15回流れた公開討論会
岩上安身「今回の東京都知事選挙の主要候補にインタビューの申し込みをしましたが、受けていただけたのは宇都宮さんが初めてです。舛添さんからは時間がないと断られ、細川さんと田母神さんの陣営からははっきりとした返事がありません。お越しいただき感謝いたします。なかなか公開討論会が実現しませんでしたね」
宇都宮健児氏(以下、敬称略)「これまで15回、公開討論会が流れました。私以外の調整が付かなかったからです。今日、ようやく日テレの『ニュース・エブリィ』という番組で、初めて公開討論会が実現しました。主要4候補で討論しました。
田母神さんは、自衛隊の出身者らしくアグレッシブで元気でした。舛添さんはあまり話しませんでした。細川さんは高齢だからか、疲れが溜まっているように見えました。
これまで公開討論会が15回流れたのは異常です。都民の前で堂々と政策論争し、有権者が選択するための情報を提供するのは候補者の義務だと思います。前回の都知事選のときは、テレビで2度、ネットで2度やりました」
岩上「どなたが断っているのでしょうか」
宇都宮「細川サイドが日程が合わないと言い、舛添候補は『重要候補が出ないのであれば』と断わりました。私は、たとえ、舛添さんや細川さんが出なくても、堂々と田母神さんと政策論争やるのが筋と思いましたが、田母神さんが辞退しました」
他候補者の政策、考え、実績は
岩上「政策についておうかがいします。他の候補者と比較していかがですか」
宇都宮「原発については、細川さんとは考えが近いです。ですが、私は、『脱原発』と同時に福島の被害者の救済や支援と向き合うこと、そして、『脱被曝』の取り組みが必要だと思っています。田母神さんは『原発推進』です。舛添さんは、将来的には『脱原発』と言っています」
岩上「舛添さんは突然、『脱原発』という発言をしましたが、それについては多くの疑問の声が上がっています。3.11後も、一貫して、ずっと『原発推進』の発言をしていましたから」
宇都宮「舛添さんの過去の言論はフォローしていませんが、私の選対にいる海渡雄一さんが、最近、舛添さんがラジオで『原発推進』発言を聞いたということで、怒っていました」
岩上「元厚労大臣としての舛添さんについては、いかがお考えですか」
宇都宮「2008年に年越し派遣村をやったとき、厚生労働大臣だったのが舛添さんです。副大臣は年越し派遣村に来ましたが、舛添さんは来ませんでした。それどころか、舛添さんは、派遣村に集まった人たちを『怠け者だ』と言いました。この発言に対して、私は抗議文を出しました。
また、舛添さんは、母子加算を廃止しました」
岩上「母子加算を廃止したのは、なぜでしょうか」
宇都宮「貧困対策をやっていこうとするなかで、母子加算の廃止は考えられないことです。母子家庭の5割以上が貧困と言われています。戦後の日本の社会で、女性は補完的な労働にしか就けませんでした。歪んだ状態で、賃金に男女差があり、子どもの養育もできません。だから母子加算が必要なのに、舛添さんはそれを廃止にしたのです」
労働者賃金の問題
宇都宮「今、女性の給料は、男性の7割で、非正規雇用は5割です。男女の差別はなくなっていません。私が知事になったら、副知事の一人は女性を登用し、管理職にも女性を登用し、地位の向上の対策をとろうと思っています。
また、都は大量に公共事業を発注していますので、公共事業の受注の条件に、その企業が男女平等で最低賃金の確保をしていることを入れたいと思います。
日本では家族単位で賃金が考えられていますが、それを、個人単位で考え、男女平等に考えなければなりません。普通に働けば人間らしい生活ができるようにしなければいけません」
岩上「単身女性の3分の1が、年収114万円以下です。女性だけでなく、若者の貧困について、どう思われますか」
宇都宮「GDPが上がっているのに賃金が下がっているのは日本だけなのです。その代わり、株主の配当が10年で倍になっている。企業の内部留保も倍になりました。労働分配率が低下すると、消費も回らなくなります」
「99%の人の生活を守る」
岩上「国家戦略特区については、どうお考えですか」
宇都宮「国家戦略特区は、規制緩和を加速していくもので、TPPの第一段階だと思います。企業が世界一活動しやすい街づくりは、労働者にとっては地獄です。ますます貧困と格差が生まれます。
都知事は、人口の1%の人ためにやるのか、99%の人の生活を守るかを問われる立場です。私は、99%の人の生活を守る立場でやっていかなければならないと思います。だから、国家戦略特区に反対します」
