断』に漕ぎ着けることができなかった日本の政治・政治指導の実態を木戸幸一、高木惣吉、近衛文麿の日記などの史料を丁寧に読み込ながら明らかにする。『終戦決定』は国民無視の『国体の護持』のみに奔走した結果、たどり着いた政治指導者の無責任な結論だった。本書が明らかにするその実態は現在の日本の政治指導に通底するものであり、本書は『終戦決定』に至る過程の深層だけでなく、現在の政治・政治指導の根源をも解き明かしている」(【URL】http://amzn.to/1bDl2qH)
(※7)纐纈厚『日本はなぜ戦争をやめられなかったのか~中心軸なき国家の矛盾』(社会評論社、2013.12.08) 出版社紹介文「なぜ、近代国家成立以後の日本は、一貫して中心軸なき国家となってしまったのか。なぜ、自立と主体性とか、独立国家として不可欠な要件を満たしてこなかったのか。その理由はどこにあるのか」(【URL】http://amzn.to/JNt9dm)
【IWJ特報!123・124・125・126号】自衛隊が米軍の「下請け」になる日~山口大学副学長・纐纈厚氏インタビュー(ePub版発行しました!) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/123633 … @iwakamiyasumi
米軍の「盾」となるのは、他ならぬ自衛隊である。
https://twitter.com/55kurosuke/status/602066629439016961