岩上「政府は、より低賃金で雇える外国人労働力を呼び込もうとしています」
宇都宮「とんでもないことです。それによって一部の富裕層は富むけれども、それは社会を破壊するような政策です。子どもも生めない状況になってしまいます。少子高齢化対策のために政府が環境を作らなければなりません」
カジノ構想と国家戦略特区
岩上「カジノ構想は、再開発や国家戦略特区と結びついていますが」
宇都宮「カジノには反対です。博打や賭博は犯罪です。日本はすでにギャンブル大国なのです。マカオのカジノは年間3兆円ですが、日本のパチンコは年間19兆円の売上規模です。日本人の10人に1人がギャンブル依存症でもあります。
新自由主義が先行しているアメリカのコロラド州では、店頭で麻薬売買ができるようになったと聞いています。一時的に利益を生むことはできますが、罪悪です」
岩上「田母神さんはカジノに賛成ですね。舛添さんは反対とは言っていますが、自民党の支援を受けている舛添さんを支援している安倍政権にたてつけないと思います。細川さんは、反対だと言っています。細川さんは、原発以外のことはほとんど無回答ですが、国家戦略特区はやるとおっしゃっていた」
「一本化」について
岩上「細川さんは、自分は『脱原発』を最重要の政策としているから、宇都宮さんとはそこが違う、一緒にできないと会見で発言しています。宇都宮さんは、なぜ他の問題も並列に考えているのですか」
宇都宮「都政を考えれば、雇用や福祉や防災対策も、都民の命を守る上で重要な課題です。また、安倍政権は事実上の改憲をしようとしています。安倍政権の暴走をストップさせることは、日本の未来を考える上で重要です。
細川さんがこれをどう考えているかはわかりません。一本化を勧めてくる人たちは皆、細川さんに会ったことがないと言っています。だから、細川氏に議論を呼びかけたのですが、梨のつぶてでした。
一本化と言っても、私に『降りろ』と言っているのです。私が一番最初に出馬表明したのに、です。事務局メンバーは、『宇都宮さんと戦う』『宇都宮さんとでなければ選挙戦はしない』と言ってくれています。それなのに降りるとすれば、それは裏切りになります。ですから、降りることはできません。
勝てる候補を探すという気持ちはわかります。美濃部さんの引退以降の都知事選では、毎回、青い鳥探しが繰り返されてきました。
橋下さんは結局、再稼働に反対する姿勢を見せながら、原発再稼働を許可しました。細川さんが裏切らないと誰が保障できますか?『最後のチャンス』と言いますが、あなた方の運動はその程度かと思いますね。
告示日直前の深夜0時、ある方が、私の自宅まで訪ねてきて『降りてくれ』と言いました。築地の視察で、1時間しか寝ていなかった日でした。なぜ自宅を知っていたかもわからない。異常でした。その前にも一度、一本化はないと伝えたのに、です。嫌がらせ以外の何物でもありません」
岩上「海渡さんが言っていましたが、宇都宮さんの選対事務所の電話が鳴り止まなかったそうですね。『世に倦む日々』というブロガーが、自分のブログで宇都宮さんの選対の電話番号を掲げ、電話して降板するよう呼びかけていたからだそうですね。これについて、海渡さんは、選挙妨害で違法だと言っていました。
また、落合恵子さんが出馬するはずだったというのは事実ですか?」
宇都宮「ある市民グループが落合さんの所に話を持っていったというのは聞いています。しかし、私だから一緒にやってくれるというボランティアの方がたくさんいます。そういう方のことを考えると、私は降りるわけにはいきません」
岩上「細川さんは『脱原発』を貫けると思いますか?」
宇都宮「細川さんの人物像についてはよく存じ上げないので、意見を申し上げるのは保留します。ただ、細川さんの応援団長である小泉さんは、規制緩和をどんどん進めて、貧困と格差の拡大を押し進めた人です」
視聴者からの質問
岩上「視聴している方からの質問を紹介します。『東電だけでなくNHKも解体しますか?』という質問が来ています(笑)」
宇都宮「(笑)それはちょっと無理ですが、NHKの新しい会長の発言はひどいですね」
岩上「現在、奨学金は実質的に学生ローンになっていますが、どう思いますか」
宇都宮「4年制大学の2人に1人が奨学金を借りており、そのうちの7割が有利子です。『むかしサラ金、いま奨学金』と言われるほど、取り立てが厳しくなっています。本来、返済しなくていいのが奨学金だったのです」
岩上「『国家戦略特区は、都知事選の重要な争点だとお考えですか』という質問がきています」
宇都宮「カジノも含め、私は特区に反対です。特区の内容について、国民の皆さんはまだご存知ないかもしれませんし、アベノミクスに対して幻想を抱いているのかもしれません」
岩上「尖閣諸島購入のために東京都が募った寄付金に関する質問もきています」
宇都宮「原則として、寄付金は寄付した方に返すべきだと考えています。ただ、連絡先が分からない方もいるそうですから、その点は難しいものがありますが」
岩上「これは聞いてはいけないかも知れませんが、落選したらどうしますか?」
宇都宮「市民運動が広がるようにし、層が厚くなるような取り組みをしたいと思います。反貧困などの活動も続けます。選挙にだけ限定せず、運動は続けていきたいと思っています」
岩上「視聴者の方からの質問です。『75歳以上の医療費を無料化するとのことですが、その財源はどうしますか?』」
宇都宮「外環道を作るのに2兆円かかるのですが、これを見なおして財源を作ります。財源のシミュレーションは十分やりましたので、可能だと考えています」
弁護士として
岩上「宇都宮さんはなぜ弁護士になられたのでしょうか?」
宇都宮「小さい頃は野球選手になろうと思っていました。親孝行をしたいと思いまして、お金を稼げるのはプロ野球選手だろうと思い、野球部に入りました。
自分の家は貧しくて大変だ、と思っていたのですが、世の中は広くて、自分よりもずっと困っている方がいることを知りました。はじめは官僚になろうと思っていたのですが、友達に紹介され、人助けができる職業として弁護士になろうと思いました。
今の日本は、裕福な人が住みやすくなっているかと言えば、そうではないと思います。派遣社員の方が、不満を募らせて犯罪に走るようなケースが出てきています。そういう社会は、誰にとっても住みにくい社会です。
現在の日本は、経営者が堕落していると思います。従業員が過労でうつ病になったり自殺したりしても、経営者が平気な顔をしていたりする。経営者は、従業員が健康に過ごせて、結婚もできるようにすべきです」
岩上「陸山会事件の時、マスコミは小沢一郎さんを横並びで叩きました。当時、シンポジウムで、私は宇都宮さんに『なぜ日弁連はこの件で声明を出さないのか』とお聞きしたことがあります。今、この件を持ち出す方がいらっしゃいますが」
宇都宮「弁護士は、色々な立場につく職業です。あの事件では、検察審査会の指定弁護士もいましたので、日弁連として個別の事件について声明を出すことはできませんでした。ただし、足利事件など再審請求まで出て、人権が侵犯される事件については、日弁連として見解を出しますが。
(陸山会事件で小沢氏が叩かれた件について)日弁連という立場を離れて言えば、孫崎享さんが『戦後史の正体』で述べている通り、米国は日本の支配層に影響力を行使しやすくなっているのだと思います。日本は、独立後も対米従属が続いているんじゃないでしょうか」
岩上「小沢一郎さんは、今回は細川さんを支援していますが」
宇都宮「小沢さんは、細川さんと新進党を作っていますし、『脱原発』という点で政策が一致していますからね。私は、個人的に小沢一郎さんと接点はありませんので」
岩上「なぜ、弁護士から知事になろうと考えたのでしょうか?」
宇都宮「法律を改正するには、野党だけでなく与党も説得しなければいけません。そのためのロビー活動もしてきました。個別被害の救済だけでなく、法律や制度を変えないと救えない方がいます」
岩上「命がけのシーンというのは、今までもあったのではないかと思います。今日、日中にインタビューした新里宏二弁護士がおっしゃっていましたが、お仲間の津谷弁護士が殺されていると。無念の死だったのではないかと」
宇都宮「津谷弁護士は、私が日弁連の消費者委員会の委員長をしていた時に、副委員長をやってもらった人なんです。日弁連の会長をしていた時には、消費者委員会の委員長をしてもらった。
同じようなことは、オウム真理教の坂本弁護士一家殺害事件でもあって、亡くなられた坂本弁護士の奥さんは、私の事務所で働いていました。家族に手を出すのは許せません。
先日、子宮頸がんワクチンの問題を当事者の方から聞きまして、非常にびっくりしました(※)。それで、今回の私の政策に子宮頸がんワクチンの問題を入れました。現場の声に耳を傾けることが、政策を作る際の基本だと考えています」
高級外国自動車と億単位のマンションの林立。
本当に東京の富裕層は1%でしょうか。大企業とそこに勤める人、住宅地の地域性もあるかと思います。1%と99%の話は正義でしょうけれども、東京の経済実情を反映しているようには私には思えません。数字を表現手段とされるのでしたら尊重されるとは思いますが、それで他の多くの人の気持ちが動くでしょうか。